セラフィナが動くということ──それ即ち、この男も動くということに他ならなかった。 セラフィナが"獣の教団"に対する示威行動《デモンストレーション》の一環として、マルコシアスを伴いながら墓標都市エリュシオン内部を我が家の庭が如く優雅に闊歩し始めたのとほぼ同時、シェイドもまた闇に溶け込み、影となって動いていた。 シェイドの特技は──闇討ち。聖教騎士団長レヴィによって仕込まれたそれは文字通り、宵闇に紛れて対象を音もなく急襲し、暗殺する技術である。 元・聖教騎士でありながら、真正面からの戦いのみならず搦手や卑怯な手段を辞さぬシェイド……ほんの数日で、セラフィナが衛兵に引き渡した間者の数と同数の屍が、山となりそして河となった。正しく"屍山血河を成す" である。 シェイドの行動もまた、デモンストレーションの一環であった。宵闇に溶け込み、対象を屠り、巧妙に事故死に見せかけつつ、同時に敵への見せしめとして、その場へ死体を置いてゆく。 シェイドの示威行動は、それだけに留まらない。敵への嫌がらせと言わんばかりに、彼は白昼堂々と伏魔殿と化した地下墳墓《カタコンベ》に入り込み、実際に罠の位置などを確認していた。 無論、そのようなことをしていれば何れ、見張りをしている信奉者たちに気付かれるのだが……その際のシェイドの行動は常軌を逸していた。 置き土産とでも言わんばかりに、幾つかの炸裂弾を放り投げてその場を後にするのである。獣の信奉者からしたら堪ったものではない。 連日のように、"獣の教団"は多くの死傷者を出していた。 "獣の王"がエリュシオンへと舞い戻った翌日──この夜もシェイドは闇討ちを済ませ、アイネイアスの執務室へと報告に向かっていた。 「──戻ったよ、アイネイアス卿。アリアドネさん?」 犠牲者の返り血に塗れたシェイドがニヤッと笑いながら軽く手を挙げると、アイネイアスの秘書官アリアドネが困ったような微笑みを浮かべつつ、予め用意していた濡らしたタオルで彼の額や頬を優しく拭う。まるで、手の掛かる子供でも相手にしているかのようである。 「──無事に戻られたか、シェイド君。その様子だと、どうやらデモンストレーションは順調なようだね」 複雑な心境なのだろう。やや強ばった表情で、アイネイアスはシェイドを労う。ハルモニア国教の教えを捨てたとはいえ、愛する
Terakhir Diperbarui : 2025-08-28 Baca selengkapnya