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お嬢!トゥルーラブ♡スリップ のすべてのチャプター: チャプター 101 - チャプター 110

159 チャプター

【第1部】 第53話 遠く離れても……③

 しばらくすると、アルバートがヘンリーの様子を見に部屋へ戻ってきた。  音を立てないように、そっとドアを開け中へと入っていく。 ソファーの上では、ヘンリーが幸せそうな顔でスヤスヤと眠っていた。「おやおや、しかたない方ですね」 アルバートはヘンリーの体にそっと毛布をかける。  そのとき、ヘンリーの頬に涙の跡があることに気づいた。「ヘンリー様……」 起こさないように、アルバートはヘンリーの頭をそっと優しく撫でた。「苦しいでしょうが、頑張ってください。私がついております」 その寝顔を見つめながら、アルバート自身も流華たちとの日々に思いを馳せた。 懐かしく、騒がしくも目まぐるしい……。  しかし、とても充実した、幸福だった日々。「大丈夫、いつの日かまた会えます。その日を夢見て待ちましょう……」 そのとき、窓から射しこむ優しいひだまりと、暖かな風が二人を包み込む。 それは流華たちとの日々のようだった。  あたたかくて、幸せな――  二人は幸せな夢を見る。  大好きな人のことを思い出しながら。  ◇ ◇ ◇ 「え?」 一人部屋にいた私は、なぜか誰かに呼ばれた気がして振り返った。 しかし、誰もいない。  当たり前だ、ここは私の部屋で、今は一人なのだから。 ふと、ヘンリーのことを思い出す。  彼らは元気で暮らしているだろうか。 そのとき、コトッと物音がした。 そこは、あの大切な“もの”をしまった場所。 私はそっと机の引き出しを開けた。  そこには、ヘンリーから貰った指輪が置いてあった。 小さな箱を手に取り、高鳴る胸とともに箱を開く。  可愛らしい指輪が姿を現すと、その指輪が一瞬輝きを増した。「……ヘンリー?」 もちろん返事はない。  でも返事をしてくれているような気がした。「お嬢ー、朝ごはんができましたよー」 下から龍の声が聞こえる。「はーい! 今行くー」 私は指輪にそっと触れると微笑んだ。「行ってきます」 元の場所へ指輪を戻すと、私は部屋を出て行った。 ヘンリー、私はあなたのことを決して忘れない。 だって私が時を超え、愛した人だから。 今は違う時代を生き、違う人を愛しているけれど。  きっと、またあなたと出会える。 何度も、何度でも、きっと……  大切な思い出を
last update最終更新日 : 2025-08-25
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【第2部】 第1話 予兆……①

 私はベッドの上で、深い眠りについていた。 時刻は、真夜中の丑三つ時。 ――ゴトッ、と物音が聞こえた。  ガバッと上半身を起こす。 え、今の音……何? 暗闇に神経を集中させ、耳を澄ませる。 何を隠そう、私はかなりの怖がりだ。  幽霊の類は超苦手。 真夜中、静寂、暗闇、物音。 こんなに怖い条件がそろっていて、何事もなかったように眠れるわけがない! 私はバクバクする胸を押さえながら、キョロキョロと辺りを見渡す。 けれど、月明かりに照らされた部屋は、見慣れた風景のまま静まり返っている。 特に変わった様子は、ない。「き、気のせいか……そうだよ、きっと気のせい」 無理やり結論づけると、さっきまでの恐怖をなかったことにしようと布団に潜り込んだ。 ――ゴトゴトッ。 さっきよりも大きな音が、部屋の中に響く。 ひぃー! 助けて、ごめんなさい! 恐怖が絶頂に達した私は、何に謝っているのかもわからないまま、ひたすら心の中で謝り続けた。 頭から布団をかぶり、目をぎゅっと瞑りながら、念仏のように「ごめんなさい」を繰り返す。 そして、ふと思う。 あれ? ちょっと待て。  今の音……どこから聞こえた? おそるおそる布団の隙間から顔を出し、音のした方向へ視線を向ける。 机の引き出し。  あの辺りから、だよね? その引き出しには、あの指輪がしまってある。 そう、ヘンリーから貰った指輪だ。 ごくりと生唾を呑み込み、私は意を決して布団から抜け出した。 そろりそろりと、机へと近づいていく。 机の前に立ち、引き出しをじっと見つめる。  震える手を伸ばし、恐る恐る取っ手に手をかけた。 ええい! 思い切って引き出しを開けると、その瞬間、強烈でまぶしい光が溢れ出す。 部屋の中は、昼間のように真っ白に照ら
last update最終更新日 : 2025-08-26
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【第2部】 第1話 予兆……②

 ヘンリーたちと別れ、早一年が経とうとしていた。 あれから、私と龍とおじいちゃんは、ヘンリーたちとの思い出を胸に仲良く暮らしている。  平穏な、普通の毎日。 ……違うことと言えば、私と龍が付き合ってること、くらいかな。 龍のことを思い浮かべると、自然と口元がほころんでしまう。 ちょうどそのとき、廊下の向こうから龍が歩いてくるのが見えた。  その姿に胸が少し高鳴り、心がふんわりあたたかくなる。 目の前に来た龍は、私に優しく微笑んだ。「おはようございます、お嬢」「おはよう、龍」 え? なんで流華じゃなくて、お嬢かって? そう、せっかく呼び方が「流華」に進化したかと思ったのに。  いつの間にか日常では「お嬢」に戻っていた。 二人きりの甘い時間のときだけ、「流華」って呼んでくれるんだよね。  まったく、もう。 彼は、神崎龍之介。通称、龍。 私の恋人であり、組の若頭。  ……組っていうのは、うちが極道一家だから。 私は如月家組長の孫娘、如月流華。 幼い頃に両親が亡くなってからは、祖父に育てられた。 だから、ごく普通の女子高生……ではなかった。  極道の世界で生きる人たちと暮らし、学校や世間からは、ちょっと距離を置かれている。  それが私の日常。 いろいろあって、龍と付き合うことになったんだけど……。 自分の気持ちに気づくまでが、長かったんだよね。 最初は龍への気持ちに気づけなくて。  でも、親友の貴子の助けや、ヘンリーの存在。 いろんな人に背中を押してもらったおかげで、ようやくわかった。 あ、ヘンリーっていうのは、私に会うためにタイムスリップしてきた王子様。 過去生で私と恋人同士だった彼は、その想いが強すぎて、恋人の生まれ変わりである私のもとへ……。  っていう、もうほんと信じられないような出来事があった。 彼が現れてからは、私の周りは
last update最終更新日 : 2025-08-26
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【第2部】 第1話 予兆……③

 挨拶を終えた龍は、忙しそうに台所へと戻っていく。 今も魚の皿を手に、居間の机へと料理を運ぶ途中だった。それを置くと、すぐにまた台所へ引き返していった。 朝食の準備に追われているみたい。 私と祖父の食事は、いつも龍が作ってくれている。  彼が家に来たときから、ずっと。 率先して家事をしてくれる龍。 私、家事は苦手だからほんとに助かる。  それに、龍の料理は超美味なのだ。 いつも、家庭的な料理を、手際よく華麗に食卓へと並べていく。 龍って、なんでもできるんだよね。  家事全般、お手のもの。 料理、洗濯、掃除——主婦も顔負けだ。 もちろん、私も負けてる。  朝の支度を整え、居間に向かう。  机の上には、三人分の朝食が所狭しと並べられていた。 白いご飯に、お味噌汁、焼き鮭、お漬物、そして納豆。 まあ、朝から豪華だこと。  目を輝かせていると、後ろから祖父の声が飛んできた。「流華、そんなところに突っ立ってないで、座りなさい」「はーい」 いつもの席に座ると、祖父も向かいに腰を下ろす。  私の隣には、龍の料理も並べられていた。 三人で揃って食卓を囲むのが、毎朝の日課だ。 祖父は龍が淹れた熱々のお茶をすすりながら、真剣な表情で新聞に目を通している。  いつものおちゃらけた顔とは、まるで別人。 こういうときは「さすが組長だな」と思わなくもない。 祖父は如月一家の組長、如月大吾。  組の人たちからは恐れられているらしいけど、私にはただの優しいおじいちゃんだ。 よくおふざけが過ぎるときもあるけど、祖父いわく、それも愛嬌……らしい。 たくさんの愛情を注いで、私を大切に育ててくれた。  本当に尊敬しているし、大事な家族だ。 「いただきまーす」 準備が整い、龍も席に着いたところで、三人そろって合掌する
last update最終更新日 : 2025-08-27
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【第2部】 第2話 日常①

「いってきまーす」 祖父に手を振る私の隣で、龍は軽く会釈する。 玄関の前に立ち、私たちに手を振る祖父。 以前は、組の者たちが玄関前に整列し、大勢で見送ってくれていたんだけど……。  私が「やめて」とお願いした。 わざわざ、ねえ? 仁義や礼節を重んじる世界なのは、わかる。  でも、皆総出でお見送りされるのは、ちょっと。 私は祖父に見送られながら、龍と共に家の門をくぐった。 「今日も、いい天気っ」 空から降り注ぐ太陽の光に目を細めながら、私は大きく伸びをする。「最近いいお天気が続きますね。洗濯日和で助かります」 龍は穏やかに微笑んだ。 そう、彼は毎日、洗濯もしてくれているのだ。  もちろん、私の下着やおしゃれ着は洗わないようにしてもらっているから、そこは大丈夫。 主婦顔負けに家事をこなす龍は、私なんかより、よっぽど女子力が高い。 だけど、彼のすごいところはそれだけじゃない。 喧嘩の腕は超一流。  めちゃくちゃ腕っぷしが強く、組の中でもトップの実力を誇る。  頭も切れ、作戦を立て支持を出すのも的確。あらゆることをそつなくこなしてしまう。  とても頼りがいがあって、皆からの信頼も厚く、組の中では完全にリーダー的存在だった。 外見だって、そんじょそこらの男たちに負けないくらい格好いい。 ……モテる、らしい。 私は知らないんだけど、組の連中がそう言ってた。 確かによく見ると、龍はイケメンだもんね。  これは、彼女である私の立場がそう見せているだけかと思っていたけど――どうやら違うようだ。 そんな彼が、いったい私のどこを気に入ってくれたのだろう。 と最近、よく考える。 私より、ずっと女子力が高い。  強くて、男らしくて、完璧なメンズ。 女ならいくらでも寄ってきそうなのに……なぜ、私なのか。謎だ。 じーっと見つ
last update最終更新日 : 2025-08-28
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【第2部】 第2話 日常②

 教室に辿り着いた私は、自分の席に着く。  ふと窓の外を見ると、大きな木が目に入った。 この前の席替えで、窓際の席をゲットしたのはラッキーだった。  だって、ここからは校庭にそびえる大きな桜の木がよく見えるから。 かなりの年月を生きてきたと思われるその大木は、毎年、満開の桜を咲かせる。 この高校の名物と言ってもいい。 今は紅葉の時期。  真っ赤というよりは、落ち着いた深い赤に染まる花びらたち。  私はこの色合いがけっこう好きだった。 きっと、春にはまた見事な桜を咲かせ、みんなの心を癒してくれるだろう。 その頃には、龍との関係も、もう少し進んでいるだろうか……。 別に今の関係に不満があるわけじゃない。  でも、キスより先の展開の兆しがちっとも見えない。 私だって乙女だ。  好きな人とのいろいろを妄想してしまうことくらいある。  だけど、龍は超がつくほど真面目で堅物。  そういうのを期待しても、たぶん無理だろう。 私から迫るのも……どうなんだろう。  悩むところだ。 そんなことをぼんやり考えながら木を眺めていると、突然、背後から誰かに強烈なアタックを食らった。 ドンッ!「何、感傷に浸ってるのよ!」「……っ痛いなあ、もう」 私はアタックされた背中をさすろうとするが、手が届かなかった。  振り返って、その犯人を睨みつける。 ぶつかってきた張本人――そんな人は彼女以外、いない。 可愛らしく舌をペロッと出す、貴子。「おはよう、流華」 そう言うと、彼女は当たり前のように私の椅子に無理やり腰掛けてきた。  私は貴子に押され、お尻が半分しか椅子に乗っていない状態になる。 これ、いつものこと。 彼女は、桜井貴子。  私の親友だ。 家は超がつくお金持ちで、わがままなお嬢様。  でも決して嫌な子じゃない。  根は素直
last update最終更新日 : 2025-08-29
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【第2部】 第3話 摩訶不思議 再来!①

 ホームルームを知らせるベルが、教室に鳴り響いた。 おしゃべりしていた生徒たちが、一斉に自分の席へと戻っていく。  その様子を、既に着席していた私は、どこか余裕のある表情で眺めていた。 さっきまでマシンガントークを披露していた貴子も、話すのをやめ、私にひらひらと手を振りながら席に戻っていく。 そのとき、不意に教室前方のドアが開いた。 担任の先生が入ってくる。  ……そのすぐ後ろから、一人の生徒が続いた。 その瞬間、思わず目を大きく見開いた。  心臓が口から飛び出しそうになる。  慌てて立ち上がった拍子に、ガタン! と椅子が派手に鳴り響いた。 教室内もザワザワと騒がしくなる。  誰かがその生徒を凝視し、何かを口走ったかと思えば、指を指す者まで現れる。 それも当然だ。  だって、そこに立っていたのは―― “中村透真”だったから。  中村透真。  彼は私の恩人であり、以前、私のもとにタイムスリップしてきたヘンリーの生まれ変わりでもある。 ……話は、一年ほど前に遡る。 私はある日突然、暴漢に襲われた。  如月組を敵視している連中が仕組んだことで、私を人質にしようと考えたのだろう。  いきなり、強靭な男が襲いかかってきた。 あのとき運悪く、いや、あえてその時を狙ってきたのかもしれない。  いつもそばにいてくれる龍は、大事な会議に出ていて、近くにいなかった。 ふいを突かれた私は、男に拉致されそうになる。 そのとき、現れたのが中村透真だった。 彼は私を助けてくれた。  だが、その代償にひどい怪我を負い、植物状態になってしまった。 その後、ヘンリーが私のもとへタイムスリップしてきた。  そして私とヘンリーは、急速に惹かれ合っていくことになる。 最初は戸惑った。  どうしてヘンリーにこんなに惹かれるのか、不思議でならなかった。  けれど後に、それが
last update最終更新日 : 2025-08-30
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【第2部】 第3話 摩訶不思議 再来!②

 ヘンリーと同じクラスだった生徒も、何人かこのクラスにいる。  そのせいで、ざわつきはさらに大きくなっていた。 生徒たちの視線が、私と彼に交互に注がれている。  驚きと戸惑いの入り混じった目が、教室中にあふれているのがわかった。 だって、ヘンリーがこの学校にいたとき、私にゾッコンラブだった姿は、みんなの記憶にしっかりと焼き付いているはずだから。 「え? どういうこと?」 「なんで?」 ――そんな声が、今にも聞こえてきそうだ。「えー、みんな驚いてるだろうけど。彼はヘンリー君じゃありません。  中村透真君です。  本人の希望により、今日からこちらの学校に転入してきました。  みんな仲良くしてあげてね」 担任の先生がそう言って、中村透真に目配せを送る。  彼は一歩前に出て、礼儀正しくお辞儀をした。「中村透真と申します。どうぞ、よろしく」 その笑顔は、私が知っている中村透真のものじゃなかった。  まるで、ヘンリーを彷彿とさせる……そんな微笑みだった。 え……まさか、ね。  そんな摩訶不思議なこと、もう起こらない。  起こるわけ、ない。 いやな予感が頭をかすめ、私は慌てて頭を左右に振った。  ホームルームが終わると、私は迷うことなく中村透真のもとへ駆け寄った。  そのまま、彼の腕をぐいっと引っ張って教室を飛び出す。 誰もいない廊下に彼を連れ込み、あたりを素早く確認する。  誰もいないことを確かめてから、私は呼吸を整え、彼の顔をじっと見つめた。 もう一度、ゆっくりと確認する。 何度見ても、やっぱり中村透真にしか見えない。「中村……透真君、だよね?  なんで、うちに転校してきたの?」 恐る恐る尋ねると、彼はニコッと笑った。  そして、元気いっぱいの声でこう言った。「流華、僕だよ。ヘンリーだよ!」 その瞬間――  
last update最終更新日 : 2025-08-30
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【第2部】 第4話 舞い戻ってきた!?

 そして、放課後。 私は中村透真――いや、ヘンリーを引き連れ、龍が待つ場所へと急ぎ足で向かっていた。  あの衝撃の発言を受け、私は見事にパニック状態に陥った。 ヘンリーが中村透真?  中村透真がヘンリー?  あーっ、わけわからん! そんな私の混乱ぶりを見かねたヘンリーが、ニコニコと微笑みながら言った。「話、長くなりそうだからさ。放課後、流華の家で説明するよ。ここじゃなんだし」 その顔はまさに、ヘンリーそのもの……って、そりゃそうなんだけど!  もう、ややこしいっ! でもまあ、一度冷静になるためにも、彼の提案を受け入れることにした。  休み時間になると、クラスメートたちがヘンリーを取り囲み、尋問大会が始まった。 「ヘンリーじゃないの?」  「なんで顔そっくりなの?」  「如月さんとどういう関係?」 執拗な質問が次から次へと飛び交う。 しかしヘンリーは、終始ニコニコと笑顔のまま、巧妙にスルーしていく。 結局、まともに答えられてはいないのに、彼のあの天然人たらしぶりに、みんな何となく納得させられてしまっている。 ……やっぱり、ヘンリーだ。  そんな様子を黙って観察していると、貴子がずいっと私の隣にやってきた。  案の定、中村透真のことについて詳しく聞きたがる。 うん、まあ……そうなるよね。  私は半ば呆れつつ、「明日、説明するから」の一点張りでなんとかごまかした。 私自身、まだ状況がよくわかってないんだし。  まずは自分が理解しないと。 貴子は納得していないようだったが、最後には渋々引き下がってくれた。「明日、ちゃんと話してもらうからね!」と、キツめに念押しされちゃったけど。  放課後、校門を出ると、私はいつもより速いペースで歩き出した。  その隣には、ヘンリーがぴったりとついてきている。
last update最終更新日 : 2025-08-31
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【第2部】 第5話  はちゃめちゃな日々①

 目の前には、中村透真の姿をしたヘンリーが、にこにこと微笑みながら私たちを見つめている。 居間には、私と龍、祖父、そしてヘンリー(中村透真)が揃い、膝を突き合わせていた。 こちらサイドの三人は、お互い神妙な顔で視線を交わす。  それぞれ考えていることは、たぶん同じだ。 「じゃあ、僕がなんで中村透真の中にいるのか、経緯を話すね」 ヘンリーは私たちを順番に見つめ、めずらしく真剣な表情で語りはじめた。  元の世界に帰ったあとも、ヘンリーは毎日、私のことを想って暮らしていたという。  それはもう、深く強く……だそうだ。 そして一年くらい経ったある日。 私のことを想いながら眠りについたヘンリーは、夢の中で中村透真と向き合っていた。  妙にリアルなその光景に、現実なのか夢なのか、最初は区別がつかなかったらしい。 彼は、じっとヘンリーを見つめ続けていた。 最初は戸惑ったヘンリーも、勇気を出して話しかけてみた。  すると、ちゃんと返事が返ってきたらしい。 二人は会話を交わし、ヘンリーはそのうち、私のことを熱く語りはじめた。  募る想いを、切々と。 中村透真は、それを嬉しそうに聞いてくれていた。 たくさん語り合ったあと、彼は黙り込んで、何かをじっと考える素振りを見せた。  そして、静かに言った。「ヘンリーに、僕の体を貸すよ」 中村透真は、ヘンリーが自分の体を通して、私に会いに行けるようにしてくれた……そうだ。 本当にそんなことができるのか? その時はよくわからなかった。  でも、ヘンリーは彼の想いを素直に受け取り、喜んでそれを受け入れた。 気がつけば、彼の中にヘンリーの意識が入り込み――  そして今、中村透真の体を使って、ここにいる……らしい。  じゃあ、中村透真の意識は?    今は眠っているということだろうか。  でも、次はいつ入
last update最終更新日 : 2025-09-01
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