【二〇一五年 杏】 後部座席で待つ私の隣へ、修司の父親はゆっくりとした動作で乗り込んでくる。 扉が閉まると同時に、私は食ってかかった。「さっきの話はどういうことですか? いろいろバレて困るのはあなたの方じゃないですか!」 矢継ぎ早に言葉をぶつける私に対し、 彼は眉ひとつ動かさず、「ふん」と鼻で笑い、吐き捨てるように言った。「何も知らない奴は幸せでいいな。 おまえの父がどんな思いで罪を受け入れたのかも知らないで」 その目は、人を見下すような冷たい色をしていた。 いったい何なのだ、この男の余裕は――。 息子の罪をなすりつけたことがバレたというのに、慌てる気配すらない。 私の思考を読み取ったかのように、彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。「教えてやろうか……おまえたちが、今どんな状況に置かれているのかを」 低く静かな声が、車内の空気を重たくする。 私は無意識に肩を強張らせながら、その続きを待った。「おまえの父は、自ら罪をかぶった。私の息子、雅也のな」 くっくっと、楽しげに喉を鳴らしながら笑うその顔を、きつく睨みつける。 こみ上げる怒りを抑えきれず、私は叫ぶように言った。「だから、それを私が世間に公表してやるって言ってるんです! そしたら、あなたたちは終わりよ!」 だが次の瞬間、修司の父親の目つきが鋭くなる。 さっきまでの余裕はそのままに、目だけがまるで刃物のように光った。「公表すれば……おまえたちも、父親も、終わるぞ。……いいのか?」「な……どういうこと?」 私は息を詰め、震える声で問い返した。 彼は深く大きなため息をつくと、大げさに天井を仰いだ。「これだから、バカは困る。 よーく考えてみなさい。君の父親が、あんなにも頑なに口を割らない理由を」 返す言葉が出てこない。私はただ、無言で睨む。「親にとって、一番大切なものは?」
Terakhir Diperbarui : 2025-06-22 Baca selengkapnya