結衣も、これ以上彼らの件に固執するつもりはなかった。どうせ、知るべき人たちにはとっくに何もかも伝わっているだろう。涼介と玲奈も、面目丸潰れになったのだから。何はともあれ、これで少しは胸のつかえが下りたのだった。結衣はもうこの件には一切関心を払わず、毎日、休暇中に山積みとなった仕事の処理に忙殺されていた。まさに目が回るほどの多忙さで、時には食事をとる暇すらなかった。土曜日になって、ようやく相田詩織から長谷川芳子が入院したという知らせを聞いた。「長谷川本家の方と何か衝突があったらしくて、ショックで病院に運ばれたらしいわ。結衣ちゃん、実を言うとね、長谷川と結婚しなくて、むしろ良かったのかもしれないわよ。長谷川本家みたいな家柄だと、おそらく長谷川のことを簡単には受け入れないだろうし、あんたが嫁いだとしても、きっと肩身の狭い思いをさせられたでしょうから」結衣はバルコニーのデッキチェアに座って、綺麗に整えられた自分の爪を見つめながら、低く「うん」と相槌を打った。涼介は、清澄市の四大財閥の一つである長谷川グループの社長、長谷川泰造(はせがわたいぞう)の隠し子で、ずっと本家からは認められていなかった。たとえ彼が起業して成功したとしても、長谷川本家の人々は彼を眼中に入れていなかった。なにしろ、長谷川グループは長年にわたり上場企業として確固たる地位を築き上げ、国内外で手がける事業は数知れぬほどなのだから。涼介のフロンティア・テックなど、長谷川グループから見れば取るに足らないお遊びのような代物で、到底大成するものではないと見なされていた。彼が隠し子であるという出自のために、当時、汐見家は結衣が彼と付き合っていることを知ると、家との縁を切ることを盾に、彼女に涼介と別れるよう迫ったのだった。彼女は三日三晩悩み抜いて、最終的に涼介を選んだ。涼介が起業に成功した後、結衣は自分の選択は間違っていなかったと確信していた。しかし、後に気づいたのだ。自分が、とんでもない間違いを犯していたことに。苦労は共にできても、いざ成功を手にするとそれを分かち合えなくなってしまう人もいるのね。我に返った結衣は、結衣は詩織に、芳子がどの病院に入院しているか知らないかと尋ねた。詩織は少し驚いた。「お見舞いに行くつもり?」「ええ。芳子おばさんには、本当
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