悠良は、彼女の頭がおかしくなったんじゃないかと本気で思った。理性なんて欠片もなく、頭の中には恋愛しか残っていない。こんな人とまともに話そうとしても無駄だ。「いいわ、勝手に頑張ってみなさいよ。伶があなたに一瞥くれるか、見ものね」そう言って悠良は踵を返し、その場を立ち去ろうとしたが――気づけば、戻る道が分からなくなっていた。まずい。里花についてきたとき、まさか罠にはめられるなんて思ってもみなかった。数歩進んだものの、結局また引き返す羽目になり、悠良は里花の手首を強く掴んだ。「戻る道を案内して」里花は冷たく笑って彼女を見返す。「なんで私があなたをここまで連れて来たと思ってるの?まさか、素直に帰れるとでも?あなたのせいで、私が寒河江社長にどれだけ恥をかかされたか、分かってるの?彼、言ったのよ。『たとえ小林が聴覚障害者でも、お前より百倍マシだ』って!何なのそれ!結婚してる女なのに、私より上だなんて......!」悠良はすぐに察した。きっと里花は伶に告白して振られ、その理由が自分だと思い込んでいるのだろう。伶の性格からして、里花のような恋愛脳の女の子にいちいち説明などしない。だから、自分が罪人に仕立て上げられたわけだ。悠良は手を広げ、侮蔑の眼差しを里花に向けた。「私は、あなたより優れてるからよ」その一言に、里花は全身を震わせるほど怒り出した。そして突然、悠良の前に歩み寄り、思い切り彼女を突き飛ばした。悠良は不意を突かれ、倒れ込んでしまう。地面から起き上がったときには、すでに里花の姿はどこにもなかった。悠良は一気に不安に駆られ、前方へと数歩走ってみたが、里花の影も形も見えない。「中西!」大声で叫んでみたが、返事はなかった。彼女は慌ててスマホを取り出し、誰かに助けを求めようとしたが......この場所では、まったく電波が入っていなかった。もう、自分を平手打ちしたいくらいだった。じっとしていても仕方がない。空はすでに暗くなり始めていた。とにかく戻る方法を探さないと。記憶力には自信があったため、なんとか来た道を思い出しながら進み出す。しかし、まもなくして分かれ道に出てしまった。左だったか、右だったか......たったこれだけの分岐だが、間違
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