一瞬、空気が凍りついた。博人の表情が一気に険しくなり、携帯を握る手が思わず震えた。これまでにない怒りが込み上げてきた。「理玖がどうして……」電話の内容を聞いた未央は、一気に血の気が引いた。体がぐらりと揺れ、今にも倒れそうだった。机に手をついて体を支え、爪先が白くなるほどにその手に力を入れた。彼女はふと何かを思い出したかのように運転手に電話した。「川島(かわしま)さん、今どこにいますか?理玖を迎えに行ってくれたんですよね」電話の向こうから川島の焦った声が聞こえてきた。「奥様、すみません。追突事故に巻き込まれて、今事故の処理が終わったところなんです。今急いで向かっています」それを聞いた未央の心は重く沈んでいった。川島がまだ家へ向かう途中なら、先ほどの電話から考えて、間違いなく理玖に何かあったのだ。まだあんなに幼いのに、もしものことがあったら……考えただけで、未央は目頭が熱くなり、涙が零れ落ちてきた。ただぶつぶつとその名前を呟くことしかできなかった。「理玖、私の理玖……」すると。彼女は突然顔を上げ、昨日の拓真の陰険な目つきと口にした捨て台詞を思い出し、思わず叫んだ。「あいつだわ!きっと木村拓真が理玖を攫ったのよ!」博人も眉をひそめ、すぐに拓真の仕業だと確信し、ためらわず彼に電話をかけた。電話はすぐに出た。聞こえてきたのは得意げで嘲るような声だった。「やるな、こんなに早く気付くとは思わなかったよ」「目的は何だ」博人はその瞳を暗くさせ、拳を固く握りしめて、歯を噛みしめ恨めしそうに言葉を絞り出した。「息子を助けたいか」拓真は冷笑し、わざとらしく語尾を伸ばして続けて言った。「白鳥未央と二人で港の埠頭に来い。警察に通報したら、このガキの死体でも拾うつもりでいろよ」この時、オフィスの空気は張り詰めていた。高橋は二人を見つめて、焦りながらも心配そうに口を開いた。「西嶋社長、白鳥さん、焦る気持ちは分かりますが、これは明らかに木村の奴の罠です。相手は絶対準備万端で待ち構えているはずです。もっと慎重に」彼が言い終わる前に、未央に遮られた。「罠だと分かっていても、行きます」未央は深く息を吸い、不安を押し殺しながら歯を食いしばった。「理玖はまだあんなに幼いのに、一人で今どれだけ怖い思いをしてい
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