結衣の落ち着き払った様子に、涼介はひどく興ざめして、鼻で笑うとキッチンへと向かった。今さら寛大なふりをして。どうせ彼と結婚したいだけだろうに。いざ結婚したら、またどんな面倒を起こすか分かったものじゃない。寝室に戻り、結衣はパソコンを開くと、気持ちを切り替えて仕事の続きに取り掛かった。それから数日間、結衣はずっと仕事に没頭し、毎日帰宅は遅かった。家に帰っても、涼介がリビングで書類を見ているか、まだ帰宅していないだけだった。二人は一つ屋根の下に暮らしながら、この数日、交わした言葉は数えるほどだった。以前の結衣なら、きっと耐えられずに自分から涼介に折れてきたはずだ。しかし今の結衣は平気な顔で、少しも堪えている様子はなかった。涼介も当然、気づいていた。今回、彼が家に戻ってきてから、結衣の自分に対する態度がずいぶん冷たくなったことに。食事は自分の分しか作らないし、夜も帰りを待って灯りを点けておくことはない。こちらが接待で遅くなっても、酔い覚ましのスープを作ってくれることもなければ、朝帰りしても理由ひとつ尋ねない。二人はまるで、家賃を節約するために仕方なく同居しているルームメイトのようだった。互いに干渉せず、生活上の接点もほとんどない。しかし涼介にとっては、むしろ気楽だった。もはや結衣を愛してはいないのだから、彼女の機嫌を取るために気を遣うのも面倒だった。あっという間に週末になり、芳子がわざわざやって来て、二人を連れてウェディングフォトの撮影に出かけた。最初の衣装での撮影が終わり、結衣が鏡の前でメイク直しをしている間、涼介は結衣の後ろのソファに座ってスマホをいじっている。メイク直しが終わったその瞬間、涼介が突然険しい顔つきで立ち上がった。「ごめん、母さん。ウェディングフォトはまた別の日にさせてください。急用ができたんだ」結衣が何か言う前に、芳子がひったくるように涼介のスマホを取り上げて、怒鳴った。「自分のウェディングフォトより大事な用って、一体何なの?!会社が潰れたわけ?!」先ほど芳子が隣に座っていた時、ちらりと視界の端に、あの篠原玲奈という女がしきりに涼介へメッセージを送っているのが見えていた。涼介は返信していなかったものの、その表情が明らかに焦りを帯びていた。「母さん、スマホを返して!玲奈が飛び
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