Semua Bab 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜: Bab 141 - Bab 150

177 Bab

縁語り其の百四十一:絶対的な存在

 一体、何時間車に揺られているのだろう。 時間の感覚は、とうに麻痺していた。ただ、物凄い長い時間、単調なエンジン音と振動に身を委ねていたことだけは確かだった。隣では、輝信さんが大音量の音楽を流しながら、ご機嫌にハンドルを握っている。 この人の体力は、一体どうなっているんだ…。 たった数回の休憩を挟んだだけで、彼は疲れた様子を一切見せない。僕のように霊的なものに気を取られないから、純粋に運転を楽しめているのかもしれない。その軽やかさが、少しだけ羨ましかった。「悠斗くぅん! 疲れてないかぁ!?」「あ、ハイ…僕は大丈夫です…」 声は出したものの、正直、体の芯までじっとりとした疲労が染み渡っていた。襲い来る眠気に、窓の外の景色へ無理やり焦点を合わせて、必死に意識を保つ。「そうかァ! じゃあ、あと少しで着くからなぁ!」 あと、少し…。そのセリフを聞くのは、もう何度目だろう。彼の「あと少し」は、僕の感覚とは絶望的なほどずれているらしい。騙されているわけではないとわかっていても、心のどこかで「またか」とため息が出そうになるのを、ぐっとこらえた。***「ほら! あの山が白蛇山だ! んー! 相変わらず、いつ見ても綺麗な山だなぁ!」 輝信さんは、心底感心したようにそう言った。 けれど、僕の目には、その言葉とは全く違う光景が映っていた。 車窓の先にそびえる山は、見るからに異様だった。空は毒々しい紫色に淀み、雲はまるで古傷から滲み出た血のように、不気味な赤色をしていた。山そのものが、一つの巨大な、病んだ生き物のようにすら見える。 これが、白蛇山…。きっと、輝信さんのような普通の人には、このおぞましい光景は見えていないのだろう。その事実が、僕がこれから踏み込む世界の異常性を、改めて突きつけていた。 やがて、僕らを乗せた車は、白蛇山の麓近くで静かにエンジンを止めた。先ほどまでの陽気な音楽が嘘のように、世界から音が消え失せる。「さぁ、ここからは歩きだ。いくぞ」 その言葉と共に車を降りた瞬間、空気に肌を焼かれるような、鋭い痛みが走った。 濃密な呪いの気配。迦夜から感じたものとは、次元が違う。肌を
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-26
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縁語り其の百四十二:長老の慧眼

「おやぁ……? アンタ…その気配…古の巫女の血を継いでるねぇ…?」 長老の一言が、その場にいた村人たちの間に、さざ波のような動揺を広げた。(巫女の血を引いているのに、男…!?)(そんなことが、ありえるのか…?)(つ、つまり、呪われていない、と…?) ひそひそと交わされる囁きと、奇異なものを見るような視線が、僕の肌に突き刺さる。居心地の悪さに、思わず身を竦めた。「おだまりぃぃぃっ!」 長老の雷鳴のような一喝で、場は水を打ったように静まり返った。その威圧感は、そばにいる僕の肌までビリビリと震わせる。「ふむ…。アンタからは、琴音様とよく似た気配がするねぇ」 長老の視線が、僕の魂の奥底まで見透かすように、まっすぐに向けられる。下手に言葉を濁せば、この老婆にはすぐに見抜かれる。その鋭い瞳が、そう確信させていた。 だから僕は、事実を口にした。「…琴音様の、遠い親戚の家系、だそうです」 僕の言葉に、長老の片目がギロリと光る。「なるほどねぇ…。アンタ…『沙月』様の、子孫かい」 えっ? 僕は驚きを隠せなかった。なぜ、それを知っている? 美琴の話では、沙月さんの記録はほとんど残っていないはずだった。この老婆は、一体どこまで見抜いているんだ。「ふふ。図星って顔だね。付いてきな」 長老は、僕の動揺を楽しんでいるかのように、にやりと笑った。僕は促されるまま、村で一番大きな、厳かな空気を纏った建物の中へと足を踏み入れる。「さぁ、座りな」 通された部屋で座布団を渡され、僕は緊張で乾いた喉をごくりと鳴らした。「し、失礼します…」 背筋を伸ばし、長老と向き合う。これから何が始まるのか、心臓が激しく脈打っていた。「アンタの祖先は、沙月様。それで合っているね?」「…お、おそらくは…」 僕がごまかすように答えると、長老は先ほどまでの威圧的な雰囲気を消し、にぃっと柔らかく笑った。その慈愛に満ちた笑顔に、僕の緊張がわずかに解ける。「やっぱりねぇ。あの方の血筋は、やはり生きていたんだ…」「な、なぜ、それを…?」 僕の疑問に、長老は悪戯っぽく
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-26
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縁語り其の百四十三:そばにいたい

逸る気持ちが、抑えきれなかった。 自分の心臓が、耳のすぐそばで鳴っているかのようにうるさい。その激しい鼓動が、僕を前へと突き動かす。「ふふ。いっておいで」 長老が、僕の心中を見透かしたように、優しい笑顔で背中を押してくれた。 その言葉を聞き終える前に、僕は駆け出していた。会いたい。一秒でも早く、美琴に会いたいんだ。 村の中心部。人だかりの中に、探し求めていた姿を見つけた。「美琴っ!!!!!」 僕の叫びに、彼女が振り返る。その瞳が僕を捉え、驚きに見開かれていく。 考えるより先に、身体が動いていた。一目散に駆け寄り、その細い肩を、壊れ物を扱うように、それでいて二度と離さないと誓うように、強く、強く抱きしめていた。「ちょ、ゆ、ゆ、ゆ、悠斗くん!? な、な、なんでこの村に!?」 腕の中で、美琴が動揺した声を上げる。村人たちの驚きと好奇の視線が、突き刺さるように集まってくるのがわかった。 でも、そんなことはどうでもよかった。美琴だけが持つ、どこか懐かしいような匂い。腕の中に感じる、確かな温もり。それだけで、僕の心は愛おしさで満たされ、目頭がじんと熱くなる。 今はただ、この最愛の存在を、この腕の中に感じていたかった。「ゴラァッ!!!!!!!!!!」 まただ。あの雷鳴のような長老の一喝が、広場に響き渡った。「見てんじゃないよぉ! 解散、解散!」 その声に、村人たちは蜘蛛の子を散らすように去っていく。長老の意外な気遣いに、少しだけ笑みがこぼれた。 僕の想いが伝わったのか、あるいは、僕の必死さに根負けしたのか。腕の中の美琴が、諦めたようにそっと息を吐き、おずおずと僕の背中に手を回してくれた。 ああ、美琴…。会いたかった。ずっと、ずっと、会いたかった。 それから何分経っただろう。ようやく僕は、名残惜しさを振り切るように、ゆっくりと彼女を離した。ほんのりと赤く染まった美琴の顔が、僕の胸をキュッと締め付ける。「悠斗くん…なんで、ここに…?」「輝信さんと、琴乃さんが…。二人が、僕を連れてきてくれたんだ」「あぁ…。もう…琴乃姐さんったら…」 美琴は困ったようにそう言ったけれど、その声の奥には、どこか嬉しそうな響きが隠れていた。「まったく。あんた、見かけによらず、随分と情熱的だねぇ」 いつの間にかそばに来ていた長老が、にやにやと笑いながら言う。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-27
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縁語り其の百四十四:許された時間

「ただ……いたいだけ……?」 長老が、まるで時が止まったかのように、絶句していた。その表情には、信じられないという色がはっきりと浮かんでいる。「あんた…それだけのために、ここまで来たって言うのかい…?」 目を見開き、僕の覚悟を測るように問いかけてくる。 確かに、僕の行動は異常かもしれない。冷静に考えれば、それは自暴自棄にも見えるだろう。だけど、僕にとって美琴は、それだけの価値がある、かけがえのない存在なんだ。 彼女の苦しみを、一人で背負わせたくない。それが、今の僕にできる、唯一のこと。「…たとえ、あんたが死ぬことになったとしても、かい?」 長老の声が、わずかに震える。その問いは、僕自身の心臓を深く抉った。「はい」 僕は、迷いなく頷いた。僕がどうなろうと、美琴を一人にすることだけは、絶対に嫌だった。「……どうする、美琴。これは、完全に計算外だねぇ」 長老は、やれやれと肩を竦めた。 僕の隣で、美琴が嗚咽を漏らした。潤んだ瞳が、僕を真っ直ぐに見つめている。ずっと張り詰めていた糸が、ぷつりと切れたように、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。「……わ…たし…巻き込んじゃ、いけないって…」「えっ…?」「悠斗君を、巻き込んじゃいけないって…そう思って、一人でここに帰ってきたのに…っ! なんで、ここにまで来たの…っ!」 彼女の悲痛な叫びが、僕の胸を締め付ける。迷惑だったのかもしれない。僕の行動は、彼女の覚悟を無下にする、ただのわがままだったのかもしれない。 でも、それでも。「美琴…君を、一人になんて、させない」「っ…!?」「一人で、ここに戻ってくるのは、辛かったでしょ」 僕がそう言うと、美琴の瞳から、さらに大きな涙がぽろぽろと零れ落ちた。 図星だったんだ。何も言わずに僕の前から姿を消す罪悪感。僕の傍から離れなければならない、という事実。それは、僕が感じたのと同じくらい、いや、それ以上に、彼女の心を苛んでいたに違いない。「うん……っ……うん…っ!」 何度も、何度も頷きながら、彼女はしゃくりあげた。言葉にならない声で、その感情を吐き出すように。「つら、かったぁ…! すごく、つらかったよぉ…っ!」「悠斗君が、隣にいないことが…っ! さみしくて…! あなたがいないことが、不安で…辛くて…!」「ずっと…! ずっと、会いたかった…っ!」
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縁語り其の百四十五:絶望の中の日常

 僕は美琴に手を引かれ、村の中を歩いていた。 朝日は昇っているはずなのに、村全体がどこか薄暗い。まとわりつくような呪いの気配が、陽の光さえも鈍らせているかのようだ。それでも、家々からは朝餉の支度をする煙が立ち上り、雨上がりのような湿った土の匂いがする。この、絶望と日常が歪に同居する光景こそが、蛇琴村の現実だった。 繋いだ手だけが、確かな温もりを僕に伝えてくれる。「美琴様!」 すれ違う村人が、美琴に尊敬の念のこもった声をかけた。 美琴様…か。僕の前で見せる、年相応の女の子の顔とは違う、巫女としての彼女。その呼び名が、彼女の背負うものの重さを、僕に改めて突きつけてくる。「おはようございます!」 美琴は、そんな僕の心を知ってか知らずか、にこやかに挨拶を返した。その笑顔は、昨日までの苦悩が嘘のように、心から晴れやかだった。 声を掛けてきた男性は、僕と美琴の繋がれた手を交互に見て、柔らかい笑みを浮かべる。でも、その目元の奥には、この村の空気と同じ、隠しきれない疲弊の色が滲んでいた。「美琴様……良かったですね」「えっ?」「いえ…。随分と暗かったお顔が、明るくなられたので」 男性がそう言うと、美琴の頬がほんのり赤く染まる。 なるほど。彼女の表情一つが、この沈んだ村の、人々の心の支えになっているんだ。僕の存在が、その助けになっているのなら、こんなに嬉しいことはない。 僕は、美琴の手をぎゅうっと、少しだけ強く握った。「っ! ちょ、ちょっと悠斗君!」 美琴は焦りつつも、その手を振り払うことはしない。プクっと頬を膨らませるその仕草が、たまらなく愛おしかった。「ハハッ! 私としては嬉しい限りだ。美琴様を、よろしく頼むよ」「はい」 男性の、心からの言葉に、僕は力強く頷いた。「美琴様〜!」 今度は、快活で、涼やかな声が左手から飛んできた。僕たちと同じくらいの歳の女の子が、こちらに小走りでやってくる。「初めまして。あなたが、悠斗さんね?」「はい。櫻井悠斗です」「私は巫女の菊岡霊砂(きくお かれいさ)。よろしくお願いしますねっ!」 霊砂、という名前が、彼女の透き通るような雰囲気に合っている。「霊砂ちゃん、どうしたの?」「長老から伝言に来ました! 悠斗さんのために、私たち巫女五人で、それぞれ特訓してやったらどうかって!」 えっ? 僕の特訓?
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-27
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縁語り其の百四十六:異質の力

「ということで、悠斗さん! 私たち、美琴様以外の巫女が、自己紹介をさせていただきます!」 霊砂さんの快活な声が、朝の澄んだ空気に響いた。 彼女の傍らには、百合香、そして初めて会う二人の巫女が、静かに佇んでいる。彼女たちを前に、僕は気を引き締め直した。 「まずは私から! 結界術を得意とする霊砂です! よろしくねっ!」 霊砂さんが、太陽のような笑顔で告げる。その親しみやすさが、僕の緊張を少し解してくれた。 「わ、私は……」 次に百合香さんが前に出たが、彼女はモジモジと言葉を詰まらせてしまう。 「ほらっ、百合香! ちゃんと!」 「ふ、封印術が得意な…百合香、です…。よ、よろしくお願いします…」 霊砂さんに背中を押され、百合香さんは囁くような声で言った。でも、その自信なさげな表情の奥で、瞳だけは真剣な光を宿している。封印術か。琴音様のような強大な相手の動きを、一瞬でも止められるなら、それは強力な武器になるだろう。 次に、薄緑の着物を着た、優雅な立ち姿の女性が、すっと前に出た。 「私は浄化術を得意とする霞(かすみ)と申します。以後、お見知りおきを」 礼儀正しくお辞儀をする彼女からは、気品と、清らかな霊力が感じられる。美琴の、すべてを焼き尽くすような浄化の炎とはまた違う、清流のような力だ。 そして、最後の一人。黒い着物に、髪に差した赤い花びらの飾りが鮮烈な印象を残す。その鋭い眼差しは、他の誰とも違う、自らを律するような孤高の雰囲気を纏っていた。 「私は御札術を得意とする雅(みやび)よ。よろしく」 簡潔に頭を下げる。その声は低く、どこか挑戦的な響きを持っていた。 攻撃の美琴、防御の霊砂、封印の百合香、浄化の霞、そして支援の雅…。それぞれが、美琴を支えるための、不可欠なピースなのだと直感した。 「巫女の力を使い始めて、まだ一年程ですが、櫻井悠斗です。よろしくお願いします」 僕が深く頭を下げると、彼女たちの視線が僕に集まる。 「あなたのことは、美琴様から聞いているわ。」 雅さんの静かな言葉に、僕は息を呑んだ。 「とりあえず、私たちに、貴方の『霊眼術
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縁語り其の百四十七:この誓い、君を護る盾となれ

「まあ……無理に手を広げる必要はないです」 霊砂さんがきっぱりとそう言い切った。その声には、僕の力量を冷静に見極めているような、巫女としての確かな響きがあった。 「おそらく、今からではどちらにしても時間が足りません。それに、琴音様と対峙する以上、半端な能力は無意味ですから」 なるほど……。彼女たちの方針は、僕の得意分野を徹底的に磨き上げることらしい。限られた時間の中で、僕が最も活かせる力を伸ばそうという現実的な判断に、僕はそっと胸を撫でおろした。 「よって、目標は幽護ノ帳の練度向上と、バリエーションの追加にしましょう!」 霊砂さんの言葉に、僕はこくりと頷く。確かに、僕が一度に展開できる結界はまだ二枚だけだ。それがもっと多様な形になったり、強固になったりすれば、美琴の助けになれるはずだ。 「バリエーション、か。確かに、まだ二枚しか出せないからね。色々できるようになったら嬉しいな」 僕がそう言うと、美琴がぱっと花が咲くように表情を輝かせた。 「ふふっ、じゃあそれで決定ですね!」 霊砂さんが楽しそうに笑う。美琴も、心から僕の成長を願ってくれているのだろう。その笑顔は、まるで自分のことのように嬉しそうで、見ている僕まで温かい気持ちになる。 「悠斗君、頑張ってね!」 美琴の応援が、じんわりと胸に広がる。 「私はこれから、少しこの村を離れるけど、すぐに帰ってくるから」 突然の言葉に、僕は思わず顔を上げた。離れる……?その一言で、胸の奥に、冷たい雫がぽつりと落ちる感覚がした。 「離れるって……どこか具合でも悪いの?」 もう大丈夫だと自分に言い聞かせても、彼女の身を案じる気持ちは、簡単には消えてくれない。 「ううん。今回は違うから安心して。近くの霊山に行ってくるだけだから」 美琴は僕の不安を読み取ったように、優しく首を振った。その穏やかな声に、強張っていた肩の力が抜けていく。 「ということは……! いよいよあの巫女服が!?」 霊砂さんが、はっと息を呑んで美琴に詰め寄った。その瞳が興奮にきらめいている。巫女服……? 「うん。それを取りに行ってくるんだ」
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縁語り其の百四十八:花火は静かに夢を見る

空が茜色から深い藍へと移り変わる頃、特訓をしていた僕たちの元へ、美琴が帰ってきた。「みんな、ただいま」 焚き火の光に照らされた美琴が、僕たちへ微笑む。その顔には旅の疲れの色よりも、僕たちと再会できた喜びが浮かんでいるように見えた。「お帰りなさい!」 霊砂さんをはじめとする巫女たちが、それぞれ温かい声で美琴を出迎える。その光景から、彼女がこの村でどれほど大切にされているかが伝わってくるようだった。 僕もまた、限界が近い体を引きずるように美琴の側へと歩み寄った。「みんな、悠斗君の様子はどうだった?」 美琴の問いに対し、霊砂さんが即座に答える。「他の能力は未知数ですが、結界術の適性に関しては……おそらく、私よりも高い。それが私たちの見解です」 みんな僕の神籬ノ帳を見て、その硬さに驚いていたけれど、そこまで評価されていたなんて……。僕自身の力というよりは、沙月さんの力が大きいんじゃないだろうか。 そんな考えが頭をよぎる。それでも、この力が美琴を守るためのものなら、僕はその全てを受け入れる。想いの強さが力になる――沙月さんの言葉を思い出すたび、胸の内が熱くなる。あの人はもういないのに、こんなにも僕に影響を与えてくれているんだ。「そっか、みんな、ありがとう!」美琴がそう、巫女たちへと感謝を伝えた。「いえいえ、私達も楽しめましたから」「は、はい……そ、その通り……です…」「ええ」「そうね、悪くない時間だったわ」(僕も……楽しかったな……)「じゃあ……悠斗君、行こっか」 美琴が、ごく自然に僕へ手を差し伸べてきた。 もう、彼女のこういう積極的なところには敵わないな、と僕は満更でもなく心の中で笑みをこぼす。その真っ直ぐさが、たまらなく愛おしかった。 二人で手を繋ぎ、僕は霊砂さんたちへと向き直ってお辞儀をする。「皆さん、一日だけでしたけど、特訓に付き合ってくれてありがとうございました」 僕の言葉に、巫女たちは少し戸惑いながらも、温かい言葉を返してくれた。「うん! 悠斗さん、しっかりね! 」「は、はい……私達こそ……あ、ありがとうございま
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-28
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縁語り其の百四十九:流れ星に祈りを、運命に別れを

そして、翌日。美琴に手を引かれ、村の小道を並んで歩いていると、「美琴様〜っ!」遠くから、焦った様子の霊砂さんが駆け寄ってきた。肩で息をし、額には薄っすらと汗が浮かんでいる。「美琴様、長老がお呼びです……」その強張った表情に、ただ事ではない空気が滲んでいた。霊砂さんの言葉を聞いた瞬間、胸の奥がひやりと冷える。ああ……ついに、来てしまったんだ。覚悟していたはずの“その時”が、もう目の前に迫っている。重たい沈黙が落ちる中、僕と美琴は無言のまま目を合わせ──やがて、長老の家へと歩き出した。.***前回と同じように座布団に腰を下ろし、長老へと体を向ける。彼女の顔には、どこか痛ましい色が浮かんでいた。「美琴……明日が限界じゃ。琴音様の呪いが日に日に強くなっておる。これ以上は……すまないが、待てそうにない」長老は申し訳なさそうに、そして絞り出すようにそう言った。その言葉が、僕の心臓を嫌な音を立てて鷲掴みにする。胸が締め付けられ、息が苦しくなる。だが、隣に座る美琴は、驚くほど普段と変わらない様子で、静かに頷いた。「わかりました。明日、琴音様を祓ってまいります」その表情は、僕の目にはあまりに痛ましく映った。まるで、己の運命をただ粛々と受け入れているかのように。その静かな瞳の奥に隠された覚悟の深さに、僕は言葉を失う。琴乃さんのため……それは、分かっている。でも、僕の本心は叫んでいた。もっと自分を大切にして欲しい、と。「っ……」言葉にならない想いが、喉の奥に熱い塊となって詰まる。最後の時までこうして彼女の傍にいられる。その事実は嬉しいはずなのに、彼女との別れが確実に、そして無慈悲に近づいてきていることに、胸にガラスのひびが入っていくような鋭い痛みを感じていた。このまま時間が止まってしまえばいいと、何度願ったかわからない。特訓で得たこの力で、奇跡は起こせるのか? 彼女の負担を減らせれば……一緒に生還できるかもしれない。そんな、淡く切実な、藁にも縋るような思いが、僕の胸の内を焦がした。「悠斗
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-29
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縁語り其の百五十:月が照らす最後の告白

──誰だろう。こんな時間に。部屋に静かに響く、ノックの音。「コン……コン……」と、控えめに、それでも確かな意思を感じる音だった。一度だけじゃない。もう一度──「コンコン」僕は上半身を起こし、音を立てないようにそっと立ち上がる。しんと静まり返った夜の中、扉の向こうにいるのが誰なのか、なんとなく想像がついていた。ゆっくりと扉を開くと──そこに立っていたのは、やはり美琴だった。「美琴……どうしたの、こんな時間に」月明かりに照らされた彼女は、少しだけ頬を赤らめ、目を伏せて呟く。「悠斗君……眠れなくて……。その、一緒に寝ても……いいかな……?」「えっ……。」不意を突かれて、心臓が大きく跳ねた。でも……僕を見上げるその瞳は、真剣そのものだった。「……うん、いいよ。一緒に寝よう」僕がそう答えると、美琴はほっとしたように、ふわりと笑った。その笑顔が、どこか寂しげで、でも、とても優しかった。「ありがとう」美琴は僕の部屋に入ると、慣れた様子で押し入れを開ける。中には予備の布団がいくつも重ねてあった。「美琴、僕が出すよ」彼女の手をそっと制し、僕は押し入れからふかふかの布団と毛布を取り出す。そして、自分が寝ていた布団のすぐ隣に、そっと敷いてやった。「ありがとう!」「なんだか……、一緒に寝るのって、久しぶりだね」あの夜のことを思い出す。(緊張しすぎて、全然眠れなかったっけ……。)「その顔……あの時のこと、思い出してたでしょ?」くすっと笑いながら、彼女が指摘してくる。僕の考えていたことを、まるで当然のように言い当てる美琴。なんていうか──理解されてるんだな、と思う。そのことが、胸の奥をじんわりと温かくした。「ねぇ悠斗君、少しだけ話さない?」美琴は自分の布団にぺたんと座り込むと、隣をぽんぽんと叩き、僕に向かって笑みを浮かべる。「……うん」その笑顔に誘われるように、僕は彼女の正面に座った。月明かりが、二人の間に落ちている。「悠斗君、覚えてる? 私たちが初めて出会った日
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-29
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