Semua Bab 死にゆく世界で、熾天使は舞う: Bab 121 - Bab 130

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第四章 第120話 敵にも譲れぬものありて

セラフィナが動くということ──それ即ち、この男も動くということに他ならなかった。 セラフィナが"獣の教団"に対する示威行動《デモンストレーション》の一環として、マルコシアスを伴いながら墓標都市エリュシオン内部を我が家の庭が如く優雅に闊歩し始めたのとほぼ同時、シェイドもまた闇に溶け込み、影となって動いていた。 シェイドの特技は──闇討ち。聖教騎士団長レヴィによって仕込まれたそれは文字通り、宵闇に紛れて対象を音もなく急襲し、暗殺する技術である。 元・聖教騎士でありながら、真正面からの戦いのみならず搦手や卑怯な手段を辞さぬシェイド……ほんの数日で、セラフィナが衛兵に引き渡した間者の数と同数の屍が、山となりそして河となった。正しく"屍山血河を成す" である。 シェイドの行動もまた、デモンストレーションの一環であった。宵闇に溶け込み、対象を屠り、巧妙に事故死に見せかけつつ、同時に敵への見せしめとして、その場へ死体を置いてゆく。 シェイドの示威行動は、それだけに留まらない。敵への嫌がらせと言わんばかりに、彼は白昼堂々と伏魔殿と化した地下墳墓《カタコンベ》に入り込み、実際に罠の位置などを確認していた。 無論、そのようなことをしていれば何れ、見張りをしている信奉者たちに気付かれるのだが……その際のシェイドの行動は常軌を逸していた。 置き土産とでも言わんばかりに、幾つかの炸裂弾を放り投げてその場を後にするのである。獣の信奉者からしたら堪ったものではない。 連日のように、"獣の教団"は多くの死傷者を出していた。 "獣の王"がエリュシオンへと舞い戻った翌日──この夜もシェイドは闇討ちを済ませ、アイネイアスの執務室へと報告に向かっていた。 「──戻ったよ、アイネイアス卿。アリアドネさん?」 犠牲者の返り血に塗れたシェイドがニヤッと笑いながら軽く手を挙げると、アイネイアスの秘書官アリアドネが困ったような微笑みを浮かべつつ、予め用意していた濡らしたタオルで彼の額や頬を優しく拭う。まるで、手の掛かる子供でも相手にしているかのようである。 「──無事に戻られたか、シェイド君。その様子だと、どうやらデモンストレーションは順調なようだね」 複雑な心境なのだろう。やや強ばった表情で、アイネイアスはシェイドを労う。ハルモニア国教の教えを捨てたとはいえ、愛する
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-28
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第四章 第121話 禁忌の力、発現せり

早朝── アスモデウスより緊急の呼び出しを受けたセラフィナは、身支度を整えてアイネイアスの執務室へと、マルコシアスとカイムを伴って向かう。 ──遂に、この時がやって来たか。 墓標都市エリュシオンの闇に蠢く、獣の教えを信奉する者たち。彼等を殲滅し、エリュシオンに……引いてはハルモニアそのものに平穏を取り戻す戦いの時が。 コンコンコン、と軽く扉をノックする。中から"入れ"というアスモデウスの嗄れた声が聞こえたのを確認すると、セラフィナは扉を開け、室内へと足を踏み入れた。「…………」 シェイド、キリエ、アイネイアス、アリアドネ、フォルネウス──そしてアスモデウス。皆、執務室中央に設置された作戦卓を、円でも描くかの如く取り囲んでいる。「──これで、全員揃ったな。始めるとしよう」 作戦卓の上に、墓標都市エリュシオン地下に広がる地下墳墓《カタコンベ》の見取り図を広げながら、アスモデウスは作戦会議の開始を宣言する。「急遽ここに呼び集められた時点で、概ね予想はついておるだろうが──敵の首魁たる"獣の王"と、その手駒たる"黒鉄の幽鬼"ラルヴァが昨夜、この墓標都市エリュシオンへと舞い戻った」 敵は三日後……満月の夜に、大規模な儀式を執り行うことが分かっている。儀式の内容は、恐らく死霊秘術の類──古の英雄たちを不死者として蘇らせ、精強無比なる軍勢を作り上げる腹積もりであろう。 彼等の思惑を阻止し、そしてエリュシオンに再び安寧を取り戻す。それこそ、ハルモニア皇帝ゼノンの願いであり、我々に課せられた使命である。 アスモデウスの一言一句に、フォルネウスを除く全員が真剣な面持ちで耳を傾けている。彼だけは何故か、このような状況下にあっても、にこにこと笑っていた。「──無論、此方が攻めてくることを敵も読んでいることだろう。地下礼拝堂へと通ずる道に、最高戦力を配置して此方がやって来るのを待ち構えている筈だ」 儀式に携わる、赤い衣の女バビロンを除く主要幹部たち。冒涜者バフォメット、道化師メフィストフ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-29
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第四章 第122話 根を断ちて葉を枯らす覚悟

セラフィナの身に異変が起きてから数時間後── アイネイアスによって宛てがわれた部屋のベッドで横になっていたセラフィナの元を、フォルネウスが訪れる。アスモデウスとの話し合いは、どうやら終わったらしい。 ベッドから素早く身を起こし、マルコシアスが足元まで咥えてきたスリッパを履くと、セラフィナはベッドの端にそっと腰掛けつつ、フォルネウスに室内に備え付けてある座椅子へと腰を下ろすよう促した。「お世辞にも──大丈夫とは、言えないようだね」 セラフィナの状態を見て、フォルネウスは哀れむようにほんの少しだけ目を細める。 汗で髪や額がぐっしょりと濡れ、手袋やストッキング越しに薄らと白い肌が透けて見えている。震えるような微かな吐息に混じり、仄かに甘い香りが漂う。頬を透き通った汗が音もなく伝い、雫となって純白のストッキングに包まれた華奢な太ももの上に落ちゆく様が、実に耽美的だ。「……大丈夫。気にしないで」「大丈夫じゃない者に限って、往々にして取り繕うかの如く大丈夫だと口にするものだよ、セラフィナ」 ポケットの中からチョコレートの入った袋を取り出すと、フォルネウスはそっとそれをセラフィナに手渡した。「食べて──少しでも、元気を取り戻さなければ」「ありがと……フォルネウス」「気にしなくて良い──君に死なれては、色々と困るだけだから。君の右肩に留まる彼《カイム》のように」 気付いていたのかという驚きよりも、彼ならば絶対に気付いていただろうという確信の方が勝っていた。フォルネウスの身に纏う気配は尋常ではない。正しく魔王と呼ばれるに相応しい風格と戦闘力、そして洞察力を併せ持っているのは、傍目から見ているだけでもひしひしと、それこそこれでもかと伝わってくる。初見でカイムの正体を看破していたとしても、何ら不思議はなかった。「時に、セラフィナ──数刻前、作戦会議の場で君の身に起こったあの異変……実は、私にも大いに心当たりがあってね」「……渾沌《まろかれ》。世界の真理……そして、決して人が触れてはならぬ大い
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第四章 第123話 道化師は終わりなき舞踏を希う

二日後の晩──時間にして、二一〇〇。決戦の刻は、遂に訪れた。 ──帝国の荒廃は、正に此の一戦に在り。各員の奮戦に期待する。 アスモデウスが掃討戦の開始を宣言すると同時、セラフィナはマルコシアスの背に軽やかな動きで跨り、フォルネウスと共に伏魔殿と化した地下墳墓《カタコンベ》へと突入した。 今回の掃討戦は、セラフィナとフォルネウスが渾沌《まろかれ》の干渉によって垣間見た未来の光景を参考にし、突入経路を二つに絞り込むことで戦力の分散を避け、より突貫力を高める方針へと転換している。 難敵であることが想定される死の天使アズラエル、道化師メフィストフェレスが満を持して待ち構えている経路は避け、敵地の中心部である地下礼拝堂へ可能な限り早く到達出来るよう練り直した。 経路を二つに絞り込んだことにより、部隊数は減ったものの戦力的には申し分ないものとなっている。片方はセラフィナ、マルコシアス、フォルネウス。そしてもう片方はシェイド、キリエ、カイム、アスモデウス。 罠が多く張り巡らされている経路をセラフィナたちが進み、より敵兵力が多く配置されているであろう経路をシェイドたちが進む。 「──地下礼拝堂までの道案内と露払いは、私に任せてくれ給えよ。君は堕天使の私とは違って、可能な限り力を温存しなければならないからね」 フォルネウスがハープを奏でると、地下へと続く階段に配置されていた見張りたちが次々と意識を刈り取られ、奈落の底へと堕ちてゆく。物悲しい音色が響く度、相手は何が起こったのか分からぬまま奈落の底へと堕ちてゆき……そして頭から地面に叩きつけられ、血と脳漿を撒き散らしながら命を落とした。 直接手を汚すことなく、確実に相手の息の根を止めてゆくフォルネウス。彼の露払いにより、セラフィナは順調に進撃を続けていた。 仕掛けられている罠も、マルコシアスが居れば容易に突破が出来る。ほんの僅かな空気の流れの変化などから、彼女は罠の存在や位置を看破出来るからだ。人ならざる者……黒狼であるが故の強みである。 「──恐ろしい程に、順調だね」 螺旋状の階段の半ば──血と脳漿を撒き散らし、頭が爆ぜた状態で死んでいる獣の狂信者を憐れむように見下ろしながら、セラフィナは隣にてハープを奏でながら歩を進めるフォルネウスに声を掛ける。 「──敵の虚を突くことが出来た、と本来は
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第四章 第124話 時よ止まれ、お前は美しい

メフィストフェレスが剣を手に、音もなく間合いを詰めてくる。セラフィナもそれに淡々と応じ、愛剣を抜きながら迎撃の構えに入る。「──貴女の血は果たして、どんな色かな?」 落雷を思わせる唐竹割り──それをセラフィナは極限まで引き付け、そして華麗に受け流した。 その直後、メフィストフェレスの鳩尾に強い衝撃が走る。唐竹割りを受け流すのとほぼ同時……セラフィナが超至近距離からの三日月蹴りを繰り出し、それがメフィストフェレスのガラ空きとなった腹部に直撃したのだ。「────」 内臓を損傷したのか、メフィストフェレスは大きく吐血するも、怯む様子は全くない。そればかりか、彼は返礼と言わんばかりに数枚のタロットカードを投擲していた。 一枚はセラフィナの右手の甲に深々と突き刺さり、もう一枚が白磁を思わせる頬を掠める。バックステップで間合いを取り直すメフィストフェレスを、無感動な面持ちで見つめながら、セラフィナは自らの右手の甲に突き刺さったタロットカードを無言で引き抜き、剣を左手に持ち替えた。 白い手袋に包まれた、小さな手の甲……赤い染みが広がり、緋色の雫がポタポタと回廊の床に零れ落ちるも、セラフィナは意に介した様子もなく落ち着いている。「痩せ我慢は、感心しないな……セラフィナ・フォン・グノーシス。貴女は戦士である以前に、まだ多感な少女なのだから。痛いなら痛いと正直に言って泣けば良いものを」「生憎……この身に刻まれた、忌々しい"聖痕《スティグマータ》"の所為で痛覚が著しく麻痺していてね。大概の痛みは痛みとして認識できないんだよ。貴方のご期待に添えないようで、申し訳ないのだけれど」 それに──痩せ我慢をしているのは寧ろ、そちらなのではないか。セラフィナの指摘に、メフィストフェレスは白い歯を見せてニヤリと笑う。「──内臓、幾つか破裂しているでしょ? さっきの蹴りをまともに受けたんだから。それでも、貴方が平然としていられるのは……脳内麻薬を分泌して、無理矢理痛覚を遮断しているから。でしょ?」「随分と、想像力が豊かなようだな──貴女は」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-01
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第四章 第125話 外道に手向ける花はない

時は少々遡り──セラフィナが地下礼拝堂へと続く回廊の只中にて、道化師メフィストフェレスと会敵した直後。 アスモデウスと共に別経路から地下礼拝堂を目指し進撃していたシェイドとキリエもまた、"獣の教団"の中核を担う幹部の一柱と会敵していた。 それも──シェイドにとってはある意味、怨敵と言っても差し支えない相手と。「──虫ほど好んで火に近づく、か。愚かな」 シェイドたちと対峙するは──赤いローブを纏った、長身痩躯の異形。額に逆五芒星の描かれた黒山羊の頭部を持つ魔術師だった。 ──冒涜者バフォメット。異端の教え出づるところに彼の偶像ありと謳われし、遥か太古より生きる堕天使。 帝都アルカディアにて自警団を壊滅させ、シェイドと顔見知りだった元・聖教徒の受付嬢ルビィを弄んだ挙句、惨たらしく殺害した張本人。「に、しても……メフィストフェレス、あの道化師め。羽虫たちが攻め寄せてくるは、明日の満月の夜と自信満々に言いおったが、これは一体如何なることか。蓋を開けてみればこの惨状……儂を貶めるから、こうなるのだ」「相変わらずの他責思考──醜いなぁ、バフォメット」 キリエの華奢な右肩に留まっていたカイムが、わざとらしく鼻を鳴らしながら、対峙する山羊頭を嘲笑する。その後ろではアスモデウスが、将官服のポケットから煙草を取り出し、敵地の只中にありながら呑気に吹かしていた。「呑気よなぁ、アスモデウス? 敵地の只中で煙草を吹かすとは、随分と余裕があるじゃないか」「──何を喚いておるのか、良く聞こえんなぁ……蟻の叫びが、巨人に聞こえるとでも思っておるのか?」 血塗られた戦鎚《メイス》で何度か床を擦りつつ、アスモデウスは煙草を吹かしたままニヤッと笑う。その余裕綽々たる態度は、バフォメットの気分を害したようだった。「──トルトゥニス!」 バフォメットの足元に、額と同じ逆五芒星の描かれた魔法陣が音もなく展開される。それと同時、雷の上位魔術トルトゥニスが発動……無数の稲妻が槍となりて、シェイドたちに襲い掛かる。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-02
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第四章 第126話 王の正体

──ハヴェール、ハヴァーリーム、ハヴェール、ハヴァーリーム、ハッコール、ハーヴェル。 ──ハヴェール、ハヴァーリーム、ハヴェール、ハヴァーリーム、ハッコール、ハーヴェル。 地下礼拝堂へと到達したセラフィナたちを、地鳴りを思わせる呪詛の声が一斉に迎える。千を優に超す獣の狂信者たちが、地下礼拝堂に集結して呪詛の言葉を唱えているという異様な光景。 少し遅れて、別経路から侵攻していたシェイドたちも地下礼拝堂へと到達し、そして先んじて到達していたセラフィナたちと同様、ある種異常とも言えるその光景を目の当たりにして言葉を失った。「──ようこそ、セラフィナ。待っていたよ」 壇上に立っていた"獣の王"が、王女サロメや死の天使アズラエル、赤い靴の少女カレンと言った生き残っている主要幹部たちを引き連れて、合流したセラフィナたちの元へと歩み寄ってくる。その中には、"黒鉄の幽鬼"ラルヴァの姿もあった。「その血は……そうか。メフィストフェレスは、君に討たれたのだね」 身に纏う装束が血でぐっしょりと濡れたセラフィナの佇まいを見て、王は少しだけ寂しそうな声音でそう呟く。「思えば、彼も哀れだった。本来ならば虫も殺せないような優しき心を持っていたが……"簒奪者"ソルの所為で、その優しさを捨てざるを得なかった。結果、道化師のような口調や態度で自らの本質を偽り、悠久の時を苦しみながら生きる羽目になった」 君に討たれたのならば、彼も本望だろう──王は胸に手を当てながら、恭しく頭を下げた。ありがとう……そう、礼を述べながら。対するセラフィナの態度は、実に冷ややかだった。「……良い性格してるね。本当は、彼の死なんて何とも思ってない癖に。口でなら、何とでも言えるけど……私の目は誤魔化せないよ?」「ほぅ……流石は、"天地の娘《フィリウス・デイ》"……その慧眼で以て、何もかもお見通し──という訳か」「フィリウス・デイ、フィリウス・デイって、貴方たちは実に五月蝿《うるさ》いね。私はセラフィナ……剣聖アレスの娘。それ以上でも、以下でもないよ」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-04
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第四章 第127話 伏魔殿からの脱出

アザゼルの目がギラリと、妖しく光る。 その直後──赤い衣を纏い、武器を手にした、人の形をしたナニカが次々と、転移魔法でアザゼルを庇うように姿を現した。 「──残念なことに、どうやら既に儀式は成っていたようだね」 フードを目深に被り、武器を構える人形たちを見て、フォルネウスが他人事のように呟く。 遥か太古に活躍した英雄、そして聖人たち。それらの成れの果てが、眼前にて武器を構えし生気の感じられぬ人形たちの正体だった。狡猾なるアザゼルの目には、或いはセラフィナたちの狙いなどお見通しだったのかもしれない。 何故ならば──彼は"誇り高き叛逆者"の異名を持つ、堕天使アザゼル。その名の意味は"神の如き強者《つわもの》"。 渾沌《まろかれ》に身を投じ、生還した数少ない存在にして、世界の真理の一端に触れた者の一人なのだから。 ──ハヴェール、ハヴァーリーム、ハヴェール、ハヴァーリーム、ハッコール、ハーヴェル。 ──ハヴェール、ハヴァーリーム、ハヴェール、ハヴァーリーム、ハッコール、ハーヴェル。 アザゼルが呪詛を唱えると、地下礼拝堂に集結していた狂信者たちが皆、糸の切れた人形の如く倒れ込む。痙攣を繰り返す彼らの背から、何か悍ましいモノが這い出てこようとしているのが見える。 「──正体を知られてしまった以上、申し訳ないがセラフィナ以外には死んでもらわねばならない。何、案ずることはない。死体は有効活用させてもらうから、ね?」 腰に帯びていたサーベルを抜き、アザゼルは爽やかな笑みを浮かべる。端からセラフィナ以外の侵入者を生かして返すつもりなど、彼には毛頭なかったであろうが……物は言いようである。 「──させ、ない……彼らは、殺させない……!」 セラフィナが無音で剣を構えるも、アザゼルの動きはそれさえも遥かに凌駕していた。瞬きする間もなく、彼はセラフィナの懐へと入り込んでいた。 「その心意気やよし。だけど──勇気と無謀を、履き違えてはいけないよ? 小鳥が嵐に立ち向かったところで、決して嵐には勝てないのだから。物分かりの悪い子は、暫く床で眠っていなさい」 アザゼルの斬撃が、唸りを上げて襲い掛かる。残像を纏いながら迫り来るそれを、セラフィナは躱し切ることが出来なかった。 「──これが、世界の真理に触れた者の力だ。その身で以て学ぶ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-05
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第四章 第128話 後味の悪い結末

「──成程、成程……やはり、アザゼルでしたか」 数日後──帝都アルカディアにて。 アスモデウスから掃討戦の報告の仔細を聞かされたベリアルは、ゾッとするような無表情のまま室内にいるバアルをちらりと見やる。バアルも薄々勘づいてはいたようで、彼も無表情のまま腕組みをしていた。「道化師メフィストフェレスを討ち、冒涜者バフォメットにも引導を渡した。その上で、"獣の王"の正体がアザゼルであることも突き止めた。上々の成果、と言いたいところですが──」 結果として、墓標都市エリュシオンに甚大な被害が及んだ事実は否めない。カタコンベ内部崩壊に伴い、地面の崩落に巻き込まれた者。竜族の王アポカリプシスの劫焔から逃げ遅れて、融解する地面や建築物と共に焼滅した者。 それらの死者数は二万を優に超す。負傷者や焼け出された者も含めれば、被災者数はエリュシオン全体の人口の三分の一を占めるであろう。 そして何より──アザゼルから味方全員を庇い、瀕死の重傷を負ったセラフィナ。最優先目標たるメフィストフェレスの討伐に成功した掃討戦最大の功労者は、今も尚意識を取り戻すことなく、死の淵を彷徨っている。 それは間違いなく勝利だった。王の正体がアザゼルであることを看破し、最優先討伐目標たるメフィストフェレスを討つことが出来た。これにより、"獣の教団"は何らかの方針転換を余儀なくされるであろう。 しかし勝利と呼ぶには……余りにも、代償が大き過ぎた。メフィストフェレスを討ったセラフィナは、アザゼルに右脇腹から左肩に掛けて大きくその身を斬り裂かれ、生死の境を彷徨していたのだから。「アモン……セラフィナの容態は如何でしたか?」「正直、芳しくない。息をしているだけでも奇跡……それくらい惨い傷だった。医者の言うことには……可能な限り手は尽くしたが、傷が命に届いており──目を覚ますか否かは本人の精神力次第、と」「成程……そう、ですか」 セラフィナの手術に立ち会ったアモンの言葉に、アスモデウスは顔を顰めて大きく唸る。カタコンベから脱出する時点で、既に常人なら死んでいるほど
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-06
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幕間 第129話 無念の帰還

ベリアルの指示を受け、シェイドたちはセラフィナの育った故郷グノーシス辺境伯領にて無期限の療養を命じられ、その日のうちにアモンが御するドラゴンの背に乗り、彼の土地へと移動していた。 万が一の事態に備え、竜族の王アポカリプシス自ら、数体の眷属を引き連れて護衛に当たっており、彼らは感覚を極限まで研ぎ澄まし、敵の有無を確認している。 厳戒態勢を敷き、傷付いたセラフィナの身に余計な負荷が掛からぬよう低空を飛行する雄々しき竜の群れ。傍から見れば壮観なる光景ではあったが、当事者たちの間には重苦しい空気が立ち込めていた。「…………」 シェイドたちに掛けてやる言葉が見つからず、アモンは黙りこくっている。後ろではキリエが目を閉じたままのセラフィナに縋り付きながら嗚咽を漏らし、シェイドは無表情ながらも怒りに身を震わせている。マルコシアスが不安そうな鳴き声を発しつつ頬を舐めても、セラフィナは身動ぎ一つしない。辛うじて息をしていることを示すように、胸が小さく上下する程度だった。「……全て、私の責任だ」 啜り泣くキリエの肩に留まっているカイムが、重々しい口調でポツリと呟く。「あの時……獣の王アザゼルがセラフィナの懐に入り込む前に、私がより早く防御結界を構築していれば……防御結界の構築が間に合っていれば、セラフィナは斯様な深手を負うこともなかった」 しかしながら自分は、間に合わなかった。アザゼルの動きが予想以上に疾く、防御結界を構築しようとした時には既に、アザゼルの凶刃がセラフィナの身を深く斬り裂いていた。セラフィナの身を守るようエリゴールに頼まれていたのに、これではエリゴールに合わせる顔がない。「……今更、過ぎたことを悔やんだところで、最早どうしようもねぇよ……神に匹敵する力を持つって言われるだけあって、アザゼルの動きは文字通り次元が違っていた。セラフィナでさえ、反応こそ出来たが回避が間に合わなかったんだから、な。あの時──若し俺たちがセラフィナと同様に反応することが出来たと仮定して、奴の攻撃に対し何らかの対応を取ろうと動いたところで……恐らく、何の成果も得られなかったろうよ」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-07
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