あの夏、あなたが連れていってくれた海。覚えてる? 呪いも戦いも関係ない、ただ二人きりの、初めての旅。 人魚の伝説が残る、あの小さな港町。 思い出すだけで、今も胸が温かくなるんだ。 ううん、温かいだけじゃない。少しだけ、泣きたくなるくらいに。 二人で探した宝物も、悠斗君が見とれてたあの水着も……ふふ、ちょっと恥ずかしかったけど、全部、全部が私の宝物。 見つけた「宝」が、人魚に贈られるはずだった指輪だと知った時、あなたは言ったよね。 「これは、他の人の手に渡ってはいけない」って。 その言葉が、どうしようもなく嬉しかったんだ。 足を痛めた私を背負ってくれた、あなたの背中。 思ったよりずっと広くて、温かくて……ドキドキして、どうにかなりそうだった。 本当に、あの時は、この世の全てがキラキラして見えてた。 だからこそ、思い出してしまった。 私の寿命が、もうほとんど残っていないってこと。 もっと一緒にいたい。もっと、この温もりに触れていたい。 そんな願いを君に悟られないように……君の思考が正常じゃなくなるようにって、私は、そっとあなたの指に自分の指を絡めたんだよ。 狡いよね……。 *** 迦夜との戦いは、本当に苛烈を極めた。 でも、あなたがいたから、勝てたんだ。そして私は、あなたに本当のことを打ち明けた。 巫女は命を代償に術を行使する……と。 この時、あなたの表情を、私は怖くて見る事が出来なかった。 そして、あなたはこの事が知った途端に、意識を失ってしまった。 きっと……癒えることの無い心の傷を……残しちゃったよね……。 もうこれ以上……一緒には居られらない。 だから、あなたの元を離れた。何も言わずに。 すごく、すごく苦しかった。心臓が、無理やり引き剥がされるみたいに痛かった。 でも、そうするしかなかったんだ。私の時間はもう尽きかけていたし、このままじゃ、あなたを本当にダメにしてしまうと思ったから。 もう会わないって、そう覚悟して、泣き尽くして街を離れたのに……。 なのに……それなのにあなたは、ここに来てしまった。 嬉しかった。 そして、悲しかった。 どうして、って思ったよ。せっかく離れることができたのに、って。 あなたは言ったよね。「自分が死んで
Last Updated : 2025-08-05 Read more