All Chapters of 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜: Chapter 171 - Chapter 172

172 Chapters

縁語り其の百七十一:私の声が届かなくても

あの夏、あなたが連れていってくれた海。覚えてる?呪いも戦いも関係ない、ただ二人きりの、初めての旅。人魚の伝説が残る、あの小さな港町。思い出すだけで、今も胸が温かくなるんだ。ううん、温かいだけじゃない。少しだけ、泣きたくなるくらいに。二人で探した宝物も、悠斗君が見とれてたあの水着も……ふふ、ちょっと恥ずかしかったけど、全部、全部が私の宝物。見つけた「宝」が、人魚に贈られるはずだった指輪だと知った時、あなたは言ったよね。「これは、他の人の手に渡ってはいけない」って。その言葉が、どうしようもなく嬉しかったんだ。足を痛めた私を背負ってくれた、あなたの背中。思ったよりずっと広くて、温かくて……ドキドキして、どうにかなりそうだった。本当に、あの時は、この世の全てがキラキラして見えてた。だからこそ、思い出してしまった。私の寿命が、もうほとんど残っていないってこと。もっと一緒にいたい。もっと、この温もりに触れていたい。そんな願いを君に悟られないように……君の思考が正常じゃなくなるようにって、私は、そっとあなたの指に自分の指を絡めたんだよ。狡いよね……。***迦夜との戦いは、本当に苛烈を極めた。でも、あなたがいたから、勝てたんだ。そして私は、あなたに本当のことを打ち明けた。巫女は命を代償に術を行使する……と。この時、あなたの表情を、私は怖くて見る事が出来なかった。そして、あなたはこの事が知った途端に、意識を失ってしまった。きっと……癒えることの無い心の傷を……残しちゃったよね……。もうこれ以上……一緒には居られらない。だから、あなたの元を離れた。何も言わずに。すごく、すごく苦しかった。心臓が、無理やり引き剥がされるみたいに痛かった。でも、そうするしかなかったんだ。私の時間はもう尽きかけていたし、このままじゃ、あなたを本当にダメにしてしまうと思ったから。もう会わないって、そう覚悟して、泣き尽くして街を離れたのに……。なのに……それなのにあなたは、ここに来てしまった。嬉しかった。そして、悲しかった。どうして、って思ったよ。せっかく離れることができたのに、って。あなたは言ったよね。「自分が死んでも構わない。ただ、最後まで君の傍にいたい」って。……やめて。そんなこと、言わないで。あなたには、生きていてほしいのに。そう突
last updateLast Updated : 2025-08-05
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縁語り其の百七十二:さよならの祈り

まるで何かに導かれるように、あなたは、ふらりと、山道の奥深くへと歩き出した。 その覚束ない背中を、私はただ、追いかける。 やがて、開けた場所に、そのお方はいた。 ──琴音様。 呪いの元凶であり、そして、最初の犠牲者。生前の姿で、彼女は静かに悠斗君の前に佇んでいた。 そこで私は、今まで一度も見たことのないあなたの顔を見たんだ。 憎悪とでも言うべき、燃え盛る怒りの表情。氷のように冷たく、鋭い言葉。 あなたが、琴音様を激しく責めている。 分かっていたはずなのに。琴音様もまた、「被害者」だったって言うことを。 でも……あなたは、その悲しみに寄り添うことを、拒絶していた。 きっと……私が死んでしまったことで、あなたの中で何かが、決定的に壊れてしまったんだよね……。 「悠斗君……」 届かない。 分かっていても、名前を呼ばずにはいられなかった。 その時だった。琴音様が、ふ、と私に視線を向けたのは。 彼女がかざした手から放たれた、碧く、温かい光が、私の身体を優しく包み込んでいく。 ……悠斗君が、私を見ている。 驚きに見開かれた、その優しい瞳で、まっすぐに。 そして、その光の中で──私は、君と再会できた。 「……み……こと……」 掠れた声で、あなたが、私の名前を呼んでくれた。 私のことを、ちゃんと、見てくれていた。 ────────── ──悠斗君。 これが、私の「すべて」。 あなたに出会う前、私は、何のために生まれてきたのか分からなかった。 でも、あなたがそれを変えてくれたの。 何気ない日常。二人で過ごした、穏やかな時間。そのすべてが、空っぽだった私の世界を彩る、かけがえのない宝物になったんだ。 もう、あなたは私の全部を見てくれたもんね。 きっと、もう知ってるよね。 一人にして、ごめんなさい。 私を、好きになってくれて──本当に、ありがとう。 私は……あなたと出会えて、心から、幸せでした。 あぁ……もっと……もっと、生きたかったなぁ……。 普通の生活を、送りたかった……。 あなたと、人生を……ううん、生涯を、共にしたかった。 ふふ……ごめんね、最後の最期で、こんな感情を見せてしまって……。 あなたのことを考えると、「やりたかったこと」が次から次へと溢れてきて……もう、自分でも、どうしていいか分からないんだ。
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