Semua Bab 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜: Bab 161 - Bab 170

172 Bab

縁語り其の百六十一:それでも僕らは前を向く

「うっ……。」僕は体を起き上がらせた。頭の奥がズキズキと痛み、視界がぐらりと揺れる。何が起こったのかを確認すると、つい先ほどまでどす黒い雲に覆われていた空に、満点の星が輝いていた。一体どれほど気を失っていたのだろう。少なくともかなりの時間、意識を失っていたのは確かなようだった。僕は周囲を見渡し、美琴を探した。なのに……同じ場所にいたはずの彼女の姿がどこにも無い。焦りが込み上げてくる。心臓が嫌な音を立てて、激しく脈打った。「美琴ー!!!」叫んで、辺りを見渡す。山頂に僕の声だけがむなしく響き渡り、彼女からの反応はなかった。それから十数分後、僕は山を降りながら、必死に美琴の姿を探していた。なぜか、どこにも見つからない。心臓の鼓動が……どんどん速くなっていく。悪い予感ばかりが、僕の胸を締め付けた。「美琴ぉー!!!!!」いくら叫んでも、彼女が姿を現すことはなかった。ついさっきまでこの場所を支配していたおぞましい呪いは祓われ、あの重苦しい雰囲気が嘘のように浄化された空気なのに、彼女だけが、いない。その事実が、僕の心を深く切り裂いた。僕は諦めることができずに、それから数十分もの間、彼女を探し続けた。喉が枯れ、足が棒のようになっても、彼女を見つけ出すまで止まるわけにはいかなかった。 ***「どうして見つからない……! どこにいる……!」霊力を使い果たした身体の疲れと焦りが、限界を迎えていた。喉は枯れ果て、足元はふらつく。それでも、美琴を見つけられない焦燥が僕の心を支配していた。その時、微かな、しかし確かな声が聞こえてきた。「悠斗君っ!!!」「っ!!!」僕はばっと後ろを振り返る。そこにいたのは、僕が必死に探し求めていた彼女だった。「美琴!!!」僕は彼女へと駆け寄り、その身体を強く、強く抱きしめた。ああ……!良かった……!!本当に、本当に良かった……!!生きていてくれた。その事実だけで、僕の心は安堵に包まれた。目頭が熱くなり、僕の瞳からは止めどなく涙が零れ落ちた。「悠斗君も……無事でよかった……!」美琴もまた、僕の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-02
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縁語り其の百六十二:君の寝息と村のざわめき

161君の寝息と、村のざわめき山を降りると、あの重厚な木造の扉が見えてきた。もうヘトヘトだ。全身の霊力は枯渇し、体は鉛のように重かった。それでも、美琴と生きてこの場所に戻ってこられたという事実に、僕の心は静かに満たされていた。「戻りました」僕は扉の向こうにいる門番へ、かすれた声でそう告げた。「おぉ……!!! おかえりなさい……!」門番の一人が、震える声で労いの言葉をかけてくれる。その声には、心からの安堵と喜びが滲んでいた。そしてもう一人が、村の奥へと向かって叫び始めた。「みんなー!! 大変だー!!! 奇跡が……奇跡がおきたぞー!!」大袈裟かもしれないけれど……僕たちが成し遂げたことは、まさにそれほどの偉業だった。琴音様を祓い、美琴と共に生きてこの山を降りてくる。絶望的だった状況を覆した、それは小さな奇跡だったんだ。重い木造の扉が、ゆっくりと開かれる。その向こうには、見慣れた家々の灯りが見え、村人たちがずらりと立ち並び、僕たちを出迎えてくれていた。「二人とも……! おかえりなさい!!」彼らの声が、僕の胸に温かく響く。その中に、長老の声が混じっていた。彼女は奥から、駆け寄るようにこちらへやってくる。「二人共……! よくぞ……よくぞ、やってくれたな……!」長老の声は震えていた。その瞳は、涙で潤んでいる。美琴はそんな長老の元へと駆け寄り、その胸に飛び込んだ。「おばあちゃん…! 今回はほんとうに私一人じゃ琴音様を祓うことなんて……出来なかった…!」美琴は、僕をまっすぐ見てそう言った。その瞳には、感謝と、僕への深い信頼が宿っている。彼女の言葉が、僕の心にじんわりと広がり、温かい光を灯した。「そうか……悠斗……! 感謝する……!」長老が、深々と頭を下げた。その頬には、止めどなく涙が流れている。長老だけじゃない。出迎えてくれた村人みんなが、目頭を押さえ、涙を流していた。その光景を見て、僕の胸も熱くなる。それだけ、僕たちの生還は絶望的だったんだ。彼らがどれほどの不安を抱え、僕たちの無事を祈ってくれていたか、痛いほど伝わって
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-03
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縁語り其の百六十三:この温もりは僕だけの幻

どうにか美琴を起こした僕は、彼女の手を繋いで外に出た。村は朝からざわついており、その異様な雰囲気に胸騒ぎを覚える。「っ……! 悠斗さん……!」庭先で顔を合わせた霊砂さんは、僕を見るなり、信じられないほど顔色が悪かった。その表情は、不安と恐怖に染まっている。「どうしたんですか……?」僕が尋ねると、霊砂さんは何も言わず、ただ僕と美琴を交互に見る──いや、違う。彼女は僕の顔と、僕が手を繋いでいる“何もない空間”を、痛ましそうに見つめるだけだった。何か……何か様子がおかしい。言葉にならない焦りが、僕の胸に広がる。そのまま、外へ出ようとすると──「お待ち……」背後から声が聞こえてきた。長老だった。その顔もまた、霊砂さんと同じように青ざめている。「お、おばあちゃんまでどうしたの?」美琴の声にも、長老は反応を示さない。その場に、重い沈黙が降りてくる。「ど、どうしたんですか? 何かあったんですか……?」僕は重ねて尋ねた。喉がひりつき、心臓の鼓動が早くなる。すると、長老は苦しげに顔を歪めた。「やっぱりかい……」え? なんだ? どういう事だ?長老の言葉の意味が理解できなかった。しかし、ただ事ではない様子が、痛いほどわかる。同時に、とても嫌な予感がしてきた。昨夜の戦いで得た安堵が、一瞬にして凍りついていくような感覚だった。 ***長老に連れられるまま、僕たちは長老の家へと向かった。部屋に入り、向かい合って座ると、長老は重い口を開いた。「さて……なにから……話そうかね……」その声は、どこか苦しげだった。「おばあちゃん……?」美琴が心配そうに長老に呼びかける。しかし、長老は美琴の声に反応しない。その視線は、まるでそこに美琴がいないかのように、僕の顔だけを、ただ悲しそうに見つめていた。どうして……美琴の声に反応しないんだろう。その違和感が、僕の胸に張り付く。「あ、あの……なんで先ほどから美琴の声に反応してくれないんですか?」僕は意を決して尋ねた。喉がカラカラに乾き、心臓が大きく脈打つ
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縁語り其の百六十四:棺桶の中の君

「美琴……!」僕の叫びが、虚しく宙に吸い込まれる。長老に促されるまでもなく、僕の身体はすでに駆け出していた。「美琴!!!!」村の中を、がむしゃらに走り抜ける。心臓が張り裂けそうなほど激しく脈打ち、肺が酸素を求めてひくついた。だけど、美琴の姿も、気配も……どちらも感じられない。もう……この場を離れてしまったのか?そんな最悪の予感が、僕の心を支配する。「悠斗さん……」ばっ、と僕は振り返った。霊砂さんだ。彼女の顔色は、依然として青白いままだった。「霊砂さん……! 美琴を……! 美琴を見ませんでしたか!?」僕は縋るように尋ねた。喉が枯れ、声はかすれていた。「……。」彼女はゆっくりと首を横に振る。その仕草に、僕の胸は絶望に締め付けられた。「美琴様は見えませんでしたが……悠斗さん……こちらに来てください」「ダメです…! 今は彼女を探さないと!」霊砂さんの言葉に、僕は思わず声を荒げた。だめだ。今はそんなことをしている場合じゃない。一秒でも早く美琴を見つけ出さなければ。彼女を一人にしちゃダメだ。僕は振り返って、再び駆け出そうとする──がしっ、と霊砂さんがそのか細い手で、僕の腕を掴んだ。その手には、見た目からは想像できないほどの力が込められていた。「は、離してください! 美琴を……! 美琴を探さないと!!」僕は必死に抵抗する。しかし、霊砂さんの目は真剣だった。彼女の瞳の奥には、僕の知らない深い悲しみと、何かを伝えるべきだという強い意志が宿っている。「美琴様を想うのであればこそ……一度、来てください……!」霊砂さんに強くそう言われてしまった。その言葉が、僕の足を縫い止める。彼女のその言葉に、美琴のことが深く関わっているのだと、僕の本能が告げていた。 ***僕は霊砂さんに連れられ、比較的大きな家に入った。そこは、美琴の家だと言う。清浄な白檀の香りが、静かに鼻腔をくすぐった。綺麗に整えられた家具。つい先日まで彼女がいたという痕跡が、生活感を伴ってしっかりと残されていた。なのに……その光景を
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-04
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縁語り其の百六十五:壊れた心の在り処

どんなに触れても……君は起きてくれない。「美琴……美琴……ほら……起きて……。」僕は震える指で、彼女の冷たい頬をさすった。何度も。何度も何度も何度も。何度も何度も何度も何度も、何度も。 でも、君は起きてくれない。もう僕の心は……限界だった。「悠斗さん……もう……休ませてあげましょう……っ……。」霊砂さんの声が、僕の耳に届いた。その声は、今にも泣き出しそうに震えている。……っ。僕は、覚悟をして、ここまで来たはずだ。美琴の寿命が近いことを知り、どんな結末が待っていようとも、最後まで彼女の傍にいると決めていた。でも……こんな別れ方は……あまりじゃないか……。僕の胸は、激しい痛みに締め付けられた。「美琴……。」僕は、もう一度、美琴の頬をさすった。その命の温もりが失われた冷たさが、僕の心に深く突き刺さる。「悠斗さん……まだきっと……美琴様の魂は、この世に縛られています……。悠斗さんが美琴様を見たという事は……つまり、そういう事なのです……」霊砂さんの言葉が、僕の頭の中に響いた。「次に、ご自分が何をすべきか……わかりますよね……?」霊砂さんの、懇願にも似た声が、僕の心臓をさらに強く締め付けた。ずっと……美琴の傍にいたんだ……。彼女の魂が縛られているのなら、それを解放してあげなければならない。頭では、それが正しいと理解している。でも……そんな簡単に割り切れるわけ……ないじゃないか。僕の心が、その現実を拒否する。「悠斗さん……っ! お願いです……お願いですから……美琴様を解放してあげて下さい……」霊砂さんの悲痛な叫びが、僕の胸に突き刺さる。「美琴様が……地縛霊になってしまっても……良いんですか!?」その問いは……やめてくれ。頭ではわかっていても、そんなに簡単に割り切れるわけがないんだ……!美琴と過ごした時間は、あまりにも濃く、かけがえのないものだった。それを……分かっているのか……?いや……わかってる。霊砂さんの心も、もうボロボロなのは……その様子を見
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縁語り其の百六十六:導き

おかしい……。いつになっても……夢から覚めないじゃないか。一体、何が起きているんだ。何か、目が覚めない原因でもあるのだろうか?僕の思考は、まるで深い霧の中にいるようだった。夢の中と思われるこの世界で、僕はひたすら、何かを探し回っていた。あれ……一体……僕は何を探していたんだっけ……。不思議なことに、こんなにも必死になっているのに、“何を探していたのか”だけが、分からなくなってきてしまっていた。だけど──これが現実じゃない、という確信だけは、なぜか脳が理解している。(違う……逃げているだけだ。)……なにから? 逃げることなんて……何も無いじゃないか。僕の心は、その問いかけに対し、明確な答えを見つけられずにいた。彼女は僕の傍に……。え? 彼女って……誰だ? 僕は……何を、しているんだ?自分と世界が、曖昧になっていく。まるで、僕という“輪郭”がぼやけて、世界の音も分厚いガラス越しに聞こえるような……そんな感覚だった。だが、不思議と──悪い気分ではなかった。このまま、曖昧な世界に溶けてしまってもいい。……とさえ思えた。 ***もう……すっかり夜だ。どうして僕は今、こんな山の中にいるんだろう。なにか、自分より大切な“何か”を、探していたような気がする。でも……それが何か、今の僕には分からなくなってしまっていた。こんなにも心地いい感覚なのに、胸の内はひどく焦燥している……そんな感じがする。なんで? なんで? どうして?言葉にならない疑問が、脳の内側をぐるぐると回る。僕はただ、自問自答を繰り返していた。そんな時──ポケットから、何かが落ちた。……これは……美琴から、温泉郷で貰った──紅色の勾玉。僕にとって、大切なものだ。早く……しま……わな……い……と……。電流のように、何かが僕の脳裏を横切った。美琴。……温泉郷。っ……!!どうしたと言うんだ、僕は……?急に……この世界と自分の輪郭が、はっきりとしてくる。霧が晴れるように
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縁語り其の百六十七:残照の君

「ここは……」霊眼術が、まるで道を示すかのように、僕をとある場所へと辿り着かせていた。そこは──白蛇山の山頂。琴音様との激戦が繰り広げられた、因縁の場所だ。巨大な桜の木がそびえ立っている。けれど、血のように赤黒かった花びらはもうない。呪いが浄化された山頂は、がらんとした静寂に包まれ、風の音だけが虚しく枝葉を揺らしていた。(よく来たな……)その声が、再び脳内に直接響く。導かれるように桜の巨木へ目を向けると、幹からひとつの碧い光がじわりと滲み出てきた。光はゆらめきながら輪郭を帯び、やがて一人の女性の姿を形作る。古風な髪飾り。濃い青色の着物。そして首元に寄り添う、白い蛇──。呪いの象徴だった角も、禍々しい気配も消え失せ、ただ神秘的な雰囲気を宿して、彼女はそこに立っていた。「あなたは……!!!」僕が声を掛けようとした、その瞬間だった。より強く、はっきりとした声が、僕の思考に割り込んでくる。『……妾は琴音。』思考が、追いつかない。琴音様……? 心臓が、氷水で締め上げられたかのように痛む。彼女は、美琴が命と引き換えに祓ったはずだ。なのに、どうして、ここにまだ“在る”んだ。これじゃあ、美琴の死は……! あれほどの犠牲は……一体、何のために……!頭に血が上り、視界の端が赤く染まるような感覚。怒りなのか、悲しみなのか、もはや判別のつかない感情の奔流が、胸を突き破りそうだった。僕の激しい動揺をよそに、彼女は──静かに、深々と頭を下げた。『此度の件……いや……千年前からの悲劇……すべて妾が招いた事……。かたじけない。』その言葉が、僕の中で燃え盛る怒りに、さらに油を注いだ。「っ……! 何人が犠牲になったと思ってるんですか!!!!」気づけば、喉が張り裂けんばかりに叫んでいた。名もなき巫女たち。桜華さん。琴乃さん。そして──美琴。彼女たちは皆、目の前にいるこの人の呪いによって、命を奪われた。その事実が、僕の心を容赦なく苛む。『……かたじけない。』琴音様は目を伏せ、本当に申し訳なさそうに繰り返した。その表情には深い
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縁語り其の百六十八:君の全てをこの魂に

「美……琴」僕の目に、美琴の輪郭が──今、はっきりと映っていた。だが、彼女が霊になってしまったという事実が、酷く僕の胸を焦がした。“生きている美琴”が、もう目の前にいない。その、あまりにも残酷な現実が、僕の心を容赦なく締め付ける。「はぁ……はぁっ……」呼吸が乱れ、僕は過呼吸気味になってしまった。『悠斗君……ごめんね……。何回も何回も……ずっと話しかけていたんだけど……私の力が弱まったせいで……声が届かなかったみたいなの……』『でも……あの時、私が渡した勾玉を見て、悠斗君を繋ぎ止めることが出来て……よかった……!』……美琴は。こんな時まで、自分のことじゃなくて……僕のことを気遣ってくれる。その優しさが、僕の心を、さらに深く抉った。「美琴っ……!」僕は、叫ぶように彼女に駆け寄って──その身体を、ぎゅうっと、強く抱きしめた。もう二度と、離さないように。もう体温なんて……無いはずなのに。あの美琴の温もり、感触、匂い。すべてが──あの時のまま、確かにそこにある。……だからこそ、僕は彼女の“死”を拒んでしまう。そこにいて、触れられるのに。どうして、どうして……!!『一人にさせて……ごめんね……』美琴は、涙ながらにそう言った。その透明な涙が頬を伝うのを見て、僕の目からも、大粒の涙が止めどなく溢れ落ちた。「僕の方こそ……一人で逝かせて……ごめん……! ごめんっ……!!」僕の声は、やがて嗚咽に変わった。『ううん……私は悠斗君のおかげで幸せだった。だから……そんな顔、しないで……』美琴の言葉が、僕の心を優しく撫でてくる。「ううっ……うぅぅぅ……!」『よしよし……悠斗君も、意外と泣き虫なんだよね……』彼女は、僕をあやす様に頭を撫でてくれた。そうだよ……。君のことだから、こんなにも泣いてるんだ。「僕は……美琴のことだから、こんなにも泣いてるんだよ……」僕は、また抱きしめる力を強くした。『ちょっと悠斗君……苦しいよ……?』美琴の声に、ハッと我に返り、思わず“ばっ”と彼女から離れそうになる──でも今度は、逆に。
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縁語り其の百六十九:私のいない、私の人生

私は……何のために、生まれてきたんだろう。それは、役割の話じゃない。役割なら、ずっと前から知っていたから。いずれ封印が解かれる『琴音様』という災厄を、この手で祓うこと。私が知りたかったのは、使命の先に何があるか、ですらなかった。ただ、役割じゃない、私が「私」として、生まれてきた意味が欲しかった。私の人生。それは、心がどこかに置き去りにされた、私のいない、私の物語。蛇琴村で生まれた時から、私は「私」じゃなかった。いずれ来る日のために、この命を削って力を蓄え、呪いを祓う……そのための『道具』。そう、教え込まれて育った。「修練」って呼ばれてたけど、それは魂をすり減らす毎日のこと。そこに、私の気持ちが入り込む隙間なんて、なかったんだ。あの日。お母さんも、お父さんも、目の前で血の海に沈んだ。赤く染まって、動かなくなった二人を見ても、不思議と、涙は出なかった。ただ、体の芯が、凍えるように寒かった。震える私を庇うように、その人は現れた。風に揺れる、一つに結んだ黒い髪。優しくて、だけど、どこか強い光を宿した、不思議な人。──遥さん。彼女は、私をただ、抱きしめてくれた。何も言わずに、強く。その腕の中は、温かかった。でも……やっぱり、涙は出なかった。お父さんも、お母さんも死んでしまったのに。私の心は、凍てついた湖みたいに、何の感情も映さないままだったから。遥さんは、そんな私に、霊との向き合い方を教えてくれた。「力ずくで祓う」のとは違う、「心で寄り添う」という、初めて知る道を。「霊はね、私たちと同じ、生きてた人間なんだよ」その言葉が、凍った心にじんわりと、染み込んでいくのが分かった。彼女と過ごした数日間は、モノクロだった私の世界に、唯一、色が灯った時間。だから、遥さんが「明日、この地を去る」と告げた時……私は、生まれて初めて、声を上げて泣いた。光が、消えてしまう。そのどうしようもない喪失感に、幼い私は耐えられなかった。遥さんが去ってた後のこと。長老が亡くなって、今のおばあちゃんが長老となった事で村は変わった。他の巫女たちには、自分の人生を選ぶ自由が与えられた。それは、きっと、良いことだったんだと思う。……私、一人を、除いては。この村で最も力が強く、琴音様を祓える可能性がある、私だけ。私だけが、その責任から逃れ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-05
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縁語り其の百七十:あなたがくれた、生きる価値

そして、私は力の使い過ぎで倒れてしまった。きっと、この時また寿命を減らしてしまったのだろう。それでも、彼の力になれたのなら、それでいいと、そう思えた。だけど。あの時の彼の心配そうな顔が、私の脳裏にこれ以上ないほど強く焼き付いてしまったのだ。私の無事を確認した彼は、本当に安心した様子で、微笑んだ。……どうしてだろう? 私は、そう思った。私の命に、そんな価値など、ないはずなのに。次に、二人で初めての調査。温泉郷へと赴いた。私はこの時、生まれて初めて──人生を「楽しい」と思えた。これまでの私の記憶には、誰かと心穏やかに過ごす時間など、ひとつもなかった。遊んだこともなかった。何かを貰うなんてことも、なかった。それなのに、彼は私に色々なものをくれた。“調査”という名の旅行の思い出。桜を模した、あの薄桃色の勾玉。それらすべてが、私にとって“初めて”の宝物だった。 ***そして、陽菜さんとの出会いが訪れた。私にとっては、とても恥ずかしい記憶が残されてしまったけれど、彼女との出会いが先輩を大きく変えてくれた。霊は決して“怖い存在”ではない。そう彼の心に決定付けられたのは、間違いなく──陽菜さんの存在が大きいと思う。あの沙月様の慰霊碑も…とても綺麗だったなぁ……。 ***次に浮かぶのは、廃工場での出来事。初めて“命の危機”に直面する、霊との対峙だった。あの殺人鬼の後ろには、殺害された五人の魂が、苦しそうにしていた。そのため、私はすぐに祓うという行動を取ることができなかった。それが、彼をさらに危険な目に遭わせてしまったんだ。でも……それでも、私は被害者の霊たちを巻き込んだ攻撃をすることはできなかった。そして、私の意識を決定的に変える出来事が起こった。それは、先輩が私を……自分の身を挺して庇ってくれたこと。あの殺人鬼は挑発に弱く、すぐに彼へと襲いかかっていった。私たちは分断され、すぐには追いつけない状況。殺人鬼が先輩を襲う声が、姿の見えない中、工場内に響き渡っていた。とても……とても怖かった。守られるなんて、今まで一度もなかったのに。先輩が私なんかのために命を懸けて動いていたことが……嬉しかった。しかし同時に、彼を失ってしまうかもしれないという、これまでに感じたことのない恐怖が、私の心を支配した。どうにか彼に追いつくと、もう息
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-05
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