王宮の会議室には、春の陽射しが静かに差し込んでいた。それはいつものようでいて、何かが違う朝だった。神王アウレリウスの下に、各機関の要人が集まり、ひとつの議題が告げられる。──リリウス=クラウディアの正式な処遇について。宮廷、神殿、軍部、魔塔、外務庁、そして王族の席。重ねられた視線の先に、リリウスがいた。その表情に迷いはなかった。「発言を、願います」一歩、壇上に出る。背筋はまっすぐ、声は澄んでいた。「僕は、クラウディアに保護されたわけではありません。保護された立場から始まったのは事実ですが、今、ここに立つのは僕自身の意志です」重い沈黙が落ちた。「僕は“逃げてきた”王子です。そして“棄てられた番”です。婚約という名で囲われ、手段として扱われてきました。ですが今、この国は──僕に選択を与えてくれている」胸元に手を置く。「王位継承権について。……僕は、これを放棄します」ざわめきが広がった。継承権放棄は、すなわち“王族としての道を降りる”という意味を持つ。だが、リリウスは言葉を重ねる。「元々はアルヴァレスに嫁ぐ時点で消滅していたものです。……でも僕はこの国に残ります。今の僕には確かに肩書きは曖昧です。けれど、誰かの所有物でも、道具でもない。僕は、僕自身としてここに立ちたい」会議の空気が、わずかに変わった。誰もが、目の前の若き王子を見ていた。逃げ出した少年ではなく、“自分の意思を持った存在”として。だが、次に発言したのは、意外な人物だった。「発言を、許可願います」カイル=ヴァルド。連邦軍総帥にして、連邦元首の息子──そして次期元首に最も近い男。「ヴァルド連邦としての公式立場は、今後外交官に委ねられるべきでしょう。ですが、ここで語るのは、あくまで一個人──“カイル”としての意志です」静まり返った場で、彼は真正面からリリウスを見据えた。「自分は、婚姻や国家間の利害から離れて、リリウス=クラウディアの背を守ると決めています。王子としてでも、特別大使としてでもない。ひとりの人間として、この人の選んだ立場と戦いを、支える覚悟です」それは、どの政治声明よりも重い一言だった。リリウスの表情が、かすかに動く。その瞬間、神王アウレリウスが立ち上がった。誰もが次の言葉を固唾を呑んで待つ中──兄は、ただ一言、こう言った。「……好きにしろ
Terakhir Diperbarui : 2025-07-06 Baca selengkapnya