新月の夜── ベッドの上で静かな寝息を立てているセラフィナ……彼女の呼吸が安定していることを確認したキリエは、ほっと安堵の溜め息を吐いた。 包帯で覆われた胸部にはじんわりと、正五芒星状の血の染みが浮かび上がっていたが、それまでと比較すると出血量はやや控えめで、額に若干の汗こそ浮かんでいたものの酷く魘されている様子もない。 恐らくは"鳥の王"シームルグの羽根に宿りし、癒しの力に依るものだろう。セラフィナの愛剣と一体化したシームルグの羽根が、彼女の心身の苦痛を和らげているのだ。 「……うん。よし」 容態は安定している──急激に悪化する可能性も、見ている限りではなさそうだ。 「ちょっと、夜風に当たってきます──その間、セラフィナ様のこと……お守りして頂けますか?」 ベッドの傍に腰を下ろし、セラフィナの顔をじっと見ているマルコシアスにそう語り掛けると、マルコシアスはちらりとキリエの顔を見やり、無言で何度か尻尾を大きく振った。 ──"任された"。 キリエにはまるで、彼女がそう言っているかのように見えた。 「ふふっ……ありがとう御座います、マルちゃん」 キリエがくすっと笑いながら、何度か顎の下を撫でてやると、マルコシアスは無表情ながらも内心満更でもなさそうにふんふんと鼻を鳴らした。 木製の細長い杖を手に、セラフィナに宛てがわれている部屋を後にすると、キリエは早足で大神殿の外──中央の広場へと向かった。 深夜帯ということもあり、人の気配は殆どない。これなら、誰にも見られることはないだろう。 杖を槍の要領で構えると、キリエは秘密の自己鍛錬を始めた。 「──ふっ!!」 打・突……一撃一撃に魂を込め、キリエは一心不乱に杖を振るう。一撃振るう度、透き通った汗が周囲に舞った。 「駄目……これでは、まだ……」 試行錯誤しながら、より鋭い一撃を出せないか模索するキリエ……彼女が杖を用いた戦闘技術を習得しようとしているのには、勿論理由があった。 ──"お前は魔術に極めて秀でている。だが、魔術以外に関しては並の戦士にも満たぬ未熟者だ。魔術のみに頼っていては、命が幾つあっても足りんぞ"? 試練を終えた時、キリエはシームルグからそう言われた。 キリエも、試練を通じてそのことを痛感させられた。魔術を尽く見切ってくるような相手からす
Terakhir Diperbarui : 2025-08-04 Baca selengkapnya