一体、何時間車に揺られているのだろう。 時間の感覚は、とうに麻痺していた。ただ、物凄い長い時間、単調なエンジン音と振動に身を委ねていたことだけは確かだった。隣では、輝信さんが大音量の音楽を流しながら、ご機嫌にハンドルを握っている。 この人の体力は、一体どうなっているんだ…。 たった数回の休憩を挟んだだけで、彼は疲れた様子を一切見せない。僕のように霊的なものに気を取られないから、純粋に運転を楽しめているのかもしれない。その軽やかさが、少しだけ羨ましかった。「悠斗くぅん! 疲れてないかぁ!?」「あ、ハイ…僕は大丈夫です…」 声は出したものの、正直、体の芯までじっとりとした疲労が染み渡っていた。襲い来る眠気に、窓の外の景色へ無理やり焦点を合わせて、必死に意識を保つ。「そうかァ! じゃあ、あと少しで着くからなぁ!」 あと、少し…。そのセリフを聞くのは、もう何度目だろう。彼の「あと少し」は、僕の感覚とは絶望的なほどずれているらしい。騙されているわけではないとわかっていても、心のどこかで「またか」とため息が出そうになるのを、ぐっとこらえた。***「ほら! あの山が白蛇山だ! んー! 相変わらず、いつ見ても綺麗な山だなぁ!」 輝信さんは、心底感心したようにそう言った。 けれど、僕の目には、その言葉とは全く違う光景が映っていた。 車窓の先にそびえる山は、見るからに異様だった。空は毒々しい紫色に淀み、雲はまるで古傷から滲み出た血のように、不気味な赤色をしていた。山そのものが、一つの巨大な、病んだ生き物のようにすら見える。 これが、白蛇山…。きっと、輝信さんのような普通の人には、このおぞましい光景は見えていないのだろう。その事実が、僕がこれから踏み込む世界の異常性を、改めて突きつけていた。 やがて、僕らを乗せた車は、白蛇山の麓近くで静かにエンジンを止めた。先ほどまでの陽気な音楽が嘘のように、世界から音が消え失せる。「さぁ、ここからは歩きだ。いくぞ」 その言葉と共に車を降りた瞬間、空気に肌を焼かれるような、鋭い痛みが走った。 濃密な呪いの気配。迦夜から感じたものとは、次元が違う。肌を
Terakhir Diperbarui : 2025-07-26 Baca selengkapnya