All Chapters of 幽霊が見えるからって慣れてるわけじゃない!!: Chapter 81 - Chapter 90

97 Chapters

第70話 兄妹なんだから

   時間が経つのは次早いもので、夏休みに入って初めての金曜日。 俺と伊織は一足先に〇〇市へと来ていた。ほとんど外出することのない俺にとってはかなりの長旅に感じた。待ち合わせの駅へと到着して頃には、暑さと少し疲れを感じて体が重く感じた。そもそもなぜ金曜日から来ることになったかというと。「あ、いたいた!!」「相馬さんお久しぶりです」「あらぁ~、相変わらず伊織ちゃんはかわいいねぇ~」「きゃぁ!」 どこに行っても伊織は人気だという事を改めて思い知らされる。抱き合う二人を見ながらしみじみ思う。「わざわざありがとう藤堂クン、伊織ちゃん」「いやいや、こちらこ日暮さんごめんね、義妹《いもうと》まで連れてきちゃって」 日暮さんは目を細めながら首を横に振る。「大丈夫です。あ、今日と明日の宿泊場所は確保しておきましたので安心してくださいね」「あ、ありがとう」「こっちよ」って手招きされてそちらに荷物を持って向かう。 相馬さんと伊織がまだじゃれあってるから伊織の分も一緒なので結構な荷物量になる。こう言っちゃなんだが、俺もそれなりに筋力はある方だけど結構プルプルと腕が震えてるのは何故だろう?――伊織さん? どうしてこんなに荷物が重いのかな?  そう日暮さんの参加するお祭りが土曜日からで、土曜日はとても抜け出して迎えに行けないとのことで、俺と伊織だけが前ノリする事になったのだ。 ちなみにカレンと市川姉妹はまっすぐ別荘に土曜日から向かうらしい。そして明日合流してそのままみんなで別荘に泊まるという計画に変更された。もちろん俺の意見が採用されることなく予定は着々と進められていた。しかしこの体の重さは……。「あの車に乗ってください」 日暮さんが指したのは少し大きめの車で、運転席には男性の姿がある。 コンコン「お父さん、着いたわよ」 窓ガラスをたたきながらそう合図すると、男性が車から降りてきた。メガネをかけたすごく優しそうな眼を持った方
last updateLast Updated : 2025-07-29
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第71話 お願いねぇ……

  「とりあえず荷物を置こうか」「あ、うん……」 これは俺も予想してなかった。まぁ兄妹なのだから同じ部屋になっても不思議ではないんだけど、これまでの俺の人生で伊織と二人きりの部屋に寝るいうシチュエーションは無かった。こういう時どうしたらいいか困る。「「あの」」――こういう時にハモッちゃうあたりは兄妹《きょうだい》ぽいんだけどなぁ。「あ~と、伊織がお先にどうぞ」「え、あ、と、その、わ、私は別にだいっ丈夫だよ。うん」「そ、そうか……まぁ伊織がイイなら俺も別にいいんだけどな。兄妹《きょうだい》だし」「そ、そうだよ!! 兄妹なんだよ!! やだなぁお義兄《にい》ちゃんって何言ってるのかなぁ」 わたわたと荷物を下ろしたり持ったり繰り返してるって事は、伊織もまだかなり動揺してるみたいだな。――俺は特に何も言ってないんですけどまぁいいや…… それにこの家に入ってから感じるこの空気感の事を少し伊織にも話しておいた方がいいかもしれない。「伊織」「ぴゃぅ!!」――ぴゃぅ!! ってなんだよ。声かけただけでそんなにビックリしなくてもいいのに、兄ちゃんちょっとショックだぞ。「ご、ごめんお義兄ちゃん。なに?」「あ、うん。伊織は本当に大丈夫なのか? けっこう俺は感じてるんだけど」「う~ん」 アゴに手をにせて考え出す伊織。――考え込むことで少し落ち着いたかな?「私はそんなにつらくなるほどじゃないんだけど、お義兄ちゃんはどんな感じなの? 感情とか流れ込んできたりしない?」「感情……か。そうだな。なにかいろいろなものが混ざった感情が流れてきてはっきりとは言えないけど、一番強いのは「帰りたい」そう思ってるみたいだな」「帰りたい……か」「母さんは何か言ってこないか?」「残念だけど、こ
last updateLast Updated : 2025-07-30
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第72話 巫女さん姿

   そこは、広い敷地の中に演台が一段高く造られ、幅も五十メートルもあろうかというようなたもう一つの社で、舞台と呼ぶのに相応しい建物だった。「ここで……踊るの? 大勢見てる前で……俺には無理だな」「ふふふっ」 笑い声に驚いて振り向くと日暮さんがすぐ後ろに立っていた。 心の中で言ったつもりだったけど、クチから漏れてしまっていたみたいだ。「そんなことないよ。小さい頃から踊ってれば、これが普通になっちゃうから」「す、すごくかわいいです!! 綾乃さん!!」 伊織の眼がキラキラしている。気持ちは分かるけどね。日暮さんの恰好が巫女さんの袴姿だったから。どうして女の子って、こういう姿になるとカワイイ感じに見えてきちゃうんだろう。「伊織ちゃんも着てみる?」「え!? いいんですか!!」「良いよう。今日は練習だけだしね。明日は残念ながら出してはあげられないんだけどね」 きゃいきゃい言いながら二人で着替えに楽屋の方に戻って行った。――伊織の巫女さん姿か……。 見てみたい気もするけど、見たくないないような気もするし、誰かに見せたくないような気もしてくる複雑な兄心だ。「お、お義兄《にい》ちゃん、どうかな?」 そこには俺の知らない巫女姿の美少女がいた。「あ、あう……」「あれれ? 藤堂クンどうしたの?」 面白がってのぞき込んでくる日暮さんの後ろでもじもじしている美少女。「い、伊織……か?」「ほかに誰もいないよ?」 首をかしげて不思議がる伊織。「くっ!!」 じぃ~っと見るだけで何も言えず固まる。信じられなかったから。少し化粧しているみたいだけど、普段の伊織とは雰囲気が違ってた。こんな感じは今まで経験したことが無い。「じゃぁ、伊織ちゃん少し踊ってみる 」「よ、よろ
last updateLast Updated : 2025-07-31
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第73話 覚えてるよ

  『今度はあの子がこれを踊るのね』 優しい眼をして舞台を見る綾香さんは本当に嬉しそうだった。「今度は……と事は前は綾香さんが?」『そう。こうなる前はね』 少しだけふわりと浮いて見せる。 前に会った時もそうだったけど、この霊《ひと》からは悪意のようなものが感じられない。 だからなぜこの世界に留まっているのか、俺には分からないでいた。『本当はこうなるって分かってたから止めたかった。でも裏目に出ちゃったみたいでこうなっちゃった。私は綾乃には同じ道を歩んでほしくない。だからあなた達にお願いするの。どうかあの人達を止めて欲しいの』 綾香のその言葉が出た瞬間、周りにすごく暗い影と震えるくらいの寒気が襲ってきた。 伊織の方を見てうなずくと、伊織もうなずく。やはり霊《ひと》を救うのはその事を解決しなければならないみたいだ。「あの人たち……て誰の事ですか? 綾乃さんを救いたいのなら教えてください」『もう二人の巫女、松田由紀《まつだゆき》、北方万由美《きたがたまゆみ》。それと男性方の鶴田剛明《つるたたけあき》この三人よ』「そうですか。それからこれは大事な事なのですけどあなたは死んだときの事を覚えてますか 」 先ほどよりも更に冷気が満ちてくる。『ええ。覚えているわはっきりと』 そうクチにした途端、綾香さんは振り向いて消えていった。 気になった俺は、その向いた方へ歩いて行った。それともう一つやることがある。電話を掛ける事。 舞台袖、その裏まで一通り見て回ってきた俺が戻ったときには、日暮さんは舞終わっていて伊織の横に座り談笑していた。邪魔しないように離れたところに立ってその様子を見つめる。 先ほどの綾香との会話を思い出す。――全てが真実とは限らないけど、まして相手は霊だ。憎しみや恨みが全くないとは考えにくい。その想いがある以上覚えていることも少し増幅された形で残った物なのかもしれないし。ただ、綾香さんの心残りはそれじゃない
last updateLast Updated : 2025-08-01
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第74話 エスパー降臨

 「これで良し!!」 隣で気持ちよさそうに眠る伊織を起こさないように、静かに部屋を抜け出して朝早くから出かけた俺は、舞台の表側を一回りしてから観客席側へと移動して、目的のモノを回収・修理をしていた。 もちろん昨日の話から推測した事件の裏側をつぶすために。 日暮さん親娘から聞いた話だと、綾香さんはこの舞台から落ちて命をなくしたことが分かった。そして名前の挙がった三人。少し調べたら前にも同じことが何回か起きていた。まず関係してるとみて間違いないだろう。そして今年も舞のお披露目がある。その三人がまた何かをしてくるのは少し考えればわかる事。 そうはさせないためには、初日と明日の舞は事前の安全確認を完全にしておかなければならない。朝の確認は俺がやっておいたし、写メも念のために撮っておいた。変化があればすぐに分かるだろう。 一息ついて日暮邸に戻る。玄関先でぷんすか怒っている伊織が待ち構えていた。どこ行って来たのかしつこく質問攻めにあったけど、頭をなでなでしてやって説得し何とか落ち着かせることに成功した。 最近、伊織はなでなでしたりすると大人しくなることを発見した俺は、こういう時に実践してみる。今のところ効果は抜群のようだ。――さて、ここから忙しい二日間がはじまるなぁ。 中庭を見渡せる廊下で空を見上げながらそんな気持ちが込み上げて来ていた。  その間にも影でうごめく者たちがいた。「どうなってるんだ!? ちゃんとやっておいたのか!?」「へい!! 昨日見た時にはちゃんとなってましたけど」「クソ!! 間に合わんか!! すぐに始めろ!! もう一度やるんだ!!」「し、しかしこれ以上やったらバレますぜ!? それでも……」「構わん!! 多少の事は潰してやる。それにまだあの二人の事もあるからな」「わ、分かりやした」 舞台の近くで怪しく動き回る影が数人舞踊開幕まで残り約四時間。 一方では。「さてと……
last updateLast Updated : 2025-08-02
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第75話 全然いいよ

   「そこで何してるんです?」 俺と相馬さん二人の前に人影が二つ。 そこは舞台の前にある先端部に続く花道の一つ。その真下に位置する場所だ。そして踊り終わりに近づいた日暮さんが通る場所でもある。「な、なにって」「何もしてないぞ。ただ今日の舞台の調子とリハをしてただけだ」 そういう人影の片方はたぶん[鶴田]という男方の一人だろう。もう一人はこの男に使われてるだけだとは思うが、万が一のためにすべてを擦《なす》り付けるための保険かな。「そうですか……変ですね」 俺はその男たちのいた場所を見ながら切り出した。「な、何がだ」「朝、俺が見た時とは仕掛けも道の上も形状が違ってます」「な、なにを言っている。そんなことがあるはずないだろう」 明らかにうろたえ始める二人。「いえいえ、朝来た時に写真を撮っておいたんですよ」 そう言って二人に向けてスマホをかざす。ノドがなる音が二人から同時に聞こえた。「そ、そんなモノだけで何の証拠になる」「あぁ~、それと今してたことも撮ってもらってました」 俺のあげた手を合図に少し離れたところに止めてある車から三人の女の子が降りてきて、こちらの方にゆっくりと向かってきている。 俺が昨日電話をした事の一つは、この用事を済ませる為。もちろん呼んでおいたのは今日から近くでお泊りをすることになっているカレンと市川姉妹だ。車を運転してくれてた市川夫妻にも後で感謝を述べなくてはならないけど。「さて、もう言い逃れはできませんけどどうしますか?」「く、くそっ!!」「つ、鶴田さん!!」 すると突然冷気が漂い始める。ピリピリと肌に感じ始めたこの感情は最近も感じたことのある物で。男二人をにらみつけるようにその側に立つ綾香の姿がそこに現れようとしていた。 だんだんと濃くなっていくその姿は、たぶんここにいる皆にも視え始めたかもしれない。それほどまでに強力な感情が流れていた。
last updateLast Updated : 2025-08-03
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第76話 くすっ

   舞台袖の楽屋近くでは。 お義兄《にい》ちゃんから電話が来て、外で起きた事とこれからみんなで行う事の内容を聞いて、自分がこれからしなくちゃいけないことを確認した。「ちょっと、連絡来ないんだけどどうなってるかしら」「由紀ちょっと落ち着きなよ!! あんまり騒いでると気付かれちゃうよ!!」「うっ!! そ、そうね」「もう遅いと思いますよ」 少し離れたところで今話し終えたばかりのケータイを片手に持ち、私は隅でこそこそと話をしている二人の方に静かに歩いて行く。 この二人が、綾香さんから聞いていた女性に違いない。「今、義兄《あに》から連絡が来ました。お二人のお待ちになってる男性からの連絡は来ないと思いますよ」 声を掛けられた二人は体を大きく震わせて、明らかに動揺しているようだ。「な、なんの事かしら」「そ、そうね。なんの話をしているのか分からないんですけど」 演舞の準備のため集まっていた人たちも私たちの子の話し合いに気付いたみたいで、手を止めてこちらに顔を向け始める。綾乃さんも気づいたみたいで静かに近寄ってきて、私の横まで来ると立ち止まった。そのまま二人を見つめる。 私は一つ大きなため息をついた。「そうですか。素直に言ってくれれば事を大きくせずにこのまま引き取ってもらおうと思っていたんですが……」 隣にいる綾乃さんに視線をチラッと向けてまた前にいる二人に戻す。「??」 視線に気づいた綾乃さんが不思議そうに私を見てきたけど、その視線に微笑みだけを返した。本当ならここから先の話は聞かせたくなかったんだけど……。 周りに人が集まって輪になりつつあり、ざわざわとし始める。「松田さんに北方さんですよね? お二人なんですね綾香さんの亡くなった事件の犯人は」「な!?」 目の前の二人はもちろん、隣にいる綾乃さんも含めこの言葉を聞いた周りの人たちからざわつきが消えた。「向こう
last updateLast Updated : 2025-08-04
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第77話 同情するつもりは全くない

   その冷気はあまりにも強くて私も声を掛けるのをためらうほどだった。ただその顔は少し悲しそうにも見えた。私もけっこうな数の霊達に会ってきたけど、目の前に現れようとしている綾香さんの気持ちのこもった圧はなかなか体にこたえる。 ただ、私の中にはお義母《かあ》さんがいてくれるおかげで、これだけで留まっているとも理解している。「綾香さん」『心配しないで伊織ちゃん。この人たちに手は出さないから。あなたのお兄さんにも、あ母さんにも止められたからね』 こちらをチラッと向いたまま彼女は私に向かって声をかけた。「え!? お義兄《にい》ちゃんとお義母《かあ》さんが?」『ただ、言いたいことは言わせてもらうわよ!!』という言葉と共に完全に綾香さんの顔は女性二人の方へ向いた。『あなたたち!! 家柄とかにこだわってばかりで体裁《ていさい》ばかりを気にするあなたたち!! 努力は裏切らない!! 覚えておきなさい!!』「ご、ごめんなさい!!」「ゆ、許して!!」 そのままガクガク震えながら崩れ落ちるように床の上に座り込む二人。一人は泣き崩れてしまっていて、一人はずっと綾香さんに謝り続けていた。 それを確認して少し微笑むように綾香さんは少しずつ消えていった。消える間際に私の方をゆっくりと振り返り、ニコッと笑っていたその顔がとても綺麗だと思った。 時計がその場でだけは止まったかのように誰一人動けないまま、ただただ二人を見続けていた。  俺が舞台の上に駆け付けた時、ちょど綾香さんはみんなの前からスーッと消えてしまうところだった。それまでは伊織の方を向ていたけど、こちらに気付いたのかその顔は優しく微笑んでるように見えた。とりあえずそのままにしているわけにもいかないので、まずは伊織に近寄っていく。「い、伊織大丈夫か!?」「あ、お義兄ちゃん。お疲れ様」「その二人……」 伊織のそばまで行くと、女性二人が今は見えなくなった彼女に許しを請《こ》う言葉を唱え続けていた。
last updateLast Updated : 2025-08-05
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第78話 何で泣いてるんだよ

   その横では舞台上で結構な騒ぎになっていた。舞う予定の巫女さん二人と、それに付きそう男方が一人の合計三人が抜けてしまう事になる。その代役として舞台上で舞う巫女さんの事、演舞の題目や舞台点検修理のため。「だめだ!! 巫女さん一人は今こっちにはいないそうだ」「どうする? 延期にするしかないか?」「いやダメだ。今まで何が有っても中止はもちろん延期もした事の無い行事だ。何とかして探すしかない」 そんな話が飛びかう中で一人考え込んでいた日暮さん。突然立ち上がってこちらに真顔のまま向かってきた。「藤堂クン、妹さんお借りできない?」「「「は?」」」 三人から同じセリフが飛び出した。まぁ確かにここに藤堂は三人いるんだけどね。「あぁ、ごめんなさい言い方を変えるね。伊織ちゃん……一緒に踊ってみない? どうかな藤堂クン」「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」 どちらにしても三人から同じような声が舞台の上に響き渡った。ただまぁ俺はそうなるんじゃないかと半ば予想はしていたからこそ、伊織には残ってもらっていたんだけど。それに伊織が舞うところをもう一度見てみたいなんて考えも有ったりなかったりするのは内緒だ。  シャンシャンシャンシャンシャン「ダレ?」「かっわいいぃ」「綺麗ねぇ」 俺達の前にいる舞を見に来た人たちから歓声が上がっている。隣では。「ううぅ」「父さん、何で泣いてるんだよ」「伊織も……大きくなったと……思ってな」 そう。現在その伊織は目の前の舞台の上で毎を踊っている。練習用のなんちゃって巫女さん姿ではなくて、演舞用のすごく綺麗な衣装を着て少しだけ化粧をした姿で。「確かに、綺麗だ……」  一生懸命に舞うその姿は本当に綺麗だと思った。   後々
last updateLast Updated : 2025-08-06
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第79話 つまんなくない?

  空の上から眺めること幾年。人々は変わった。争いだけが日常だった幾百年も昔。自分が何かできるとおごり手を出した。それが元で争いが続いていくとも知らずに。 今は世界の国と言われるところで数々の争いがおこる中、自分はここにたたずんでいる。いや動けずにいる。もう終わらせたいとも思う。誰かこの想いを受け止めて欲しい。 今はただ眠りたい。 元々いた場所に帰れるとは思っていない。帰る気もない。 この場所で、この土地で眠りたいただ今はそれだけを|希《こいねが》う  わたしは今、とてつもなく心の中につまらなさを感じている。 カレン事、私と他のみんなで二日間、藤堂兄妹《とうどうきょうだい》ナシで過ごす事になったんだけど……「なんか……つまんなくない?」「そうねぇ……」「二人とも寂しいだけでしょ?」 少し歩けばこの市川邸が保有しているプライベートビーチに行けるのだが、今日は何か行く気にならない。やっぱりなんか物足りない感じなのよね。だから、この理央《りお》の言葉にも否定できなかったんだけど、なんだろう? 響子まで黙っちゃったけど。「ねぇ、カレン……」「な、なぁに?」「真司君と何かあったの?」「え!? な!? えぇぇぇぇ!!? どうして!?」 響子から振られた言葉に完全に動揺してしまった。「なんだか…少し前、夏休みに入る前位から様子がおかしいから……かな?」「べ、別に何もないけど!?」「「ふぅ~ん」」――さすが双子だなぁって思う。返事がそろっちゃうんだよね。「あ、あのね、実はあたしシンジ君と約束してた事があってその話をちょっとしたかな?」「どんな約束?」「その……か、カノジョになってあげるって……」「「えぇぇぇ!!」」
last updateLast Updated : 2025-08-07
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