──アルヴァレス旧都近郊、かつてハリナと呼ばれた集落。焼け焦げた家屋が、骨のように崩れていた。黒く焦げた木の柱、熱でねじれた金属──その中に、いくつか“見てはいけないもの”があった。子どもだっただろう、小さな身体の焼け跡が、壊れた窓の下で丸まっていた。まだ何かを守ろうとしたような姿勢で。「っ……」マリアンが目を覆い、膝をついた。誰も声を出せなかった。リリウスは、よろめくように一歩前に出る。焦げた残骸のそばに、半分溶けかけたセラフィアの護符が落ちていた。それは、まるで祈りごと焼き殺されたかのようだった。「光を語った──それだけで、ここまで……?」声はかすれ、誰に向けたものでもなかった。「家族ごと焼いたんだ、見せしめとして」低く呟いたのはヴェイルだった。「……ここまでやれば、誰も祈らなくなると思ったんだろう。宗教心も、希望も、すべてを“焚いた”んだよ」リリウスは唇を噛みしめた。拳を握りすぎて、指先から血が滲む。「僕が……もっと早く来ていれば……」「違う」カイルが短く言った。「それは、お前が背負うものじゃない」沈黙の中で、ひとりだけ歩みを止めない者がいた。──リーネ。彼女は焼けた家の残骸に近づき、胸に手を当てる。「これは“証拠”として、記録に残すべきもの。目を逸らしてはならない」誰もそれを否定できなかった。風がまた、焦げた空気をかき乱して吹き抜けた。それと同時に、足音が一つ響く。全員が身構えたその視線の先には──「お久しぶりです、殿下。……お怪我は、ありませんか?」セロがいた。その笑顔は変わらず、どこか懐かしい。「セロ!……怪我が治ったとは聞いていたけど、ヴァルドに入ってからは気を遣えなくてすまない」リリウスが低く言うと、セロは慌てて首を振る。「全然大丈夫です!僕は……あの時、殿下を守れて、少しでも役に立てたなら本望ですから!」その純粋な口調に、リリウスは一瞬、言葉を失う。そして小さく、息を吐いた。「そんな大それた人間ではないよ、僕は……でも、先に来ていたんだね」「はい。神王陛下から密命が出ましたので」その一言に、リリウスの目が見開かれる。神王と呼ばれるのはこの大陸には一人しか存在しない──その王の命を受けてここに来たということは、つまり。「……君はクラウディアの?」セロは小さく、でも誇
Last Updated : 2025-07-16 Read more