All Chapters of 幽霊が見えるからって慣れてるわけじゃない!!: Chapter 11 - Chapter 20

96 Chapters

第11話 来なかったのよ?

 憎いと思ったことがある。 でも手を出すほどの勇気はない。 だから他人《ひと》からみたら、私はただの弱虫でしかない。力の無いモノは何もできない世界。失う自我と失う自信。それが続くと人間《ひと》は簡単に壊れてしまう。 私は今日も耐えている。たとえ何を言われても。たとえ体に傷ができても。たとえ助けが来なくても。 今までも、これからも、私は私一人しかいない。 でもやられたことは覚えてる。言われたことは覚えてる。この感情が無くなったとき、私は深い闇の中に囚われる……。   場所は変わってカレンの所属事務所の中――「えぇ~っと、初めまして……いいのかな?」「いいんじゃない? この体でこの姿の時に会うのは初めてなんだから」 小さな音楽レーベルの入るとある雑居ビル、その会議室にこの付近ではお嬢様学校として知られている有名な高校の制服を着た、いかにもお嬢様してますって感じの娘《こ》が俺とテーブルをはさんで向かい合うように座っている。 とりあえず、説明だけしちゃうと、俺はある能力を持っていたおかげで本来なら関わることがないであろう世界のこの娘と出会い、事件に巻き込まれ何とか大人の協力のもと解決することができた。その事件において被害者になってしまったのが目の前に座っている娘なんだけど、この娘を形式的には俺が助けた感じになっている。 それからは高校進学とかいろいろあって会えなかったんだけど、この娘が突然やってきてここに来いって呼び出されたわけ。なんだけど……。 ――なんか、機嫌悪くないすっかね? あれ? 俺が助けられたんだっけ?「えと、日比野さん?」「いまさらでしょ? カレンでいいわよ!!」「あ、はい」 ていうかさ、さっきから壁の方ばかり向いてるけど、俺って何かしたっけ? それにさっきから反対の壁際の方でドアからチラチラと見られてんのも気になるしさ。ちょっと以前に見かけた娘とかもいるけど&
last updateLast Updated : 2025-05-20
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第12話 は?

 「じゃぁ、俺そろそろ帰るよ」 パイプ式の椅子を引いて腰を上げようとした。「ちょ、ちょっと待って!!」 カレンに腕を掴まれてしまう。慣れない感触にビクッとして固まる。女の子に触られるなんて義妹の伊織に位しかないから。「あ、ごめん。でも、まだ、座って」 素直に腰を下ろしなおす俺。話しにくそうに下を向くカレン。少し見ない間に大人っぽくなったような気がする。やっぱりアイドルってかわいいんだなぁなんて考えてると。「シンジ君ってさ、まだああいう事してるの?」「へ?」 突然の質問の意味が分からない。「だから、私みたいになったコとか助けたりしてるの?」――いやいやいや!何を言ってんですかねこの子は。あのときは仕方なく流されてああなっただけで、基本俺はああいうモノは苦手なんです!!「そ、そんなわけないだろ。あの時はたまたまだよ」「じゃあ、もう見えたりしてないの?」「いや……念だけど見えてるよ。今も、たぶんこれからもね……」 会議室内に少し重い空気がながれる。 俺は確かに[霊]は見えるけど慣れているわけじゃない、そもそも好きになれる方がおかしいと思う。「あの、協力してほしいことがあるんだけど……」「やだ!!」「なんでよぉ~!! 話聞いてよぉ~、ね、ちょ、待ってよぉぉ~!!」 鞄を掴んでスタスタと歩き出す。はい話はお終い。じゃさいならぁ……。「は、放せ!! 俺は帰る!!」 鞄を掴んだカレンが俺に引きずられている。――結構チカラあるなお前!!こら! その顔は反則だぞ!! おまえ、くっ、このっ、分かっててやってるな? 少し泣きそうな顔で掴んだまま放そうとしない顔には「お願い」って表情を浮かべている。しかも薄く涙が滲んで。「わかった、もう、わかったから放せ。いいか、話をきくだけだからな」「やった!!」 や
last updateLast Updated : 2025-05-21
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第13話 黒いモノ

  『キっ』という音とともに今藤堂家の目に黒塗りの車が止まる。  時間は午前9時少し前。カレンと再会した週末。時間が過ぎるのは早いよね。 ピンポーン! ピーンポーン!「はぁ~い」 今日は両親ともにいないらしく、義妹《いもうと》の伊織が玄関へと駆けていく。 この時俺は完全に寝ていた。そもそもがこの日に約束していたことをすっかり忘れていたのだが……。 タタタタッ バーン!!「お、おに」 ――鬼?「お、お義兄《にい》ちゃん。お、お客様が!! そ、その!!」「あん?」 まだ布団の中から顔だけ出して返事する。もちろん出る気はない。「せ、セカンドの!!」「お、落ち着け伊織。珍しいな」 大変珍しい、うちの義妹《いもうと》の慌てる姿。「だ、だって[セカンドストリート]のカレンが来てるんだもん!!」「あん? カレン? ……あ、カレンって……」 がばっと跳ね起きて時計を見ると9時を過ぎたばかり。――来るのはやくねぇぇぇ? つかやっべぇ……完全に忘れてた。 慌てて着替えること5分。 ようやくまとまった姿で玄関へ向かうと、伊織がまだ信じられないって顔してカレンと向き合っていた。「早く来るなよ」「早い? ……あなた今何時だと思ってるの?」「あぁ~わり! 忘れて寝てたんだよ」 すまんすまんと両手をあわせて謝っていると、隣にいた伊織の視線が俺に当たっているのに気付いた。「お、お義兄《にい》ちゃんてカレン……さんと知り合いなの?」「え、あ、うんまぁ……な」 フシギそうな視線だったものが尊敬のまなざしになっていくのを感じる。「初めまして、妹さん? 私は日比野カレン。よろしくね」
last updateLast Updated : 2025-05-22
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第14話 視えた

  市川響子と市川理央は一卵性の双子の姉妹。小さい時からよく似ていて共に成績もよく、運動もこなせた。しかし違っているものもある。それが現れ始めたのは中学進学してからだった。姉[響子]は社交的で誰とでも仲良くなって、次第に人気者になっていった。それとは逆に妹[理央]は内向的でなかなか友達もできず次第に陰に隠れていった。「シンジ君?」「あ、ご、ごめん。俺、リビングで待ってるからさ。楽しんでくれよ」「ちょっとシンジ君!!」 駆け出すように部屋を飛び出してリビングへと向かう。 はっきり言ってその部屋にいたくなかった。理央から感じるあの念と自分自身の念は似ている。本能的にその場にいてはまずいと言っている。それに俺は気づいている。あのままだと俺も飲み込まれてしまうと。 ようやくついたリビングで息を整えながら汗をぬぐう事しかできなかった。「はい、喉、乾いてるでしょ?」 リビングで一人、うなだれるようにソファーに座っていた俺に冷たいジュースの入ったコップが目の前に差し出さされた。誰かが近づいた事さえわからないほどに俺はぐったりしていた。「え、あ、ああ、ありがとう」「どういたしまして」 渡してくれたコは響子だった。彼女はそのまま俺の隣にちょこんと座る。「ネェ、今日あなたを連れてくることはちょっと聞いてたけど、ほんとにカレシじゃないの?」「い、いや、違うけど?」「そっかぁ、違うんだぁ。とりあえずは信じてあげる」「あ、ありがとう」 何がありがとうなのか良くわからないけど信じてもらえたのはいいことだ。しかし、この子がここにいるってことはあの部屋には今二人だけ……。どのくらいこの家にるんだろうと時計を見ると、この家に訪れてからもう2時間がたとうとしていた。 きゃぁぁぁ!! ビクッとするくらい甲高い悲鳴、これはたぶんカレンの方だ!! 突然の悲鳴にあわてて部屋に駆け出した。その後ろから響子も連なる。「ど、どうした!!」「し、シンジ君!!」 部屋に入った俺を確
last updateLast Updated : 2025-05-23
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第15話 時間をくれ

 家に帰ってからも真司は考えていた。 どうすればあの理央という娘を立ち直らせることができるのかを。 彼女はたぶん俺と同じ感覚をもっている。違いなんて陥っている深さだけだ。話すことが苦手で自分をアピールすることができず、周りから置いていかれる。追いつこうともがくほどにまわりはどんどん冷めていく。 気づけば独りぼっち……。 考えれば考えるほどその深みは底がなくてもがき続けるしかない。 それは救えないのか? 助ける事は出来ないのか? 俺はどうやって抜け出せた? 確かに俺はどこからか変わったんだ。 俺は自分から遠ざけて、周りからも声をかけてくることなんてない、暗い子になることで存在を薄くして、一人だけでいいって殻に閉じこもろうとしていた。 そんな世界がある日突然に一人の女の子が現れてその子によって変わった。 一緒にいるだけでほわんとするというか、落ち着くというか。そのコの顔を見るだけで自然と笑顔になれた。カワイイ女の子だったから。明らかに関係する。俺は男だし。 そう、俺の周りで起きた変化は伊織という女の子との出会いから変わり始めた気がする。 部屋のベッドでゴロゴロしながら俺は伊織と出会う前、出会う後について考えるようになっていた。 義理の妹である[伊織]には感謝している。いつもそばにいてくれるし……。――そういえば、見たくないモノ達と何かあるたびにずっと伊織はいてくれたなぁ。それにそういう日はいつもより優しくしてくれてたような気がする。 何をやらせても優秀な義妹の伊織は学校でも人気がある。その兄貴の俺も一定の認知度があり、この性格でも浮いてなかったのは、伊織が側にいてフォローしてくれていたから。そのおかげで、この俺にも数は少ないけど友達もできた。 あの理央てコはどうなんだろう? ふと、考えて一つ思いつく。 枕元に出しっぱなしだったケータイを手に取って画面をタップし、カレンと表示させる。 俺は自慢じゃないがこちらから女
last updateLast Updated : 2025-05-24
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第16話 友達として

   数日後。「言われた通りに調べたんだけどさぁ……」「おう、ありがとな」 カレンの事務所近くにあるファーストフード店。その2階の一番奥の席にテーブルをはさんで俺たちは向かい合って座っている。 トップアイドルに近い存在となったカレンは、髪の毛を両側で三つ編みにしていて、有名お嬢様学校高等部の制服を纏《まと》い赤い眼鏡(たぶん伊達眼鏡だと思うけど)をかけている。きちんと変装してるみたいだけど、これが普段からなのかもしれないなぁと思っていまうほど違和感がない。 一応の変装なのかもしれないけど。 コーヒーをすすりながら俺の横に視線を移すカレン。「ちょっと聞くんだけどさ」「なに?」「どうして伊織さんがいるのかしら?」 カレンと向かい合う形で座っている俺の横には今日は伊織の姿があった。 前日に伊織には夕飯はいらないと伝えると、何故なのかって聞かれたから素直に今日の予定を話してしまった。そしたら私も行くと言い張って結局言い負かされた。 義妹《いもうと》曰《いわく》く「カレンさんにカレシがいると思われでもしたら大変」とか「お兄ちゃんがカレンさんに変なことしないように監視する」とか言ってたけど、確かにスキャンダル的なことになったら、俺はともかくカレンには一大事だと思う。 ――でも、兄ちゃん信用されてないのがちょっと悲しいぞ義妹《いもうと》よ。「だめ、でしたか?」「え? いえ、まぁ別に大丈夫よ伊織さん」「良かった。でも、あの、伊織って呼んでもらって大丈夫です。カレンさん」 下を向いて少し赤く頬を染める義妹。その仕草がかわいいです。「で、どうだったかな?」「あ、そうね、その話をしにきたんだったわね。けど……この話を伊織さ……伊織ちゃんに聞かせて大丈夫なの?」「え? まぁ大丈夫だろ。こういう話を周りに言いふらすような子じゃないから伊織は」 クチに指でバッテン作ってうなずく伊織。
last updateLast Updated : 2025-05-25
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第17話 憂鬱な義妹

  車に乗り込む義兄《あに》の後ろ姿を見ながらため息をついた。「また、お義兄《にい》ちゃんはカレンさんといっしょかぁ……」 ホントなら兄の隣で微笑む役目は自分なのだと心の中で何度も思う。 その思いが伝わることは今は無いだろう。 なぜなら私は大事な秘密を隠している。それが義兄に知れてしまうことを恐れているから。せっかく仲良くなれて今はとても大事に思ってくれているだろうことは十分に私に伝わってくる。 だから今は言えない。 だけど、いつかは話をしなければと思う。 そう、私にも義兄《にい》と同じモノが見えているという事を。 私はお父さんを良く知らない。 お母さんと同じ職業だったことは知ってるけど、それ以外はお母さんがあまり話をしてはくれないからだ。 それに外見だって知らない。写真もない。 小さい頃はお爺ちゃんと、お婆ちゃんと暮らしていたけど、お父さんの話が出ることもなかった。 そしてそのモノがいることも当たり前だった。 私も小さい時から見えてたんだ。お母さんもお爺ちゃんもお婆ちゃんも、そのモノは見えてないみたいだったから話せなかったけど、私にはそれが普通の事。 ある時思い切ってお母さんに話したら、すごく悲しそうな顔をして涙を流してた。それが小さい私にも悲しくて泣いちゃった。 それからはお母さんにもそのモノの事は話してない。 私のことで泣いてほしくなかったから。 それから少し大きくなった私に、突然変化が起きた。 お母さんが大きな男の人と、私より少しだけ歳が上の男の子を家に連れてきたの。 この時のことはあんまり覚えてないんだけど、大きな男の人に会ってビックリして泣いちゃったみたい。 その時、男の子が私の頭をポンポンなでなでしてくれたみたいで泣き止んだんだって。実はその時に撮られた写真が残ってて、今は私の大事な宝物としてずっと持ってるの。 それからしばらくしてその二人が新しい家族になった。私にお義兄《にい》ちゃんができたんだ。「いおり~い
last updateLast Updated : 2025-05-26
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第18話 圧迫感

  ところ変わって現在。「ほんとうに一緒に行くの?」「はい、ご迷惑でしょうか?」 う~んって感じでカレンが顔ををかたむける。それを見つめる伊織。 それを少し遠めからみているんだけど、かなり目の保養になるというか、めちゃくちゃ絵になるというか。 我が義妹の伊織だが、カレンというアイドルと並んでも見劣りしないかわいさである。 少し兄として盛ってる感じもするが、そんな事どうでもいいんだ。だってかわいいんだもん二人とも。「シンジ君! いいのかしら?」 困ったカレンがとうとう俺に意見を求めてきた。っていうかカレンの目が「えぇ~?困るから何とかしてよぉ~」って感じになってる。「うぅ~ん、伊織が大丈夫っていういなら……」「ホントに? お義兄ちゃん、私もついていっていい? 迷惑かけないようにするから!」――この、胸の前で手を組んでお願いポーズって弱いんだよねぇ 今はその週の週末、再びカレンが迎えに来ていて家の前での会話中です。 今日も伊織が一緒に行くというので、玄関の前に二人で待っていたのだが、カレンがなかなか納得しなくて首を縦に振らずにいた。 今日の行先は市川家なのだが。 カレンが嫌だと思う気持ちは分かる。少しおかしくなった友達の家に行くのだから、なるべくはそういう事は知られたくないのだろう。もしかしたら、前の事もあるし伊織の事を危険にさらせないと心配してくれているのかもしれない。実は根はやさしいからないい子だからなぁ。 伊織も伊織で珍しい。俺の前ではなかなか自分を出さず、我がままをあまり言うことがなかった。その伊織がこんなに粘っている事なんて、今まで俺は見たことがない。「まぁ、いいじゃないか。危ないところには出さないようにするし、もしもの時は俺が盾にでもなって守るからさ」「あ、ありがとうお義兄ちゃん」――わ、わかったから、ギュウッ! と抱きついてくるな義妹よ。「ま、まぁ、シンジ君がいいなら私は何も言わないわ。でも伊織ちゃん、危ないことはしないで
last updateLast Updated : 2025-05-27
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第19話 友達の定義

  ――でも、いつもみたいな不安が無いんあだよなぁ……。体が軽いっていうか、良くわかんないけど。それに今日は伊織もいるんだからしっかりしないといけないし。ここで逃げ出したらカッコ悪いお兄ちゃんのままになっちゃうし。――よし!! 誰にも悟られぬように一人気合を入れ、そのまま歩を進めていく。 たどり着いた部屋のドアの前。後ろを振り返ると、すぐ後ろにはなんと伊織がいて、俺のシャツを掴みながら付いてきたようだ。そのあとに、カレン、そして響子さんが続き、なんとお母さんまでもが一緒にここまでやってきたようだ。 一息ついて気合を入れたら、ちょうど伊織と目があった。「だ、だいじょうぶ、お兄ちゃんが守ってやるからな!」「へぇぇ? あ、う、うん」 何だろう? 俺なんか変なこと言ったかな? 伊織が下向いちゃったけど。 まぁいいや。考えるのは後にしよう。「は、入るぞ!!」「「「はい」」」 ガチャッ ほぼ真っ暗な部屋の中に一人たたずむ女の子。理央だ。 その周りを渦を巻くように流れ出ている闇。「り、理央」 カレンが言葉をかける「理央、来たよ」 ぴくッと体だけが反応した。しかし返答はない。「理央、お友達がきてくださってるわよ?、一緒にあそんだら……」 お母さんが続けて声をかけたが途中でかき消された。『とも――だち?』 この声色、人のものじゃない。理央さんの声じゃない。遅かったのかもしれない。『とも――だち――な――んていな――い! わ――たしには――ともだちなん――ていないの!! 』 理央の周りにうごめいていた黒い闇が、覆いかぶさるように襲いかかってきた。「「きゃぁ!」」「うわっ!」 カレンと響子、お母さんの三人は壁まで飛ばされて打ち付けられた。 俺は何とかその場に踏ん張ることでたえることができた。そして伊織は俺の腰に腕を回して耐え抜
last updateLast Updated : 2025-05-28
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第20話 俺のセリフじゃないかな?

 「カ、レン……」「理央、負けないで!! あなたならできるわ!!」 理央を助けたいというカレンの願いは、わずかだが闇に引きずられていく彼女の心に届いたようだ。 だがまだ、まだまだ足りない。それは、彼女の理央の後ろから放たれている黒いモノの勢いが、わずかに衰えたに過ぎない。 それほどまでにこの理央の心は閉ざされかけていくるのだ。 手を伸ばして、理央に近づこうとするカレンを伊織と二人で押しとどめる。「だ、ダメだカレン! まだ、彼女には戻ってない! 足りないんだ!!」「で、でも!!」 このままではまだ足りない。それは分かっているんだ。 でも、俺も怖い、気を抜くと引きずられそうになる。 ――くそっ!! 壁際でうずくまり、震える家族。二人の前に歩み寄る。時間がない。ここで説得できなきゃたぶん彼女は戻らないだろう。「あなた方、あなた方も何かあるでしょ? 言わなきゃいけないことが。彼女はそれを待ってる」「私たちも?」 震える声で響子は答える。「あなた方は家族だ。なのに家族として、姉として母としてちゃんと向き合ってきたと言えますか?」「そ、それは……」「理央さんはいつも一人だと言っていた。それは家族といるときでさえも思っていたはずです。ならその原因を作ったのはあなたたちなんだ」 我ながらかっこいいこと言ってるけど、内心すごいドキドキしてた。だってこの二人とすらまともに話してないのに、イキなりこんなこと言われてもピンとこないんじゃ? なんて思ったから。 でもその想いは届いてくれたみたいだ。「理央、理央ごめんなさい。私、ちゃんとお姉ちゃんじゃなかった。一緒にいたのに分かってあげられなかった。ほんとにごめんなさい。理央は大事な妹なの!! たった一人の大事な!! だから行かないで!!」 姉の響子は理央のそばまで歩み寄り、涙を流しながら頭を下げた。「ごめんなさい理央。あなたが悩んでるなんて思ってなかった。良いこ
last updateLast Updated : 2025-05-29
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