All Chapters of 今さら私を愛しているなんてもう遅い: Chapter 291 - Chapter 300

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第291話

会議室の空気がまるで凍り付いたようで、すべての視線が博人と未央に集中していた。拓真の顔には相変わらず穏やかな笑みが浮かんでいたが、その目にはかすかな冷たさがあった。「白鳥さん、まさかここで会えるなんて思いませんでしたよ」彼はゆっくりと立ち上がり、意味ありげな口調で話しかけてきた。未央は我に返り、内心の驚きを押し殺して努力して落ち着きを取り戻そうとした。彼女はじっと拓真を見つめ、淡々とした様子で言った。「私も、あなたがこんな立場でここにいるとも思いませんでしたよ」記憶の中の先輩はいつも穏やかで親しみやすかったが、今の彼はまるで別人のようだった。あるいは、これが彼の本性なのかもしれない。拓真は少し笑い、博人に視線を向けると挑発的な口調で言った。「西嶋社長、もう辞任したのに、なぜまた戻ってこられたのですか?」博人は眉をひそめた。記憶はまだ曖昧だったが、目の前の人物が自分と未央に敵意を抱いていることは本能的に感じ取れた。「俺のことを気にかけなくても結構だ。むしろ、あなたのような外部の人間が、西嶋グループの業務に干渉する権利があると思ってるのか」博人は前に出て、未央の前に立ち、冷たく言った。一瞬笑顔が強張ったが、拓真はすぐに顔色を元通りにした。彼は両手を広げて見せ、余裕そうに口を開いた。「外部の人?本当のことを言えば、君は俺のことを兄と呼ぶべきだよ」一瞬にして、張り詰めた空気がその場を支配した。その沈黙を破るかのように、未央が軽く咳払いをしてゆっくりと口を開いた。「この話はとりあえず後回しにしましょう。高橋さん、例の資料を出してください」その言葉に従い、高橋は大量の資料を出して、テーブルに叩きつけた。他の株主たちはきょとんとしたが、質問をする前に、未央がすでに全員にその資料を配った。それにじっくり目を通すと。その資料に書かれていたのは、現社長の「罪状」だった。裏で賄賂を受け、公私混同によって人事を混乱させていた。さらには会社の財務にも直接手を出してしまっている。会議室は一瞬にして騒ぎ出した。株主たちは一番前に座っている新会長である田神栄治(たがみ えいじ)を見つめ、次第に目つきが険しくなった。「田神!あんた一体どうやって会社を経営してるんだ!」「最近の業績が悪くなって、利子
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第292話

「いいでしょう。辞任しても構いませんが、その後、誰が社長を務めるんでしょう」栄治は冷たい視線で博人を見つめ、口元に嘲りの笑みを浮かべた。「まさかあなたではあるまい、西嶋社長。世間は私たちの失態を待ち構えているんですよ」その時、突然ある声が響いた。「俺がやります!俺に任せてください!」秀信が興奮して立ち上がり、満面の笑みを浮かべていた。やった。随分待っていたが、ついに自分の番が回ってきた。騒然とした空気が一瞬凍りつき、すぐにまた議論が激しく再開した。「秀信さん、どうかお座りください。これ以上状況を混乱させないでください」「確かに西嶋社長が最適任ですが、つい最近辞任されたばかりですよ。突然また復帰するのは確かに軽率だと思われます」「木村さんが良いのではないでしょうか。田神さんに問題があっても、木村さんには関係ありませんよ」議論は激しく続いた。秀信は完全に無視され、気まずそうに立ち尽くし、顔を曇らせていた。その議論が膠着状態になり、どうしたらいいか分からない時、未央は目を輝かせて提案した。「ではこうしましょう。実力で決めるのはどうですか。一週後の株主総会で投票を行い、一番票数の多い方が次の社長となるのです」彼女の言葉に、すぐに多くの人がそれを認めた。しかし、反対する声もあった。その人は顎を上げながら不満そうに言った。「あなたは何者だ?なぜ俺たちがあなたの言うことを聞かなければならないんだ?」未央が口を開こうとした時、低くて不機嫌な声が響いた。「彼女の意思は俺の意思だ。何か問題でも?」博人は真剣な顔をし、冷たい視線を反対した人たちに向け、躊躇なく彼女をかばった。彼は全身から放たれるオーラが鋭く、その株主たちに言葉を失わせた。「い……いいえ」今回の目的はすでに達した未央は、博人の袖を引っ張り、早々にこの場を離れようとした。何せ。今の博人は正常ではないから、長くいればいるほど、ぼろが出る可能性が高くなるだろう。特に拓真たちに気付かれたら、彼にとって非常に不利に陥るのだ。博人は未央の不安を感じ取り、彼女の手を軽く叩いてから、振り向いて大股で部屋を後にした。すぐに、三人の姿は会議室から消えた。拓真は立ち尽くしたまま、口元の笑みが徐々に消え、目には暗い影が差し込んだ
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第293話

未央は首を横に振り、これから何が起こるか予想できるかのように、声のトーンを低くして言った。「戦いはこれからですよ。油断は禁物です」高橋はすぐにそのへらへらした顔をやめ、真剣な様子で頷いた。残りの仕事を思い出し、二人に告げた。「では西嶋社長、白鳥さん、私はまだ仕事があるので、これで失礼します」未央は軽く「ええ」と返事した。「バタン!」とドアが閉まる音がした瞬間、博人が近づいてきた。その雰囲気は一変した。「未央、俺の演技はどうだった?」その低く魅力的な声が耳元に届いた。未央が顔を上げると、視界に影が落ち、淡い香りが彼女を包み込んだ。博人は彼女の腰を抱き、首筋に顔を埋めて優しく擦り寄せた。まるで褒められるのを待っていた大型犬のようだった。未央は目に温かい光が浮かび、思わず博人の頭を撫でた。「ええ、よくやったわ」先ほどの一件で、博人の今の状態がはっきりするまで、栄治たちは軽率な行動ができないだろう。しかし……突然現れた拓真を思い出し、未央の瞼がピクッと攣った。ある嫌な予感が胸をよぎる。木村先輩は今回の件でどんな役割を果たしているのだろう。まさか白鳥グループが陥れられた事件にも関与していたのだろうか?未央は眉間に深いしわを寄せ。考えれば考えるほど恐ろしく感じた。刑務所の面会で父親からこれ以上調べないように注意された理由が分かった気がした。未央が考えていた時、再びその低い声が響いた。「未央、眉間にしわが寄っているぞ」博人は身をかがめ、彼女の眉間のしわを指でなぞりながらゆっくりと口を開いた。「何かあったら俺に話してくれ。俺が力になるから」未央は心臓がドクンとした。男の底知れぬ瞳を見つめ、鼓動が一瞬止まったように感じた。彼女の心が少し動揺したようだ。もし博人が記憶を取り戻した後も今のままでいられるなら、再び一緒になれないこともないかもしれない。しかしすぐに。未央は頭を左右に振り、それらの雑念を振り払った。今は目の前のことを片付けるのが一番だ。次回の株主総会まであと7日。二人はこの時間を有効に使わなければならない。そう考えながら、未央はデスクに向かい、会社の管理層の名簿を広げた。その中には議決権を持つ株主の名前も書いてあった。未央は真剣な顔でペンを握
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第294話

「秀信さん、実はこういうことなんです。うちの博人は会社を離れていた時間が長くて、業務に疎い部分があります。ですから、ぜひあなたに教えていただきたいと思いまして」もともと不機嫌そうだった秀信の表情がこの言葉に一変した。彼の目には驚きが浮かび、信じられないというように指で自分を指した。「博人が俺に会社のことを聞きに来ただと?」秀信は声のトーンを思わず上げて、その声に抑えきれない興奮が滲んできた。未央は口元を緩めた。やはり、彼女の読みは正しかった。優秀な催眠術師として、彼女が本気になれば手に負えない相手などいないのだ。「コホン、秀信さんはご都合が悪いんですか」未央ははわざとらしくその言葉を放ち、博人の手を取って立ち去ろうとした。「だめだったら結構です。他の方に当たりますから」このわざとらしい態度に、秀信はすっかり釣られてしまい、思わず叫んだ。「いや!そんなことはないんだ」あの西嶋博人だぞ!今まで西嶋家の中で最も優秀な後継者だ。小さい頃から、彼は博人のおじながらも、常に比較の対象にされてきた。だからこそ、秀信は博人に強い敵意を抱いていたのだ。しかし、この間の競争で、今や彼が最も嫌悪する相手は博人から栄治へと変わっていた。ついでに、拓真も同じく憎悪の対象になった。「博人よ、おじさんは今まで教える機会がなかったが、今回はしっかりと教えてやるぞ」秀信は満面の笑みを浮かべ、待ちきれない様子だった。博人は眉をひそめ、不満げな表情を浮かべた。そして何かを言おうとした。すると。未央が彼の手を強く握り、彼の手のひらを指で軽く突いた。子猫に少しだけ引っ掻かれたような感じだった。博人の険しかった顔が少し緩み、未央を見る目に仕方なさと愛おしさが混ざった。結局、彼は反論せず、秀信と一緒に会社を後にし、西嶋家の屋敷に行った。車から降りた未央は、見慣れた屋敷を見上げ、苦しい記憶が蘇るのを感じた。ただ……まだやることが残っているのを思い出し、深く息を吸うと、博人と共に中へ入っていった。彼女たちが入ると、さっきまでの騒がしかったリビングが急に静まり返った。知恵はソファの隅に座り、白いペルシャ猫を膝に乗らせて、撫でていた。未央を見ると彼女は目には驚きが浮かんだが、口を開くより早く、嫌味
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第295話

空気が一気に張り詰めた。知恵は表情が徐々に険しくなり、蓉子を睨みつけるように冷ややかな声で言った。「彼女は私の息子の嫁よ。『厄介者』だの何だの、私のことも蔑ろにするつもり?」蓉子は呆気にとられた。以前は知恵も一緒に未央の悪口を言い、人前で恥をかかせるのを楽しんでいたのに。どうして突然変わってしまったのか。次の瞬間。知恵の冷たい声が再びゆっくりと響いた。「謝りなさい!」「え?」蓉子は目に驚きが浮かび、悔しそうに口を開きながら反論しようとした。「知恵さん、私は……」知恵は冷たく彼女の言葉を遮った。「未央さんに謝りなさいって言ってるの」リビングは水を打ったように静まり返った。顔色が青ざめた蓉子は、未央をちらりと睨むと、慌ててリビングから出てしまった。その後ろ姿は非常に狼狽えた様子だった。他の西嶋家の者たちは顔を見合わせ、蓉子の前例があるため、これ以上口を挟む度胸がなくなった。何が起こったか理解できなくても、未央を見る目に恐れの色が含まれていた。知恵は西嶋家の女主人として、その態度には非常に大きな影響力があったのだ。未央は少し驚いた。これまで西嶋家に来るたびに嘲笑されてきたが、今回は違うようだ。ただすぐに。彼女の注意は再び秀信に向かった。笑いながら口を開いた。「秀信さん、書斎でお話ししましょう」秀信はもともと家族のいざこざに全く興味がなく、鼻を鳴らして、階段を上がっていった。未央と博人が後についていった。夜がどんどん更けてきた。書斎から出てきた時には、リビングにいた人々はすでに帰っていった。秀信は上機嫌で、手を背中に組みながら得意げな顔をしていた。それから、手を伸ばし博人の肩を叩いた。「博人よ、まだ学ぶべきことは多いな。後でゆっくり教えてやるからな」博人は唇を結んだまま何も言わなかった。未央が傍にいなければ、こんな和やかな雰囲気にはならなかっただろう。「秀信さん、来週の株主総会の投票のことですが、どうお考えになっているんですか」長い前置きの後、彼女はついに本題を切り出した。秀信は表情を少し変えて、目には暗い影が落ち、嘲笑したように言った。「我々西嶋家の問題だから、家族ならどうもめてもいいけど、他人が……関わることじゃない」その言葉に
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第296話

「え……ええ」知恵は口を開いたが、言える言葉が見つからなかった。二人の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、後悔で胸がいっぱいになった。もしあの時、未央にもう少し優しくしていたら、今ごろ違っていただろうか。深夜の冷たい風が吹いてきて、肌を刺すように冷たかった。未央は鼻をすすると、無意識に薄着の服をしめて押さえた。博人はその小さな動作に気付いた。眉をひそめながら静かにコートを脱ぎ、彼女の肩にかけた。ふわりと、彼の特有の爽やかな香りが鼻をくすぐった。淡くていい匂いだった。「ありがとう」未央が顔を上げると、博人の目に映った自分の瞳が、静かだった湖面のように波立っていた。この間ずっと一緒に生活していて、彼女の心の奥には特別な感情が芽生えてしまった。二人は肩を並べて、家に帰った。しかし、屋敷の前に来た時、見覚えのある姿が立っているのに気付いた。「博人……」雪乃の声は震えて、夜の静寂の中ではっきりと響いた。博人との再会に興奮しているのか、それとも恐怖に震えているのか、彼女は服の裾をぎゅっと握りしめていた。「博人、久しぶり、元気だった?」本当はこんなことに再び巻き込まれたくなかったが、洋に脅され、仕方なく来たのだった。しかし。博人は眉間にきつくしわを寄せ、二歩下がって距離を取ると低い声で言った。「お前なんか知らないが」雪乃の笑みが一瞬固まったが、すぐに悟った。洋の言った通りだ。博人はあの日のことを忘れてしまっているのだ。彼女の裏切りも。ほっとした雪乃の目がきらりと光り、またいろいろなことを計算し始めた。これはまたチャンスが来たということか。何せ、博人は以前彼女に好意を抱いていたのだから、またやり直せるかもしれない。ここまで思いつき、決心したように、彼女はバッグから真っ赤なルビーのネックレスを取り出した。雪乃は唇を噛み、可哀想に涙ぐんだ目で震えた声でゆっくりと口を開いた。「博人、これはあなたがくれたプレゼントよ、愛の証って……覚えていないの?」言いながら目を伏せ、涙で濡れた長いまつ毛が震え、見るからに可哀想な姿だった。一瞬、空気が凍りついた。博人の表情が暗くなり、目には慌てたような色が浮かんだ。思わず急いで未央の方へ視線を向け、説明した。「未央、俺は……」
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第297話

一方、部屋の中で。博人は焦りながら未央の手をぎゅっと握りしめた。力の限り強く握ったため、指先が白くなっていた。その目は焦りの色で満たされていた。彼は真剣な様子で口を開いた。「未央、本当にあの女なんか知らないんだ。信じてくれ。ネックレスなんて贈った覚えはない。きっと彼女が適当に言っただけだ」博人の声はわずかに震え、額に汗が浮かんでいた。未央に疑われるのが怖くてたまらない様子だ。しかし。未央はいたって冷静で、無表情のまま淡々と言った。「分かってるわ」表情は冷たく平静なように見えたが、心の中は激しく動揺していた。ここ暫らくの間、一緒に生活して、少しずつ解けかけていた心が、雪乃がネックレスを取り出した瞬間、再び凍りついたのを感じた。西嶋家の人々にいじめられ、博人に誤解された過去の光景が、脳裏に次々と浮かんできた。「いいの、説明なんていらないわ」と未央は淡々と言った。未央の声に感情の起伏がないのを聞いた博人は怖気づいた。どうしていいか分からず立ち尽くし、手を握ったり開いたりしていた。その黒い瞳には困惑と焦りが浮かんでいた。暫くしてから。彼は耐えきれなくなったように低い声で言った。「どうして少しも嫉妬しないんだ?」博人の声には怒りと悲しみが混ざっていた。嫉妬?未央はポカンとしてから、唇に冷笑を浮かべた。口を開こうとしたが、言葉が見つからなかった。結構前からこんな状況には慣れていたからなどと、言えるはずもないだろう。目を伏せ、長いまつ毛が頬に影を落として、未央は沈黙を貫いた。部屋の空気が重くなり、息を詰まらせるほどだった。博人は未央が完全に心を閉ざして、相手してくれない様子を見て、今にも彼女が消えてしまいそうな恐怖に襲われた。我慢できなくなって、手を伸ばし突然彼女を強引に抱き寄せた。そして。熱いキスの雨が降り注いだ。未央は目を見開き、手で彼の胸を押しのけようとしたが、女の力では男には敵うわけがない。博人はさらに強く彼女を抱きしめた。部屋の温度が急に上がり、甘い空気が漂い始めた。博人の熱いキスは唇から頬、首筋へと移り、呼吸もだんだん荒くて熱くなっていった。抵抗の力が次第に弱まり、目がうつろになった未央は、ぐったりと彼の腕の中に身を任せた。「未央、抱かせてくれ」
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第298話

「ごめん、俺が悪かった。衝動的になっちゃって、強引にそういうことするべきじゃなかった」博人はそっと彼女の顔を両手で包み、親指で優しく涙を拭った。目には後悔の色が満ちていて、心が痛んでいた。「泣かないでくれ。全部俺のせいだ。二度とこんなことはしないって約束する」博人が慌てて謝って、非常に後悔している様子を見て、未央はさっき心に込み上げてきた辛さと怒りが次第に消えていった。仕方ないといった様子でため息をつき、服を整えてから静かに口を開いた。「寝ましょう」「ああ、寝よう」博人は悪いことをした子供のように声を小さくし、未央をきつく抱きしめた。二人は抱き合ったまま、深い眠りについた。翌朝、日差しがカーテンの隙間から部屋に差し込んだ。未央と博人はほぼ同時に目を覚まし、簡単に身支度を済ませると、会社へと引き続き他の株主たちの説得に行った。秀信の支持を得られれば、予定通り来週の株主総会で勝利できるはずだ。時間があっという間に過ぎた。そして、ついに株主総会の当日を迎えた。未央は少し緊張していた。深く息を吸い、両手を無意識に握りしめていた。「大丈夫、俺がいる」低くて魅力的な声が耳元に届いた。未央は博人を見つめ、力強く頷くと、また深呼吸してから彼の後ろについて会議室に入った。長いテーブルの両側には既にみんなが着席しており、空気はピリピリとしていた。拓真はすでに中で待ち構えており、未央と博人が入ってくるのを見ると、自信満々に笑みを浮かべていた。「お二人さんはもう準備万端ですか?」未央は思わず目を細め、嫌な予感が頭をよぎった。まさか何か予想外のことがあったのか?秀信の席を見ると、まだ空いたままで、彼女の心はどんどん沈んでいった。その時、博人がそっと彼女の手を握り、温かな手のひらで彼女の小さな手を包み込むと、低い声で言った。「始めよう」株主総会の最初のコーナーは、双方が会社への貢献と自分の能力を述べるものだった。未央は博人のスピーチ能力を全く心配しておらず、ステージで自信たっぷりにペラペラと話す彼を見て、大学時代のあの自信満々な青年がまた見えたようだった。会場の多くの株主が軽く頷き、認めたような表情を浮かべた。しかし、拓真の実力も軽く見ることができないものだった。彼はもともと一大
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第299話

株主総会はまだ続いていた。第三回投票がもうすぐ始まるところ、拓真はすでに勝利を確信したような表情を浮かべていた。未央は深く息を吸い、高橋にこっそり目配せをした。彼はすぐに未央の意思を受け取り、こっそりと会議室を抜け出した。すると。進行役が票数を発表すると、拓真が明らかに優勢だった。彼は顎を上げ、博人に向ける視線には隠せない優越感が見えていた。「博人君、これから西嶋グループを俺に任せるといい」博人は表情を一つも変えず、彼の挑発を聞き流しているようだった。時間が経つにつれ、拓真の顔に浮かんだ笑みはますます深くなっていった。勝利はもはやもう確定で、最終結果を待つだけだった。すぐに、進行役の声が再び会議室に響いた。「では、西嶋グループの新たな社長になるのは……」「ちょっと待ってください」その時、未央が突然口を挟んで、彼の言葉を遮った。拓真は目を細め、浮かんだ笑みが少し強張り、低い声で言った。「白鳥さん、結果はもう出たんだから変えられない。現実を受け入れることを学んだほうがいいよ」長年かけて計画して、この日を待ちわびていたのだ。しかし。未央はただ冷たい表情で彼を見据え、はっきりとこういった。「現実を受け入れるべきなのはあなたのほうですよ」ちょうどその時、会議室のドアが開けられた。額が汗でびっしょりになった高橋が書類の束を抱えて走り込んできた。「西嶋社長、白鳥さん、任された任務ちゃんと完成しましたよ」「お疲れ様です」未央は急いで彼の持っている書類を受け取り、出席者に配りながらゆっくりと言った。「皆さん、まず木村拓真という人の正体をよく確認してから、彼に投票するかどうか決めてください」拓真が西嶋家の隠し子だと知ってから、未央は不審に思い、高橋に調査をさせていた。するとまさか偶然にも多くの秘密を発見したのだ。一瞬にして、会場の空気が凍りついた。拓真の瞼がピクッと痙攣し、その書類をじっと見ながらすごく嫌な予感が心を襲っていた。ある人の怪訝な声がその短い静寂を破った。「なんと!彼はヘルシー製薬を強引に自分の会社に吸収したのか?」「無理やりに買収、株価操作、裏で資金に小細工をかける。こんな手段を使うなんて卑劣すぎるだろう!」「商売で優位に立つため、ライバル企業の薬品審査に細
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第300話

今や彼は完全に偽善者の仮面を捨て、表情に残忍さと凶暴さをむき出した。「警察に通報して俺を逮捕するつもりか?」未央は顔を上げた。その冷たい目は嫌悪と決意に満ちていて、ゆっくりと口を開いた。「自業自得よ」張り詰めた空気が会場を包んだ。目に殺意が閃いた拓真は脅しの言葉を吐き出した。「よく考えろよ、後悔するかもしれないぞ?」その時、博人がさっと前に出て、二人の間に割って入った。「木村、恨むなら、俺を恨んでいい。彼女には手を出すな」「はいはいはい、実に仲のいい夫婦だね」拓真は顔が青ざめ、額に青い血管を浮かべながら怒り狂ったように「後悔させてやる」と捨て台詞を吐いた。彼が去ると、会場の空気が一気に和らいだ。会議室には喜ぶ者もいれば悔しがる者もいた。株主たちは博人へ向け、取り入るような笑みを浮かべた。「西嶋社長、お帰りなさい」「やはり西嶋グループをより良く率いてくれるのは西嶋社長しかいませんよ」媚び諂う声があちこちから飛んできた。かつて博人を裏切ったあの株主たちは後悔して、俯いて穴があったら入りたくらいの様子だった。博人は彼らを完全に無視し、手を振りながら冷たく言い放った。「もういい、会議は終わりだ」彼が今すぐ仕返ししてくる意思がないと悟ると、少しほっとし、目には感謝の色が滲んできた。いつの間にか。夜の帳が下り、月が夜空にかかっていた。博人と未央は既に自宅に戻っていたが、いつもと違って、二人の周りの雰囲気は非常に静かだった。「どうした?」博人が黙り込んだ未央を見て心配そうに尋ねた。未央は眉をひそめ、拓真が離れた時、その険しい顔と、彼の言った言葉が頭から離れず、漠然とした不安が込み上げてきた。しかしすぐに。彼女は我に返り、首を振った。「何でもない。考えすぎかも」博人が西嶋グループの社長に復帰したのを祝うため、未央は今夜特別にご馳走を用意した。「やった!全部僕の好きな料理だ!」理玖は目を輝かせ、わいわいとはしゃぎながら、テーブルにつき、ハムスターのように頬を膨らせて食事に夢中になっていた。未央は口元を緩め、優しく彼を見て口を開いた。「ゆっくり食べなさい」突然何か思いついたかのように、理玖は箸を止めて身を前へ乗り出し、期待に満ちた声で言った。「ママ、明日おばあ
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