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今さら私を愛しているなんてもう遅い のすべてのチャプター: チャプター 221 - チャプター 230

240 チャプター

第221話

ある壮大で立派な建物の前に、様々な高級車がずらりと止まっていた。その時、一台の黒いマイバッハがゆっくりと近づいて止まった。博人はドアを開け先に降りると、後部座席に向かい、紳士的に手を差し伸べて未央をエスコートした。二人が並んで立つと、とてもお似合いな美男美女のカップルに見える。今度のチャリティーパーティーには多くの有名人が招待されているから、レッドカーペットの両側には記者たちが大勢いたのだ。「カシャカシャ」シャッターの音と眩しいフラッシュが絶え間なかった。博人は顔色を一つも変えず、未央の手を取り、ゆっくりとホテルに入った。西嶋グループの社長を辞任して以来、これは彼が初めて公の場に出た瞬間だった。少しも落ち込んだ様子もなく、それに不仲と噂されていた妻と共に参加している。この写真が公開されれば間違いなく大きな話題になるだろう。西嶋グループはこの頃リードする者を失い、管理職についている者たちが争い合う状態が続いていた。それで、株価は下がる一方だった。すると、博人の復帰を求める声も出て来たが、彼が戻りたいかどうかは別問題だった。パーティー会場はとても賑わっていた。ここに来たのはみんな各業界のエリートや大物たちだった。「西嶋社長、お久しぶりです」何人かが博人を見つけ、こぞって寄ってきた。なんと言っても大きな西嶋グループを仕切っていた者として、今の博人の身分に関わらず、彼に取り入っておく価値はまだあるのだ。未央は男の手を離し、笑顔で言った。「行っていいよ。私は一人でも大丈夫だから」博人は目を細め、彼女から離れたくなかった。しかし、未央の計画を考えると、彼がここにいれば洋が現れないかもしれないと分かっていた。暫く沈黙した後。博人はため息をつき、未央を見つめながら小声で注意した。「気を付けてね。遠くから見守っているから、危険を感じたらすぐに俺を呼んで」未央は思わず笑った。こんな大勢の前で何か危険だと言うのか。それでも彼女はおとなしく「分かった」と答えた。博人が去ると、彼女の周りは急に静かになった。未央は会場を見回して、洋を探して歩き回った。しかし、なかなか見つからなかった。突然、ポケットに入れた携帯が震え出した。それを取り出し画面を確認すると、覚からのメッセージだった。「どう
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第222話

その時、耳元に甲高い女の声が届いた。「白鳥未央?あんたどうしてここに?」未央がその声のほうに顔を向けると、濃いメイクをして強い香水の匂いがする女性がそこにいた。「あなたは?」未央は戸惑った様子で、目の前の人が誰なのかを思い出そうとした。「は、白鳥さんって本当にお忘れになりやすい方だね」と谷内夏央莉(たにうち かおり)は鼻で笑って冷たい声で言った。「もう忘れたの?学生時代、私たち喧嘩したこともあるでしょ?」未央は一瞬ポカンとし、ようやく彼女を思い出した。「谷内さん?変わったよね?」記憶では、夏央莉は家庭が貧乏で、いろいろ苦労してようやく京州大学に入学した。彼女はずっと結婚して玉の輿に乗ろうとしていたのだ。当時、大学で最も注目されていたのは博人だった。その時、夏央莉は博人に猛アタックしたので、未央に目をつけられたわけだ。二人は何度も喧嘩して、手を出したこともあったが、未央が博人と結婚してから、彼女に会うこともなかった。未央は上から下まで夏央莉を観察すると、彼女は整形したようで、今身に着けているものは全部ブランド品だと気付いた。どうやら、彼女は望み通りに、あの時の夢を叶えて、すでに玉の輿に乗ったようだ。すると、その嘲笑したような女の声がまた響いた。「思い出してくれたの?そう言えば、今博人さんと離婚するために騒いでいるのよね」夏央莉は嘲笑うように未央を見つめた。昔は未央に負けたが、今の未央なら彼女に敵わないはずだ。そう考えると、彼女はあごを上げ、偉そうにこう言った。「実家も倒産したんでしょ?一人で虹陽で生活するのは大変でしょう。私たち、昔の知り合いだし、もし必要だったら、お金を貸してあげても……」まだ言い終わらないうちに、夏央莉は未央のドレスに目が留まった。オークションが始まったので、周りの照明が落ちていた。ちょうどその時スポットライトの光がこちらを照らしたのだ。それで夏央莉はようやく未央が着ているドレスが海外の有名なデザイナーであるミシェル先生の作品だと気付いたのだ。これは世界中には一着しかないドレスで、ある人物のために特別にオーダーメイドされたドレスだった。夏央莉は眉をひそめ、どうしても今の未央がそのドレスを着られるのが信じられなかった。彼女はもう博人と別れたし、実家も倒
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第223話

未央は昔から大学で有名な存在だった。博人に一筋じゃなければ、きっと多くの人に追われていただろう。夏央莉にとって、ようやく未央を見下すチャンスが訪れたのだ。それを逃すはずがない。「あんたもこんな目に遭う日が来るなんてね。昔は……」しかし、彼女の話は途中で遮られてしまった。「気に入ったのか。母さんにいくつかアクサセリーを買うように言われてただろう?」突然、片手をポケットに入れた博人が近づいてきて、未央の隣に立った。夏央莉は表情を一気に変えた。博人のくっきりとした輪郭の顔が視界に飛び込んできた。記憶の中の姿よりもさらに男らしく成長して、魅力的に見えた。彼女は思わず胸が高鳴った。しかし、次の瞬間。二人が親密そうに囁き合って、全く世間で言われているような不仲など微塵も感じられなかった。夏央莉は瞼がぴくっと引き攣り、嫌な予感がした。暫くして。司会者の声が再び響いた。「五十万ドル、他にご入札するお方はいらっしゃいますか」博人は未央と話しながら、突然、さりげなく札をあげた。司会者はすぐに眩しい笑顔を見せて、口を開いた。「こちらの西嶋様、六十万ドルでございます。さらにご入札の方は?」すると、会場は水を打ったように静まり返った。先ほど夏央莉にピンクダイヤを買うと自信満々に言った大田社長も口を閉ざした。冗談を言うな。資産で西嶋家に勝てる家など、虹陽市に存在するはずがない。品物が落札されないことより、博人の不快を買うことのほうが問題なのだ。大田社長は思わず夏央莉の手を放し、そっと距離を置き、巻き込まれないように気を配った。やがてピンクダイヤが落札された。その輝くピンクダイヤは当然のように未央の手に渡った。夏央莉は顔色が険しくなった。さっきまで威勢を張っていたのに、すぐに現実に裏切られてしまう形となってしまった。そして、隣の男も険しい表情で彼女に注意した。「大人しくしろよ」夏央莉は唇を噛みしめ、その目には悔しさが浮かんだ。しかし、未央は最初から彼女など眼中になく、博人と話し続けていた。「どうしよう?洋は来ていないみたい」準備万端というのに、肝心なターゲットが現れないなんて。博人は彼女の肩を軽く叩きなぐさめた。「焦るな、まだ時間はある」未央は頷き、努力して
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第224話

「もちろん喜んで、どこでお話しましょうか」すると。二人は小さなバルコニーに立っていた。冷たい風に吹かれ、中からの賑やかな音が遠ざかっていった。夏央莉は相手が自分に気があるのかと思っていたが、その人物の開口一番は未央のことだった。「白鳥未央さんと知り合いですか」彼女の笑みが一瞬に凍り付き、手を強く握りしめ、深呼吸してから言った。「まあね」洋は目を細め、単刀直入に言った。「私は彼女が気に入りました。あなたは彼女のことが嫌いでしょう?協力してくれれば、報酬は惜しまないんです」「パーティーで何かしようという……」彼女は全部は言わなかったが、男が意味深に頷いた。夏央莉はすぐにその意図を理解し、ためらいながら唇を噛みしめた。「それは難しいかもしれません。私と白鳥未央は犬猿の仲ですし、彼女は私のことを信用していません……」洋は眉を上げ、直接一枚のカードを出して彼女の前に押しつけながら低い声で言った。「何をやってもいい、結果さえよければ認めます。こちらは頭金の二千万ですよ。結果次第で追加します」夏央莉は目がキラリと光った。暫く躊躇ったが、そのカードを受け取った。上流社会で生きていくにはお金がなくてはならないものだ。密談を終えた二人はすぐに分かれて、最初から会ったことがないふりをしていた。眉をひそめた夏央莉は策を練っていた時、ちょうど給仕の持つシャンパンを見て、あるアイデアが浮かんだ。「あのう、ご無沙汰しております」シャンパンを手にした夏央莉は博人に向かって愛想笑いを浮かべた。しかし。彼はただそっけない顔をして頷き、彼女のことを全く覚えていないようだった。夏央莉は意外ではなかったが、その瞳には影を差し込んだ。それからまた未央に向き直った。「さっきは失礼したわ。許してくれないの?」彼女のその表情はまるで自分が未央に敵わないと分かると、屈服するしかないような様子だった。未央は淡々と「ええ」と返事し、最初から相手など眼中にないようだ。その時、空気がますます重苦しくなった。夏央莉はシャンパンを未央に差し出しながら、笑顔で口を開いた。「そう言えば、久しぶりだし、一杯どう?」未央はそれを受け取らず、ただ冷たく目の前の人を見つめた。「結構よ。シャンパンは苦手なの」夏央莉が急に
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第225話

未央はトイレに入り、ティッシュでドレスの裾の汚れを綺麗に拭いた。幸い、ほんの少し酒がついただけだったので、すぐに綺麗になった。さっきは急いで来たため、二階が異常に静かで、人がほとんどいないことに気づかなかった。トイレの臭いを消すためか、淡い芳香剤の匂いが漂っていた。未央の瞳に動揺が走った。前に薬を盛られて以来、彼女は香りに対して非常に敏感になっていた。だから、入った瞬間から、未央は自ら息を止めていた。何か嫌な予感がした。急いで身だしなみを整え、振り返ってドアを出た瞬間、誰かに止められた。「綺麗なお姉ちゃん、一杯付き合ってくれない?」話しかけてきたのは虹陽市で有名なプレイボーイの麻山大輔(あさやま だいすけ)だった。彼は成人してから女性とのスキャンダルが絶えない男だった。普段なら、西嶋社長の女にナンパする勇気などないが、今日は酔っていて頭がまともに回っていなかった。大輔は朦朧とした目でじっと未央の顔を見つめた。特にそのしなやかな体のラインを見ると、興奮を抑えきれなくなった。「一晩いくら?遠慮なく言え、金なら持ってるぞ」彼は完全に酔っていて、自分がまだチャリティーパーティーにいることをすっかり忘れてしまっていた。未央は暗い顔をして冷ややかな声で言った。「退きなさい!」「気が強いね。でもそう言う美人は好きだよ」大輔は全く気にしない顔でへらへらと笑った。引く気がないようだった。すると、その場の空気が完全に凍り付いた。未央は眉をひそめ、男を押しのけようとしたが、その動作が逆に大輔を怒らせてしまった。「この俺が目をかけてやってるんだぞ。つけあがるんじゃねえよ」大輔は暗い顔のまま、未央の手首を強く掴んだ。酔っていても、その握力は驚くほど強かった。「離しなさい!」未央は冷たく言い放ち、また何かをしようとしたとき、背後から叱る声が聞こえてきた。「何をしてる?」それは聞き慣れた声だった。振り向くと、洋が足早に近づいてくるのが見えた。彼はサッと大輔の手を叩き落とし、未央の前に立ちながら冷たい声で言った。「麻山さん、お父様にこのことを報告したらどうなるか、お分かりでしょうね?」大輔は恐れる存在などほとんどいないが、父親だけ恐れていた。その話を聞き、少しばかり酔いが醒めたようだ
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第226話

洋は一瞬呆気に取られたが、さっき彼女を助けたことが役立ったと思い、すぐに笑顔を見せた。「ああ、着いたばかりですよ。途中で他の用事のせいで遅れてしまいました」二人は話しながら階段を降りていった。洋は人気のない場所に行きたかったが、未央はずっと警戒していて、わざと人の多いところを選んで歩いた。時間がどんどん過ぎて行った。洋はチャンスがないと悟り、適当な口実を作って帰ろうとした。しかし、未央は彼を引き止め、無理に話題を見つけて彼と話し続けた。パーティーが完全に終わるまで、二人はずっとお喋りをしていた。未央はゆっくりとほっとし、心の中で時間を計算した。予定通りであれば、覚はもう家の書斎を完全に調べ尽くしたはずだ。証拠が見つかるかもしれないと思うと、未央は胸が高鳴るのを抑えられなかった。「岩崎社長、急に家の用事を思い出しましたので、先に失礼します」彼女は待ちきれない様子でそう言うと、踵を返し去って行った。その場に残された洋はどこかおかしいと感じたが、さっき未央と楽しくお喋りをしたのを思い出し、思わず口元に笑みを浮かべた。彼は欲しい女に逃げられるわけがないのだ。夜も更けて、綺麗な月が空にかかっていた。未央は会場を出ると、道端の街灯の下に立っている博人を見つけた。暗い光が彼の横顔を照らし、表情はよく見えなかった。未央が近づくと、ふと空気に漂う淡いタバコの匂いに気づいた。「タバコを吸ったの?」未央は眉をひそめた。理玖が生まれてすぐに博人はタバコをやめたのに、どうしてまた吸い始めたのか。次の瞬間。男は指先でタバコを消すと、彼女のほうへ身を傾けてた。その瞬間に色気のある男らしさが彼女を包み込んだ。「博人……」未央は顔が少し赤くなり、口を開こうとすると、その赤い唇が男に塞がれてしまった。激しいキスが襲い掛かってきた。強いタバコの匂いが鼻に突いて、未央は噎せて咳き込んで、目も少し赤くなった。男のキスは以前より乱暴で、まるで彼女を食べ尽くすように貪った。無意識に反抗しようとしたが、いくら押しても彼を押しのけることができず、結局受け入れるしかなかった。どれくらい経っただろうか。二人はようやく離れた。未央は博人の胸に伏せて、息を切らしていた。口を開くと、その声が非常にかすれ
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第227話

未央は首を横に振った。彼女はただ覚に行動開始の合図を送っただけで、そちらの状況はまだわからないのだ。もう証拠が見つかっていることを願うしかないのだ。そう思うと、未央は思わず胸が高まり、携帯を取り出し覚に電話をかけた。「プルルル」しかし、呼び出し音が長く響いたが、誰も電話に出なかった。未央は眉をひそめ、期待していた気持ちが一気に沈んでしまった。まさか何かあったのか。瞼がピクッとつり、嫌な予感がしながら、彼女は隣の博人を見た。「岩崎家に行かなきゃ」覚は彼女のために危険を冒して書斎で証拠を探しに行ったのだ。もしものことがあったら、彼女も良心が痛む。博人はすぐに頷いた。「わかった、一緒に行こう」夜の帳が降りてきて、月が空にかかっていた。二人はパーティー会場を出て、入り口の方へ向かった。そこには黒いマイバッハが止まっていた。未央は車に乗ろうとした時、突然誰かの影が目の前に現れた。「白鳥さん。すみませんでした。さっきは本当に飲み過ぎて酔ってしまっていまして、あなたが西嶋社長の奥様だと知りませんでした」聞き覚えのある声がした。未央は俯き、大輔が彼女の前に土下座したのに気づいた。片方の頬が赤く腫れあがり、誰かにひどく殴られたようだ。彼は涙と鼻水を垂らしながら苦しげに叫んだ。「どうか大目に見てください。本当に申し訳ありませんでした」未央が一階を離れてから、博人はずっと彼女の動きを見ていたのだ。だから、洋の計画は最初から失敗が決まっていたのだ。麻山大輔については……博人は瞳に暗い影を差した。ついさっき、彼は大輔の父親に連絡を取ったから、今は懲らしめられただろう。未央はポカンとし、少し困惑した。ついさっきまで威張っていた大輔が、どうして突然彼女に土下座したのだろう?「構わなくていい」博人は冷たくそう言いながら、未央を車に乗せ、ドアを閉めてその場を離れた。途中。未央はずっと心配そうな顔をして、覚の安否を気にしていた。博人はまた少しヤキモチを焼いていたが、思わず慰めた。「心配するな。その覚というやつは岩崎洋の実の息子なんだ。何をしようが命の危険はないだろう」それを聞いた未央は頷き、張り詰めた神経が少し緩んだ。彼女は洋より少しだけ遅れて屋敷の前に到着した。そよ風が吹い
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第228話

その声は少し疲れたようだった。「今どこにいる?渡したいものがあるんだ」未央は目がキラキラと輝き、急いで答えた。「お宅の前ですよ。出てくれば会えるんです」電話の向こうは数秒沈黙した後、すぐに承諾した。「わかった。じゃ例の場所で会おう」電話を切った未央は少し考えてから、ようやく彼が言った例の場所がどこか気づいた。暫くして。三人は住宅地の近くの路地で集まった。ここは以前覚が未央を助けた場所だった。「どうでした?」未央はじっと目の前の人を見つめて、舞い上がる気持ちが抑えられなかった。覚は軽く頷くと、分厚いファイルを彼女に渡した。「あいつの書斎で見つけたものだ。役に立つはずだ」未央はそのファイルを受け取ると、両手が僅かに震えていた。長い間努力してあちこち調べてきたのは、白鳥グループの偽薬事件の真相を明らかにして、父親を助けるためだ。今、ようやく結果が出るのだ。ファイルを開くと、その偽薬の製造の詳細が詳しく書いてあった。そして一番下には岩崎洋の署名があった。やはりそうだった。真相はほぼ彼女の推測通りだった。未央は目に複雑な色が浮かび、ファイルを握る手に関節が白くなるほど力を入れた。お父さん、ついにあなたの無実が証明できる日が来た。未央は心の中でそう思って、全身が震えるほど感動していた。しかしすぐに。未央はその資料には洋の名前しかなく、雄大の名前は一切出てこないことに気づいた。あの地下室にいた謎の男の正体も不明のままだった。しかし、これで十分だ。この資料さえあれば、父親を刑務所から出せるのだ。「ありがとうございます」未央は目に感謝の色を浮かべ、目の前の覚を見つめてお礼を言った。すぐに何かを思い出したように、少し躊躇った。口を開こうとしたが、何も言えなかった。何せ、この資料を公開すれば、洋は間違いなく取り調べさせられるだろう。もしかしたら、残りの人生は刑務所で過ごすかもしれない。どうであれ、洋は覚の実の父親だ。後で彼が後悔したらどうする?未央は眉をひそめながら、どう切り出せばいいか分からなかった。しかし、覚は彼女の意思を察し、吹っ切れたような顔で笑った。「将来どうなるか分からないけど、今は親父が捕まったら、僕にとってある意味の救済なんだ」洋が罰
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第229話

未央はすでに覚悟をした。もし博人の条件が離婚しないことだとしても、彼女は頷いて承諾するつもりだった。彼は今回助けてくれただけじゃなく、最近の彼の態度にも心が揺らいでいたからだ。ただ、このことには未央本人ですらまだ気づいていなかった。一瞬、その場の空気が凍り付いたように感じた。未央は目の前の男を見つめ、緊張しながら、彼の返事を待っていた。しかし。博人はただ暗い顔をして、彼女の頭を軽く突いて言った。「俺を何だと思ってるんだ?俺は自ら君の力になろうと思っていたから、お返しなんか要らないんだよ」彼は未央に何の無理もなく、自ら彼と仲直りしてほしかった。外的な要因で仕方なく自分と一緒にいるのではないのだ。そう言い終わると、博人は資料をしまい、身を乗り出して彼女のシートベルトを締めてやった。今はすでに深夜になっていた。博人はハンドルを握り、アクセルを踏みながら低い声で尋ねた。「今日は疲れただろう?帰って早く休もう」二人はすぐに家に帰った。理玖は知恵と一緒に実家へ数日遊びに行ったから、今家には彼ら二人しかいないのだ。未央はパーティーに出席して、神経を張り詰めて覚と連絡を取り合ったから、顔に疲労の色が隠せなかった。欠伸をしながら部屋へ向かい、ドアを閉める前に博人に声をかけた。「あなたも早く休んでね」そう言い終わると「バタン」とドアを閉めた。その場に立ち尽くした博人は表情を曇らせ、少し後悔した。さっきあのように格好つけるんじゃなかった!少しは自分にもいいことを求めればよかった。彼はため息をつき、頭を振り、自分の部屋に戻った。すると、突然携帯から通知音がした。「博人、もう決めたわ」博人は画面を確認すると、雪乃からのメッセージだった。前回会ってから、すでに数日が過ぎていた。あの時、彼は雪乃に恩返しをしたら二人は全く関係のない他人同士に戻ると条件を出したのだ。もう少し引き延ばすかと思ったが、意外にも早い決断がついたようだ。博人は数秒考えて返信した。「それで?何が欲しいですか」これでいい。早くこの件を片付けて、白鳥家の問題も解決すれば、彼と未央を邪魔するものはなくなるのだ。博人は少し待っていたが、ずっとメッセージ入力中の表示が続いたまま、なかなか返信が来なかった。
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第230話

彼女が机の方へ視線を向けると、携帯の画面が光っていて「雪乃」の名前が表示されていた。一瞬にして、頭から冷たい水をかけられたような感じだった。高鳴っていた胸が一気に冷めて、失いかけた理性もだんだん冷静さを取り戻してきた。彼女はこの時ようやく思い出した。彼女と博人の間にはまだ見えない壁が残っていることを。永遠に越えられないかのようにそこに立っていた。未央は顔色が青ざめ、立ち上がって部屋を出ようとしたその時、浴室のドアが開けられた。「未央?いつ来たの?」その低くて魅力的な声が背後から響いた。相変わらず聞き心地のよい声だった。ゆっくり振り返ると、博人は上半身が裸で、水滴がくっきりとした腹筋を流れて落ちていった。簡単に人の目を引き寄せるのだ。そして、下半身はバスタオルだけが緩く巻かれていた。「あ……あなた……」顔が一気に真っ赤になった未央は慌てて視線をそらして、しどろもどろに言った。「何もないわ。部屋を間違えただけ!」彼女は自分がどうやって部屋から逃げ出したのかもう忘れていた。ただ心臓から激しい鼓動が響いていたことだけははっきり覚えていた。その慌てた後姿を見て、博人は思わず笑みを浮かべた。お互いの体なんてとっくに見尽くしたのに。恥ずかしいことはないだろう?服を着た博人は、また未央を少しからかおうと思ったが、その時電話の着信音がまた鳴った。進む足を止め、携帯を確認して、それが雪乃からだと分かると、電話に出た。「もう結論を出しました?」博人は冷たい声で尋ねた。電話の向こうの雪乃は騒がしい場所にいるようで、周りから時々乾杯する音が聞こえた。バーにいるようだ。「博人、私たち本当にそこまでしなければならないの?」彼女の甘えた声には泣き声が混じり、まだ諦めきれない様子だった。しかし。博人は全く顔色を変えず、淡々と返事した。「綿井さん、あれはもう過去の話です。俺たちはもう大人になりましたから、それぞれの人生を歩むべきです」昔は彼が馬鹿だった。雪乃のために未央を傷つけてばかりいた。だが、もう二度とそんなことはしないつもりだ。電話の向こうが長い間黙り込んだ。博人は目に苛立ちが浮かび、電話を切ろうとした。その時、ようやく雪乃の声が返ってきた。「じゃあ、明日、紫陽山(
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