All Chapters of 今さら私を愛しているなんてもう遅い: Chapter 251 - Chapter 260

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第251話

洋は眉間に深いしわを寄せて、博人をじっと見つめたが、未央も彼を観察していることに気付いていなかった。「すみません、博人は知らない人と接するのが苦手で」この時未央が突然口を開き、その異常な空気を和ませた。洋は気まずそうに笑い、ゆっくりと止まっていた手を引っ込めた。「そうですか?西嶋社長と不仲だと聞いていましたが、どうやら仲がとてもいいようですね」「噂話は信じるものではないでしょう?」未央はコーヒーを一口飲み、意味深に微笑んで、目の前の人を見つめた。彼女はもう八割の確信がついた。洋はまだあの資料を手に入れていないのだ。もしすでに手に入れていたら、博人を見てこんなに動揺したり、隙を見せたりはしないはずだ。「岩崎社長、一つ忠告してあげましょう。人に知られたくないなら最初から後ろめたいことをしないことです」その資料がどこにあるかは分からないが、敵の手に渡っていない限り、取り戻す方法はいくらでもある。そう言い残すと、未央は立ち上がり、洋の青ざめた顔をあえて無視して、博人を連れてその場を後にした。「パリン!」カフェを出た直後、背後でカップが割れた音がした。一瞬足を止めた未央はこれで心の中での確信が80パーセントから100パーセントになり笑顔を浮かべた。「未央、もうしゃべっていいのか」博人は慎重に声をかけた。未央は「シー」と言いながら指を口に立て、彼の腕を引いて車に乗り込んだ。一方、カフェにて。割れたカップと零れた茶色の液体が床に広がっている。洋の顔が歪み、関節が白くなるまで手を握りしめていた。未央のあの言葉は一体どのような意味なのか。脅し?洋は陰鬱な目をして、自分の犯罪の証拠がまだ相手の手のうちにあると思うと、胸が騒ぎ立ち始めた。その時、外に飛び出して相手もろとも道連れにしてやろうかと思ったが、彼はそれをぐっと耐えた。突然、電話が鳴り出した。洋は携帯を取り出し、その見慣れた番号を見ると、怒りがこみ上げてきた。「滝本!よくもまた私に電話できたものだな?」数日前、彼らは博人を拉致し、アンドレという催眠術師が博人に催眠をかけることで、偽薬製造の証拠資料の在り処を聞き出したのだ。全てが上手くいくと思っていたが、会社から盗み出した資料はまさか何も書かれていない白紙だった。
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第252話

「勝手に行動しないでね、まだ方法があるから」絵里香は頭をフル回転させ、洋を落ち着かせようとしながら、突然尋ねた。「西嶋博人に会ったってさっき言わなかった?」この時間帯は、カフェは閑散としていて、数人の店員しかいなかった。床の汚れを片付けてくる店員がいたが、洋は彼に札束を投げつけた。「邪魔するな、あっち行け!」それから。声を潜めて、洋は先ほどカフェで起きた出来事を絵里香に教えた。話せば話すほど苛立ち、思わず怒鳴りつけた。「あのアンドレという奴は催眠術の専門家だって言っただろう?西嶋博人は記憶を失ってなんかいなかったぞ!あの詐欺師め!」電話の向こうは暫く沈黙してから、ようやく返事が返ってきた。「このバカ!」絵里香は冷たい声で罵った。元々不機嫌だった洋は瞼がピクッと攣り、すぐに声をあげた。「誰が馬鹿だ?」「あんたよ」絵里香は我慢できず説明した。「もし彼が記憶を失ってないなら、白鳥という女は絶対資料の在り処を知っているでしょう?わざわざあんたに会っていろいろ話す必要があるの?拉致の件だけで、証拠があるなら、あんた今頃刑務所にいるはずよ」そう言われると、洋はようやく冷静さを取り戻し、おかしいと思い始めた。「クソ!やられた!」彼はテーブルを叩きつけ、悔しさで顔を歪ませた。大企業の社長として、知能も策略も優れた洋はただ動揺しすぎて、未央の罠にかかってしまったのだ。冷静になった洋は落ち着いて口を開いた。「つまり、白鳥未央も資料の在り処を知らないって?」「当り前よ」絵里香は白目をむき、呆れたように言った。ほっとした洋はようやく口調を穏やかにした。「じゃ、これからどうすればいいんだ?」資料がまだ見つからず、あれが消される前は、心の中の不安が消えないのだ。絵里香は少し考えてから、彼に注意した。「とりあえず、暫く下手な行動をしないでね。まず白鳥を観察しておきましょう。私はあの方の意見を伺ってくるわ」洋は頷き、また少し注意を言ってから電話を切った。一方。未央と博人はすでに白鳥家に戻った。カフェでの出来事はまだ知らないが、少しほっとしていた。「博人」未央が突然呼びかけた。「どうしたの?未央」博人はニコニコ笑いながら近づき、彼女の頬にキスをした。
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第253話

未央が部屋に戻って間もなく、電話が鳴り出した。「白鳥さん、休暇は終わりましたか」彼女はびっくりし、確認すると、電話をかけて来たのは看護師の石田だった。「どうしたの?病院で何かあった?」そう言った未央は少し後ろめたい気持ちになった。そもそも数日のつもりで虹陽に戻ったのに、気付けばこんなに長く滞在していたのだ。それに、自分が全く管理せず、病院を助手の看護師に任せきって、危うく病院を経営していることを忘れるところだった。石田の声は少し疲れているようだ。「実家でちょっとトラブルがあって帰らなければならないんです。数日休みを頂きたいのですが」未央は目を見開き、すぐに答えた。「もちろんいいわ。暫らくの間、本当にありがとう。来月の給料は倍にしますね」これを聞いた石田は声に少し活気が戻り、へへへと笑った。「ありがとうございます、白鳥先生」しかし、すぐに彼女は躊躇いながら尋ねた。「でも、病院はどうしましょう?」常勤の医者はいるが、管理できる人があまりいないのだ。未央は少し考えてから答えた。「大丈夫よ。安心して実家に帰って。私明日、立花に戻るから」こちらの用事もほぼ片付いた。博人が記憶を取り戻すまで、あの資料は見つからないだろう。家を探し回っても出てこなかったのだから、洋たちに見つかるはずもない。石田はまた少し彼女とお喋りしてから、ようやく安心して電話を切った。暫くして。ドアをノックする音がした。「コンコンコン!」ドアを開けると、理玖がドアの前に立っていて、じっと彼女を見つめていた。「ママ、おもちゃ買ってきてくれるって言ったよね?」未央は気まずくなり、すぐに携帯を取り出し、通販サイトを開いた。「ごめんね、理玖。急いで帰ってきたから忘れてしまったの。好きなものを選んでいいよ」理玖も本気で聞いたわけじゃなく、ただそう聞いたたけだった。「ママ、もうすぐ冬休みが終わるよ。お友達に会いたいな、いつ帰るの?」未央は彼の頭を撫でた。ちょうど彼女も立花に戻る予定だから、落ち着いて言った。「明日の朝帰るよ。荷物を片付けておいて。手伝いが必要なの?」「大丈夫!僕はもう大人になったから」理玖は嬉しそうに胸を叩き、大人びた様子で部屋を飛び出していった。すると。今度は博人が入っ
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第254話

博人は満足そうに目を閉じ、これまでにない真面目な口調で言った。「未央。どこに行くのも君の自由なんだ。ただ俺と理玖を忘れないで、一緒に連れて行ってくれ。君のいるところが俺たちの帰る場所なんだ」低くて優しい男性の声が耳に染み込んできた。未央は体がピクッとし、鼓動が一瞬止まったようだった。「うん、分かったよ」暫くして。彼女はようやく口を開いてそう言った。夜の帳が下りてきて、夜空にかかった月は冷たい光をカーテンの隙間から部屋に差し込ませてきた。未央は荷造りをしていた。大したものではない、ほぼ博人の服だった。立花の自宅には彼女のものしかなく、嘘がバレないようにするためだ。気付かないうちに、博人が真実を知ったら傷つくんじゃないかと心配し始めた。ただ、彼女自身はそのことに気付いていなかった。ちょうどその時。背後から博人の不満そうな声が聞こえてきた。「未央、もう遅いぞ。早く寝よう」未央は頷き、明かりを消すと素早く布団に入った。すると、博人がすぐに絡みついてきた。「未央、約束まだ覚えてる?」突然彼に聞かれて、きょとんとした未央は尋ねた。「何の約束?」博人は意味深な眼差しで自分の唇を指しながら言った。「ご褒美」未央はようやく思い出した。カフェで博人が何も言わず黙っていたら、ご褒美をあげるという約束を。暗闇の中に、突然甘い空気が広がっていった。未央は少し緊張しながら、そっとその薄くて柔らかい唇にキスをした。唇が微かに触れるだけのキスだった。しかし、博人はそれを許さなかった。「んっ」未央はサッと目を見開いた。激しいキスの雨が彼女に襲いかかってきたのだ。博人は逃げられないように彼女の後頭部を押さえ、さらにキスを深くした。優しいキスは次第に激しくなっていった。未央は抵抗しようとしたが、男の力に全く敵わなかった。すぐに、その甘いディープキスに呑み込まれてしまった。どれくらい経っただろう。顔が真っ赤になった未央は力なく博人の胸にぐったりとして、息を切らしていた。一方。博人は獲物を手に入れた捕食者のように、満足気に口元に笑みを浮かべた。「これこそキスって言うんだよ」未央は眉をひそめた、彼の得意げな様子を見て、初めて彼が本当に記憶喪失になったのかと疑っ
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第255話

理玖はまだ寝ているところを、無理やりに起こされて、寝ぼけた様子で目をこすった。「ママ?」未央は服を着せながら小声で言った。「パパ最近病気になったの。いろいろ忘れちゃった。以前のことはあまり話さないでね、いい?」理玖は分かったような分からないような顔で頷いた。「分かった。パパって病気になったの?じゃあ、僕、優しいから許してあげる」未央はほっとし、手落ちがないのを確認すると、理玖の手を取り、外へ出た。博人はすでに荷物を持って、入り口で待っていた。何も言わない彼はいつも厳しい表情で冷たいオーラを放ち、以前の高圧的な西嶋社長のようだった。しかし、次の瞬間。「未央、遅いよ!」博人は不満そうに、そう言った。理玖が小さい頃でもこんなに甘えん坊じゃなかった。未央は呆れたように額に手を当てながら、近づいた。「出発しましょう」三人はビジネスクラスなので、VIP通路から飛行機に乗った。数時間があっという間に過ぎた。三人はようやく立花市に到着した。未央は見慣れたはずだが、どこか違ったように見える空港を見て、何だか複雑な感情が込み上げてきた。離れてたった二ヶ月なのに、とても長い時間が経ったように感じた。以前、彼女はずっと悠奈の家に居候していた。しかし今は。隣の二人を見て、これ以上藤崎家に住んではいけないような気がした。彼女は事前に病院のスタッフに近くの部屋を探してもらい、博人と理玖を連れて、新居へ向かった。しかし。「未央さん?」背後から聞き慣れた低くて優しい声がした。振り返ると、悠生が驚いたようにそこに立ち、彼らを見つめていた。一瞬、空気が凍り付いたようだった。悠生は最初に我に返り、微笑みながら尋ねた。「いつ帰ってきたの?」未央もすぐに落ち着きを取り戻し、心の中に渦巻いた気まずさを無理やり無視して口を開いた。「今朝の飛行機ですよ。京香さんの体調はどうですか」「ますます元気になったんだよ。よく君のことを話してるんだ」悠生は何かを思い出したように、微笑んだ。未央はますます気まずくなり、申し訳なさそうに言った。「最近本当に忙しくて、すみません、お見舞いに行けず」悠生は首を振り、いい知らせを伝えた。「すっかり良くなったから、医者から許可はもう出たよ。数日
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第256話

悠生は眉をひそめ、言おうとした言葉を無理やり飲み込んだ。患者さんのご家族?博人はそれを聞いて、少し警戒心を解いたが、それでも相変わらず不満そうに言った。「未央、これから何か問題があったら、俺に行ってくれ、いいか?」「分かった分かった、次はそうするよ」未央は慌てて頷いた。悠生は二人のやりとりを見て、瞳に暗い影を落とし、我慢できずまた口を開いた。「未央さん、ここに来たのは……」「あ、私たちこの前に住んでいます」未央はそう言いながらポケットの中からキーケースを取り出した。そこには高見沢住宅地の家のキーカードもぶら下がっていた。ここは都心から遠くなく、交通も便利で、何より未央の病院にも近いから、通勤は以前よりずっと便利だった。すると。悠生は目に驚いた色が浮かべ、思わず言った。「未央さんもここに住んでいるのか」未央はわずかに目を見開き、尋ねた。「ということは……」悠生はポケットからほとんど同じデザインのカード―キを取り出し、低い声で言った。「母さんが実家に住んでいて飽きたから、市内で暫く過ごしたいと言ってたんだ。今日はちょうど彼女のために家を探しに来ているんだよ」京香は二か月以上入院しており、すっかり退屈していた。少々賑やかなところに行きたいと言っていたのだ。悠生がこちらの家を買った時、なぜか分からないが、おそらく未央の病院に近いという理由で即座に買うと決めた。「じゃ、私たちは今ご近所同士になったということですね」未央は目をぱちぱちさせ、不思議そうに言った。悠生は軽く顎を動かし、口元をわずかに上げて微笑んだ。「そういうことになるんだね」二人がまた話し続けようとした時、博人の嫉妬心がすでに爆発しそうで、未央の手を引いて中へ入ろうとした。「未央、早く家に帰ろう」「分かったから、そんなに急がないで」仕方なく、未央は悠生に申し訳なさそうな眼差しを向けた。家族三人はすぐに視界から消えていった。微風が吹き抜け、地面に落ちた落ち葉がさらさらと音を立てた。悠生はその場に立ち尽くし、彼らの姿が完全に見えなくなるまでずっと見届け、その瞳の奥に暗い光が閃いた。一方。リビングに入ると。未央は周りをきょろきょろと新居の中を見回した。前にビデオで見たことがあったが、実際
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第257話

未央は外に出ると、冷たい風に吹かれて、ようやく狂ったように鳴っていた心臓が落ち着いた。まったく!記憶を失った後の博人はますます自分の魅力を見せるのが上手になった。彼女はもう少しでうっかり承諾してしまうところだった。携帯の振動が彼女の思考を引き戻した。未央は深く息を吸い、頭の中のごちゃごちゃした考えを振り払って、通話ボタンを押した。「もしもし、白鳥先生ですか」「はい、そうです」未央は返事した。向こうの声が明らかに興奮した様子で、待ちきれないように話し始めた。「もう立花に戻って来られましたか」未央はおかしいと思いながら口を開いた。「戻りましたよ。すみませんが、どちら様ですか」「私は病院の医師の長谷部晴夏(はせべ はるか)ですよ。看護師の石田さんから仕事の件を依頼されたんです。いつ頃来られますか」未央は空を見上げて、すでに暗くなり始めていた空を確認し、ゆっくりと答えた。「明日の朝に病院の方へ行きます」「はい、ではまた明日」晴夏の声は相変わらずどこか興奮しているようで、そう言うとすぐ電話を切った。未央は眉をひそめた。特に気にも留めなかった。石田は仕事ができる人間だから、彼女が頼んだ長谷部晴夏という人もきっと問題ないだろう。未央は庭に少し立っていて、冷静さを取り戻したら、ようやくリビングに戻っていった。理玖は疲れていたから、すでに自分の部屋で寝ていた。博人はソファに座り、少し開いた襟元からその白い肌をのぞかせていた。膝の上に両手を置き、彼女を待っていたようだ。「未央、俺たち前からずっとここに住んでいたのか」入るとすぐに彼にそう聞かれた。バレないように、未央はすでに考えておいた言い訳を伝えた。「そうじゃないよ。でも、気分転換で違う場所に住んでみたくて、引っ越したの。駄目かな?」博人はそれを聞くと、すぐに首を振り、大人しく言った。「未央がいるところが俺の帰るところだよ。君が好きな場所ならどこでもいい」目の前の男の真剣な顔を未央は見つめていた。彼女は多くの心理学の本を読んだ。人の表情の僅かな変化を研究したこともあるのだ。目の前の人は確かに嘘をついていない。目に複雑な色を浮かべながら、未央は考えた。彼が記憶を取り戻した後も、同じように思ってくれるだろうかと。
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第258話

いつの間にか、睡魔が襲ってきた。呼吸が次第に穏やかになった未央は、深い眠りに就いた。翌朝。携帯の目覚まし時計の音が静まり返った部屋に響き渡った。未央が目を開ける時、隣にはもう誰もいなかった。隣の布団を触ってみれば、まだ少し温度が残っていた。ついさっきまでいたに違いない。未央は慌てて起き上がり、記憶を失った博人が何か危険な目に遭わないか心配になった。ドアを開け、急いで下へ駆け降りた。空気の中には美味しそうな食べ物の匂いが漂っていた。ポカンとした未央は、ようやくキッチンに立っている見慣れた後ろ姿に気付いた。博人はエプロンをつけて、袖を捲って白い手首を出していた。物音に気付いたようで、彼は口元に笑みを浮かべた。「もうすぐできるんだ。理玖を起こしておいて」未央は頷いた。暫くして、家族三人は仲良くテーブルを囲んで、並べられた美味しそうな料理を見つめた。全部未央の好物だった。「どうして覚えて……」彼女は途中で言葉を詰まらせ、何かを思い出したようだった。博人は当たり前のように言った。「未央の好物は全部覚えてるよ」未央は小さく「そう」と返し、黙って食べ始めた。朝食後。未央は病院に行く準備をした。長い間行っていなかったので、今の状況が気にかかっていた。その時博人は突然口を開いた。「未央、俺も一緒に行っていい?絶対邪魔しないから」未央が返事する前に、理玖も口を挟んだ。「僕も僕も!僕も行きたい!ママ安心して、僕がちゃんとパパが邪魔しないよう見張っておくから」未央「……」諦めた色が目に浮かび、未央は二人の期待に満ちた視線を見て、仕方なくため息をついた。「いいよ」暫くして。三人は一緒に病院の前に到着した。未央はドアを開けて中に入った。病院の人々は彼女を見て、一瞬ポカンとして、すぐに嬉しそうな表情を浮かべた。「院長!帰ってきましたね!」「白鳥先生?家の用事は済んだんですか」「よかったです。先生が戻れば、向こうもあんなに威張れないはずです」……病院は一気に賑やかになった。未央は懐かしい顔を見て、微笑みながら頷いた。「ただいま、皆さんも大変だったでしょう、お疲れ様です」すると。黒縁眼鏡をかけた若い女性が前に出てきて、頬を赤らめながら興奮しすぎて
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第259話

晴夏は胸を激しく上下させながら、深く息を吸って冷静さを取り戻そうとした。「白鳥先生、全ては向こうの新しく開いたクリニックの仕業ですよ!そっちは私たちの診察がいつも間違っているというデマを流した上に、価格をわざと高くして患者を騙そうとしたって」ここで、彼女は一旦間を取り、声のトーンが低くなった。「うちの多くの患者が騙され、新しい患者も来なくなってしまい、病院の経営が悪化してしまったんです。今では一日に数人しか患者がいませんよ」オフィスの空気が重くなった。未央は話を聞きながら、顔色が徐々に暗くなった。彼女が帰ってきた時、他のスタッフが浮かない顔をしていた理由がようやく分かった。未央は頷き、落ち着いて言った。「分かりました。この件は私に任せて、皆さん心配せず、自分の仕事に集中してくださいと伝えてください」しかし、晴夏はすぐに部屋を離れず、じっとその場に立っていた。未央は不思議そうに尋ねた。「まだ他に何かありますか」少し葛藤してから、晴夏は躊躇いながらも、憧れに満ちた表情を見せた。彼女は未央の二学年下の後輩で、京州大学に入った時から未央の優秀さを耳にしていた。たった大学時代の短い時間で三本の核心論文を発表し、数多くの研究実験をやっていた女性だということを。残念なことに、未央は結婚後仕事を辞めてしまった。まさか一緒に働ける日が来るとは。「白鳥先輩。私がまだ大学にいた時、春日部教授は授業が終わるたびに先輩を褒めていました。私の卒業論文にも先輩の文献を引用していたんですよ」晴夏は目を輝かせていた。未央のことを非常に憧れていたようだ。未央は少し驚き、口元を緩ませた。「ありがとうございます。でもそれはもう過去の話ですよ。あなたも努力すればきっとできますよ」憧れの人から直接励まされ、晴夏はやる気が一気に湧いてきて、力強く頷いた。「バタン」オフィスのドアが閉められると、再び静かになった。未央はデスクに向かい、パソコンをつけ、向こうのクリニックについて調べ始めた。画面にすぐに多くの情報が表示され、ある目を引く広告が彼女に眉をひそめさせた。「エデンカウンセリングクリニック、診察の予約たったの200円、あなたの心をサポートします。人数限定あり、早めに予約しましょう!」200円?未央はおかしそうに目を
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第260話

未央は慌てて手を振り、何とか落ち着きを取り戻してから、ゆっくりと答えた。「大丈夫よ。ただ、喉がちょっと痒くて、焦りすぎたからかも」しかし、声が震えていたから、緊張と動揺がはっきりと見える。博人は心配そうにまだ未央の背中に手を当てたまま、優しくさすりながらじっと彼女を見つめた。「本当に大丈夫か?お茶を入れようか?ちょっと飲んでみて」彼の視線に照れ臭くなり、すこし顔を背けて熱い視線を避け、「本当に大丈夫よ、もうよくなったわ」と小さい声で答えた。そう言いながら、彼女は画面を指した。「このクリニックの診療代を見て、おかしいと思わない?」未央は確かに病気を診るのが得意だが、ビジネスに関する知識には興味がなかった。ちょうど博人はその分野の専門家だった。西嶋グループのような大きな会社もきちんと経営し、部下たちをしっかり統率していたのだ。エデンカウンセリングのような小さな組織など。彼にとってはむしろ簡単すぎると言えるだろう。博人は彼女が指したところを見て、考えてから口を開いた。「普通じゃないことには、必ず怪しい点がある。価格がこんなに低いということは、サービスやスタッフの素養で手を抜いている可能性が高い」ビジネス競争において、低価格で客を引き寄せ、品質を下げて利益を出す方法は別に珍しくない。未央は眉をひそめ、その顔に怒りの色を浮かべながら、冷たい声で言った。「人の命に関わることなのに、手を抜くって?」しかし、これはあくまでも二人の憶測に過ぎない。現時点では結論が出ていないのだ。一方、その時。エデンカウンセリングのオフィスにて。高村剛(たかむら つよし)は快適な椅子に座り、足をデスクの上に乗せていた。彼は透明なガラス窓を通して、たくさんの患者がそこに待っているのを見て、得意げに笑った。向こうの小さな病院に、何ができるというのだ?今の時代は、ネットで数多くのいいコメントがあるのを見たら、患者は自然とこっちに寄ってくるのだ。そう考えながら、剛は突然振り返り、隣にいた秘書に指示を出した。「もっと向こうへの不評コメントを増やせ。あいつらを徹底的に潰してやる!」秘書は慌てて頷き、媚びた笑みを浮かべた。その時、これまで黙っていた営業部の林(はやし)が心配そうに口を開いた。「高村社長、こんなこと
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