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今さら私を愛しているなんてもう遅い のすべてのチャプター: チャプター 231 - チャプター 240

240 チャプター

第231話

博人は目を覚ますと身支度を整え、いつものスーツに着替え下へ降りた。外はまだ夜明け前だった。彼はとても静かにしていて、未央を起こさないように気を遣っていた。暫くして、正門の前に止まったマイバッハが静かに発進し、屋敷を後にした。紫陽山は虹陽市の郊外にあり、車で十数分ほどの距離だった。博人は目が少し暗くなり、心の中は焦りに近い感情でいっぱいだった。それは雪乃に会うためではなく、ただこの歪んだ関係に終止符を打つためだった。そして……博人は全てを片付けた後、未央との間に隔たる壁を消してから、真実を全て打ち明けようと考えていた。彼と雪乃の間には何もなく、彼女はただ彼の恩人でしかない。そうすれば、未央とまた改めてスタートできる。そう思った博人は胸が高鳴り、ハンドルを握りる手に力を入れすぎて、関節が白くなってしまった。常に冷静であった彼の瞳に、かすかな動揺が浮かんだ。気が付くと、彼はもう紫陽山の麓に到着していた。まだ早い時間帯のため、周りには人気はなかった。訳も分からず瞼がピクッと攣って、漠然とした嫌な予感が胸を過った。お互いに計算し、はめ合おうとした西嶋一族の中で、この鋭い直感が何回も彼の命を救ってくれたのだ。しかし今、早くすべてを終わらせて改めて始めたいと思っているから、彼はその不安をあえて無視していた。彼は山道を登り、間もなく山頂に着いた。冷たい風が吹きつけ、肌に突き刺さるように冷たかった。博人は眉をひそめ、周囲を見回した。まだ薄明りの中で、雪乃の姿はどこにも見当たらなかった。もしかして彼を騙したのか?博人の表情が次第に険しくなってきた。その時、東の空が白み始めた。山頂もどんどん明るくなり、景色がはっきりと見えるようになった。博人は暫くそこで待ちながら、携帯を取り出して雪乃に電話をかけた。「プルルル」呼び出し音だけが虚しく響いた。一方。博人が知らないのは、少し離れた林の中から、数人が彼を密かに観察していたことだ。「お前ずっと西嶋博人が好きだったんじゃなかった?本当に死なせていいのか」あるかすれて聞くにも不快な声が響いた。表情が不機嫌になった雪乃は目に暗い影を落とし、冷たく笑った。「彼が好き?私が好きなのは最初から自分だけよ」ここには部外者がいないため
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第232話

ほんの一瞬で。洋は悟った。未央が昨夜わざと時間稼ぎのために、あんなに熱心に話しかけてきたということを。それだけではない。その資料も覚に盗まれ、未央の手に渡っているはずだ。洋は最初は慌てていたが、絵里香がすぐに冷静さを取り戻し、彼にこう言った。「心配しないで。あの資料に関する勢力は複雑で絡み合っている。公開される前に消せばいいだけの話なの」洋は眉をひそめ、尋ねた。「資料はもう相手の手にあるんだぞ。どうするつもりだ?」……洋は記憶の中から我に返り、陰鬱な視線を遠くないところへ向けた。博人はその場で行ったり来たりしながら、諦めず雪乃に電話をかけ続けた。彼自身はもう相手に売られたことなんて知る由もなかった。「私を恨まないでね」雪乃は唇を噛みしめ、少し良心が抉られたような感覚が込み上げたが、すぐにそれを押し殺した。最初は博人と仲良く一緒に暮らそうと思っていたが、彼の心はすでに白鳥未央に奪われてしまったのだ。ならば、こっちも遠慮はいらないだろう。雪乃は一旦深呼吸し、目の前の二人を見つめて尋ねた。「私どうすればいい?約束のお金は持ってきた?」洋は鼻で笑い、重たいトランクを彼女に渡した。「ほら。これに睡眠スプレーが入っている。あいつにかけるんだ。成功すれば、この金は全部お前のものだ」雪乃は目がぎらりと光り、その茶色の瓶を受け取り、大股で博人の方へ行った。その時、空はすっかり明るくなってきていた。博人が眉をひそめ、我慢の限界まできて、ついに帰ろうと振り返った時。「博人……」背後からその弱々しい女性の声がした。博人は足をとめ、不機嫌そうな声をしたが、辛抱強く尋ねた。「どうしてこんなに遅かったんですか。見たかった朝日は見られましたか」「うん」雪乃は今日は特に無口だった。博人を見つめる瞳には未練が残っている。彼女はゆっくりと近づき、その涙がこぼれそうな瞳が次第に赤くなった。そして、涙が頬を伝わって落ちてきた。「博人、さようなら」今回ばかりは本心でそう言ったのだ。あの人たちが博人に何をするかは分からないが、いいことではないと雪乃は察しはついていた。博人は何が起こっているか理解できず、そっとため息をつき、用意した銀行カードを取り出そうとした。カードには一億が入って
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第233話

山頂が完全に静まり返るまで、身を隠していた二人はようやく現れた。「よくやった」洋はほっとしたように、満足げな笑みを浮かべた。雪乃が最後に後悔するんじゃないかと心配していたが、案外残酷な女だった。博人を確実に眠らせるために全部の薬を撒き散らしたのだ。雪乃は目に複雑な色が浮かんだ。なぜだろうか。博人が最後に彼女に向けた眼差しを見て、何か大切なものを失ったような気持ちにさせた。しかし、雪乃はすぐに首を振り、その雑念を払いのけた。彼女は目の前の二人を見つめ、冷ややかな声で言った。「約束果たしたでしょう。お金を寄越してもらえる?」雪乃は唾を飲み込み、少し緊張していた。洋と絵里香が約束を破るのではないかと恐れていたのだ。そうしたら、お金も手に入らず、博人まで失う羽目になるじゃないか。洋は目を細め、何か言おうとしたが、絵里香に遮られた。「いいわよ。確認しなさい。ここには六千万ある。問題ないでしょう?」顔に喜びの色を浮かべた雪乃はすぐにその重たいトランクを受け取った。開けると、多くの一万円札がぎっしりと詰まっているのを確認し、すぐに蓋を閉めた。これ以上ここに長くいればいいことはないと思い、最後に彼らを一瞥し、トランクを抱えて走って行った。そして、その姿はすぐに見えなくなった。洋は眉をひそめたまま、絵里香に低い声で言った。「本当に彼女を逃がすつもりか?私たちの顔を見たことがあるから、万が一通報されでもしたら……」言葉を終える前に、絵里香に遮られた。バカを見るような目で彼を見つめ、絵里香は嘲笑った。「お前は一体どうやってここまで来たの?不思議だとすら思うわ。綿井雪乃のような小心者を追い詰めたら、玉砕のつもりでどんな手を打ってくるか分かったものじゃない。安心してよ。もう監視させてあるから。後は彼女に罪を被せるのに使えるから」……絵里香の言い分は最もだが、洋は社長としての威厳を傷つけられた気がして、メンツが潰されるのを感じ、顔色が険しくなった。しかし。絵里香の背後にいる人物を思い出し、少し恐れの色を目に浮かべ、思わず口調を和らげた。「弟はどうした?」絵里香は肩をすくめ、いい加減な態度で言った。「知らないわ。まだ生きているでしょうね」一瞬にして、周りの空気が凍り付いた。
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第234話

部屋には誰もおらず、ベッドには一切温もりが感じられなかった。彼は朝早く出かけたようで、しかも急いでいたらしく、予備の携帯も置いて行っていた。普段は博人は二つの携帯を持っている。一台はプライベート用、もう一台は仕事用だった。残されていたのは偶然にも仕事用の方だった。突然、電話の着信音が響いた。未央が確認すると、それが高橋からのだったのを見て、慌てて電話に出た。「どうしました?」電話の向こうで、高橋の声は焦りに満ちていた。「白鳥さん、西嶋社長はご一緒ですか。急に連絡が取れなくなってしまいまして」何ですって?未央は眉をひそめ、嫌な予感が急に込み上げたが、無理やりに冷静さを取り戻し、落ち着いて言った。「私と一緒にいませんよ。朝早く出かけたようで、どこに行ったかは分かりません。とりあえず焦らないでください。急用ができたのかもしれませんよ」高橋は意外そうにぶつぶつ呟いた。「おかしいですよ。西嶋社長はいつもスケジュール通りに行動するタイプですから。めったに予定外の行動を取りません」瞼がピクッと痙攣し、不安がますます強くなってきた。「普段はよくどこへ行きます?博人の幼馴染の方々にも聞いてみたらどうですか」高橋は仕方なく頷き、すぐに行動し始めた。部屋は静まり返っていた。未央は漠然とした不安を覚え、携帯を取り出し、瑠莉に電話をかけた。「もしもし?なに?」彼女はまだ寝起きのようで、かすれた声にまだ眠気が残っていた。未央はできるだけ落ち着くように口を開いた。「瑠莉、今博人の居場所を調べてくれない?」手がかりが見つからないときは、特殊な手段を使うしかないのだ。「ごめん、誰を?」瑠莉は耳をほじり、聞き間違えたかと思い、信じられないという口調で尋ねた。「未央、まさかあの人と仲直りしたんじゃないよね?バカな真似をしないでね。すべてを捧げたのに冷たくされた日々を忘れたとは言わせないよ」瑠莉が彼女のことを心配しているのを理解し、未央はすぐに説明した。「とにかく今は複雑な状況なの。博人の居場所を探してほしい。何か危険な目に遭っているかもしれない」「分かったよ」不本意だが、親友の頼みとあって、瑠莉は最終的に頷いた。「少し時間をくれない?何か分かったらすぐに連絡するよ」未央の目
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第235話

博人は目の前に現れた洋を見て、一瞬呆然としたが、すぐに落ち着いて言った。「岩崎社長、俺たちには別に何の衝突もなかったでしょう?俺をここに連れ込んで、一体何をしたいんですか」ここまで言うと、口調が急に鋭くなった。「西嶋家を敵に回すつもりか」博人は今西嶋グループの社長ではないが、依然として最大の株主であり、西嶋一族の命運を握っている。洋は微動もせず、彼の脅しなど気にも留めていない様子で、冷ややかな声で言った。「西嶋社長。私がどうしてあなたを連れて来たのか、よくご存じでしょう」瞼がピクッとつり、嫌な予感がますます強くなった。お互い馬鹿ではないのだ。洋の陰鬱な眼差しを見ると、すぐに状況を理解した。岩崎覚は彼と未央を裏切ったのか。いや、違う!洋が重要な資料がなくなったのに気付き、真っ先に彼を疑った可能性だってあるのだ。すると、二人の間の空気が凍り付いた。洋は先に沈黙を破り、冷たく言った。「資料を返せば、解放してやってもいい」博人は西嶋家の後継者で、数多くの忠実な支持者がいるのだ。もし本当に、彼にもしものことがあったら、洋も面倒事に巻き込まれるのだ。洋は目を細め、資料を回収した後、有名な催眠術師を雇う予定なのだ。博人に催眠をかけて、拉致された記憶を頭から消させるつもりだった。未央に関しては、たとえ過去のことが彼と関係があるのを知ったとしても、証拠がなければどうにもできないのだ。洋は密かに心の中で計算していた。しかし。博人は目を閉じ、一言も発せず、全く頭を下げる気がないようだ。洋は暗い目をして、表情も険しくなった。「西嶋社長。私が本当にあなたに手を出せないとでも思っています?」脅すような口調で、目の前の男を屈服させようとした。「あの資料が公開されれば、私にとって致命的なものです。ならばあなたを道連れにした方がマシでしょう?窮鼠猫を噛むと言うこと、知らないんですか。追い詰められた人間なら何でもできますよ」そのかすれた声がゆっくりと地下室に響いた。しかし、博人は全く動じなかった。深い瞳はとても平然としていて、恐怖の色は微塵も見えなかった。「資料がどこにあるか知らないんだ」彼は頑なにそう主張した。あの資料は未央が長い時間をかけて苦労してようやく手に入れた証拠だった
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第236話

「お前は臆病者だって言ってんだ」言い終わると、大きな音がした。洋が手にしていた鍵を投げつけたのだ。博人は素早く躱したが、それでも顔に傷がついた。その冷酷な顔に赤い傷痕が残された。赤い血がぽたぽたと床に落ちている。博人は奥歯を舐め、顔が刺された痛みを感じたが、我慢できないほどではない。洋を見つめる眼差しは相変わらず嘲笑に満ちていた。未央はまだ自分を避けていても、彼女の代わりなど探そうとは思わなかった。博人から見ると、それは臆病者がすることだからだ。洋は怒りで真っ赤に染まり、全身を震わせながら歯を食いしばり、言葉を絞り出すように言った。「いいぞ、いいぞ!それならお前がいつまで強がっていられるかみせてもらおうじゃねえか?」そう言うと、洋はどこからか棘がついた鉄の棒を取り出した。これが人の体に当たれば、たちまち血肉が飛び散るだろう。ちゃんと話し合う気がなければ、少々痛い目に遭わせるしかないのだ。洋は強引に博人から証拠の在り処を聞き出すことにした。しかし、その時。背後からの声が彼を止めた。「待ちなさい」その時、絵里香が腕を組みながら後ろに立っていた。高みの見物のつもりだ。洋は眉をひそめ、不機嫌に「またなんだ?私に何かあれば、お前とお前の後ろにいるやつも同じ運命になるだろう」と言った。絵里香はただ彼の肩を軽く叩き、慰めた。「そんなに興奮しないで。ただ道具を変えたほうがいいといいたかっただけよ」そう言いながら、彼女は数本の針を取り出した。鋭い先端がギラリと光った。絵里香は目つきが冷たくなり、口元に笑みを浮かべた。「あれではすぐに死んじゃうから、どうやって証拠の在り処を聞き出すのよ。これなら苦しませつつも、傷痕なんかあまり残らないからね」洋は一瞬たじろぎ、すぐに表情を和らげた。絵里香の言ったことにも一理があると分かったからだ。手にした鉄の棒を降ろし、鋭い針を受け取ると、博人に近づいて行った。「もう一度聞く、例の資料はどこに置いた?」必要でなければ、洋は博人を敵に回したくないのだ。しかし。男は顔色を全く変えず、口元に浮かべた笑みすら消えなかった。洋は目に狂暴な光が浮かび、怒りに任せて、手にした針を人体で最も痛いツボに刺した。「ぽたぽた」地下室に水滴の
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第237話

洋は眉をひそめ、博人を拉致すれば全てが順調に進むと思っていた。しかし、最初の一歩は最も簡単だったが、この男の口を開かせるのがこんなに難しいとは思ってもいなかったのだ。もし資料を早く回収できず、白鳥未央に再び隠されてしまえば、彼らはまた不利な立場に立たされるのだ。それに、博人の失踪は長く隠し通せることではない。洋は心配そうに言った。絵里香も珍しく難しい顔をして、地面に倒れた博人を眺めた。「情に厚い男だね」彼女は深くため息をつき、目に冷酷な光が浮かび、低い声で言った。「だめだったら直接催眠術をかけましょう。アンドレ先生はもう外で待っているわよ」洋は眉を軽くひそめ、疑っているようだ。「あの外国人本当に信用できるのか?もし西嶋のやつが思い出したら、私たちは悲惨な目に遭うだろう」絵里香は軽蔑したように彼を一瞥し、何も答えなかった。実際、彼女はさっきから一切手を出さなかったし、顔すら出さなかった。ただ声を聞かれただけだ。だからもしすべてがバレたとしても、最後に被害を受けるのは洋だけなのだ。絵里香はもちろん本音を口にせず、落ち着いて言った。「安心しなさい。アンドレ先生は国際的に一番有名な催眠術師なのよ」洋はそれを聞き、少し安心したようだ。彼は博人を簡易ベッドに運ぶと、ドアを開けて外の男を中へ入れた。アンドレは五十代ぐらいの中年男性で、金色の巻き毛だ。彼は癖のある日本語で話し始めた。「オーマイガー。あなたたち、彼に何をしたのですか」洋は冷たい表情で警告した。「自分の仕事に集中しろ。報酬は払うから、余計な詮索するな」アンドレもお金に目がない人だった。仕事を終えれば多くの報酬を手に入れられると思い、好奇心を抑えた。「私に何をしてほしいですか」洋は少しほっとし、ゆっくりと説明した。「彼にあるものを盗まれてしまった。そのものの在り処を知りたいんだ」アンドレはすぐに理解し、懐から懐中時計と様々な睡眠道具を取り出した。地下室の照明は非常に暗かった。催眠をしたが、今までにない抵抗が返ってきた。アンドレは初めて困惑した顔を見せ、重々しく説明した。「この方は強く抵抗しています。無理に聞きだせば、彼の意識が崩壊して、精神障害を起こす可能性がありますよ」洋は目がギラリと光り、躊躇す
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第238話

「資料はそっちに任せる」「どういう意味?」絵里香は眉をつり上げ、何も知らないふりをした。洋は鼻で笑い、冷ややかに言った。「とっくに調べたぞ。お前の背後につく人物は西嶋グループの内部の関係者だろう?」表情が一瞬変わった絵里香は緊張し始め、それまでの怠そうな態度を一変させた。「他に何を知ってるわけ?」洋はただ手を振り、無関心そうに言った。「考えすぎだ、深く詮索するつもりはない。ただ、私たちは運命共同体だということをしっかり理解してほしいね」洋は間を取り、警告を含む声で続けて言った。「私に何かあったら、お前らも同じ目に遭うということを覚えおけ」顔色がどんどん険しくなり、絵里香は冷ややかな声で言った。「分かったわ。もしその資料が本当に西嶋グループにあるなら、回収させるわ」洋は満足そうに頷いた。彼らの隣に。アンドレも安堵したように息をついた。彼はお金さえもらえればそれでいい、他のことに興味はないのだ。「ご用がなければ、これで失礼しますよ?」洋が返事する前に、絵里香が先に口を開いた。「彼の記憶を変えてちょうだい。私たちはここにいなかったことにして。綿井雪乃という女が彼を愛しすぎて、自分の物になれないと思って、ここに監禁したって」洋は呆気に取られ、勢いで振り向いて絵里香を見つめた。やはり一番恐ろしいのは女だ。どうりでさっき、雪乃を逃がしたわけだ。こういうつもりだったのか。洋は怖気づいてしまい、目の前の女への恐怖を覚えた。暫くして。アンドレはようやく作業を終え、疲れ切った様子で言った。「終わりましたよ」地下室は再び静寂に包まれた。博人だけが横たわり、服は少し乱れ、目をじっと閉じているが、呼吸がだんだん穏やかになっていった。……一方。「博人が丸一日行方不明なの、間違いなく何かあったに違いない!」未央は焦った顔でリビングを行ったり来たりしていた。知恵も連絡を受け、急いで白鳥家に駆けつけて、未央と策を練ろうとした。「理玖はまだ知らないわ。とりあえず彼に教えないでね」「分かった。とりあえず理玖は暫くそちらに預けるわ」未央は言いながら頷いた。二人は顔を見合わせ、一旦心の中のわだかまりを置いていた。知恵は落ち着いて聞いた。「失踪した前日、彼は何をし
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第239話

未央は一瞬ポカンとしたが、返事する前に、瑠莉はすでに不満を溢した。「あなたがあのクズ男を心配したのに、結局愛人に会いに行ったのよ!」瑠莉の声は怒りで震えていた。未央は目に暗い影が差し、どこかおかしいと感じた。以前なら、博人は確かに雪乃のことを気にかけていたが、仕事に支障が出るようなことはしなかった。ましてやこんなに長く連絡が取れない状況などなかった。今回は不自然な点が多すぎる。未央は眉をひそめ、ただ瑠莉に礼を言って電話を切った。顔を上げると、知恵も彼女を見つめていて、確信めいた口調で言った。「博人は絶対あの綿井という女にはめられたに違いないわ」未央より、知恵は全く立場がないのにしつこくついてくる雪乃の方が嫌いなのだ。しかし、博人と理玖があの女を気に入っていたため、知恵は何も言わなかった。しかし今……彼女は眉間に深くしわを寄せ、その目には隠せない嫌悪の色が浮かんでいた。そして、声のトーンを低くして言った。「あの女は最初から怪しいと思ってたわ。可憐なふりをしていて、利益となれば誰よりも残酷になれる人間だわ」知恵の指摘は辛辣ながらも真実だった。やはり女は女をよく知るものだ。未央は眉を吊り上げ、まさか知恵がこんなに早く雪乃の本性を見抜いていたことに驚いた。「でも、彼女はこれまで博人に従順だったのでは?」「ふん」知恵は冷笑し、いたって冷静に言った。「永遠の敵などいないわ。あるのは永遠の利益だけよ。誰かがより大きな利益を提示したんでしょう」リビングの空気が少々重くなった。未央は眉をひそめ、博人の仕事用の携帯を取り出し、高橋に電話をかけた。「プルルル」電話の相手はすぐに出た。その声には明らかな焦りが含まれていた。「どうですか?西嶋社長の居場所分かりましたか」高橋も博人の隣に長い時間がいたが、このような事態は初めてで、思わず慌てていた。未央は説明せず、ただこう命令した。「綿井雪乃の電話番号を教えてください」高橋は一瞬びっくりし、躊躇いもなく番号を伝えた。それから。知恵と未央は顔を見合わせると、先に知恵が口を開いた。「私かけるわ」彼女は雪乃に電話をかけた。長い呼び出し音の後、ようやく電話が繋がった。「どちら様?」雪乃はたぶん移動中で、息が切れ
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第240話

知恵の声も震え出し、心臓が喉まで上がってくるような感じがした。たった一人の息子である博人に、もしものことがあったら、彼女はどうすればいいのか。その時、未央は落ち着いて口を開いた。「落ち着いてください。あの人たちは博人に手を出す度胸がないと思うわ。単なる誘拐なら、必ず何かを要求してくるはずだから」未央は胸が重苦しくなった。もし本当に自分のせいで、博人が危ない目に遭ったら、一生後悔するだろう。知恵も徐々に冷静さを取り戻し、深呼吸をしてから言った。「紫陽山に行きましょう」途中で。未央はまた高橋に電話をかけ、その顔に真面目な色を浮かべて、命令した。「信頼できる部下を何人か連れて郊外に来てください」博人が失踪したことが外部に漏れれば、西嶋グループの株価に計り知れない損失を与えるので、誰かに知られてはいけないのだ。高橋は敢えて何も聞かず、数人の部下を集め、急いで会社を後にした。しかし。彼がオフィスを出た直後、予想外の人が入ってきた。しかし、残念ながら、誰もそのことに気付かなかった。真昼の太陽は容赦なく光が差し込んだ。未央は目を細め、額は汗でびしょびしょだった。彼女は知恵とお互いに支い合いながら、ようやく紫陽山の頂上に着いた。「西嶋夫人、大丈夫なの?」未央は隣の息があがっている知恵を見て、心配そうに尋ねた。言いながら、手にしたミネラルウオーターを渡した。「ごくごく」知恵はこの時、自分の見た目を気にする余裕がなくなり、髪を乱したまま、必死に息を整えた。「ありがとうね」彼女は未央を複雑な目で見つめた。過去に未央に浴びせた辛辣な言葉を思い出し、彼女は顔を赤らめて、少し後悔しはじめた。もしかしたら、自分が本当に間違っていたのかもしれない。知恵はため息をついた。しかし、今はそんなことを言っている場合じゃなかった。一番重要なのは博人を見つけるのだ。二人は周りを見回し、探しまわすと、高橋も部下を連れて到着した。未央は振り返って、彼に説明した。「確かな情報によって、博人が最後に行ったところはここです。何か手がかりがないか探してください」時間がどんどん過ぎていった。全員の焦りが募っていく一方だった。未央は再び携帯を取り出し、博人に電話をかけ、奇跡が起こるのを期待した。しか
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