そのとき、コホンっと咳払いが聞こえた。 視線を向けると、龍が恐ろしいほど冷静な顔で、ヘンリーを睨んでいる。「龍……もう昔みたいに、暴れないでね」 私は隣に座る龍に、そっと耳打ちした。 すると、彼は固い笑顔を作りながら私を見る。「当たり前じゃないですか……お嬢は、何を心配しているのですか?」 その言葉に合わせて、こめかみには青筋が浮いている。 その笑顔、ひきつってるし。 いや、怒ってるじゃん! ヘンリーは今の状況を理解しているのかいないのか、私に向かって無邪気に詰め寄ってきた。「僕、流華にもう一度会えて、すごく嬉しい。 もう二度と会えないのかと思ってたから……」 至近距離まで迫ってくるヘンリー。 そのまま、私の手をぎゅっと握りしめてきた。 突然の行動に、鼓動が跳ね上がる。「ヘンリー……」「僕、流華のこと、まだ――」 と言いかけた瞬間だった。 ドガァッ! すさまじい轟音とともに、龍の鉄拳がヘンリーに命中した。 ヘンリーは勢いよく吹っ飛び、上半身を壁にめり込ませた。「ヘンリー!」 私は慌てて、壁に刺さったヘンリーの元へ駆け寄る。 ピクピクと動いている彼の足をつかみ、勢いよく引っ張る。 何とか救出に成功し、振り返って龍に怒鳴った。「龍っ!」 しかし龍は、しれっと知らぬ顔でそっぽを向いている。 ……前にもあったな、こんなこと。デジャヴ。 ほんと、こういうところは子どもなんだから。 でも、なんだかその懐かしさに、少し笑ってしまう。 昔を思い出しながら微笑んでいると、今度はヘンリーが嬉しそうに覗き込んできた。「あ、流華、笑った。 やっぱり流華の笑顔はいいね。……可愛い」「なっ――!」 久しぶりに聞くヘンリーの甘い言葉に、思わず顔が熱くなる。
最終更新日 : 2025-09-01 続きを読む