All Chapters of 今さら私を愛しているなんてもう遅い: Chapter 541 - Chapter 550

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第541話

「お前が?」宗一郎は眉を吊り上げた。「西嶋社長は多忙な身だろう、俺の些細なことにわざわざ手を煩わせるわけにはいかないよ」「お父さん!」未央は慌てて仲介に入った。「博人は……彼も協力してくれてるの……」彼女は博人の立場をどう説明すべきか一瞬分からず、曖昧な返事しかできなかった。博人は未央を一瞥すると、宗一郎に向き直り、率直な口調に変えて言った。「お義父さん、俺は過去に未央や白鳥家に対して多くの間違ったことを理解しています。今回の天見製薬の件は、俺が直接手を下したわけではありませんが、確かに俺が原因で起こったことです。どう考えても、俺はただ高みの見物をするわけにはいきません」少し間を置き、彼はたった今受け取った情報を伝えた。「中村は全て自供しました。彼はスクレラが小川を通じて多くの資金を提供してくれるのと引き換えに、改ざんした臨床データ、編集された音声記録、偽造された送金記録を提供したことを認めています。スクレラと小川が連絡を取った記録と、不正資金の行方を含む全ての証拠は、既に手に入れました」「何だって!?」宗一郎と未央は同時に声をあげて驚いていた。中村が全部自供した!?証拠も確保したというのか。これは確かに朗報だった。「そ、それじゃ……天見製薬は……」宗一郎は興奮しながら博人の腕を掴んだ。「ご安心ください」博人は落ち着かせるように言った。「既に弁護士に証拠を持たせて厚生局と話をしに向かわせています。天見製薬の無実は間もなく証明されるでしょう。それに、すぐに記者会見を開いて、真実を公表して全ての中傷を一掃できるはずです」未央は博人を見つめ、彼の落ち着いて確信に満ちた様子に、心の中の最後の疑いが、ついに完全に消えてしまった。彼が本当に全ての危機を除き、証拠を見つけ、父親と天見製薬の無実を証明してくれたのだ。なるほど、彼女は本当に彼を誤解していたわけだ。巨大な罪悪感が心を襲い、彼女はほとんど博人の目を直視できなくなった。彼女は自分が録音したあの音声記録と、彼を疑って冷たい態度を取ったことを思い出した……ちょうど病室の空気がこの朗報によって少し和らいだとき、博人の携帯が突然鳴り出した。彼は部屋の隅に移動して電話に出ると、少し聞いただけで、顔色が一変してしまった!「何だって!?スクレラが手下を連れて病院に駆けつけて
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第542話

病室のドアの外は、瞬く間に地獄と化した。元々広くない廊下は、黒いスーツを着たボディーガードたちとスクレラが連れて来た命知らずの者たちで埋め尽くされ、双方が激しく銃撃戦を繰り広げていた。銃声、叫び声、ガラスの割れる音、そして重い物が倒れる鈍い音が混ざり合い、耳をつんざくようだった。博人は暴れる雄のライオンのように、最前線に突き進んでいった。彼の腰の傷口は激しい運動によって再び開き、血がシャツを染めたが、彼は痛みを感じていないかのように、素早く容赦ない動きで、手にした銃の弾をほとんど無駄なく命中させた。VIP病室エリアに接近しようとする敵は、一人残らず彼の正確な射撃で倒されていった。彼の背後にいるボディーガードたちも訓練された精鋭たちで、素早く防御陣形を取り、火力を最大限に発揮して、病室へ通じる最後の防衛線を死守していた。スクレラの手下たちもこれほど頑強な抵抗に遭うとは予想しておらず、普通の襲撃だと思っていたが、博人が自ら指揮を執ると、これほどまでに火力が強くなるとは思っていなかった。すると、彼らは押され気味で、損失が大きくなっていった。病室の中では、未央の心臓は喉元まで上がっていた。彼女は扉にぴったりとはりつき、隙間から外の状況を捉えようとしたが、視界は遮られ、ただ肝を冷やす銃声と乱闘の音だけが聞こえていた。「博人……博人……」彼女は心の中でその名前を繰り返し、手の平が冷や汗でびっしょりだった。これほどはっきりと自分の心配と恐れを感じたことはかつてなかったのだ。「未央、怖がらないで……」ベッドの上の宗一郎は手を伸ばして娘を慰めようとしたが、声は弱々しく響いた。「西嶋博人は……彼はきっと無事だ……」彼は相変わらず博人にわだかまりを持っていたが、今この時、その男に希望を託すしかなかった。戦況が膠着している時、鋭く狂気じみた女の声が突然響き渡り、全ての銃声と叫び声を掻き消した。「西嶋博人!出て来なさい!」スクレラだ!彼女は本当に自らやって来たのか!彼女は真っ赤なワンピースを纏い、髪が乱れ、ほとんど正気を失ったような表情を浮かべていた。手には小さな銀色の拳銃を握りしめ、何も構わず博人の方向へ突進してきた!「どきなさい!邪魔する奴は皆殺しよ!」スクレラは彼女が連れて来た手下に向かって叫び、普段の優雅さと冷静さは完全に失われて
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第543話

ドアの外から聞こえた博人の声には、かすかに気づかれにくい疲れとかすれた声が混じっていたが、それはまるで鎮静剤のように、未央の恐怖と不安に満ちた心を落ち着かせた。もう大丈夫だ……スクレラは掴まったのだ……彼女は深く息を吸い、震える手でゆっくりと病室のドアを開けた。ドアをわずかに開けると、彼女は慎重に外を覗いた。廊下は無残な状態だった。壁には弾痕があり、床にはガラスの破片と血痕が散乱し、空気には硝煙と血の生臭い匂いが充満していて、消毒液の匂いと混ざり合って、悪臭のような刺激的な匂いを放っていた。西嶋家の数名のボディーガードが現場の処理を行っており、負傷して緊急手当てを受けている者もいた。そして博人は、ちょうどドアの前に立っていた。彼の大きな体は少し揺れているように見え、顔色は恐ろしいほど青白く、腰の辺りのシャツはすでに血で完全に染まっていた。それでも彼は相変わらず背筋を伸ばしてしっかり立っていて、まるで無言の高い山のように、全ての風雨を遮ってくれた。ドアが開くのを見て、博人の張り詰めた神経はついに完全に緩んだ。無事でいる未央とベッドにどうやら比較的落ち着いているように見える宗一郎を見て、ずっと締め付けられていた心はようやく落ち着いた。彼は口元をわずかに引きつらせ、安心させるような笑顔を作ろうとしたが、それが傷口に障り、痛みにうめき声を漏らすと、体はよろめきドアに寄りかかった。「博人!」未央はそれを見て驚きの声を上げ、無意識に一歩前に出て、彼を支えようとした。彼女は手を差し出したかと思うと、突然止まり、顔には一瞬の躊躇いと葛藤が浮かんできた。博人は彼女の細かな動作を見逃さず、心の中に苦い思いがよぎったが、顔には何の変化もなく手を振った。「大丈夫だ、軽い傷だ」彼は視線をベッドにいる宗一郎に向け「お義父さんは?」と尋ねた。「お父さんは……目が覚めたばかりで、今また眠ってしまったみたい」未央は答えたが、声はまだ震えていた。さっき外で起きた銃撃戦は、彼女にとってショックが大きすぎた。ちょうどその時、外で遠くから近づいてくるパトカーのサイレンの音が響いた。高橋が急いで走ってきて、低い声で報告した。「西嶋社長、警察がもう来ました。スクレラとその手下は全員確保されていますよ」博人はうなずいた。「誰かを連れて一緒に行ってくれ
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第544話

「ありがとう」この言葉は、彼がさっき彼女と父親を救ってくれたことに対してだけではなく、彼がこれまでに行ってきたすべてのことに対したものだ。例えば中村を見つけ、スクレラの陰謀を暴き、天見製薬の無実を晴らしてくれたことだ。二人の間にはまだ解決していない問題が多く、彼女の心の中にはまだ解けていないわだかまりがたくさん残っていたが、この瞬間ばかりは、彼女は心から彼に感謝していた。博人は彼女を支える手をわずかに強張らせ、すぐに強く握りしめ、低い声で彼女の耳元で言った。「君と家族を守るのは、俺のすべきことだ」彼の口調は淡々としていたが、疑われる余地のない確信に満ちていた。この言葉に、未央の心は微かに震えた。彼女は顔を上げ、彼を見つめた。男の顎のラインはピンと張りつめ、横顔の輪郭は廊下の灯りに照らされて少しぼやけて見えたが、その深い瞳には、彼女が以前には見たことのない何かが宿っているように感じられた。警察はすぐに現場の処理を終え、病院側も清掃員を派遣して廊下の掃除を始めた。すべてが少しずつ平穏を取り戻していくようだった。博人は医者に宗一郎の全身検査を再び行わせて、彼の体調が安定していることを確認した。ただ体がまだ弱っていて長い間は、安静にする必要があるのだ。その後、彼は人を使い未央に洗濯されたきれいな服とあっさりした食べ物を届けさせた。すべてを終えると、彼はようやく医者に無理やりに連れられて、自分自身の腰の傷の手当てを受けに行った。未央は病室で座っていて、父親の安らかな寝顔を見つめ、さっき博人が忙しそうに動き回る姿を思い浮かべると、心の中には様々な複雑な感情が入り混じってきた。スクレラは捕まり、中村も見つかり、天見製薬の危機はすでに去っていて、父親も一時的に危険な状態を脱した……すべてが良い方向に向かっているようだった。しかし彼女と博人の間は……未央はため息をつき、携帯を取り出した。画面にはまだ彼女と博人に関するネガティブなニュースや、読むに耐えないネット民のコメントで溢れていた。彼女は思わず眉を強くひそめた。あの録音は、まるで毒針のように博人を傷つけただけでなく、彼女自身にも重い枷を負わせていた。彼女も……何かをすべきではないだろうか。ちょうどその時、博人は傷の手当てを終え、病室に戻ってきた。彼は清潔な患者服に着替
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第545話

博人は自分が聞き間違えたかと思った。彼は目の前にいるこの生死の危機を経験したばかりで顔色がまだ青白いが、目が異様に強い意志に満ちた女性を見つめ、心の中に言いようのない感動が湧き上がった。「つまり……俺と一緒に行きたいと言ったのか」博人の声はわずかに震えたようだった。未央は力強くうなずいた。「ええ。天見製薬は父親が一生をかけた誇りなの。今、彼の無実を証明する機会がある以上、私はそこに立ち会わなければならないわ。それに……あのいゆる『告発の録音』も私のせいで存在したの。事実を明らかにするために前に出る責任が私にはあると思うわ」彼女は顔を上げ、博人の視線を受け止め、落ち着きながらも力強い口調で言った。「私はこれ以上、誰かに利用されたくないし、あなたが……あるいは誰かが、私のせいで無実の罪を着せられるのも見たくないの」この瞬間、彼女はもはや恋愛において優柔不断で、損失を気にする器の小さい女ではなく、冷静で理性的で、そして責任感のある白鳥未央に戻っていた。博人は彼女の目にきらめく光を見て、誤解によって生じたわだかまりと苦痛が、この瞬間に完全に消えていったように感じた。「分かった」彼は喉を鳴らし、真剣な表情で承諾した。「二人で一緒に行こう」……午後二時半、西嶋グループ本社ビル、記者会見会場。広い会議室はすでに満席で、全国各地から集まった百人以上のメディア記者がカメラとマイクを構え、待機していた。フラッシュが絶え間なく光り、会場全体を白昼のように照らしていた。空気の中には緊張と興奮が入り混じった雰囲気が漂っていた。誰もが知っていた。今日この会見が、最近世間を騒がせている「西嶋グループ社長のスキャンダル」と「天見製薬のデータ改ざん事件」の真実が明白になるだろうと。これは間違いなく一年間で一番のビッグニュースだ!ステージの裏の控え室で。未央はソファに座り、高橋が差し出した原稿を一目見て、軽く首を振った。「いいえ、結構です。後で自分で話しますから」彼女は用意されたものを読みたくないのだ。自分の言葉で、事実を公にしたかった。博人は彼女のそばに立ち、その真剣な横顔を見つめ、何か言おうとした。例えば、体に気をつけて、あまり興奮しないように、あるいは自分がいるから恐れることはないと伝えたかったのだ。しかし結局、彼は黙って温かい
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第546話

弁護士は彼らに議論する時間をあまり与えず、すぐに次の証拠――スクレラと勇の資金取引記録、そして彼らが中村と連絡を取った記録を提示した。全部本物の証拠だった。最後に、弁護士は義憤を込めてこう結論を付けた。「『天見製薬の臨床データ改ざん事件』は、完全にスクレラ・ルイスと小川勇、そして中村が悪意を持って計画し、でっち上げた陰謀です!その目的は、ビジネスライバル相手に打撃を与えることだけでなく、西嶋博人さんと白鳥未央さんの関係を破壊するためであり、悪質すぎる陰謀だったのです!なお、ネットにあげられた『白鳥未央さんの告発録音』は、スクレラ・ルイスが白鳥さんを拉致し脅迫した上で、強制的に録音させたものです!その内容は完全に事実を歪曲し、悪意ある誹謗なのです!」弁護士のしっかりとした大きな声が、その場に響き渡った。下の記者たちは完全に興奮し始めた!逆転!まさに大きな逆転である!拉致?脅迫?証拠の偽造?情報量が多すぎる!ニュースの見出しはもう思い浮かんでいる!その時、ずっと沈黙していた未央が、ゆっくりと目の前のマイクを手に取った。全てのカメラが一瞬にして彼女に向けられた。彼女は下から向かってくる無数の視線と向き合い、深く息を吸い込んだ。声はまだ少し弱々しいながらも、はっきりとしていて力強く語った。「皆さん、初めまして。私は白鳥未央です。あの録音は、確かに私が録音したものです。しかし、私の本意ではありません」彼女は少し間を置き、目に一瞬の苦痛が走ったが、すぐに強さに取り戻した。「当時、私はスクレラ・ルイスに拉致され、父の命で私を脅迫され、事前に準備した嘘と中傷に満ちた原稿を読むよう強要されたのです。私は、自分のこの行為が西嶋さんに取り返しのつかない傷を与え、私を心配してくれる人々を失望させたかもしれないと承知しております。深くお詫び申し上げます。しかし同時に、皆さんに伝えたいのです。私の父、白鳥宗一郎、そして天見製薬は無実です!彼らはこの陰謀の最大の被害者です!法律が彼らに公正な裁きをもたらすと信じています!そして私と西嶋さんについてですが……」未央は何気なく隣の男を一瞥し、口調が少し複雑になった。「私たちの間には確かに多くの問題と誤解があります。ですが、これは家庭内のことであり、外部が過度に解釈したり利用したりすること
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第547話

ステージの裏の通路は、外の喧騒たるフラッシュと騒がしさを遮断していた。溢れ出し続けていたアドレナリンが徐々にその効果を失い、未央は言いようのない疲労感に襲われた。彼女は冷たい壁にもたれかかり、ゆっくりと息を吐いた。終わった。少なくとも、天見製薬と博人が中傷された件については、一段落ついたと言えるだろう。博人は彼女の傍らに立ち、複雑な眼差しで彼女の青白い横顔を見つめていた。さっきステージの上で、彼女は冷静な顔をして確固として、父親のために、天見製薬のために、そして間接的には彼のためにも事実を明らかにしてくれたのだ。その落ち着きと思い切りの良さに、彼は胸が痛むと同時に誇らしく思った。「未央……」彼は喉を鳴らし、何かを言おうとしたがどこから言えばいいのか分からなかった。謝罪?感謝?説明?どれも彼の今の複雑な心境を表すには十分ではなさそうだった。未央はそれが聞こえていないかのように、ただ目を閉じて壁にもたれかかり休んでいた。高橋と数人のボディーガードは後ろについて来て、この微妙な空気を邪魔しないよう距離を置いていた。しばらくして、未央は再び目を開け、博人を見て、平然とした口調で言った。「帰りましょう。病院へお父さんに会いに行きたいわ」「分かった」博人は多く問わずうなずいた。二人は再びボディーガードに護衛され、特別通路から会場を後にし、病院へ戻る車に乗り込んだ。車の中は、相変わらず沈黙が支配していた。未央は携帯を取り出し、さっきの記者会見に関するニュースをチェックした。案の定、ネット上の状況は完全に逆転していた。【衝撃の逆転!西嶋グループ社長である西嶋博人がビジネスライバルと謎の女性に陥れられた!】【天見製薬データ改ざんは偽情報、重要参考人である中村が自首!】【録音は悪意の編集!白鳥未央が拉致と脅迫をされた経緯を説明した】【スクレラ・スイスは複数の深刻な罪で警察に拘束された!】各メディアが記者会見の衝撃的な内容を競って報道し、以前の様々な推測と中傷は一瞬で覆された。ネット民のコメントも一方的な非難から、驚き、同情、そして黒幕への怒りに変わった。【うわっ!この展開ドラマよりすごいわ】【そうだったのか!西嶋社長があんなことするわけないと思ったよ!】【スクレラって女めっちゃ悪質じゃない?こんな手を使
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第548話

「お父さん、気分はどう?」未央は早足で父親の元へ駆け寄り、その手を握りながら心配そうに尋ねた。「ああ……だいぶ良くなったよ」宗一郎は娘を見つめ、さらに彼女の後ろに立つ博人を見て、興奮で声が少し震えていた。「未央……父さんは全部聞いたよ……天見製薬は……天見製薬は無事だろうね?」「ええ!」未央は力強くうなずき、またもその目を赤くした。「もう大丈夫よ、お父さん!全て終わったわ!中村は自白したし、スクレラと小川が私たちを陥れたの!証拠は確実で、天見製薬の無実はすぐに完全に晴れるよ!」「良かった……良かった……」宗一郎は涙を流し、娘の手を強く握りしめた。「やはりそうだったか……俺たちは間違ってなかったと信じていたよ……」彼の激しい感情が収まらず、何度か咳き込んだ。「お義父さん、気持ちは分かりますが、お体をお大事に」博人が一歩前に出て、温かいお茶を差し出した。宗一郎は彼を一瞥し、複雑な眼差しを向けた。以前なら、博人が差し出すお茶など決して飲まなかった。だが今回は……彼は一瞬躊躇い、結局それを受け取って一口飲んだ。このささやかな動作に、病室の空気は幾分か和らいだ。博人は心の中でほっとし、続けて言った。「お義父さん、ご安心ください。天見製薬については、西嶋グループのコネを使って、できるだけ早く名声と運営を回復させるよう支援します。スクレラについては……絶対に簡単には罪を逃がしません」彼の口調にはゆるぎない誓いのようなものが感じられた。宗一郎は彼を見つめ、しばらく沈黙した後、ゆっくりとうなずいた。「今回は……お前には感謝するよ」博人に対して依然として多くの不満はあったが、今回彼が確かに白鳥家を助け、さらには未央の命も救ったことは認めざるを得なかった。この恩を無視するわけにはいかない。「とんでもありません」博人は低い声で言った。「未央と自分の家族を守るのは、俺のやるべきことです」未央は隣で二人の会話を聞き、心の中に複雑な感情が浮かんだ。父親の状況がよくなり、天見製薬の危機も去った。彼女の心の中にぶら下がっていた大きな石がようやく地面に落ちたようにほっとした。しかし、彼女と博人はどうなるのか。真実が明らかになった今、二人はどこへ向かうべきなのか。彼女は彼に、もう離婚は言わないと約束した……だがそれは父親と天見製薬が危機
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第549話

記者会見が終わり、スクレラの陰謀は明らかになり、天見製薬と博人の汚名はようやくそそがれた。虹陽市は一時的に平穏を取り戻したように見えたが、その裏では依然として暗流が渦巻いていた。未央の生活の重心は暫く、父親の宗一郎と息子の理玖の世話に置かれていた。宗一郎は深刻な病気から回復したばかりで、無罪が晴れたものの、牢獄の苦しみと今回の中傷事件を経験して、身体も精神も以前には及ばず、まだ安静が必要だった。未央は毎日病院と家を往復し、自ら彼の身の回りの世話をしていた。父親の顔色が日に日に良くなるのを見て、ようやくハラハラしていた心が落ち着いた。理玖もどうやら前の拉致事件で驚いたらしく、非常に甘えん坊になり、毎日学校から帰るとまず母親に抱きつき、彼女が無事なのを確認してからでないと他のことをしようとしなかった。未央はそれを見て、心の中が複雑な感情で心が痛むと同時に、感動した。博人については……あの日病院で気まずくて別れて以来、彼は本当にわざと彼女を邪魔しに来なかった。ただ毎日時間通りに、彼が秘書に送らせたさまざまな栄養剤、花束、あるいは小さなプレゼントがあったが、未央はそれらを全部拒否し、秘書にそのまま持ち帰らせた。彼女は分かっていた。博人はこの方法で埋め合わせをしてくれ、彼女の心を和らげたいのだ。だが彼女は心には越えられない壁を作ってしまった。信頼が一度壊れると、再び築くのは難しすぎるのだ。彼女は今ただ、父親の体調が良くなるのを待ち、その後できるだけ早く離婚の処理をして、完全に彼と線を引きたいと思っていた。この日、未央が病院を出て、自分の病院に溜まっていた仕事を処理しに行こうとした時、寺平から電話がかかってきた。「白鳥さん、天見製薬の方が……ちょっとした問題が起きてしまって」寺平の口調は少しぎごちなかった。「どうしたのですか」未央の心が一瞬で締め付けられた。「資金繰りがうまくいっていないのですか。それとも……」「資金の問題ではありません」寺平は急いで説明した。「西嶋社長のおかげで……ええと……今回の危機が去ったおかげで、銀行側がもう厳しく制限せず、資金のほうは一時的には問題ありません。問題は……以前スクレラに買収されて偽の帳簿を作っていた中村は、すでに警察に拘束されていますが、彼は単なるスケープゴートのようで、実際に最初にその財務を担当したのはそ
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第550話

旭も部下から提出された報告書を見ながら、口元に興味深い笑みを浮かべていた。「本田は……逃げる準備をしているのか」秘書が頷いた。「はい、社長。情報によりますと、彼は明日午後三時のチケットを予約していて、多くの現金を持っているようです」旭は指で軽く机を叩きながら、何かを考えているようだった。スクレラは逮捕され、勇は失脚し、天見製薬の危機は一見解決したように見える。しかし旭はよく分かっていた。この淀んでいて不明瞭な現実の下には、まだ多くの秘密が隠されていることを。例えば、スクレラの背後にはさらに別の人物がいるのか。彼女と洋、絵里香の間にはどんな関係があるのか。そして突然現れた西嶋家の隠し子である拓真も含まれている。拓真の死は怪しすぎる。警察は遺体は海底に沈んだと公表しているが、旭はどうしても事態がそれほど単純ではないと感じていた。そしてこの逃げようとしている本田は、おそらく何かを知っているだろう。「彼の知っていることは、天見製薬の偽帳簿に関することだけではないはずだ」旭は呟くように言い、目に鋭い光を走らせた。「空港に人をやって監視させろ。彼が検査を通り、搭乗準備をするとき……」彼は少し間を置き、口元に冷たい笑みを浮かべて続けて言った。「彼を『招待』して連れ戻せ。覚えておけ、大きな騒動を起こすなよ。西嶋博人の連中に気づかれるな」この小さな会計係が、いったいどれほどの秘密を隠しているのか、彼は確かめてみたかった。おそらく、次の一手で西嶋グループに対抗する駒として使えるかもしれない。……翌日の午後、虹陽国際空港にて。人の流れは絶えず、慌ただしく動いていた。本田はキャップとマスクで顔をしっかり覆い、目立たないスーツケースを引きながら、人混みにまぎれて国際出発口に向かっていた。彼は警戒して周囲を見回し、緊張で手のひらに少し汗をかいていた。保安検査を通りさえすれば、飛行機に乗り込んで、このすべてから完全に逃れられる!その時はスクレラからもらった巨額のお金を持って、海外でのんびりとした楽しい生活を送れるのだ!そう思うと、彼の足取りは自然と速くなった。搭乗手続きを無事に済ませ、手荷物を預け、保安検査を通り……搭乗口が目の前に見えてきた。本田の心臓が高鳴り、ほとんど飛び出そうだった。自由はすぐ目の前だ!彼は深く息を吸
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