All Chapters of 誰が契約結婚だって?ハイスぺCEOは私しか見ていない: Chapter 151 - Chapter 160

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151.家族の距離感と、二人の時間

夕食後、リビングで佳奈の家族と和やかに談笑していると、佳奈の母・美香さんが俺に申し訳なさそうな顔で声をかけてきた。「啓介さんの寝る部屋なんだけど、リビングは騒がしいから佳奈の部屋でいいかしら?」俺はすぐに首を振って答えた。「僕はどこでも大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます。」美香さんは俺の言葉に安堵したように再び笑顔を見せてくれた。「いいのよ。啓介さんが来てくれるのを、本当に楽しみにしていて嬉しかったの。でも、狭い部屋しかなくて。それで啓介さんが良ければいつでも大歓迎よ!昔は、佳奈や三奈の友達がよく泊まりに来ていて、リビングで雑魚寝したりしていたのよね。」懐かしそうに目を細め、屈託のない笑顔で笑う美香さんを見て、俺は佳奈の寛容さは美香さん譲りなのだと改めて納得した。自分の実家ではあり得ないような、このオープンで温かい距離感や居心地の良さに心を惹かれていた。「じゃあ、啓介さん、佳奈の部屋は二階だから案内してあげてね。」美香さんの言葉に佳奈が立ち上がり、俺はその後を追って二階へと向かう。佳奈の部屋に入ると、部屋の隅にはシングルベッドと机、そして床いっぱいに敷かれた一組の布団が置いてある。ベッドと机と布団でもう足の踏み場はほとんどない。
last updateLast Updated : 2025-08-04
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154.佳奈と夏也の関係

「このDVD持っていたことすら忘れてた。そんな慌てて返さなくてもいいのに。なんで持ってきたんだろう?」帰りのタクシーの車内で、隣に座る佳奈は夏也が持ってきてDVDを不思議そうに眺めながら、独り言のように呟いた。(それは佳奈に会うための、単なる口実だったんじゃないか?) 俺は、そう言いたくなるのを必死に堪えていた。余計なことを言ってせっかくの穏やかな空気を壊したくなかった。黙って窓から見える景色を眺めながら、さきほどの佳奈と夏也の帰り際の光景が頭の中で何度もリピートされていた。海外留学の経験がある佳奈は、驚きつつも慣れた様子で、夏也の背中に手を回し、トントンとあいさつに応じていた。その自然な仕草に、俺はなぜか心をかき乱された。「さっきの彼も、海外に行っていたことあるの?」俺は努めて冷静を装い何気ないふりをして尋ねた。「え? 夏也のこと? ううん、ないけど。」「じゃあ、親しい人には誰に対してもあんな感じなの? 彼ってフレンドリーだね。」俺が「夏也」という名前を使わず、「彼」と呼んでいることに佳奈は気づいたようだった。彼女は少し黙った後、何かを察したように話し始めた。
last updateLast Updated : 2025-08-05
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155.不安の残る結婚挨拶

佳奈の実家への訪問は、俺の想像とは全く違う形で、不思議な幕を閉じた。出発前、「結婚挨拶 実家訪問」と検索し、サイトに書かれている手順を何度もシミュレーションした。手土産を渡すタイミング、自己紹介の仕方、そしてご両親に結婚の承諾を得るための言葉。完璧な段取りを頭の中で描いていた。しかし、現実は違った。実家へ到着してすぐに手土産を渡すことはできたが、ご両親が俺の緊張をほぐすため、次々と話題を振ってくれたことで、挨拶のタイミングを完全に失ってしまった。妹の三奈が帰宅してからは、さらに会話は加速し、気がつけば四時間も喋りっぱなしだ。俺は、結婚の承諾を正式に得るための言葉を、喉の奥にしまい込んだまま、言い出す機会を失っていた。そして、佳奈の元カレである夏也が現れ、三奈が「お姉ちゃんの彼氏で今度結婚する予定なんだよ」と口走ったことで、俺が何かを改めて発する必要もなく、結婚の件は暗黙の了解のようにそのまま帰宅となった。あんなに緊張して行ったのに、結婚の言葉も出さずに帰ってくるなんて、まるで狐につままれた気分だ。帰り道、俺は真剣な表情で佳奈に尋ねた。「結婚のこと、俺から何も言わなかったけれど、また改めてちゃんと伺って言うべきかな?」真面目にそう尋ねる俺に、佳奈は笑って返してきた。「大丈夫だよ。みんな啓介が来た理由も分かっているし、誰も反対なんてしないから。うちはもう賛成ってこ
last updateLast Updated : 2025-08-06
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156.新たな波乱:ビジネスでの再会

数日後、佳奈の実家訪問の余韻に浸りながらいつものように業務をこなしていく。そんな中、一人の社員が、少し興奮した様子で俺に報告してきた。「社長、規模の大きい新規案件の依頼メールが届いているんですが、目を通していただけますでしょうか?」「ああ、分かった。」メールを読み進めていくと、内容は地方創生IT化プロジェクトの協力依頼だった。受注金額も大きくありがたい話だが、俺の会社はまだ設立して間もないベンチャー企業だ。なぜ俺たちに依頼が来るのか少し不思議に思った。しかし、内容を詳細に確認していくとさらに驚かされた。依頼主の会社とプロジェクトの場所は、偶然にも佳奈の実家がある地域だった。そして、メールの送信元であるベンチャー企業の代表者の名前を見て俺は思わず息をのんだ。「代表 木下 夏也」その名前に俺の心臓は激しく波打った。脳裏にこんがりと焼けた肌と人懐っこい笑顔が浮かび上がる。(同じ地域に住む、佳奈の元彼と同じ名前の人物から、このタイミングで仕事の依頼メール。偶然にしては出来過ぎている……。まさか、佳奈の元カレが俺の会社だと分かった上で仕事を依頼してきたと言うのか?)彼が俺たちの会社をどうやって知ったのか。そして、なぜ連絡をして仕事の依頼をしてきたのか
last updateLast Updated : 2025-08-06
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157.過去の影、佳奈と夏也の歴史

数日後、オフィスで夏也から来た依頼メールを再確認していたが、いてもたってもいられずに佳奈に連絡を取った。「木下さんの、今の職業って知ってる?」恐る恐る尋ねる俺の問いに、佳奈は不思議そうに答えた。「え?ううん、知らない。夏也、昔からやりたいことが色々あったみたいで、仕事を転々としていたから……。なんで?」事の経緯を説明すると、佳奈は「え!?」と驚きの声をあげ、すぐに両親や妹に確認してくれた。そして、依頼主はやはりあの時に会った夏也だったことが確定した。DVDを届けに来た日、夏也は俺たちを見送った後に三奈を誘い、ご飯に行ったそうだ。そこで俺たちのことを根掘り葉掘り聞かれ、俺がIT会社の経営者だと話したらしい。しかし、三奈は会社名までは覚えていなかったので、ネットで探して見つけたのではないか、とのことだった。「三奈も口は堅い方なんだけど、夏也とは本当に長い付き合いだから、つい色々話してしまったんだと思う。」「別にいいよ。ただ、俺の会社に依頼が来たことに驚いただけ。」佳奈が申し訳なさそうにしているのが伝わってきたが、俺はそれ以上触れなかった。三奈が話してしまったことよりも、「長い付き合い」という言葉に、俺の胸はまたざわついていた。「それにしても、啓
last updateLast Updated : 2025-08-07
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158.深いきずなで結ばれた二人

「ないない。もう別れてから何年も経っているし、未練なんかないよ。あったとしても、友人とか家族みたいな気持ちとかじゃない?」「彼とは長かったの?」「んー、四、五年かな?元々小学生の頃から近所に住んでいて仲が良くて、いつも一緒に学校に行ったりしていたの。私が中学二年生で夏也が三年生の時に付き合って私が大学に入学するまでかな。」(四、五年!?学生時代に?)佳奈が淡々と語る過去に俺は耳を疑った。思春期と大人になってからの四、五年では重さや記憶に残る濃さが違う。恋愛が生活の中心になるあの時期に色々な思い出を共有した相手……。「でも、喧嘩すると勢いで『もう別れる!』って言って、一時的に離れた時期もあるから実質四年間くらいかな?」四年間でも十分に長い。俺はよりを戻したことがないから分からないが、しかも、一度は別れたのに再び付き合うということは、他の人では駄目だと思うくらい二人の間に深い絆があったことを物語っているように思えた。切っても切れないような関係。佳奈が言う「家族みたい」という言葉は、俺の想像を遥かに超える、濃密な時間を過ごした人にしか分からない深い絆を表す言葉なのかもしれない。俺は、どうしようもない劣等感を覚えた。「結局、夏也は県外の専門学校に進
last updateLast Updated : 2025-08-07
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159.訪問の狙いと二人の関係

「やっぱり!同じ名前だからもしかして、と思ったんですよね。これからよろしくお願いします」問い合わせのメールから2週間後、夏也は社員を連れて俺のオフィスにやってきた。この日も人懐っこい笑顔で笑いかけ、俺に握手を求めてきた。「私もです。地域と名前を見て、思わず声をあげてしまいましたよ」俺たち二人のどこかよそよそしいながらも親密さも漂う会話に、同席していた社員たちは不思議そうな顔をしていた。「お二人はお知り合いだったんですか?」「……ああ、まあ。ちょっとね」俺が言葉を濁すと、夏也は口角を上げニヤニヤと意味ありげな笑みを浮かべてこちらを見てくる。その視線に俺は、彼が「佳奈の元カレ」なんて口にしないか内心ヒヤヒヤした。しかし、彼はそこまで良識のない社会人ではなかったようだ。だが、その黙り方は、雄弁にすべてを物語っていた。夏也の会社は、『観光ではなく居住する街へ』をコンセプトに、地方創生に取り組むベンチャー企業だった。農業のIT化や、数年前に流行ったサテライトオフィスの長期実現化を実現して、若い人材を誘致しようと取り組んでいる。自治体や観光庁・農林水産省といった官公庁とも連携している見た目以上に堅実な会社だった。打ち合わせ中は、お互いに真面目な議論を交
last updateLast Updated : 2025-08-08
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160.揺れる心と、強まる警戒心

啓介side「月に1〜2回打ち合わせで都内に行くことがありますので、今度は佳奈も含めて食事致しませんか?」俺は思わず、眉間にシワを寄せた。IT化を推進する企業がわざわざ訪問するのか、と内心疑問に思っていた。今の時代、WEB会議システムも充実しているし、システムによっては議事録も自動で作成できる。初回からWEBで打ち合わせを行うこともマナー違反と思う企業はほとんどなくなっている。むしろ、移動費用や時間など効率面を考えれば、対面での打ち合わせは必ずしも必要ではない。しかし、WEB会議では担当者の連絡先しか分からない。今後のやり取りは、現場担当者と行うことになるため、俺が関与する予定はなかった。夏也はそれを見越していたのだろう。初回は、俺の連絡先を把握するために、顔を合わせ名刺交換できる対面を希望した。そして、お礼も兼ねてこの食事の誘いーー資料なら担当者同士で行えばいい。俺へのメールの目的は、佳奈との食事をするための口実ではないのか?そんな疑問が再び再熱していた。「それにしても、俺の考えが合っているなら、元カノに未練があるからって、婚約者と知っていて俺に連絡を取るって、相当自分に自信がないとできないよな。」業務後、誰もいなくなったオフィスで夏也とのやり取りを思い返し、思わず
last updateLast Updated : 2025-08-08
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