奇跡が起こり、セラフィナが死の淵より生還してから一夜が明けた。 墓標都市エリュシオンの地下礼拝堂にて、アザゼルにその身を深く斬り裂かれ、意識を失ってから二週間と少し。長く、苦しい戦いだった。 意識を完全に取り戻したセラフィナは、自分が生死の境を彷徨っていた間、世界情勢に何らかの変化が生じたか否かを知るべく、シェイドたちに自室へと来るよう呼び掛ける。「────」 呼び掛けに応じ、ナベリウスが作った病人食を手に部屋の中へと足を踏み入れたシェイドたちが見たものは、復帰に向けて精力的にリハビリに励むセラフィナの姿だった。 病衣から普段の寝間着である白のロングワンピースに着替え、ベッド上に仰向けに横たわった状態で、ぴったりとした純白のストッキングに包まれた細い足を片方ずつ、規則的に上下させている。「──うん? あ、来てくれたんだね。ありがと」 まだ、自力で身を起こすことが出来ないのか、セラフィナは顔だけを動かしてシェイドやキリエ、マルコシアスにカイムといった面々の顔をちらっと見やる。 マルコシアスが尻尾を振りながら駆け寄り、彼女の手や頬を愛おしげに舐めると、セラフィナはくすぐったそうに微笑みを浮かべる。普段は凛としているマルコシアスも、セラフィナが目を覚ましたことに歓喜しているのか、甘え声を断続的に発していた。 シェイドの手を借り、壁にもたれ掛かるような形で何とか身を起こすと、セラフィナは単刀直入に尋ねた。「早速だけど──アザゼルに斬られたあの日から、昨夜目を覚ますまで……その間の記憶が、当たり前のことだけど欠落していてね。その間に起こった出来事を、可能な限り詳らかに教えて欲しい。今の状況を、整理したいから」 ナベリウスお手製のほかほかのココアを、キリエに手伝ってもらいながら少しずつ口に含むセラフィナを見つめ、その場にいる全員を代表してシェイドが口を開いた。 墓標都市エリュシオンの地下礼拝堂にて、セラフィナがアザゼルに斬られた後、フォルネウスの時間稼ぎで好機を掴んだ自分たちは、異形に変身したアスモデウスにしがみつ
Terakhir Diperbarui : 2025-09-20 Baca selengkapnya