Semua Bab 死にゆく世界で、熾天使は舞う: Bab 111 - Bab 120

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第四章 第110話 天下無事ならず

蝿の王ベルゼブブたちによる襲撃から一夜明け、セラフィナたちは狂信者たちの巣窟と化した墓標都市エリュシオンを目指し再び移動を始めた。 既に敵に認知されていても不思議ではないと判断したセラフィナはシェイドたちにエリュシオン自警団員に扮するよう指示を出すと、自らもエリュシオン自警団の外套を羽織り、フードを目深に被って素顔を隠していた。 街や村に立ち寄っても極力、人との接触を避け、素顔を見られぬよう慎重に立ち回る。不思議なことに、何処に敵が潜んでいるか、誰が敵で誰が味方か分からないと、周囲の者全てが敵に思えてくるものである。疑心暗鬼に陥り、少しずつセラフィナたちは精神的に疲弊していった。 そんな、ある日の夕刻── セラフィナたちは、進路からそう外れていない小さな街で宿を取ることにした。人気のある場所であっても狂信者やベルゼブブに襲われる可能性は決して少なくはないが、野宿よりは幾分か危険度が下がるだろうと、そう判断してのことであった。 何せ、旅の初日はベルゼブブたちの流した血の匂いに引き寄せられたのか、マゴットの群れや死の精霊アルコーンといった魔族たちも襲来し、ほぼ夜通し移動手段であるマスティマや物資を守るために戦い続ける羽目になったのだから。 それ故に旅の二日目からは、可能な限り街や村など、人の生活圏で宿を取り、その身を休めることにしていた。それでも、何処に敵の間者が潜んでいるのか分からないため、全くと言っても良いほど安心は出来なかったが。「……ふぅ」 二人部屋に案内されると、セラフィナは安堵の溜め息を吐きつつフードを脱いだ。四六時中、神経を張り詰めていたためか疲労の色が濃い。「……何だか、今までの移動よりもずっとずっと疲れた気がします……」 キリエも何処かげんなりした様子で、ソファーに横たわってぐったりとしている。誰が敵で、誰が味方か分からないと言うだけで、こんなにも疲弊するものなのか。「……墓標都市エリュシオンまで、あとどれくらい時間が掛かるのでしょう?」「そう、だね……墓標都市エリュシオンに着くのは早くて三
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-16
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第四章 第111話 聖マタイ王国の戦い

聖マタイ王国にて発生した、大規模な民衆叛乱──それを鎮圧すべく、聖教騎士団長レヴィは聖ヨハネ公国にて復旧活動に当たっていた第一騎士団と合流。 二万五千の兵力のうち、半分を引き続き聖ヨハネ公国の都市機能の復旧活動に、四千と五百の兵を聖地カナンの防衛に当てることを即決し、自らは残る八千の兵を率いて、そのまま聖マタイ王国へと進撃を開始した。 そして折しも、セラフィナたちのエリュシオンを目指す旅路が折り返しを迎えようとしている中、聖マタイ王国の当代国王ヤコブの居城サンタンジェロ城を包囲する叛乱軍凡そ三万との戦いが始まろうとしていた。 「────」 戦場となるであろう、サンタンジェロ城下──その街並みを一望出来る丘の上より、双眼鏡で凡そ三万の叛乱軍に包囲されたサンタンジェロ城の様子を確認すると、レヴィは単身、森の中にてじっと息を潜める八千の聖教騎士たちの元へと戻る。 「──状況は如何でしたかな、騎士団長殿?」 聖ヨハネ公国に残してきたアグリッパに代わり、今回の副官を担う青年将校アントニウスが尋ねると、レヴィは淡々とした調子で答える。 「正直言って、芳しくないな──叛徒の中に、見たところ王国の正規兵や士官も混ざっている。このまま放っておけば、落城は時間の問題だろう」 レヴィの返答を聞くと、アントニウスは軽く鼻で笑う。 「……ヤコブ王はどうやら、先代とは異なり人望をお持ちではいらっしゃらないご様子ですなぁ。よもや、民衆のみならず正規兵にまで見限られるとは」 「言ってやるな、アントニウス。善政を敷いていた大公ヨハネ殿でさえ何者かによって民を煽動され、終いには叛徒の凶刃に倒れたのだ。何処で何が起ころうとも、何ら不思議はない」 尤も、当代国王ヤコブがお世辞にも名君とは呼べない人物なのは、概ね間違ってはいないが──レヴィは言葉の最後にそう付け加える。豪放磊落な人物だが、如何せん為政者に向いていないのだ。 「これも、"獣の教団"とやらの仕業なのでしょうかね」 「どう、かな──確固たる証拠はないが、その可能性は高いだろうな」 それよりも今は、サンタンジェロ城を包囲する叛乱軍を如何にして撃破するか……そして、ヤコブや他の王族を如何にしてサンタンジェロ城より救い出すかを考えるべきだ。 レヴィの言葉に、アントニウスも深く頷く。 サンタンジェロ城を包
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第四章 第112話 優美なる黒豹オセ

墓標都市エリュシオン──狂信者たちの蠢く伏魔殿と化した"地下墳墓《カタコンベ》"。地下礼拝堂へと続く回廊に、転移魔法で一頭の優美なる黒豹が姿を現した。 「──あら?」 本来、この場に居ない筈の彼女の姿を目にし、狂信者たちへの説法をすべく地下礼拝堂へと歩を進めていたサロメは目を丸くし、その歩みを止めた。 「一体、どうしたと言うのです──オセ?」 「……芳しくない報せに御座います、サロメ様」 サロメの問い掛けに対し、オセと呼ばれた黒豹は威厳に満ちた女性の声でそう答える。 "獣の教団"の幹部の一柱・オセ。聖教会を撹乱すべく送り込まれた煽動者。幻影と幻覚を駆使して相手を惑わせることを得意とし、自らの正体を気取られずに暗躍することが出来るため、"獣の王"に重宝されている逸材である。 黒豹の姿をしているが、その正体は女神シェオルが亡くなった際、ルシフェルの呼び掛けに応じて"簒奪者"ソルに叛旗を翻した堕天使の一柱であり、堕天後は敵味方を問わず彼女のことを"幻惑のオセ"、"狂気のオセ"と呼んでいる。 "幻惑のオセ"と呼ばれたる所以は、誰かの前に姿を現す際は決して自らの本来の姿を明かすことなく、必ず別の何かに姿を変えているからだ。 また、人間を別の生命体に変身させたり、その精神に干渉して狂気をもたらす能力も持ち、"狂気のオセ"と呼ばれる理由はここから来ている。 オセの精神干渉を受けた者は、自分こそが遍く人の上に立つ選ばれし者であると信じて疑わなくなるという。正しく存在そのものが、人間特効とも言っても過言ではない極めて厄介な相手だった。 「聖マタイ王国──サンタンジェロ城を包囲していた叛徒たちが、一日足らずで鎮圧されました。もう少し粘るものと思われていただけに、全くの想定外に御座います」 彼らを鎮圧したのは、聖教騎士団長レヴィと彼女自らが率いる聖教騎士凡そ八千。時代遅れと思われていた白馬騎兵と車懸かりの戦法を用い、瞬く間に叛乱軍を混乱状態へと陥らせ、そして沈黙させてしまった。 サンタンジェロ城を包囲していた叛乱軍は、レヴィとマタイ国王ヤコブの呼び掛けに応じ全面降伏。このままでは聖マタイ王国全土に散らばっている叛徒たちが聖教騎士団によって鎮圧されるのも、時間の問題である。 「そう──では、聖マタイ王国に於ける民衆煽動は、事実上失敗に終
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-18
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第四章 第113話 轟く太鼓の音を聞け

墓標都市エリュシオンを目指す旅路の途中── ハルモニア有数の大河ステュクスの畔にて、セラフィナたちは小休憩を取っていた。 ハルモニア皇帝ゼノンより譲り受けた四白流星の良血馬マスティマの身体を、シェイドとキリエが洗っている──その様子を、少し離れた場所でセラフィナはマルコシアスにもたれ掛かるような形で腰を下ろしながら、のんびりと眺めていた。 慣れた手付きのシェイドに対し、キリエは初めての経験ゆえか何処か動きが拙い。シェイドから適宜アドバイスを貰いながら、マスティマの青毛の馬体を懸命に洗っている光景は、何処か見ていて微笑ましい。「──ひゃっ!? 今、この子噛んできましたよ!?」「うーん? 確か、馬の甘噛みは信頼している証だって、訓練兵時代に教官殿から教わったけどな。何やかんや、キリエはこいつに懐かれているんじゃないか? 耳を絞って威嚇してくる様子もないしな」 シェイドの言葉に応えるかの如く、マスティマは首を振りつつ小さく鳴き声を発する。彼の言う通り、マスティマは耳を絞っておらず、とてもではないが威嚇しているようには見えない。寧ろ、シェイドやキリエに対し気を許しているようにさえ見えた。「そ、それなら良いのですが……あ、こら! 今、私の足を踏んづけましたね!?」「あぁ、偶にそういう奴いるよ。構って欲しい時とか、悪戯好きな奴は大抵そうやって気を引こうとする」 ──最悪の場合、踏まれた側の足の指の骨が折れることになるけどな。 シェイドが冗談交じりにそう言うと、キリエは顔を引き攣らせる。割と冗談抜きで、有り得る話である。馬と人間では、そもそもの体重が違うのだから。力加減を間違えてうっかり……という事例は、ちらほらと散見される。「まぁ、そんな怖がってやるなよ。こいつも、キリエに構って欲しくてやっただけみたいだし──」 マスティマが足を踏みつけようとするのを、洗う際の動きに合わせて半歩ずれることで器用に躱しながら、シェイドはキリエを窘める。「そ、それなら良いのですが……」 恐る恐るマ
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第四章 第114話 穢れしラッパの響きを聞け

墓標都市エリュシオンを目指すセラフィナたちの旅路が、正に終盤へと差し掛かっていた丁度その頃── 枢機卿クロウリーの腹心たる異端審問官メイザースに率いられし"不死隊"の面々は、聖女シオンの生まれ故郷たる聖ゲオルギウス公国へと入り、叛乱軍に包囲されしエディンバラ城にて籠城する公国軍の救援に向かっていた。 叛乱軍を率いるは、公国の貴族軍人クロムウェル。本来であれば、祖国たる聖ゲオルギウス公国の国防を担う筈の男であった。 聖教会の内部に蔓延る血統主義そのものを、権力の腐敗する原因・唾棄すべき邪悪と強く認識していたクロムウェルは、血統ではなく能力や資質で人の上に立つべき者を選ぶべきと、常日頃から声高に主張してきた。 そんな彼に武装蜂起し、聖ゲオルギウスの血筋を根絶するよう唆したのが、"獣の教団"の幹部たる優美なる黒豹オセ。彼女は幻術を用いて巧みに人間に成り済ましクロムウェルに接触すると、彼の思想に賛同するふりをしながら耳元で甘い言葉を囁いたのだ。 ──"クロムウェル卿ならば、必ずや旧来の悪しき体制を打破する英雄になれることでしょう"、と。 クロムウェルはオセの甘言を受け、名門ゲオルギウス家の打倒を決意した。血統主義者たちを地上から抹殺し、能力や資質で人の上に立つ者が選ばれる、自らが理想とする世の中にすることを目指して。自らが、獣の狂信者の手のひらの上で踊らされていることなど露知らず。 実際、英雄かどうかはさておいて、クロムウェルの軍人としての資質や才能は本物だった。叛乱軍に加わった民衆たちに訓練を施し、短期間で烏合の衆たる彼らを、国の正規軍に匹敵するだけの練度に仕上げてしまったのだから。 聖ゲオルギウス公国は現在、クロムウェルを擁する革命派と、聖女シオンの血縁たる名門ゲオルギウス家を守ろうとする貴族派とに国内が分裂し、国内の各地で熾烈な争いを繰り広げていた。 ──"悪しき権力者に死を"!! ──"血統主義者たちに終焉を"!! クロムウェルの下に集いし叛徒たちは、血走った目で喚き散らしながら、敵対者を惨たらしく殺害していった。 何故、聖教を国教とする国家の中でも有数の大国である聖ゲオルギウス公国は、叛乱軍を相手に苦戦を強いられていたのか。 クロムウェルは人間に扮したオセと共に、用意周到に国家転覆計画を練っており、いざ武装蜂起し
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-21
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第四章 第115話 合流

ステュクスの畔にて、ガルグユの襲撃を受けた翌日── セラフィナたちは無事、目的地たる墓標都市エリュシオンに辿り着いていた。神殿都市ミケーネのように身柄を拘束されることもなく、都市の入口にて衛兵たちに皇帝ゼノンの書状を渡し、フードを脱いで素顔を見せると、彼らは何も言わず馬車を手際良く手配し、アイネイアスの屋敷へと彼女たちを護送した。 マルコシアスも乗り込める程の、荷運び用と思われる大きな馬車──それにセラフィナたちとマルコシアスが乗り込み、マスティマは馬車を護衛する騎兵の軍馬に扮して彼女たちに帯同する。 馬車に揺られていたのは、凡そ二、三時間ほどだったろうか。外から顔を見られぬよう、窓に該当する物が馬車には備えられていなかったため、どれほど進んだのか具体的には分からなかったが、体感時間としては概ねそのような感じであった。 何処に"獣の教団"の間者が潜んでいるか分からないということで、アイネイアスの屋敷に入るまでの間、セラフィナたちはさながら監獄へと送られる凶悪犯罪者が如く、フードを目深に被り続けていた。 アイネイアスの屋敷に着くと、黒を基調としたハルモニア軍の礼装に身を包んだ金髪碧眼の若い女性が、セラフィナたちを出迎えた。「──お待ちしておりました。セラフィナ・フォン・グノーシス御一行様。私、領主アイネイアスの秘書官をしております、アリアドネと申します」 スカートの端を指先でつまみ、黒のストッキングに包まれた細い脚を軽く交差させながら、アリアドネと名乗った麗しき秘書官は深々と頭を下げた。 薄化粧の施された端正な顔はまるで、人形や普段のセラフィナを彷彿とさせる無表情で、屋敷の周辺に潜伏している不審な輩はいないか強く警戒している様子だった。「どうぞ、中へ──アイネイアス様がお待ちです」 挨拶を返す間もなく、アリアドネはセラフィナたちを素早く屋敷の中へと通す。恐らくはこれも、何処に潜んでいるか分からない"獣の教団"の間者たちに、セラフィナたちの到着を悟られぬようにするための対策なのだろう。 アリアドネに先導されながら、セラフィナた
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-22
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第四章 第116話 情報共有

「──これで、全員揃ったな。では、早速始めよう」 フォルネウスを見て困惑するシェイドを余所に、アスモデウスはアイネイアスの執務机の周りに集まるよう、その場にいる全員に声を掛ける。 言いたいことは山ほどあれど、今はアスモデウスの指示に従おう。そう思いつつ、シェイドはフォルネウスから目を逸らして執務机へと歩み寄ると、その上に広げられた地図を見下ろす。 それは、アスモデウスが一から作り上げたエリュシオン地下に広がる地下墳墓《カタコンベ》の全体図だった。ご丁寧に見張りの存在の有無、侵入者対策の罠が仕掛けられている場所まで記されている。完成までに途轍もない労力を要したことは想像に難くない。「──これが、"獣の教団"が拠点としているカタコンベの全体図だ。掃討戦の決行までに、其方たちにはこの地図の道や出入口の位置などを全て頭の中に叩き込んでもらう」 先程までの軽薄な態度は何処へやら、深みのある厳かな口調でそう告げながら、アスモデウスはセラフィナたちの顔を順番に見やる。「──私がこれまで集めてきた情報を今一度、其方たちと共有しておこうと思う。情報を制するものは、戦いを制する。其方らにとっても現況を把握し、敵について知ることは非常に有益であろう。まず、"獣の教団"の信者たちについてだ──」 "獣の教団"の信者の殆どは、精神的に追い詰められた一種の鬱病患者であることが判明している。"崩壊の砂時計"の出現、そして毎日のように砂時計の砂が減りゆく様を見続けたことで将来への希望を失い、精神を病み、強い希死念慮を抱くようになった者たちが"獣の王"の思想に共感し、そして賛同しているのだ。 旧来の神を滅し、痛みも苦しみもない新たなる世界を創造しようとしている"獣の王"の思想に。 元凶とも言える"崩壊の砂時計"に関しては、ハルモニアに於いても様々な噂や憶測が常に飛び交っており、それらを纏めてゆくと大まかに三つに集約されるという。 ──砂時計の砂は、地上に存在する生命の残りの数。 ──砂時計は、同じ刻を一定に刻むことなく、不規則に加速と減速を繰り返している。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-23
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第四章 第117話 古の魔王、暗躍す

有言実行とは正しく、このようなことを言うのだろう。 セラフィナたちとの情報共有を済ませると、魔王フォルネウスはその日の内に行動を開始していた。 獣の狂信者たちが本格的に動き始める夜──フォルネウスは"地下墳墓《カタコンベ》の入口や、エリュシオンの裏通りといった狂信者たちの使用する場所に姿を現しては、ハープを奏でつつ澄んだ声で歌を歌った。 ──"星降る荒野に行こうよ" ──"天地の娘に連れられて" ──"地は亡く、天は泣いてるよ" ──"痛みと苦しみに悶えながら" ──"皆で逝こうよ、渾沌《まろかれ》の元に" ──"痛みも苦しみもなくなるから" ──"泥の中に、身を委ねて" ──"どうか、永久の安息を" 事情を知らぬ者が聞けば、民間伝承を題材にした何気ない歌にしか聞こえないことだろう。 けれども獣の教えを信奉する者たちにとって、その歌は特別な意味を持っていた。 "天地の娘《フィリウス・デイ》"伝説──天空の神ソルと大地の女神シェオルとの間に実は子供がおり、世界の終わりにその者が降臨し、遍く生命を救済してくれる。とうの昔に廃れた筈の教え、それを"獣の教団"は器用に組み込んでいたのだ。 獣の狂信者からすれば、フィリウス・デイ伝説を題材にした歌を歌う者は同胞──フォルネウスはそれを歌うことで狂信者たちとコンタクトを取り、墓標都市エリュシオンにセラフィナが入ったことを広めようとしていた。 末端の信者の間でセラフィナの存在が広まれば、サロメを筆頭とする幹部たち、そして闇の中に身を潜める"獣の王"も何らかの動きを見せざるを得なくなる。「──あぁ……あんたか。アイネイアス卿の手の者かと思って、一瞬身構えてしまったよ」 フォルネウスの歌に、何名かの狂信者が足を止める。傍から見れば何処にでも居そうな、如何にも純朴といった風体の中年の男や子連れの若い母など。フォルネウスは、すっかり彼らと顔馴染みになっていた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-24
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第四章 第118話 フォルネウスからの依頼

墓標都市エリュシオンに到着した翌日──セラフィナは早速、魔王フォルネウスから呼び出しを受けていた。「──どうぞ、セラフィナ・フォン・グノーシス」 アイネイアスの執務室……その扉を、セラフィナがコンコンコンと軽くノックすると、中からフォルネウスの耳に心地好い返事が聞こえてくる。「──失礼します」 セラフィナが扉を開け、アイネイアスの執務室の中へと足を踏み入れると、執務机に齧り付いているアイネイアスと書類整理を手伝うアリアドネ──そして、そんな二人とは対照的に、来客用のソファーに腰掛け、優雅にワインを嗜んでいるフォルネウスの姿があった。「やぁ、セラフィナ……昨夜は良く眠れたかな?」「……朝からワインだなんて、随分と良いご身分だね」 溜め息混じりにセラフィナが皮肉を言うも、フォルネウスには一切響いていないようで、「これでも一応、嘗て同胞たちから大いなる覇者"魔王"と呼ばれて恐れられていた時期もあるからね。身分が高いかどうかと問われれば、そうとしか言いようがないんじゃないかな?」「……あぁ、そう言えばそうだったね」「それに、一仕事終えてきたばかりだ──少しくらい贅沢をしても、罰は当たらないと思うけれど? まぁ遠慮などせず、兎に角そこにでも座ってくれ給え。君だけ立ったまま話をすると言うのも、些か申し訳ない気持ちになる」 フォルネウスに促されるまま、セラフィナは対面のソファーに遠慮がちに腰を下ろした。「──うん、見れば見るほど素晴らしい。今は亡き女神シェオルに生き写しだと、多くの者が君の神秘的な容貌を礼賛するけれど、こうして間近でまじまじと見てみると、その理由が良く分かるよ」 上質な絹を彷彿とさせる、艶やかな銀色の長髪。涼やかながらも、同時に強い意志を感じさせる青い瞳。白磁や雪を思わせる白い肌。あどけなさが色濃く残りつつも、神秘的な美貌。 華奢で手足が細長いところや、控えめながらも存在を主張する胸、反対に存在を強く主張する腰のくびれ……何もかもが女神シェオルにそっくりだ。感情の起伏
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-25
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第四章 第119話 獣たちの王、舞い降りて

セラフィナの行動は、実に素早かった。 マルコシアスを伴い、フォルネウスに言われた通り艶やかな銀色の長髪や、あどけなさが色濃く残りつつも神秘的なその美貌を衆目に惜しげもなく晒しながら、伏魔殿と化した墓標都市エリュシオンの中を、まるで我が家の庭とでも言わんばかりに優雅に闊歩した。 唯一無二とも言える──厳密には、瓜二つの容貌を持つベリアルという存在がいるが──極めて稀有な外見、それを市井にて息を潜める獣の間者たちが見逃す筈もなく、彼女がエリュシオン入りしたという報告は瞬く間に、エリュシオン地下に広がる地下墳墓《カタコンベ》を拠点とする狂信者たちの耳に入るところとなった。 それでいて、セラフィナは自らが獣の教えを信奉する者たちに対し敵対的な存在であることを誇示することも、忘れていなかった。 市井に潜む間者たち──その一部を、まるで見せしめのように闇討ちし、身柄を衛兵たちに引き渡していたのだ。 間者たちからしたら、堪ったものではない。突然、音もなく背後よりセラフィナが姿を現したかと思えば、粛々と手刀で首筋を殴打し、意識を刈り取ってゆくのだから。 意識を刈り取られ、地面に沈む刹那に感じるのは、鼻腔を刺激する仄かに甘い香りのみ。気が付くと、衛兵詰所に併設された牢の中。拷問器具を手にした衛兵たちが、底意地の悪い笑みを浮かべながら、自分を取り囲んでいる──同胞がそのような目に遭うのを、ただ見ていることしか出来ない他の間者たちの精神さえも、セラフィナは容易に蝕んでいた。 果たして──フォルネウスの依頼で示威行動《デモンストレーション》を始めてからほんの数日で、獣の教えの中核を担う幹部たちは、セラフィナのエリュシオン入りが流言飛語の類ではなく、紛れもない事実であることを知覚するに至ったのである。 ──ハヴェール、ハヴァーリーム、ハヴェール、ハヴァーリーム、ハッコール、ハーヴェル。 ──ハヴェール、ハヴァーリーム、ハヴェール、ハヴァーリーム、ハッコール、ハーヴェル。 カタコンベの地下礼拝堂……王の補佐官たる筆頭幹部サロメが小鳥の囀りを彷彿とさせる可愛らしい声で、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-26
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