その瞬間、大きな手がヘンリーの顔にかぶさった。「どけ」 龍の声が低く響き、ヘンリーは一瞬で横へ吹っ飛ぶ。 驚いて視線を動かすと、壁に上半身をめり込ませているヘンリーが、ピクピクと足を震わせていた。「……龍、ダメじゃない」 あきれ顔で龍を見ると、彼はまっすぐな視線で見つめ返してきた。 その瞳がゆらゆらと揺れている。 でも、しっかりと私を見ていた。 その熱を感じた瞬間、心臓がドクンと跳ねる。 そして、龍が静かに微笑んだ。「お嬢……綺麗です。 姿を見た瞬間、息が止まりました。あまりにも可憐で」 頬を染めながら顔を背け、大きな手で自分の顔を覆う龍。 普段は冷静な彼の、そんな姿に胸が高鳴る。「そんな素敵な姿を見合い相手に見せるのは癪ですが……なんとか耐えます」 そう言いながら向き直った彼は、苦しげな表情を浮かべていた。 ああ……。 大好きな人を、こんなに苦しめてまでお見合いをするなんて。 胸がぎゅっと締め付けられる。「龍……ごめんね」 俯いた瞬間、龍の手が私の頬に添えられ、優しく上を向かされた。「いいんですよ。だって、流華さんは私の女でしょう? 俺だけの――」 その言葉と眼差しに、私の心臓は壊れそうなほどバクバクと跳ね上がる。「も、もちろん。私は龍のものよ」 必死で平静を装って答えると、龍は満足げに微笑んだ。 その笑顔がまた格好よくて、顔が熱くなる。「……流華さん」「……龍」「もうそろそろ、いいかの?」 見つめ合う私たちのすぐそばから、祖父の声が聞こえた。「わあっ!」 また祖父の存在をすっかり忘れていた……! ふと視線を動かせば、着付けの先生も少し離れた場所で手持ち無沙汰に立っている。 そして、少し頬を染めながら、興味津々といった顔で私たちを見てい
最終更新日 : 2025-09-09 続きを読む