しばらくすると、アルバートがヘンリーの様子を見に部屋へ戻ってきた。 音を立てないように、そっとドアを開け中へと入っていく。 ソファーの上では、ヘンリーが幸せそうな顔でスヤスヤと眠っていた。「おやおや、しかたない方ですね」 アルバートはヘンリーの体にそっと毛布をかける。 そのとき、ヘンリーの頬に涙の跡があることに気づいた。「ヘンリー様……」 起こさないように、アルバートはヘンリーの頭をそっと優しく撫でた。「苦しいでしょうが、頑張ってください。私がついております」 その寝顔を見つめながら、アルバート自身も流華たちとの日々に思いを馳せた。 懐かしく、騒がしくも目まぐるしい……。 しかし、とても充実した、幸福だった日々。「大丈夫、いつの日かまた会えます。その日を夢見て待ちましょう……」 そのとき、窓から射しこむ優しいひだまりと、暖かな風が二人を包み込む。 それは流華たちとの日々のようだった。 あたたかくて、幸せな―― 二人は幸せな夢を見る。 大好きな人のことを思い出しながら。 ◇ ◇ ◇ 「え?」 一人部屋にいた私は、なぜか誰かに呼ばれた気がして振り返った。 しかし、誰もいない。 当たり前だ、ここは私の部屋で、今は一人なのだから。 ふと、ヘンリーのことを思い出す。 彼らは元気で暮らしているだろうか。 そのとき、コトッと物音がした。 そこは、あの大切な“もの”をしまった場所。 私はそっと机の引き出しを開けた。 そこには、ヘンリーから貰った指輪が置いてあった。 小さな箱を手に取り、高鳴る胸とともに箱を開く。 可愛らしい指輪が姿を現すと、その指輪が一瞬輝きを増した。「……ヘンリー?」 もちろん返事はない。 でも返事をしてくれているような気がした。「お嬢ー、朝ごはんができましたよー」 下から龍の声が聞こえる。「はーい! 今行くー」 私は指輪にそっと触れると微笑んだ。「行ってきます」 元の場所へ指輪を戻すと、私は部屋を出て行った。 ヘンリー、私はあなたのことを決して忘れない。 だって私が時を超え、愛した人だから。 今は違う時代を生き、違う人を愛しているけれど。 きっと、またあなたと出会える。 何度も、何度でも、きっと…… 大切な思い出を
最終更新日 : 2025-08-25 続きを読む