普通なら、催眠術師にはそれぞれ独自のやり方と技術があり、他人に教えないものだ。しかし。未央は彼の最も優秀な教え子として、現場で直接に見て、真似して習うことが許されていた。その時、リビングは水を打ったように静まり返った。そして、緊張感がどんどん込み上げてきた。未央は息を殺し、じっと河本教授と博人を見つめ、唾を飲み込んだ。「リラックスしてください」河本教授の表情はこれまでにないほど厳しく、低い声で言った。博人は眉をひそめ、面白くないと思っていた。未央の恩師とはいえ、自分に敵意を向けてきたこのじいさんに彼は本能的に抵抗感を感じていた。その時、優しい女性の声が耳に届いた。「博人……」未央は彼を見つめた。その澄んだ瞳には切なる願いが込められていた。博人は確かに河本教授が好きではないが、未央を心から信じていたから、目を閉じ、徐々に自分をリラックスさせた。催眠は続けられた。未央は傍で静かに見守り、一瞬も目を離さなかった。細かい部分を見逃すまいと必死だった。無意識に両手をにぎりしめ、手のひらに汗が滲んできた。時間が少しずつ過ぎていった。静かなリビングには河本教授の低い催眠を誘導する声だけが響いていた。突然、未央は河本教授が眉をひそめ、険しい顔をしたのを見た。「教授、どうしましたか」焦った未央は思わず声をかけた。河本教授は一旦止まって、眼鏡を取り出し、こめかみを押さえながら、疲れた様子で言った。「彼に催眠をかけたのは相当に腕のいい催眠術師なんだ。やり方が極めて巧妙で複雑だ。通常の方法では解けなかった。まず催眠をかけた人を特定し、その弱点を突く必要があるな」彼はため息をつき、残念そうに続けて言った。「催眠に長ける専門家は多くない、世界中には十数人しかいないんだ。だが、一人ずつ試すのは時間がかかりすぎるし、彼の精神に再びダメージを与える可能性もある」その時、未央は突然口を開いた。「博人に催眠をかけた人物は誰なのか、分かっています」「誰だい?」河本教授も興味深そうに未央をじっと見つめた。未央の目はきらりと光った。学術交流会でアンドレが見せた動揺と彼女を見た時の慌てぶりを思い出した。それに、彼が絵里香と知り合いだということも怪しかった。未央は表情を引き締めて断言した。「アンドレです
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