未明の山岳地帯。夜がまだ完全には明けきらぬ空の下、クラウディアとヴァルドの合同部隊は静かに動いていた。進行ルートは、王国と連邦の間に横たわる険しい山道。だが、単なる地形的な難所ではない。そこには、王国が過去に設置した魔力障壁が未だ残されていた。「術式の分析には時間がかかります。ですが、殿下の魔力なら……」クラウディア側の術士が慎重に結界を調べながら言う。リリウスは、障壁に指先をかざした。微かな振動──それは、拒絶ではなく、共鳴の予兆だった。「触れてみます」リリウスが静かに結界に手を当てると、術式の幾何学模様が淡く光を帯びる。王国の術式に使われている基本構造は、クラウディア式とも近しい部分がある。だが、そこに込められた“意図”が違う。これは、通さないための結界──恐れと支配の結界。「……消えるか、こんなもの」その言葉とともに、リリウスの魔力が流れ出す。感応の力が術式を塗り替え、障壁の輝きが静かにほどけていく。「……開いた」術士たちの声が上がり、部隊は静かに再始動した。道の途中、リリウスとカイルは岩陰で小さな休息を取っていた。「魔力の制御、安定してきたな」「はい……まだ、封印の痕は残ってますけど。今は、自分の魔力を“使っている”という感覚があります」カイルは少しだけ笑う。「変わったな、君は」リリウスは、その横顔を見て、ふと目を伏せた。「……カイル様は、最初から変わらない気がします」「そうか?」「強くて、冷静で。でも……僕を拾った時も、今も、優しい」それは、今まで誰にも言えなかった本音だった。「僕、最初はあなたのこと、怖かったんです」「よく言われる」思わず噴き出したリリウスの笑い声に、カイルが目を細めた。「でも今は……怖くない。むしろ、安心するんです。あなたがそばにいると」短い沈黙のあと、リリウスがふと、カイルの肩に額を預けるように身を寄せた。「僕……あなたに、会えてよかった」カイルはしばらく言葉を探すように沈黙して、やがて小さく呟いた。「……こちらこそ、だ」その言葉に、リリウスの目が僅かに潤む。だが、その涙は流れなかった。いま、この瞬間だけは、弱さではなく“証”として胸に刻まれていた。再び歩み始めた一行。だが、遠くの尾根に翻る軍旗を、真っ先に見つけたのはリリウスだった。──アルヴァレス王国の
Terakhir Diperbarui : 2025-06-26 Baca selengkapnya