やはりと言うべきか──セラフィナに仕える侍従たちの反応は、悲惨と呼ぶ他なかった。 ドラゴンの背から慎重に降ろされる、意識のないセラフィナの変わり果てた姿を見て侍女のラミアは泣き崩れ、エコーは茫然自失といった状態で虚空を見つめ、ボソボソと小声で何かを呟いていた。 予め、帝都アルカディアから書状が送られては来ている筈なので、覚悟は決めていたつもりなのだろうが……いざ、瀕死のセラフィナを目の当たりにすると、心が大きく動揺してしまったようであった。 大粒の透き通った涙を溢れさせ、エルフ族特有の端正な顔をくしゃくしゃにして慟哭するラミアの姿は痛ましく、彼女がそれだけセラフィナを大切にし、愛していたことが窺い知れた。 そんな中、執事のナベリウスだけは取り乱すことなく、無表情ではあったがシェイドたちを優しく迎え入れる。「──ご無事で何よりに御座います。シェイド殿……そしてキリエ殿」「執事さん……すまん。俺たちは、セラフィナを……守り切ることが出来なかった……」 ナベリウスはセラフィナの教育係だった。本来なら烈火の如く怒り狂っても不思議ではなかったし、そうするだけの権利が彼にはあった。 しかしながらナベリウスは、それらをぐっと堪えながら努めて普段通りの振る舞いを心掛けている様子だった。頭を下げて謝罪を繰り返すシェイドとキリエを見ても、特に責めようとはせず、二人を以前のように優しく受け容れた。 その気遣いが余計に、シェイドとキリエを辛い気持ちにさせた。いっそ一思いに殴られた方が、幾分か陰鬱なる気分も晴れただろうに──どうして、彼は自分たちを責めようとはしないのか。 堪え切れなくなったキリエがその場に両膝を付き、地面に額を擦り付けて泣きながら許しを乞うても、ナベリウスは決して手を上げようとはせず、そればかりかキリエをそっと抱きしめ、我が子を慈しむように彼女の華奢な背を擦った。「シェイド殿も、キリエ殿も……ご自身を責められるような真似はどうか、控えて下さい。貴方がたはもう、十分に苦しまれた筈。これ以上、苦しむ必要は御座いますまい」
Last Updated : 2025-09-08 Read more