買い物を終えて家に帰ると、すでに夕方だった。寝室に戻り、買ってきたばかりのジュエリーを服に合わせようとしたその時、スマホが突然鳴った。相手が拓也だと分かると、茜の顔に喜びの色が浮かび慌てて通話に出た。「拓也様、どうして……」拓也は冷たい声で彼女の言葉を遮った。「約束した件は片付けた。君も言った通り、あの件はなかったことにしてくれ。さもないと、どうなっても知らないぞ」相手の口調に潜む脅しを感じ取り、茜は心をこわばらせて低い声で言った。「拓也様、ご心配なく。必ずお約束は守りますわ」話が終わらないうちに、電話は切れた。茜はスマホをベッドに叩きつけ、顔を青ざめたり赤くしたりしていた。拓也が相田家の跡継ぎでなければ、あんな男見向きもしないのに!自分を振り払おうなんて、そう簡単にはいかないわよ!それから数日間結衣は法律事務所の設立準備と大学院入試の資料作成に追われていた。金曜の夜彼女が本を読んでいると、突然父の明輝から電話がかかってきた。「結衣、おばあちゃんが昨日階段から転落してさ。今ちょうど手術が終わったところなんだ。時間がある時でいいから、見舞いに行ってやってくれないか」それを聞いた結衣は顔色を変え、時子の入院先を確認すると急いで着替えて病院へ駆けつけた。病室に駆けつけたのは三十分以上経ってからだった。ドアをノックするとすぐに中から開けられた。ドアを開けたのは五十代半ばの女性だった。結衣の姿を認めると、一瞬驚いたようだったがすぐにその目に喜びの色を浮かべた。「お嬢様!いらっしゃったのですね!」「和枝さん、おばあちゃんが骨折したと聞いて、お見舞いに来ました」内田和枝(うちだ かずえ)は汐見本家の使用人で、二十歳の頃からずっと本家で働いている。汐見家にとっては古株であり若い世代からも慕われていた。「奥様はたった今、お目覚めになったところです。どうぞ、お入りください」結衣は頷き、病室へと足を踏み入れた。時子は彼女の姿を見るとその目に喜びの色を浮かべたがすぐにそっぽを向いて言った。「いっそのこと、わたくしが死んでから弔問に来てほしかったよ」結衣が自分の言うことを聞かずに汐見家に戻ろうとしないことを思うと、時子の心には怒りが込み上げてくるのだった。結衣はベッドのそばに腰を下ろし
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