Lahat ng Kabanata ng 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜: Kabanata 151 - Kabanata 160

177 Kabanata

縁語り其の百五十一:君の涙、僕の覚悟

「っ……!」美琴が両手で口元を覆い、ただ僕を見つめていた。その瞳は、まるで信じられないものを見るかのように、震え、揺れ……やがて、堰を切ったように涙が溢れ始める。ぽろり、ぽろりと大粒の涙が頬を伝って落ちていく。その一粒一粒が、僕の胸を締め付けた。「……ずっと、好きだったんだ」この気持ちは、もうずっと前から始まっていたんだと思う。最初に出会ったあの桜の下で、一目見たその横顔に心を奪われて。でも、本当に惹かれたのは、君と一緒に過ごした時間の中で、その心に触れたからなんだ。ひたむきに努力して、霊たちに優しく寄り添って、ときに誰よりも勇敢で、でも……誰よりも脆くて、泣き虫で。僕の名前を呼んでくれる声が、隣で笑ってくれる顔が、もう……愛しくてたまらない。「ゆ、悠斗君……っ」美琴が、涙をこらえきれずにその場に崩れ落ちる。肩を震わせて、まるで子どものようにしゃくりあげる彼女を、僕は何も言わずに抱きしめた。小さな身体を、そっと腕の中に包み込む。「……よしよし」背中を撫で、髪に指を通し、優しく頭を撫でる。涙で濡れた頬に触れるたび、僕の胸も痛くて苦しくなった。「わたし……私は……っ……!」うまく言葉にならないその声が、それでもたしかに、僕の心の奥に届いてくる。まだ一年。ほんの一年の、短い時間。だけどその中で過ごした日々の濃さは、僕らの人生を大きく揺るがすには、十分すぎた。霊に寄り添い、命を懸けて戦って、何度も絶望の淵に立たされて、それでも──いつも、そばにいた。だから、これはもう……“好き”なんて言葉じゃ足りないくらいの想いなんだ。僕は──泣きじゃくる彼女の唇に、そっと、自分の唇を重ねた。小さく震えるその唇は、涙の味がして、どこまでも柔らかくて、どこまでも温かかった。そして、同時に震えていたのは、僕の方もだった。この小さな身体で、美琴はどれだけの痛みを抱えてきたんだろう。どれだけの絶望を見て、それでも立ち上がってきたんだろう。なんで、こんなか弱い一人の女の子に、これほどまでに過酷な運命を背負わせたのか。神様だとか、
last updateHuling Na-update : 2025-07-29
Magbasa pa

縁語り其の百五十二:白無垢の君、最後の朝

鳥のさえずりが、遠くの森からかすかに届いてくる。ひんやりと澄んだ朝の空気が、部屋の静けさを際立たせていた。……朝が、来てしまった。眠っていたはずなのに、胸のざわつきのせいか、いつもより早く目が覚めてしまった。布団の中で身を起こし、ぼんやりと窓の外を見つめる。夜明け前の空はまだ薄暗く、遠くの地平線がわずかに白んでいた。隣では、美琴が静かな寝息を立てている。その寝顔は穏やかで、まるで何事もない日常の続きのように見えた。「……美琴」僕はそっと、彼女の方へ身体を向けて、再び横になる。起こさないように、その柔らかな髪をそっと撫でた。指先に感じる温もりが、胸を締め付ける。(沙月さん……)心の中で、静かに祈る。どうか、彼女を守りきれる力を……僕に。たったそれだけでいい。どうか、力を貸してください。そう願いながら、もう一度そっと目を閉じた。 ***朝日が畳の上に長い影を落とし始めた頃、僕たちは長老の家を訪れていた。「悠斗。もう一度だけ、尋ねる」長老が、真剣な眼差しで僕を見つめる。「おぬしは、本当に──自分まで死ぬかもしれない地へ赴くという、その気持ちは変わらぬのか?」「はい」迷いはなかった。「この心は、もう揺らぐことはありません」そう答えると、長老は深いため息をついて目を伏せた。その横顔には、困ったような色が浮かんでいる。だけど同時に、どこか少しだけ……誇らしそうにも見えた。「……はぁ。美琴も大概じゃが……おぬしも大概じゃな……」ぽつりと、呆れたように言う。でもその声には、確かな温かさが滲んでいた。「……だからこそ、礼を言おう」長老が、静かに言葉を継いだ。「美琴を、これほどまでに想ってくれて……儂は感謝しておるよ」その言葉に、胸の奥が熱くなる。本当は、長老もこんな犠牲……望んでなんかいないんだ。この人の優しさは、先日のやり取りで十分に伝わっていた。だからこそ、今の言葉が、余計に重く感じられる。「よし……美琴。琴音様の巫女服に、着替えておいで」
last updateHuling Na-update : 2025-07-30
Magbasa pa

縁語り其の百五十三:その花は血を啜りて

整地された山道を、僕たちは並んで登っていた。石畳の足元はしっかりしているのに、心の中だけが妙にぐらついている。冷たい山の空気が、やけに重く感じられた。その時──「ねえ、悠斗君」美琴が、ふと立ち止まって僕を振り返った。「ん? どうしたの?」「悠斗君って、琴音様の伝説……ちゃんと知らなかったよね?」「うん。詳しくはまだ聞いてない」彼女は小さく頷き、少し寂しそうに微笑んだ。「これから、琴音様と向き合うんだもん。少しでも伝説を知ってた方がいいと思って」「……うん。そうだね」想いが力になるのなら、こういう“知ること”もきっと意味がある。それに、あの琴音様がどんな存在だったのか……僕も知っておきたかった。「まあ、知らなかったのは当然かも。私がちゃんと教えてなかったから……」ぽつりと、美琴が視線を落として言う。きっとそれも、僕を巻き込まないように、遠ざけようとしていた結果なんだ。……その選択がどれだけ辛いものだったか、今ならよく分かる。「だから……今から、その文献の内容を話すね」「……うん。お願い」美琴は一度だけ小さく深呼吸して──目を閉じ、古の物語を静かに語り始めた。> 【一、無垢の童女】> 無垢の童女、泣かず、笑わず。> 村人これを忌みて、「鬼の子」と呼びて遠ざく。> 時至りて、生贄として御神に捧げらる。> 然れど神、己が声を唯一聴く童女を深く気に入り、> 常世の底より命を繋ぎ、此の世へと還し給う。> 是により童女は命を落とさず、村へと帰還を果たす。> この出来事、後に「第一の生還」として語らる。> 【二、神を鎮めし舞い】> 還りし童女、村に迎えられ、> 「救世の子」と崇めらる。> その身、唯一神の言葉を聴きし者なり。> 童女、不可思議なる力をもって神威を鎮め、> 御神の怒り、やがて静寂へと至る。> 再びの生贄を求めし神に、童女は応えず、> 「我、命を捧げぬ。ただ、祈りを捧げよう」と言い放つ。> 神は沈黙を
last updateHuling Na-update : 2025-07-30
Magbasa pa

縁語り其の百五十四:天、堕つる日

「じゃあ、悠斗君……これから、封印を解くよ」その一言に、僕は思わず息を呑んだ。声は穏やかなのに、そこに込められた決意があまりにも重くて、胸が軋む。美琴はゆっくりと、神楽髪飾りを頭につけた。白蛇を象ったその装飾が、禍々しい神木の前で、清らかな光を放つ。その姿は、まるでこの地に遣わされた“最後の巫女”のようだった。ただそこに立っているだけなのに、神聖で、そして今にも消えてしまいそうに儚げだった。僕たちは、ゆっくりと木の幹へと近づいていく。目の前には、“神木”。巨大な桜の幹が、墓標のように静まり返っていた。そして、その目前で、美琴が立ち止まる。「悠斗君……改めて、ありがとう。ここまで一緒に来てくれて……本当に、ありがとう」彼女が振り返る。その声は、ふっと吹いた風のように優しくて、でもどこか泣きそうだった。「きっと、私ひとりだったら……とっくに心が折れてたと思うから」その言葉を聞いた瞬間、胸が詰まる。当たり前だ。これほどの重圧の中、自らの命を削る覚悟を抱えて、誰が一人で歩けるというのか。この木から溢れ出る“怒り”は、僕の本能に「逃げろ」と絶えず叫ばせている。「……じゃあ、解除するよ」美琴が静かに右手を掲げた。次の瞬間、彼女の掌から放たれた紅い閃光が、音もなく木の幹に吸い込まれていった。そして。ドンッ……ッ!!!腹の底に響くような地鳴りと共に、世界が揺れた。僕の体が、意思と無関係にふらつく。足元の石畳が波打ち、思わず膝をつきそうになった。「うっ……!」──さらに…赤い霧が、木の幹から溢れ出した。ふわり、なんて生易しいものじゃない。空気を塗り潰すように、ぐにゃりと重く、どこまでも濃密な瘴気が、こちらに押し寄せてくる。鼻をつく、鉄の匂い。古く腐りきった血の悪臭が、脳を直接殴る。吐き気が、込み上げてきた。「……っ……うぐ……」喉が焼けるように熱く、目が染みるように痛い。それでも僕は、目を逸らすことができなかった。霧が、少しずつ晴れていく。そして、そこに──“それ”はいた。
last updateHuling Na-update : 2025-07-30
Magbasa pa

縁語り其の百五十五:反撃の浄火

「美琴ッ!!」叫ぶよりも先に、身体が動いていた。彼女の前へ飛び込むように駆け寄り──「神籬ノ帳っ!!!!」指先が桜色の光を引き裂くように滑る。凄まじい反動が腕を駆け上がり、空間そのものを掴んで固定するような感覚と共に、結界が張られた。ただの防壁じゃない。それは、“想い”を刻んだ防人の檻。かつてより遥かに強く、硬く、揺るがない。迦夜戦で得た術式の理解と、沙月さんから受け継いだ「信念」が、それを可能にしていた。──そして。琴音様の「星燦ノ礫」が、怒涛のごとく迫る。……が、桜色の結界に触れた瞬間、憎しみの光は音を立てて砕け散った。『貴様……その術は……』琴音様の声が震える。ただの驚きではない。怒りと、悲しみと、そして“疑念”がない交ぜになった声。『その術は……沙月の術……っ』気づいたのだろう。これは、あの琴音様の妹──沙月様の力が宿る結界。『……おのれ、おのれ……おのれ、おのれ……っ!!』琴音様の体が、わなわなと震え出す。怒りに。苦しみに。そして──たった一人の妹にまで裏切られたという、深い悲哀に。『沙月までもが……!! 妾を……妾を封じた……!!!』『妾の苦しみを知っていながら……妾の声を、怒りを、痛みを……全て知っていたはずなのに……!!』『……許さぬ……! 断じて許さぬ……!!』その声は、もはや雷鳴だった。空がさらに裂け、地がうねり、血桜が泣き叫ぶ。『そなたらまとめて──疾く滅びよ!!!!』魂そのものが燃え尽きそうなほどの呪詛と共に、琴音様から黒き力の奔流が噴き上がった。(やっぱり、駄目か……)一縷の希望は、あまりにもあっけなく潰えた。これほどまでに心が壊れ、怒りで染まった魂に、対話の余地などあるはずがない。「美琴! 僕が、君を守る!!」「だから君は……攻撃を!!!」叫んだ僕の言葉に、美琴が顔を上げた。その目に宿るのは、涙でも迷いでもない。ただただ、真っ直ぐな“覚悟”。彼女は、力強く頷いた。『穢れを焔にて放て……』『
last updateHuling Na-update : 2025-07-31
Magbasa pa

縁語り其の百五十六:この世の果てで、君と傘を差す

美琴の放った光の焔が、まっすぐに琴音様へと向かっていく。その輝きは、まるで夜空に放たれた一筋の祈り。ただひたすらに、真っ直ぐで──美しかった。そして、──ドォォォンッ!!!衝撃音と共に、浄化の術が琴音様へと直撃した。まばゆい光の爆風が空間を包み、呪われた血桜の枝を激しく揺らす。「どうだ……っ!? やった…!?」僕の言葉に、美琴がぴしりと首を振る。「……っ! まだ、だよ……!!」晴れていく煙の向こう。そこには──寸分たがわぬ姿で、宙に浮かぶ琴音様の姿があった。そして、その威圧的な瞳で、僕たちを見下ろしていた。『この程度の浄術で……妾の怒りを、消せるとでも?』声は冷たくて、重くて、そして、どこか哀しかった。(“この程度”…だって……?)あれは、僕の見てきた中でも比べ物にならないほど、最も強く、美しい術だった。それなのに──この程度だって?『妾の怒りは……そんな薄っぺらな光で潰えはせぬ…!!』琴音様の怒気が爆発する、その瞬間。──上空にいた「黒い蛇」が、グォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!……咆哮した。「っ……!!!」全身が粟立つ。肌が、見えない力に押し潰されるような錯覚に襲われた。僕たちは咄嗟に耳を塞ぐ。でも、意味なんてなかった。あまりにも低く、あまりにも“厚い”その咆哮は、音というより──呪いの波動そのものだった。骨の髄まで響き渡り、心臓の鼓動すら掻き消されそうな衝撃。(な、なにこれ……ッ!?)身体が、意思に反して震えている。恐怖というより、もはや──抗いようのない、本能的な絶望だった。空を這う、あの黒き蛇の瞳が、僕たちを覗き込む。その眼光には、悪意すらない。ただただ──「世界の断罪」を下す者の、それだけのまなざしだった。黒い蛇は、再びうねり出す。空の裂け目──世界の幕を食い破って、ズルズルと、音を立てるように、その巨体をこちら側へと侵食させてくる。ズシ……ズシ……鈍く、音なき重
last updateHuling Na-update : 2025-07-31
Magbasa pa

縁語り其の百五十七:絶望に咲く、桜の奇跡

「はぁ……っ、はぁ……っ……どうにか……防げた……」全身から汗が噴き出し、肺が酸素を求めて喘ぐ。手のひらは、まだジンジンと焼けるように痛む。けれど、結界は割れなかった。──守りきれた。彼女を。『……貴様……白蛇様の加護を得た我が術を……受け止めたというのか……』琴音様の声が揺れていた。純粋な怒りと、信じがたいものを見るような響きで。「琴音様……あなたの……気持ちは……少しだけ……分かります……っ!」そう、たしかに僕は、その“怒りの源”を見た。文献に刻まれた過去を、想像し、心でなぞった。けれど──『妾の気持ちが分かるだと……!?』『なにがわかる!! 戯けた事を言うな!!!!』怒りが爆ぜた。琴音様が再び掌を掲げ、呪いの焔がその指先に集う。瞬く間に膨れあがった炎が、再びこちらへと吐き出された。「ぐっ……ぐうぅぅぅっ!!!」灼けるような痛み。全身を揺さぶる呪いの熱が、またも結界を削っていく。「ゆ、悠斗君っ……!」美琴が僕の名を呼ぶ。不安に震える声。でも、僕は笑って応えた。「大丈夫……絶対に君を傷つけさせたりしない……!」だから。「美琴……次の手だよ……!」その言葉に、美琴は真っ直ぐに頷いた。彼女の瞳にあるのは、不安じゃない。僕への、絶対的な信頼だった。「悠斗君……これから私は──浄化の舞いを舞います」“あの舞”。かつて琴音様が神を鎮めたという、伝説の祈り。「でも……その間、私は……完全に無防備になる」──なるほど。僕の役目は、変わらない。彼女を、守る。命を懸けて、守る。……いや。今まで以上に、“絶対に守り抜く”と、魂に誓う瞬間だ。「任せて。舞う君を……僕が、守りきってみせる」そう口にした瞬間、胸の奥から燃え上がるような力が湧き上がってきた。美琴の瞳が、きゅっと細められて微笑む。それは、信じる者にしか見せない、“覚悟の笑み”だった。彼女は両手を胸の前で交差し、「御魂よ清め給え、鎮め給え──」古来よ
last updateHuling Na-update : 2025-07-31
Magbasa pa

縁語り其の百五十八:この身、愛する者を守るなら

「な、な……なんで……っ、沙月さんが……!?」 驚愕で言葉がつっかえる。けれど、彼女は何も答えない。 「沙月様…!?」 舞いの最中である美琴も、その瞳に驚きを浮かべていた。 沙月さんは静かに僕の前に立つと、何の詠唱もなく――ただ、すっと手をかざした。それだけで、桜色の結界が幾重にも展開し、迫りくる迦夜たちを音もなく霧散させていく。 「……ッ!」 唇が震える。あの人はもう、この世にはいないはずなんだ。確かに、桜翁の地下で消えていったはずなのに――どうして、ここに……? 『沙月……!! そんなもの……本物などではない……! 貴様の“想い”が形を成した、ただの残滓ごときが……!!』 琴音様が、否定するように叫ぶ。魂の残響、想念の残滓――ただそれだけ、と。 だけど──それでもいい。 今、この瞬間に僕の隣に立ち、力を貸してくれる彼女の存在が、偽物なわけがない。 “想い”だけで顕現したというのなら、その想いこそが、何よりも真実だ。 何より、その温もりのような気配が、僕の心を確かに奮い立たせてくれた。 (ありがとう、沙月さん……) 空を埋め尽くす迦夜たちが、怒涛の勢いで僕たちに殺到する。禍々しい爪の斬撃、呪詛の塊である星の礫。殺意の嵐が、四方八方から襲いかかる。 「神籬ノ帳っ――!!」 咄嗟に手をかざし、桜色の結界を展開する。ドン、と衝撃が重なるたびに、手のひらが痺れていく。防いでも、防いでも、次の一撃がすぐにやって来る。 けれど僕は、一歩も退かない。僕のすぐ後ろでは、美琴が世界の命運を懸けて舞い続けているのだから。彼女を守る。それだけは、何があっても曲げられない誓いだ。 僕が力で受け止め、こぼれた攻撃を、すかさず沙月さんが受け流す。まるで呼吸を合わせるように。何も言わなくても通じ合うように。ただ静かに、柔らかく、でも確かな意志を持って、彼女の結界が僕の結界と重なり合い、僕と美琴を包み込んでいく。 その姿に、僕は確かに──勇気をもらっていた。 『おのれ…!! 貴様はなぜ……!!』 琴音様の瞳に、炎のような憎悪が宿った。それは怒りではない。怨嗟という名の──呪いそのもの。 『廻り、廻りて……この身は業となり……』 『我が胸を焼くは、激しき怨嗟……!』 『救いなど、求めておらぬ……!』 おどろおどろしい霊気が、地を這うように彼女の周囲
last updateHuling Na-update : 2025-08-01
Magbasa pa

縁語り其の百五十九:君が灯す、天光の答え

「ダメだ……っ! 沙月さんっ!!」 突き飛ばされた僕は、地面に手をつきながら叫んだ。 そのとき──視線の先で、彼女がこちらに向けて微笑んでいた。 静かに、やさしく。どこか──儚さすら感じさせる笑顔。 そして……その唇が、確かに動いた。 『──生きなさい』 そう聞こえた、気がした。否、それはもう“想い”として、僕の胸に直接届いていた。 沙月さんが追加で展開した結界は、まるで紙のように打ち砕かれる。 そして。 凄まじい衝撃音と共に、黒い照焔が沙月さんの全てを呑み込んだ。 爆発と共に巻き起こる風。そのあまりの威力に、僕の体は枯れ葉のように地を転がった。 「うっ……!!」 視界が、黒煙にかき消される。立ち上る黒い霧と灰が、空をさらに曇らせていく。 「沙月さんっ……!!」 必死に目を凝らす。でも、何も見えない。どれだけ叫んでも、返事はない。 ……違う。違うんだ。沙月さんは、確かにそこにいたんだ。あの一瞬、あの場所で、僕を──守ってくれた。 僕は…また、守られてしまった。 (だから……僕は、応えなきゃ……) そのときだった。 ──ひら、ひら。 視界の中に、淡い光が舞い落ちてきた。 「これは……桜……?」 それは桃色に近い、やわらかな薄紅。でも、どこか神々しさを纏った光の花びら。 そして、煙の向こうで。ひとつの影が──ゆっくりと、舞っているのが見えてくる。 「美琴……っ」 彼女は、静かに手を広げ、天を仰ぎ、踊っていた。 音もなく、風に身を委ねるような舞。けれど、その一挙一動がこの世の穢れを祓わんとする、祈りの具現だった。 そして… 「浄化の舞い、成就しました。沙月様…私と悠斗君を、ここまで守っていただいて…ありがとうございました」 美琴がそう、天にいるはずの魂へ向けて、静かに呟いた。 煙が晴れていく。 『その程度の──不出来な浄化の舞い如きで……!!』 琴音様の声が、空気を裂いた。 『この妾の怒りが祓えるものか……!!』 その瞳は、赤黒い怨念の炎を宿して燃え上がっていた。激情が爆ぜたように、彼女は両手を突き出す。呪いの霊力が空を震わせる。 (っ……来る……!!) 僕は咄嗟に駆け出す! 「神籬ノ帳っ!!」 三重結界。何度も何度も修練を重ね、ようやく編み出した僕の防御術。 けれど──口にした瞬間、僕は悟って
last updateHuling Na-update : 2025-08-01
Magbasa pa

縁語り其の百六十:光となりて

黒い光と金色の光が、空の中心で激突した。ズズ……ッ!!耳を塞いでも意味のない、重く、分厚い音が世界を震わせる。ふたつの光は、互いを飲み込まんとせめぎ合い、ねじれ、空間ごと引き裂こうとしていた。「っ……! う、うぅ……っ!」だけど──押されていたのは、美琴の光のほうだった。金色の祈りの輝きが、黒の呪いに少しずつ、少しずつ蝕まれていく。美琴の手が、わなわなと震えている。顔を苦痛に歪めながら、それでも祈りの術式を崩すまいと、必死に抗っていた。それでも、琴音様の怒りは──あまりにも、重かった。「ど、どうすれば……!」焦燥が、胸の奥で爆ぜる。僕の霊力は、もうとっくに尽きかけていた。結界を張ろうとしても、手のひらに力は宿らない。空に結の字を描こうとしても、ただ虚しく腕が空を切るだけだった。こんなときに……! こんなにも、大切なときに……!!僕は、ただ見ていることしかできない。美琴は、なおも踏みとどまっていた。だけど──黒い呪いの光は、容赦なく金色の祈りを飲み込んでいく。そして。パァンッ――!耳を劈くような甲高い音が響いた。次の瞬間、美琴が身につけていた碧い数珠が、砕け散った。かつて琴音様が愛用していたとされる、霊具の数珠。それが、まるで限界を告げるように……破裂した。(っ……!)美琴の術式が、崩れかけている。あれはただの道具じゃない。彼女の霊的な守護を担っていた最後の砦。それが壊れたということは──(美琴……)ここまで、なのかもしれない。どんなにもがいても、踏ん張っても……琴音様の怒りと呪いは、あまりにも強すぎた。だけど。僕の足は、自然と動いていた。美琴の傍へ。そして、彼女のすぐ隣に立った。「っ……! 悠斗君!? 離れて!! もう、持たない……っ!」焦ったように美琴が叫ぶ。でも、僕は首を横に振った。「言ったでしょ? 一緒にいるって」「君を一人では……逝かせないよ」「ゆ、悠斗君…っ!」手が、震える。心臓の鼓動が、やたらと大きく響く。だけど、後悔はなかった。そっと目を瞑る。美琴と出
last updateHuling Na-update : 2025-08-02
Magbasa pa
PREV
1
...
131415161718
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status