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お嬢!トゥルーラブ♡スリップ のすべてのチャプター: チャプター 121 - チャプター 130

159 チャプター

【第2部】 第10話 流華の着物姿②

 その瞬間、大きな手がヘンリーの顔にかぶさった。「どけ」 龍の声が低く響き、ヘンリーは一瞬で横へ吹っ飛ぶ。 驚いて視線を動かすと、壁に上半身をめり込ませているヘンリーが、ピクピクと足を震わせていた。「……龍、ダメじゃない」 あきれ顔で龍を見ると、彼はまっすぐな視線で見つめ返してきた。 その瞳がゆらゆらと揺れている。  でも、しっかりと私を見ていた。 その熱を感じた瞬間、心臓がドクンと跳ねる。 そして、龍が静かに微笑んだ。「お嬢……綺麗です。  姿を見た瞬間、息が止まりました。あまりにも可憐で」 頬を染めながら顔を背け、大きな手で自分の顔を覆う龍。  普段は冷静な彼の、そんな姿に胸が高鳴る。「そんな素敵な姿を見合い相手に見せるのは癪ですが……なんとか耐えます」 そう言いながら向き直った彼は、苦しげな表情を浮かべていた。 ああ……。  大好きな人を、こんなに苦しめてまでお見合いをするなんて。 胸がぎゅっと締め付けられる。「龍……ごめんね」 俯いた瞬間、龍の手が私の頬に添えられ、優しく上を向かされた。「いいんですよ。だって、流華さんは私の女でしょう?  俺だけの――」 その言葉と眼差しに、私の心臓は壊れそうなほどバクバクと跳ね上がる。「も、もちろん。私は龍のものよ」 必死で平静を装って答えると、龍は満足げに微笑んだ。  その笑顔がまた格好よくて、顔が熱くなる。「……流華さん」「……龍」「もうそろそろ、いいかの?」 見つめ合う私たちのすぐそばから、祖父の声が聞こえた。「わあっ!」 また祖父の存在をすっかり忘れていた……! ふと視線を動かせば、着付けの先生も少し離れた場所で手持ち無沙汰に立っている。  そして、少し頬を染めながら、興味津々といった顔で私たちを見てい
last update最終更新日 : 2025-09-09
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【第2部】 第11話 お見合い①

 祖父がお見合い相手を迎えに行っている間、私は奥座敷で待機していた。 ごく普通の八畳間。  床の間に飾られてある掛け軸が豪華なところを除けば、特に変わったところのない、客間として使われている部屋だ。  その中心に、二つの座布団が対面するように並べられている。 私は、自分用の座布団にそっと腰を下ろした。  目の前にぽつんと置かれたもう一つの座布団が、なんだかやけに重々しく感じられる。 あそこに、お見合い相手が座るんだよね。 意識すればするほど、妙に心拍が速くなる。  ほんのちょっと前まで、形だけのことだって割り切っていたはずなのに。 き、緊張してきた。 ……あれ?  でも普通、こういう時って座布団って四つじゃないの? 私と相手と、それからおじいちゃんと、相手方のおじいちゃん……。 そう疑問に思って周囲を見渡すけれど、やっぱり座布団は二つきり。 おかしいな。 首を傾げながら考え込んでいると、ふいに廊下の方から人の声が聞こえてきた。  その声がだんだんとこちらへ近づいてくる。 はっとして、私は考えるのをやめ、慌てて姿勢を正した。 襖の前に、ふっと人影が現れ、止まる。 来た。  ごくりと生唾を飲み込む。「入るぞ」 祖父の声と共に、襖が滑るように開かれた。 祖父がゆっくりと部屋に入ってくると、その後ろから一人の男性が入ってきた。「失礼します」 頭を下げる所作は丁寧で、無駄がない。  すらりとした細身のシルエットに、すっと伸びた背筋。 全体の印象は、柔らかいのに、芯が通っている感じがした。 ……思ってたのと違う。  品があって、どこか物静かそうな人。 その男性は、静かな足取りで私の正面に進むと、座布団の上にゆっくりと腰を下ろした。  そして、すっと顔を上げる。 その瞬間、なんとも言えない驚きを覚えた。 “祖父の親
last update最終更新日 : 2025-09-10
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【第2部】 第11話 お見合い②

「私は、如月流華と言います。  如月組の組長の孫で、普通の高校生やってます。  性格は……」 ここで、口が止まった。 私ってどんな性格だっけ?  みんなから何て言われてる? 緊張のせいで、頭が真っ白になる。「あ、えーと……鈍い、とか。元気がいい、とか。強いってよく言われます!」 思いつくままに口走った言葉に、思わず自分で噴き出しそうになる。 まあ……嘘はひとつもないんだけど。  龍、貴子、おじいちゃんから、いつも言われていることだし。 私の言葉に、相川さんは目をぱちくりとさせた。  ぽかんと口を開けて固まっている。 し、しまった。何か間違ったか?  やっちまったのか!? 一瞬青ざめたが、すぐに思い直す。 いや、まてよ――別にいいか。  嫌われた方が断りやすいし。 もしかして、あっちから断ってくる可能性も……それはありがたい。 自然と笑顔になっていく私に、相川さんもふっと表情を崩す。「ははっ。流華さんは面白いですね」「え?」「普通はもう少し、取り繕うと思いますけど」 相川さんは肩を震わせ、どうにか笑いを抑えようとしていた。 なっ! 私、もしかして笑われてるの?  紳士的だと思ったけど、案外失礼な人なのかも……。 私はむっとしながら、頬を膨らませた。  それに気づいたのか、彼はすぐに表情を戻すと静かに笑う。「すみません。でも、僕は強くて元気な女性、好きですよ」「へ……?」 思わずぽかんとしてしまう。 変わった趣味だな……と、少し引く。 と、そのとき。  相川さんの目つきが変わった。 ぐっと鋭くなり、まるで獲物を見据える肉食動物みたいに私を見つめる。 一瞬のことだったけれど、背筋が冷たくなるのを感じた。 え、なにこれ……。  っていうか、やっぱりこう
last update最終更新日 : 2025-09-11
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【第2部】 第12話 今度はデート!?①

 相川さんが帰ったあと、私は改めて祖父に詰め寄っていく。「ちょっと、おじいちゃん! どういうこと?」「何がじゃ?」 とぼけた顔で私から顔を背ける祖父に、思わずイラっとする。「とぼけないで! せっかく断ろうとしたのに、なんで邪魔するの?」「だって、あっちは流華のことを気に入っておったじゃないか。あっさり断るのも失礼じゃろ?」 その言葉に、ピンときた。 さては、おじいちゃん、ずっと外で立ち聞きしてたな? まったく。  自分から放置しておいて、そういうところはしっかりしてるんだから。 怒りがじわじわと増幅していくのを、なんとか抑え込む。  冷静に……と、必死で自分を落ち着かせた。 ここで感情的になってはいけない。  おじいちゃんのペースに巻き込まれるだけだ。 と、思うが、なかなか感情とはコントロールできないものだ。「それでも!」 強めに言葉を重ねる。「私には、れっきとした龍という恋人がいるんだから。  どうせ断るなら、早い方がいいでしょ?」 ふんっと鼻息荒く、祖父を睨む。 祖父は腕を組みながら、しばらく「うーん」と考え込む素振りを見せた。  そして、何か妙案が浮かんだように、ぽんっと手を打つ。「そうじゃ! 一度だけデートしてみんか?」「はあっ!?」「それでもやっぱり嫌だと思ったら断ればええ。そっちのほうが、相手に失礼じゃないと思うんじゃ。  な?  流華よ、おじいちゃんの顔を立ててくれんか?」 ──おじいちゃん! 私の話、聞いてたの!? 祖父の勢いに押され、後ずさる。  そんな私に追い打ちをかけるように、祖父がお願いのポーズまでしてくる。 その姿に言葉が詰まり、たじろいでしまう。 ずるいよ……そんなの風にされたら、断りにくいじゃん。「お嬢……」 ふいに障子の影から現れた龍が、不安そうな表情でこちらを見つめ
last update最終更新日 : 2025-09-12
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【第2部】 第12話 今度はデート!?②

 私はゆっくりと歩み寄り、龍の目の前に立つ。  そして、その手をそっと握りしめた。「龍、ごめんね。こんなことになって」 彼の瞳を真っ直ぐに見つめながら、言葉を紡ぐ。「私は、龍が好き。それは絶対に変わらない。……私を信じて」 一生懸命、気持ちを込めて伝えた。  龍はそのまましばらく私を見つめ、そして静かに頷く。「……もちろんです。信じています」 けれど、その瞳はわずかに揺れていて。 不安にさせている。  大好きな人を苦しめてまで、私は何をやっているんだろう。 胸がきゅっと締め付けられた。  痛みとともに、罪悪感が押し寄せてくる。 だけど……と、私は祖父へ視線を向ける。 おじいちゃんも、私にとっては大切な人。 祖父の願いを無視することは、心が痛かった。 両親を失った私を大切に育ててくれた。  その恩を返したいと、ずっと思っていた。 今がそのチャンスだと信じたい。 再び龍へと向き直る。「龍、お願い。一度だけ、一度だけだから……相川さんとデートすることを許して欲しい。  おじいちゃんに恩返しがしたいの。  あんな必死なおじいちゃん珍しいし、力になってあげたいの……」 必死に目を合わせながら訴える。  きっと龍なら、分かってくれる。そう信じて。 しばらくの沈黙が流れる。 そして、龍はゆっくりと息を吐いた。  困ったような表情が、やがて優しい微笑みに変わる。「……しょうがないですね。お嬢のそういう優しいところ、好きです。  いいですよ。一度だけ我慢しましょう」 その笑顔が、無理をしているのはすぐにわかった。 そりゃそうだよね。  好きな人が他の誰かとデートする、なんて。簡単に許せるわけがない。  好きであればあるほど。 龍は優しいから、私やおじいちゃんの気持ちを優先してくれた。
last update最終更新日 : 2025-09-12
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【第2部】 第13話 相川さんとデート①

 そして、時は流れ……とうとう相川さんとのデート当日。 私は気合いを入れた。  これで終わり。絶対、断るんだから。 そう決意し、準備を終えた私は家を出て、待ち合わせ場所へと向かった。  場所は、駅前の時計台広場。 人混みに飲まれそうになりながら歩く途中で、遠くに見える時計台をちらりと見上げる。  でも、時間が見えづらかったため、自分の腕時計に視線を落とした。 待ち合わせは十三時。  今の時刻は、十二時五十分。 うん、いい感じの時間。 いつも通り、約束の十分前には到着できる。  私の中のマイルールで、待ち合わせは十分前という決まりがあるのだ。 視線を戻して歩を進めると、人混みの中に相川さんの姿を発見した。「早い……もう来てたんだ」 思わずつぶやき、小走りで相川さんのもとへ駆け寄る。 「お待たせしました! すみません、待ちました?」 乱れた息を整えながら声をかけると、相川さんはいつもの爽やかな笑顔を浮かべた。「いいえ、今さっき来たところですよ」 その微笑みは、あくまでも穏やかで涼しげだった。 けれど──本音がまったく読めない。  もし、本当は怒っていたとしても、相川さんならこの笑顔を崩さないんだろうな、と妙に納得してしまう。 爽やかな笑顔と柔らかな雰囲気。  整った顔立ちは文句のつけようがなく、長めのショートヘアはさらさらと風に揺れている。  白いシャツに細身のパンツスタイルが、より一層そのスタイルの良さを引き立てていて……。 爽やかイケメン、ってこういう人のことを言うんだろうな――  なんて、そんな言葉が自然と頭に浮かんだ。 彼のどこか儚げな印象は、優しそうな垂れ目と色白の肌、線の細さからくるものなのだろうか。 ぼんやりと見惚れていると、相川さんが声をかけてきた。「どこか、行きたい場所はありますか?」 その問いに、私は
last update最終更新日 : 2025-09-13
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【第2部】 第13話 相川さんとデート②

 アーケード街に入り、二人並んで歩き始めた。 普段あまり来ないタイプの場所だ。  店が立ち並び、活気と人の熱気が満ちている。「人、多いな……」 思わずつぶやいてしまうほどの混雑ぶり。  私は慣れない場所に、少し戸惑いながらキョロキョロと周囲を見回す。 どこからか流れてくる音楽。  食べ物の甘い匂いや、女性たちが身につけている香水の香り。 いろんな音や匂い、光や人の気配が、一気に押し寄せてくる。 ──うわ、五感が忙しい……。 慣れない私は、少しだけ気分が悪くなりかけていた。  そんなとき、優しい声が耳に届く。「大丈夫ですか?」 相川さんが、心配そうに覗き込んでくる 。  私は慌てて笑顔を作った。「だ、大丈夫です」 無理矢理取り繕った笑顔にも、相川さんは穏やかに微笑み返す。  そのまま、なぜか歩調まで合わせてくれる。 私への配慮なのだろうか……。 やっぱり、大人だな。 歩幅を私に合わせつつ、無理に会話を引き出そうとしない。  こういうさり気ない気遣いができる男性って、すごいと思う。  アーケード街は、見渡す限り店が並んでいた。  ファッションのお店、アクセサリーやジュエリーの専門店、甘い香りに誘われるスイーツ店、おしゃれなカフェ、雑貨やコスメのお店、ゲームセンター、CDショップ──。「この通りだけで、一日遊べそう……」 心の中でつぶやく。 でも、こんな風にのんびり街を歩くなんて、今までなかったかもしれない。 小さい頃は、こういう人混みの多い場所に行く機会はなかった。  ほら、私危ない世界で生きているから、祖父に禁じられていたんだよね。 大きくなってからは、龍が常にそばにいて。  遠慮や気遣いもあって、自由に出かけることもなかった。 貴子と出かけることはあっても。  彼女のパワーに巻き込まれっぱなしで、
last update最終更新日 : 2025-09-13
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【第2部】 第14話 プレゼント①

 店内に入ると、色とりどりの洋服たちが私を出迎えてくれた。  並んだ服たちはライトを受けて、キラキラと輝いて見える。 私だって、女の子だ。 おしゃれは好きだし、こうして綺麗な服を眺めているだけで、わくわくする。 しばらく服を見ていると、相川さんがふいに私の隣にやってきた。  どうやら一緒に服を選んでくれるらしい。 私の好みを聞きながら、彼は自分の意見も交えつつ服を手に取っていく。 どこか品のある仕草で生地に触れ、合わせる位置や色味を整えては私に服を当ててくる。 ……男性なのに、なんでこんなに詳しいんだろう? 驚きつつも、相川さんが口にするアドバイスは的確だった。  なるほど、と思うことが多くて、正直参考になってしまう。 彼はぶつぶつと何かを呟きながら、次々に服を吟味していく。 私は成すがまま、次々と差し出される服に戸惑いながら従っていた。 しばらくして、ふと思った。  やっぱり、この人……相当、女性の扱いに慣れている。 だって、普通は男の人ってこんなふうに服を選べないでしょ。 きっと、これまでにもたくさん女性に服をプレゼントしてきたんだろうな……。  もしかして、こういうことは彼にとって日常なのかもしれない。 そんな疑いの視線を向けていた私に、相川さんが気づいた。 ニコッと、爽やかに微笑んでくる。「流華さん、どうかしました?」「い、いえっ!」 慌てて目を逸らし、適当にラックの服に視線を落とす。 やばい、変なこと考えてたの、バレたかな……。 急に自分が失礼なことをしているように感じて、申し訳なさが込み上げてくる。  私は気を取り直し、服選びに集中することにした。  結局、私は決めかねたままだったけど、相川さんが選んでくれた服は本当に素敵だった。 けれど──値札を見た瞬間……私の買いたい衝動は、あっけなくどこかへいってしまった。「た、高い……」
last update最終更新日 : 2025-09-14
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【第2部】 第14話 プレゼント②

 次に二人で訪れたのは、アクセサリーショップだった。  私が何気なくショーケースを覗き込んでいた、そのとき。「これ、流華さんに似合いそうですね」 相川さんがそう言いながら指差したのは、可愛らしい花があしらわれたネックレスだった。 女性らしいけれど、どこか大人っぽい雰囲気もある。  キラキラと輝く細かな装飾は、何でできているんだろう。 それも気になったけど──それ以上に、値札を見た瞬間、私は固まった。 また、高い……。 思わず深いため息をつきたくなる。  今日は金額との戦いばかりだ。 そしてまた、相川さんは忽然と姿を消す。  え、どこ行ったの?  と周囲を見回していると、すぐに戻ってきた。「これ、プレゼントします。とてもお似合いですから」 そう言って差し出された袋に、私は後ずさる。「えっ!? いや、いいです、いいです! そんなの、困ります!」 必死に首を振って拒否したけれど、相川さんは一歩詰め寄ってくる。  距離がぐっと縮まり、至近距離でその整った顔を見上げる形になった。「まあ、いいじゃないですか。今日の記念ということで、受け取ってください」 静かな声なのに……そこには有無を言わさぬ圧力があるように感じ、断りづらい。 そして、相川さんは私の手に無理やり袋を握らせた。  その次の瞬間、さらにもうひとつの紙袋が押し付けられる。「え? これ、なに?」 混乱しながら袋を見つめていると、相川さんがさらりと説明した。「さっき、流華さんが気に入っていた服です。  あれもとてもお似合いだと思ったので、買っておきました。もらってください」 ぽかんと口を開けたまま、私は相川さんと袋とを交互に見つめる。  何が起きているのか、まるで理解が追いつかない。 その後も、必死に返そうと抵抗したけれど──「もう買ってしまいましたからね。今さら返せと言われても、困ります」 そう言われてし
last update最終更新日 : 2025-09-15
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【第2部】 第15話 完璧な彼氏?①

 そして、お次は……。 今度は相川さんから、ゲームセンターに寄らないかと誘われた。  このデートで彼からのリクエストは初めてだったから、私は嬉しくなって、喜んでうなずいた。 ……少しでも、何かお礼をしないと。  私は内心あせっていた。 本来なら断るために来たはずだったのに。  いつの間にか、手にはプレゼントがたくさん。  なんだかもう、すごーく後ろめたい。 このままだと断りづらくなるのは目に見えている。  だったらせめて、相川さんの望みを叶えてあげたい。そんな気持ちになっていた。  だけど結局、また相川さんのペースに飲み込まれていく。 ゲームセンターに到着した私は、ほとんど相川さんに主導権を渡してしまっていた。  どうぞお好きに、とただ隣に立って、彼を見守ることに徹する。 ――それがまずかったのかもしれない。 クレーンゲームで、相川さんはあっさりと可愛いぬいぐるみをゲットした。  そのぬいぐるみを満面の笑みで私に差し出してくる。 ……また、プレゼントが増えた。 一応、断った。  でも「こんな可愛いぬいぐるみ、僕が持ってても仕方ないでしょう?」と穏やかに言われてしまって。  確かに……と、私は観念して受け取る。 これで、またひとつ。 落ち込む私を、相川さんがじっと見つめてくる。  え? なに? と視線を向けると、彼はにこりと微笑んだ。 気づけば、私の手から荷物が消えていた。  それは、いつの間にか彼の手に渡っている。 はっとして取り返そうとしたが、するりと交わされてしまう。「私が持ちます」と、さらりと念を押された。 こういうとこもさすがだな。感心を通り越して、あきれた。  歩きながら、私は頭を悩ませる。 ああ、どんどんプレゼントが増えていく。  ますます断りづらくなっていく。 どうしよう……。 悩んでいるうちに
last update最終更新日 : 2025-09-16
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