All Chapters of 今さら私を愛しているなんてもう遅い: Chapter 381 - Chapter 390

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第381話

理玖が報告書をしまうと、間もなくトイレのドアが開いた。未央は青白い顔をしていたが、吐いた後はだいぶ楽になったようで、壁に手をつきながらゆっくりと座り込んだ。「ママ、大丈夫?」息子の心配そうな声に、彼女の目には温かな光が浮かび、その小さな頭をそっと撫でた。「もう大丈夫よ、早く寝なさい」理玖はおとなしく頷き、彼女に問題がないことを確認してから振り返って部屋を出た。出て行く前にドアを閉めることも忘れなかった。未央は彼の気遣いのある小さな行動に、胸が感動でいっぱいになった。何かを思いつくと、彼女は俯いてお腹を撫で、眉間に優しさと慈愛を浮かべた。たとえ父親のケアがなくても、彼女の子供はきっと世界で一番幸せな宝物になるだろう。夜が更けた。未央はベッドに横たわった瞬間、疲労感がすぐに押し寄せてきて、深い眠りに落ちた。翌朝、空がようやく白み始めた頃。理玖は目を覚ますと、少しも眠気がなく、むしろ興奮してそわそわした様子だった。今日することを考えると、彼は母親を起こさず、自分で身支度して服をきちんと着替えた。まだ幼いが、成長は早かった。高級なブルー色のスーツを着た彼のその整った顔立ちには、誰が見ても好意を抱かずにはいられない。理玖は目をくるっと動かし、昨夜の報告書を手に握りしめ、ぴょんぴょんステップしながら下へ向かった。運転手の川島が入口で待っており、彼を見て驚きの色を浮かべた。「理玖坊ちゃん?今日はどうしてこんなに早いのですか?」「とっても大事な用事があってパパに会いに行くの。パパが市中心医院にいるって高橋さんから聞いたから、直接そこに行けばいいんだよ」 川島は頷いた。昨夜、未央からすでに聞いていたので、車のドアを開けてやった。「承知いたしました。坊ちゃんどうぞお乗りください。お送り致します」その頃。もう一方の、ある病室では。雪乃はまだ点滴を受けていて、昨夜の出来事で驚いたため、博人の服を握りしめて放さなかった。「うう……、博人、ごめんなさい、私ってすごく迷惑かけてるよね?でも本当に怖くて……」彼女は目を赤くし、涙が目の中で揺れていたが、頑強に唇を噛んで涙が零れ落ちるのをこらえた。他の男なら、おそらく思わず抱きしめて慰めていただろう。しかし。博人はまるで見ていないかのよ
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第382話

「博人、私たち……」言葉がまだ終わらないうちに、小さな影が先に視界に入った。「雪乃さん、パパは?」理玖が小さな頭をドアの隙間から覗かせ、目をキョロキョロさせながら病室の中を見回した。雪乃の笑顔が明らかに一瞬固まり、すぐに我に返った。この前の誤解以来、彼女と理玖の関係は明らかに距離を置いたものになっていた。このせいで、博人が最近自分に冷たくなったのだろうか。彼女は目を伏せ、熱心に小さな男の子の手を握りながら、優しそうに言った。「パパは用事で出かけてるよ。理玖君はわざわざ私に会いに来てくれたの?」子供はあまり恨みを覚えないものだ。話せばすぐに仲直りできる。雪乃の期待の眼差しを向けられ、理玖は少し躊躇してから頷き、またすぐに首を横に振った。雪乃はさらに尋ねた。「じゃあ、理玖君は何をしに来たの?この前A国に行った時、あなたが一番好きなバダムロボットを見つけて、わざわざ理玖君のために持って帰ってきたんだよ」「本当?」それを聞くと理玖は目を輝かせ、目尻を下げて嬉しそうに言った。「雪乃さん、大好き!」それを見て、雪乃は口元を上げた。子供は本当に買収しやすいものだ。「じゃあ、パパを探しに来て何の用だったの?早く教えて」瞼がピクピクと痙攣し、これを聞くことが自分にとって非常に重要だと直感がそう告げていた。しばらく躊躇してから。理玖はポケットから一枚の報告書を取り出し、彼女の耳元に近づいて、ソワソワしながら囁いた。「雪乃さん、ママが妊娠したんだ!僕もうすぐ兄弟ができるんだよ!」彼はそれほど深く考えておらず、事を胸に秘めておくこともできず、ただこの良い知らせをすぐに身近な人と分かち合いたかったのだ。例えば、自分がすぐに自分がお兄ちゃんになるとみんなに伝えたいと思っていた。理玖はキラキラした目で、興奮した気持ちに浸っており、雪乃の青ざめてしまった顔色には全く気づいていなかった。彼女は突然、未央が前に一度検査を受けたこと、そしてその時の時間は正しく改ざんされていなかったことを思い出した。その瞬間、背中の服が冷や汗でびっしょりになった。無意識に手に力を込め、すぐに耳元で小さな男の子の痛そうに叫ぶ声が聞こえた。「雪乃さん、痛いよ」「ご……、ごめんね」雪乃ははっと我に返り、理玖をじっと見
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第383話

子供はこんな場面にあまり遭遇しないものだ。理玖は明らかに驚いて、目が一瞬で赤くなり、言葉につまりながら言った。「僕……僕はやってないよ」彼は無意識に雪乃に助けを求める視線を向け、相手が自分をかばってくれることを期待した。しかし。雪乃は彼を一瞥もせず、涙ぐんだ目をドアの前に立った男に向け、辛そうに口を開いた。「理玖君とは関係ないわ。私が不注意で転んじゃったの。どうか彼を責めないで」この言葉は、まるで火に油を注ぐように事態を悪化させた。博人は眉を深くひそめ、同意できないという表情で言った。「かばうことはない。過ちを犯したら謝るべきものだ」今日、傷ついたのが雪乃ではなく他の誰かであっても、彼は厳しく対処しただろう。一瞬にして、その場は緊張した。「僕は押してないって言ったでしょ!」理玖は怒り出してそう言い残した。その頑固な性格は両親似なのだ。くるりと背を向けて走り去った。あっという間に姿が見えなくなった。雪乃は目を細め、手に握った報告書に力を込めた。ぼろぼろで文字がすでに見えず、復元するのも困難な状態だった。ソワソワしていた心はようやく落ち着いたが、理玖のことを考えるとまた頭が痛み始めた。彼と仲直りするつもりだったのに、今回の衝突で、親しくなるのが難しくなるだろう。雪乃は息をつき、心配そうな様子で声を小さくして言った。「博人、理玖君を少しなだめないの?彼はまだ子供だし、ただ驚いただけかもしれないから」「まだ子供?」博人は冷ややかに笑った。「俺が彼ぐらいの年には、とっくに生死の境を何度もくぐり抜けていたんだ」彼から見れば、理玖は周りに甘やかされすぎて、善悪の判断がつかなくなっているのだ。このままでは西嶋グループの後継者になれないだろう?博人は表情を曇らせ、雪乃が密かにやったことに全く気づかなかった。正しい日付の記された報告書はゴミ箱に捨てられてしまった。あと一歩のところで、彼は真実を見逃したのだ。一方。未央は病院で起きたことをまだ知らない。知っていたら、自ら雪乃に感謝しに行くかもしれない。彼女が苦労して長い間隠してきたことを、理玖の手によって危うく暴露されるところだったのだ。「うわああ、ママ、僕パパと絶交する」幼い声が耳に届いた。未央が彼に視線を落とすと、理玖が
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第384話

さっき理玖が話していたことを思い出し、未央は眉をひそめ、携帯を取り出して晴夏に電話をかけた。「白鳥さん、どうかしました?」「今日用事があるから、遅れてまた病院に行くね」そう言い終わると電話を切り、自分の車を運転して中心病院へ向かった。しばらくすると。病室から低いすすり泣く声が聞こえてきた。未央は廊下に立ち、ドアをノックしようと手を上げたが、目の前のドアはただ閉まっていて鍵がかかっていないことに気づいた。「博人、ありがとう。あなたがいなかったら、私はどうすればいいか分からなかったわ……」甘ったるい声が耳元に届いた。彼女の目に見えたのは、女が男の胸に寄りかかっているシーンで、その目には親しさと甘えが詰まっている。空気は少し甘たっるい感じだった。未央は目に暗い影を落とし、そのままドアを押し開けて中に入った。大きな音に二人とも驚いて振り向いた。博人が振り返り、その見慣れた顔を見ると、目がぱっと明るくなった。「未央?どうして来たんだ?」彼は立ち上がって歩み寄り、顔色の暗くなった雪乃を置き去りにした。未央は無表情で、冷たく言った。「用事があって来ただけ」それから。彼女は雪乃の前まで近づき、手を挙げて「パシッ」と一発ビンタをお見舞いした。その瞬間、病室が静まり返った。雪乃は目を見開き、信じられないという様子で彼女を見つめ、頬がひりひりと痛んだ。「この一発はただの教訓よ。これから私に何かしたいなら、好きにすればいい。でも子供に対して悪知恵を働かせないでよね」以前、未央は常に不満にたえていた。誰もが彼女は穏やかな人間だと思っていたのだ。だが、どんなに性格が穏やかでも限界はある。子供になにかあると彼女の逆鱗に触れてしまうのだ。未央は冷たい目で彼女を警告した。雪乃は思わず震え上がったが、すぐに我に返った。彼女は頬を手で押さえ、涙がぽろぽろと零れ落ち、悔しそうに向かい側を見た。「博人、私は何もしてないよ。白鳥さんがきっと誤解したの」雪乃はそう口にしたが、心の中では得意げだった。好きにやればいい。こう理不尽にやればやるほど、あなたの夫はますます私を気にかけるようになるのだと。数え切れない経験がそれを証明してきた。予想通り、博人は眉をひそめ、顔色を暗くして低い声で言った。「未
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第385話

この前のあの拉致事故以来、未央は国外の友人に頼んで、特注のキッズスマートウォッチを買ってもらっていた。子供が危険に遭遇し、心拍数が急上昇すると、自動的に警報モードが作動し、同時にカメラが起動して周囲の状況を記録する仕組みが仕込まれていた。彼女は理玖が再び誘拐されることを心配していて用意したものだが、まさか今こんな形で役立つとは思わなかった。「その目で見た?」未央は嘲笑するように笑うと、スマートウォッチの録画機能を起動した。すぐにさっき録画された動画が映し出された。画面には、会話が聞こえないものの、雪乃と理玖が何かを奪い合っている様子が映っていた。背の届かない理玖は、焦って何度も跳んでいた。しかし、彼が全く触れてもいないのに、雪乃は何かに驚いたように突然前に倒れ込み、サイドテーブルの瓶や缶を倒してしまった。それから、博人が入って目にした光景そのままだった。その瞬間、空気が凍りついた。病室は静寂に包まれた。雪乃はうつむき、唇を強く噛みしめ、自身の存在感を必死に消そうとした。心中では激しく未央を罵倒していた。くそ!なんでちょうど録画されていたのか。ほとんど同時に。未央は暗い顔をした博人を見つめ、嘲笑の色を瞳に浮かべて、ゆっくりと詰問した。「西嶋社長、ビジネスをする時のその聡明さは一体どこへ行ったの?それとも女に関わると知能が低下するの?」そう言って、まだ怒りが収まらないといったように、さらに言葉を重ねた。「あなたは彼女とどう遊びたいか、イチャイチャをしようが構わないよ。ただ子供に関わらないでよ。女を喜ばせたかったら、他の方法に変えたら?」この言葉で、病室内の温度がさらに冷え込んだように感じられた。だが未央はすっきりした。結婚してから数年、様々なことを考えてずっと耐えてきたが、今日ようやく本音を全て吐き出せたのだ。そう言い終えると、顔を曇らせた博人を無視し、その横をすり抜けて大股で外へ出て行った。病室はとても静かだった。博人は何も言わず、うつむいていて表情は見えないが、全身から冷たいオーラを放っていた。雪乃はこのような博人を見たことがなく、瞼をピクピクさせながら、恐る恐る口を開いた。「博人、白鳥さんの言ったことは本当にひどすぎるよ。あなたはそんな人じゃないって私が知っ
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第386話

彼女の口調は穏やかで、いつものように質問を投げかけた。男は黒い肌に筋肉質な体つきで、どこかおどおどしているように見えた。「せ……、先生。俺、杉原達也と同じ場所で漁師をやってる同僚なんですけど」この言葉を聞いた未央はすぐに先日「水の妖怪」に遭遇したと自称する患者のことを思い出した。すると。男の声が再び響き、その口調が何かを恐れているようだった。「先生、俺にも同じ薬を出してもらえませんか?ここのところ夜になると彼と同じ幻覚が見えるんです。いつも変な黒い影が見えて」「あなたも浜橋埠頭でそれを見たんですか」未央は手の動きが微かに止まり、低い声で尋ねた。一人なら偶然と言えても、次々と幻覚が見える人が出てくると、もはや妖怪の仕業などではなく、むしろ人為的なものだと彼女は考えた。頭に拓真の姿がよぎり、彼が博人を引きずって海に飛び込む前の凄惨な光景が蘇った。未央は瞼がピクッと攣り、なぜか、胸に嫌な予感が渦巻いた。あの男の遺体は未だ見つかっていない。もしかすると、彼と関係があるのではないか?考えすぎだとは思うが、あの時のことはあまりにも予想外だった。拓真があれほど長年策を練り、暗がりで辛抱強く黒幕として振る舞ってきたのに、果たしてそんなに容易く死ぬだろうか。「白鳥先生?聞いていますか?」耳元で彼女を呼ぶ声が二回響いて、ようやく我に返った未央はゆっくりと説明した。「申し訳ありません、ただ今治療方法について考えておりました」しばらくしてから。未央は前回と同じで、いくつかの薬を処方したが、一言付け加えた。「何か異常を発見したら、いつでもまた診察を受けにいらしてください。追加料金は請求しませんから」「本当ですか。白鳥先生は本当にいい先生ですね」男は感謝した顔をして、嬉しそうに去っていった。未央はその場に立ち、その姿が見えなくなるまで見送ると、ゆっくりと視線を戻し、携帯を取り出した。「プルプルプル」向こうはすぐに電話に出た。「こんにちは、どのようなご用件でしょうか?」「佐藤警官、私は白鳥未央です。木村拓真の行方は見つかりましたか?」考えた末、やはり気になっているから、この事件の担当者に電話で問い合わせた。「木村拓真?」佐藤は少し驚いているようだが、慌てずに言った。「何度も搜索
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第387話

未央がアイスクリームケーキを手に提げ家に戻り、玄関に入ると、中から楽しげな笑い声が聞こえてきた。「おじいちゃん、見て!僕が自分で折った紙飛行機だよ」理玖はその小さな顔に笑みを見せていた。今日病院で起きた不愉快な出来事はもう忘れたようだった。この間、宗一郎は友人に会いに行ったので、今日ようやく帰宅したのだ。彼は理玖を抱き上げ、楽しそうに笑いながら言った。「理玖はえらいぞ。おじいちゃんがいない間、ママの言うことちゃんと聞いてたか?」「もちろんいい子にしてたよ」理玖は顎を少し上げると、ちょうど玄関にいる姿に気づいて、すぐに駆け寄った。「ママ、おかえり」未央は胸の中からほんのり温もりを感じながら、理玖の元気そうな様子を見て、ようやくほっとした。「いい子ね、ママが何を持ってきたか見てごらん」「わあ!アイスクリームケーキだ!」理玖は目を細めて喜び、興奮してケーキ箱を受け取ると、ぴょんぴょんと跳びながらテーブルへ向かった。すると。宗一郎は彼女の方へ視線を向け、心配そうに尋ねた。「体の調子はどうだ?最近何かあったか?」「お父さん心配しないで、全部うまくいってるから」未央は首を左右に振り、相手を心配させたくないので、博人との争いは話さなかった。あれだけ言い合ったのだから、彼女は博人の性格をよく知っていて、あのプライドの高い男なら、おそらくすぐに離婚に同意するだろうと思った。何しろ、彼はあれほど雪乃が好きなのだから、ずっと愛人でいさせるわけがないだろう。頭の中のごちゃごちゃしたことを一旦置いて、未央は父親を見つめ、興味深そうに尋ねた。「お父さんは?この数日、何か収穫はあった?」彼女は父親が再び会社を立ち上げるのを諦めていないことを知っていて、それに父親の決定に全面的に支持し、自分の貯金を半分出してあげたのだ。それを聞かれると、宗一郎は目を輝かせ、顔に抑えきれない喜びと興奮を浮かべた。「未央、お父さんはね、新興製薬を買収して、その基盤の上でまた発展を続けたいと思っているんだ」今は昔とは違い、ゼロから起業するのはあまりにも難しい。最良の方法は既存のブランドを買収し、その後改革して新たなアイデアを出し、再び成功を収めるのだ。未央は目をわずかに細めた。彼女はその名前をよく知っているのだ。かつて、白鳥グル
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第388話

先ほど厳しかった雰囲気は一気に和らいだ。未央は口元を綻ばせ、急いで近づいた。「今行くわ、一番最初の一切れはもちろん私たちの可愛い理玖にあげるね」……一方その頃。雪乃は一人で病室に残され、今朝博人が去り際に投げてきた冷たい眼差しを思い出し、胸は不安でいっぱいだった。事態はますます制御不能になっている。どうすればいい?彼女が携帯を取り出し、男にメッセージを送ろうとした瞬間、ドアの外から足音が聞こえて来た。「博人、やっぱり……」言葉が言い終わる前に、突然途切れた。「佐紀さん、来てくれましたね」無理に笑みを作ったが、声には隠しきれない落胆が滲んでいた。佐紀は部屋を見回し、あの見慣れた姿が見えないことに眉をひそめた。「もうすぐ半月になるというのに、まだ彼を落としていないの?」「私……」雪乃は口を開いたが、反論の言葉も出せず、両手で服の裾を強く握りしめた。以前、博人は彼女の願いをほとんど拒んだことはなかったというのに、白鳥未央が家出して以来、全てが変わってしまったようだ。目に悔しさが浮かび、雪乃は歯を食いしばって言った。「佐紀さん、もう少し待ってください。すぐに彼を……」「もういい、私はもう我慢の限界よ」佐紀は彼女の言葉を遮り、その顔には以前の親しみが消えていた。「これまで私があなたを彼の側に置いたのは、彼を掌握し、大事な時に会社の重要情報を私に伝えるためだった。その結果は?あなたはあの白鳥未央にも及ばないようね」冷たい女の声が病室に響いた。顔色が一瞬で青ざめた雪乃は両手を強く握りしめ、関節が白くなるほど力を込めた。あの時、佐紀は本心で博人にその座を譲ったわけではなく、常に西嶋グループを虎視眈々と狙っていて、会社を奪還して完全に自分の手の中に収めたいと考えていたのだ。だから去った時、彼女は一つの駒を残していった。それが雪乃だった。残念ながら、雪乃も彼女を失望させてしまった。目に軽蔑の色を浮かべた佐紀は、憤慨して言った。「自分を救った恩人が誰なのかすら見分けられないとは。私が女でなければ、西嶋グループを彼に譲るわけがないでしょう」その場が重い沈黙に包まれた。彼女は雪乃を一瞥し、少し嫌悪を示しながらも命令口調で言った。「最後のチャンスを与えるわ。明日の夜、私の義姉
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第389話

知恵は少し躊躇してから口を開いた。「明日の夜、ホテルセゾンで誕生日パーティーを開くんだけど、時間があったら来てくれる?」未央は少し目を細め、すぐには承諾しなかった。「まだ用事があるかどうか分からないんです。時間があったら行きますよ」知恵は少し落胆したようだったが、多くを言わず、すぐに電話を切った。翌朝。未央はいつものように病院に出勤した。午前中はずっと忙しさに追われ、誕生日パーティーのことなど完全に忘れていた。電話が鳴るまで。「ママ、あとで仕事終わってから時間ある?」理玖の幼い声が聞こえ、未央は温かい目をし、優しい口調で言った。「理玖、どうしたの?」「その……、僕……」彼は数秒の間言葉に詰まってから、ようやく続けた。「今夜、おばあちゃんの誕生日なんだ。一緒に来てくれない?」前にパパと喧嘩したばかりで、誕生日パーティーではどうしても彼に会わざるを得ないのだ。理玖は決して彼を怖がっているのは認めず、単純にママに会いたいだけなのだ。未央は一瞬ポカンとしたが、すぐに笑顔でうなずいた。「問題ないわ。ママがあとで迎えに行くからね」夜の帳が静かに下りた。ホテルの入口には多くの高級車が止まっている。この時、未央の安い車は非常に目立っていて、周囲の好奇の視線をすぐに集めてきた。しかし、彼女はそんな好奇の視線など全く気にせず、理玖の小さな手を握り、堂々とホールへ歩いていった。目の届くところに大勢の人がいて、二、三人でグループを作って小さい声でお喋りをし、非常に賑やかだった。理玖はすぐに西嶋家の人間に連れ去られてしまった。これに対しては、未央は少しも驚かなかった。その冷淡さに彼女はとっくに慣れており、むしろこれで静かでいいと思っていた。しかし、彼女が行かなくても、トラブルが自然と彼女のところにやって来た。目の前に突然影ができた。数人の華やかなドレスを着たご婦人たちがゆっくりと近づき、顔には隠しきれない軽蔑と嘲笑が浮かんでいた。「あら、西嶋博人さんの奥さんじゃないの?どうして一人でここでお酒を飲んでるの?」「そうするしかないでしょう?西嶋社長は綿井さんと一緒にいるらしいわよ」「無理強いしたんだもの、絶対いい結果は巡ってこないものよ。誰かさんがあんな厚かましいことをした時、今日
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第390話

しかし今回はすぐに自ら近づいていった。雪乃の得意げな表情が微かに固まり、目に憤った色が走ったが、急いで後を追わざるを得なかった。それと同時に。紗都子も向かいから歩いてくる二人の姿を目にした。理由もなく少し後ろめたさを感じたが、すぐに我に返った。何を怖がる必要があるというんだ?彼女はただありのままのことを言っただけで、ひょっとすると西嶋社長の本心にも触れ、彼女を褒めに来たのかもしれないだろう?そう思うと、紗都子はさらに胸を張り、両手でドレスを軽く持ち上げ、綺麗な作法を見せた。「西嶋社長、綿井さん、ご無沙汰しております」次の瞬間。いくつかの険しさを含めた低くて魅力的な声が響いた。「お前、どの家の人間だ?」博人は目に暗い影を落とし、冷たく目の前の人物を睨みつけ、ゆっくりと口を開いた。「これは我が西嶋家のパーティーだ。いつからあんたのような奴が自分勝手に、俺の妻を非難する権利を持つようになった?」彼は厳しく問い詰め、わざと「俺の妻」という言葉を強調した。周囲の空気の温度が一気に冷え込んだようだ。元々騒がしかった会場は静まり返り、人々は同じ方向を見つめた。紗都子は一瞬呆然とし、彼の言葉の意味がまだ理解できていなかった。「パシ!」続けて、鈍いビンタの音が響いた。彼女は完全にその場に固まり、自分の夫を信じられない様子で見つめ、思わず叫んだ。「何するのよ!?」紗都子の夫も虹陽で名の知れた人物ではあったが、博人と比べれば雲泥の差で、到底逆らえる相手ではなかった。「黙れ!すぐに西嶋社長に謝れ!」泉敏行(いずみ としゆき)は彼女の髪を掴み、容赦なく命令した。女というものは本当に愚かなのだ。博人と未央の関係がどうあれ、彼女のような部外者が口を挟むことなど許されるはずがないだろう?敏行は考えれば考えるほど機嫌が悪くなり、顔に嫌悪と軽蔑の色を浮かべた。帰ったらこの女とすぐに離婚する。でなければ、彼女の頭のないような発言でいつ泉家が潰されるか分かったものではない。周囲の空気が一気に張り詰めた。。博人は顔色一つ変えず、指につけたダイヤの指輪を撫でながら、低い声で口を開いた。「俺に言ってどうする?妻に言え」紗都子は呆気に取られ、仕方なく未央を見つめた。心の中は屈辱と悔しさでいっぱい
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