All Chapters of 【完結】縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜: Chapter 181 - Chapter 183

183 Chapters

縁語り其の最終話:縁が結ぶ光

あれから――十六年が経った。   月日は慌ただしく流れ、私の日常も大きく姿を変えた。   私は今、この桜織市で『結び屋』という名の霊媒処を営んでいる。   古の巫女である霊砂さんたちとの交流は続き、私の方から「一緒に霊媒師をやらないか」と声を掛けたところ、彼女たちも快く受け入れてくれた。今では、皆が『結び屋』の正式な仲間だ。   皆の助けもあってか、いつしか「よく当たる」などと評判になり、かつてのような無名の存在ではなくなった。   けれど、やっていることは昔と何も変わらない。   ただ静かに、迷える霊たちの傍に寄り添い、その“想い”と向き合い――癒すだけ。   かつて、彼女がそうしてくれたように。   ***   バスの車窓から、ふと赤い影を纏った霊を見つける。すぐに停止ボタンを押し、運賃を払ってバスを降りた。   いた。あの霊だ。   「こんにちは。何か、お困り事でも?」   私は、路地裏に佇むその霊に、臆することなく声をかける。   『あんた……私が見えるのね……』   「ええ。なにか抱えている想がある筈です。私でよければ聞きますよ」   『……なんで……なんで私が死ななきゃいけなかったの!? あいつが……あいつが悪いのに……!』   胸の内に渦巻く、未練と怒り。それはまだ“すれ違い”の最中なのだろう。   「よければ……あなたの話を、聞かせてくれませんか。私にも、力になれることがあるかもしれません」   これまで、幾度となく見てきた。怒りに呑まれ、世界を恨んだ霊たちも――きちんと“言葉”を交わせば、癒えるものだと。   ***   『……ってわけがあってねぇ……』   先ほどまで荒れ狂っていた霊は、今ではすっかり落ち着き、赤く禍々しかった気配も、まるで嘘のように消えていた。   「なるほど……それは、とてもお辛かったですね」   そう伝えると、彼女の身体が透き通り始める。浄化の兆候だ。   「あとは私が、あなたの想いを引き継ぎましょう」   『……ほんとに? いや……なんだか、あんたは信用できる気がするよ……』   彼女は、誤解の果てに彷徨っていた。だが、その誤解はいま解けた。約束通り、後日、彼女の言葉を伝えるために“その人”へ連絡を取るつもりだ。それが、私の仕事。私が選んだ、生き方。   『……あぁ……
last updateLast Updated : 2025-08-07
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縁語り其の結び

あれから――さらに、百年もの歳月が流れようとしていた。悠久の風がこの白蛇の山頂を吹き抜ける中、妾は静かに見守り続けていた。悠斗に遺した妾の血を媒体に、彼と美琴、そしてその子孫たちが紡ぐ、全ての記憶と感情を。それが、妾が自らに課した最後の贖罪であったから。二人は、実に満ち足りた生涯を送った。まるで失われた時間を取り戻すかのように、笑い、愛し合い、時には些細なことで喧嘩をしながらも、固く手を携えて。やがて、その腕に新しい命を抱き、慈しみ、育て、そして次の世代へと縁を繋いでいった。霊砂や百合香たち、古の巫女たちもまた、穏やかに天寿を全うし、安らかな眠りについた。その最後の魂が天へと昇ったのを見届けたとき……妾の役目も、ようやく終わったのだ。あぁ……なんと壮大で、愛おしい記録であったことか。妾の呪いが彼らを、そして多くの者を苦しめてしまった事実に変わりはない。が、妾の血を引き継いだ彼らの子孫たちが、この先も数多の物語を紡いでいく。かつてあれほど憎らしいとさえ思ったその事実が、今ではむしろ……誇らしく、喜ばしいとさえ感じるのだ。そんなことを考えていた、その時だった。『……上……』ふと、天から懐かしい声が聞こえたような気がした。いや、気のせいではない。魂に直接響く、凛として、それでいて慈しみに満ちた声。『む……?』『姉上……』見上げると、雲間から光が差し、天から人影がひとつ、静かに舞い降りてくる。妾の記憶にある、ただ一人の姿。『……沙月……!』『迎えにきましたわ』地に降り立った妹は、以前と何ひとつ変わらぬ、穏やかな顔で微笑んでいた。かつては、その清廉さが息苦しくもあった。だが……それがいまは、どうしようもなく心地よい。『ふふ……そなたの蒔いた種が、見事な花を咲かせ……こうして、妾を解放するに至った。感謝するぞ、沙月』そう告げると、彼女は一瞬だけ驚いたように目を見開き、そして、そっと妾の手を取った。差し出されたその手は、記憶にあるどの温もりよりも柔らかく、そして、暖かかった。千年の時を超え、ようやく妹の手に触れることができたのだ。
last updateLast Updated : 2025-08-07
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裏設定

皆さん、物語を読んでいただきありがとうございます! ここでは、物語をさらに深く楽しんでいただくために、いくつかの裏設定を少しだけ解説したいと思います。 Q1. 迦夜(かや)って、結局何だったの? 第七章で悠斗たちを苦しめた《迦夜》。彼女たちは、琴音の呪いによって生まれた「歴史への怨嗟の集合体」です。 しかし、琴音が戦いの最中に言ったこのセリフ、気になりませんでしたか? > 『ぐぅ……! 吸収し損ねた迦夜の残骸か……! はみ出し者の分際で、妾に逆らうとは……っ!!』 実は、琴音はこの千年もの間、自らが振りまいた呪いが生み出す怨念を、その身に吸収し続けていました。 迦夜の力も怨みも。 つまり、悠斗たちが戦った迦夜は、その巨大な器から**ほんの少しだけ溢れ出してしまった「残骸」**にすぎません。 Q2. なぜ沙月(さつき)の血筋だけが、他の巫女より長生きできたの? 美琴の血筋をはじめ、多くの巫女たちが二十代という若さで命を落とす中、なぜ沙月の子孫だけは比較的長く生きられたのか。 その答えは、**沙月が呪いの元凶である琴音の「実の妹」**だったからです。 力の源流に最も近い血を持つ沙月は、琴音の力を扱える器でした。 (もちろん、全く呪われていない訳ではありません) 例えるなら、他の巫女たちの呪いの進行速度を「2倍速」とすると、沙月の子孫は「等速」で進む、というイメージです。 それ故に、他の巫女よりは長く、三十代~四十代まで生きることができました。 悠斗に一切呪いがないのは、沙月の子孫への強い想いから繋がった、祈りという名の奇跡なのです。 Q3. 忘れられた創設者・沙月の歴史 桜織市の創設者である沙月の歴史は、あまりにも長すぎるため、そのほとんどが人々の記憶から忘れ去られています。 温泉郷にかすかに「清き巫女の伝説」が残るのみで、その全貌を知るのは、桜織神社の墓守である藤次郎の一族だけです。 なぜ歴史が忘れられたのか? それは、沙月自身がそう望んだからです。 彼女は、自分の子孫たちが過酷な宿命に縛られず、自由に生きてほしいと願い、藤次郎の祖先に「真実を語り継ぐ必要はない」と伝えていました。 ちなみに、沙月には**《葵(あおい)》**という娘がいました。 白蛇様の分身体を封印する覚悟を
last updateLast Updated : 2025-08-15
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