All Chapters of 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか!: Chapter 191 - Chapter 200

801 Chapters

第191話

史弥は顔を背けながらもう一度悠良を見た。彼の視線は彼女の右頬にある細い傷に落ち、温かい指先がそっと触れた。悠良は反射的に一歩後ろに下がった。史弥の手は空中で止まり、少し間をおいてから気まずそうに引っ込めた。悠良は彼を見上げて問いかけた。「お義母さん、あの家に代々伝わる翡翠のバングルを石川さんに渡されたって?あれ、記念として取っておくって言っていなかった?」彼女は文句を言うつもりはなかったが、まるで自分を馬鹿にして弄んでいるような扱いはさすがに我慢できなかった。自分が白川家に嫁いできた時、多くの親戚や友人たちが見ていた。琴乃がバングルを彼女に渡さなかったことで、周囲の人たちはすでにあれこれと噂していた。後に琴乃は、記念に残しておきたいからと言い訳し、代わりにイヤリングをくれた。その場はそれでなんとか収まった。けれど悠良はよくわかっていた。琴乃は自分を気に入っていないし、白川家の嫁として認めていないからこそ、あのバングルを渡したくなかったのだと。それでも彼女は気にしなかった。けれど、玉巳は今日が初めての訪問で、まだ何の立場もないのに、琴乃はあっさりとそのバングルを彼女に与えた。では、自分は何なのか?史弥は眉間を揉みながら、かすれた声で疲れたように言った。「母さんはたぶん、初めて来た玉巳に何か渡さなきゃって思ったんだろう。他にちょうど良いものがなかったし、深く考えてなかったんだと思う」「ふぅん......つまり、どうしても渡さなきゃいけなかったってこと?」悠良は首を少し上げ、史弥を見つめた。その顔の細かな表情まですべて目に焼きつけるように。史弥は、やや疲れきったように深いため息をついた。「もし君がそのバングルを気に入ってるなら、後でまったく同じものを買いに行こう。もっと良いのを買ってあげるよ」悠良の口元に皮肉な笑みが浮かぶ。「私があのバングルの『値段』が高いから、それで不満を言っていると思ってるの?」史弥は苛立ちを抑えるようにネクタイを緩めた。悠良には、彼が必死に感情をコントロールしているのが見えた。彼は深呼吸をしてから言った。「一体何が言いたいんだ。母さんの性格は君も知ってるだろ?いちいち気にしてたらキリがないぞ」悠良は考え込むように小さく頷き、まるで死ん
Read more

第192話

琴乃は悠良が誰かに食事に誘われたと聞いて、その細長い目で警戒心をあらわにして彼女を見た。「どの友達?寒河江じゃないでしょうね」悠良はバッグを手に取る動作を一瞬止めたが、まるで聞こえなかったかのように、そのまま足を前に出して外へ向かった。琴乃の顔には怒りが浮かび、すぐに立ち上がった。「悠良、止まりなさい!」しかし悠良は一瞬のためらいも見せず、まっすぐ外へと出て行った。琴乃の上品で気品ある顔は今や歪んで醜くなり、震える指で悠良の背中を指しながら、体全体を震わせた。「なんて......なんて無礼な子なの!」松本がそっと琴乃に声をかけた。「奥様、お忘れでは?小林様は読唇術はできますが、耳が聞こえません」琴乃はその時ようやく思い出したが、それでも怒りは収まらなかった。「見てるだけで腹が立つわ。偉そうにして......前は小林家が後ろ盾だったけど、今じゃもう小林家の実の娘でもないのに」そう言い終えると、琴乃は玉巳を慰めるために顔を向けた。「心配しなくていいわ。史弥が今まだ少し未練があるのは、彼女がかつて史弥のために聴力を失ったからよ。うちにとtってあなたのお腹の中の子がすべてよ」玉巳は気にしていない様子でにこやかに言った。「私は気にしてません。ただ史弥のそばにいて、この子をしっかり産みたいだけなんですから。悠良さんと争うつもりもありません」琴乃は満足げな笑みを浮かべ、玉巳の頬にそっと手を添えた。「本当にいい子ね」悠良が白川家の本家を出た後、ふと視線の端に見覚えのある車が映った。伶の車ではないはず。彼が何の用もなく白川家の前に来るわけがない。でももう外は暗く、はっきりとは見えなかった。ちょうど彼女が呼んだ車も到着していたため、それ以上気に留めなかった。彼女は運転手にタトゥースタジオへ向かうよう指示した。店に着くと、ちょうど店主が閉店の準備をしているところだった。悠良は、数日後にはこの地を離れる予定があり、それまでに準備しなければならないことも多かった。時間に余裕はなかった。彼女は財布から数枚の紙幣を取り出し、店主の机に置いた。「お願いします。たぶん、もうこの辺に来ることもないので」店主は机の上の金を一瞥し、それを手で包み込むようにして取った。「わかったよ」悠
Read more

第193話

店主は少し興味深そうに尋ねた。「お嬢さん、最近何かあったのかい?彼氏とケンカでもしたのかな」悠良は歯を食いしばり、ようやく数語を搾り出すように口にした。「......このタトゥーがこんなに私を傷つけるなんて、思いもしませんでした」もしあのとき、このタトゥーがなければ、今のようなことにはならなかったかもしれない。背中のこの蝶のタトゥーは、彼女の運命であり、また彼女の災いだった。店主も、そのタトゥーがこの女性に深い影を落としていたことを悟ったようだった。彼は優しく慰めるように言った。「大丈夫、このタトゥーを消せば、君の人生もきっとやり直せる」悠良は体をこわばらせ、手の甲の血管が浮かび上がり、額には大粒の汗が滴り落ちていた。それでも、苦しげに口を開いた。「そうね......私の人生は......すぐにでもリスタートするわ」2、3時間後。悠良はまるで全身の力が抜けたような感覚に襲われていた。店主が彼女を椅子に座らせた時、彼女の顔は真っ青で、唇には血の気がまったくなかった。店主は水を一杯注いで彼女に差し出した。「お嬢さん、本当に感心するよ。君、すごいね」悠良は手を震わせながら水を受け取り、安堵と生還の笑みを浮かべた。「ありがとうございます......」「帰ったらゆっくり休んで。しばらくは水に触れないように」悠良はお金を払い、タトゥースタジオを出た時には、もう真夜中になっていた。彼女はしばらく歩き、タクシーを拾おうとしたところで、遠くから数人の男たちの笑い声が耳に入ってきた。「言っただろ?あの女、最初から乗り気じゃなかったのに、なんで無理やり行ったんだよ」「ほんとにな、もう少しで警察呼ばれるとこだったじゃん」「こんな夜中に、道端に立ってる女なんて、パパ活かと思うのが普通だろ?」「おい兄貴、見ろよ。あそこにめっちゃ可愛い女がいるぞ、すげー美人!」その言葉を聞いた瞬間、悠良は危機を察知して、足早にその場を離れようとした。しかし、男たちの笑い声はさらに大きくなり、「おい、行こうぜ!」「追え追え!」悠良はいくら早く歩いても、男たちの方が足が速かった。あっという間に彼女の周囲を囲まれてしまい、パニック状態に陥った悠良は、反射的に史弥に電話をかけた。電話はすぐにつ
Read more

第194話

悠良は無意識にスマホを握りしめながら後ずさりした。必死に自分を抑えようとしていたが、全身の震えは止まらなかった。「近寄らないで......何かしたら、警察を呼ぶから!」「警察?呼べば?お前が通報するのが早いか、俺たちが動くのが早いか、試してみようぜ」悠良はスマホをぎゅっと握りしめ、目の前の男を突き飛ばすと、その場を一気に走り出した。同時に、スマホで警察に電話をかけた。「もしもし、私......あっ!」言い終わる前に、背後から強い蹴りを背中に受け、地面に激しく倒れ込んだ。掌の古傷が地面と擦れて激しい痛みが走り、悠良は息を吸い込み、全身の汗が噴き出した。眉間に深くシワを寄せ、痛みをこらえて起き上がろうとしたその時、後ろから髪を掴まれ、無理やり顔を仰がされた。「うっ......!」かすかなうめき声が口から漏れた。キャップ帽の男は満足そうに笑いながら、タバコ臭いざらざらした手で悠良の白い頬を軽く叩いた。「逃げるなよ。お前みたいな細っこい女が、俺たちから逃げられると思ってんのか?」彼はあごで他の二人に合図を送った。「こいつ、あそこの路地裏に連れて行け」悠良は左右から男たちに腕をつかまれ、暗く不気味な路地へ引きずられようとした。その真っ黒な小道を一目見ただけで、彼女の背筋はぞっとした。まるで深い奈落に引き込まれるような恐怖が、胸の中で絡まり合い、息が苦しくなっていく。彼女は思いきり声を張り上げた。「助けて!誰か、助けて――!」その叫びは夜の街に何度も響き渡ったが、誰一人として応えてはくれなかった。悠良の心は奈落に落ちていくようだった。希望が消え、絶望が覆いかぶさる。男たちが彼女の服に手をかけ始めた。暗闇の中で、恐怖と不安が一層強まり、もはや涙も止まらなかった。必死に抵抗しても、男たちには全く効かない。彼女は冷たいコンクリートの上に倒れ込み、目を閉じ、熱い涙が頬を伝っていった。その時、男の声が響いた。「お前たち、何してる!」動きを止めた男たちは、声の主に振り向いた。「もう通報したぞ」「な、何だと......通報!?」男たちは一気に警戒し始め、慌ててズボンを引き上げて逃げ出した。悠良はボロボロの姿で地面に倒れていた。もしこの人が通りかからなかっ
Read more

第195話

史弥が知っているのは不思議ではない。だが、伶はどうしてそれを知っていたのか。伶は長い脚を組み、体をゆったりと後ろに預けて、気だるそうに言った。「勘だよ」悠良は彼のいい加減な言葉を信じなかった。彼女はすっかり伶に興味を引かれてしまっていた。「早く教えてください。どうして知ってたんですか?」そのタトゥーは彼女が学生の頃に入れたもので、当時流行っていたからだった。本当は百合の花にしたかったが、クラスの女子がみんな百合を選んでいたので、最終的に蝶に決めたのだ。伶は腕を組み、シートにもたれながら、悠良の問いにただ微笑んだだけで何も言わなかった。悠良もそれ以上は聞かなかった。彼女は人に無理に何かを聞き出そうとはしない性格だった。伶が答えないなら、それでいい。車が角を曲がろうとする頃になって、伶はようやく尋ねた。「家まで送ろうか?」悠良は眉をひそめた。史弥のことを思い出すと、その顔つきは自然と冷たくなった。スクリーンが壊れたスマホを握りしめ、着信履歴を見ても、史弥からの電話は一度もなかった。メッセージさえも、一本も。さっきあれほど切迫した口調で話したのに、たとえ友人であっても、一度くらいは掛け直してくるのが普通だ。だが彼はそうしなかった。熱い涙が目に溜まっているのを感じ、悠良は大きく息を吸い込み、それを無理やりこらえた。「......お願いします」伶は秘書に薬局の前に車を止めさせ、自ら傷の処置に使う薬を買ってきた。秘書がその薬を伶に手渡す。伶は受け取り、近くのスーパーを指さした。「水をもう二本買ってきて。一本は常温のやつ」「はい」秘書はすぐに戻って行った。伶は袋を開けて、薬を取り出した。悠良はまだ震えていた。寒さのせいか、恐怖のせいか、分からなかった。どれだけ平静を装っていても、伶にはそれが伝わっていた。彼は自分の上着を脱いで、彼女の肩にかけた。冷え切っていた悠良の体が、ふわりと暖かさに包まれる。彼女が「ありがとうございます」と言う前に、伶が再び口を開いた。「着たら、後でちゃんと洗って返せ。手洗いで」最後の一言は、特に強調していた。悠良は思わず笑いそうになったが、その笑みにはどこか苦味があった。伶という男は本当に、何と言うか.
Read more

第196話

伶は眉をひそめ、まるで悠良の言葉を信じていないかのような表情を見せた。「え?それだけ?」悠良は誠意を込めて頷いた。伶が信じてくれないのではと心配していたのだ。「はい。さっき寒河江さんに話を遮られので」伶はその言葉を聞き、自分が早とちりしたことを思い出しながら、視線を悠良に軽く流したが、表情は依然として平然としていた。「そっか」自分の勘違いにもかかわらず、全く動揺も恥じらいも見せなかった。悠良は思わず伶に少し感心してしまった。この男はきっと「恥ずかしい」という言葉の意味すら知らないのだろう。これがもし自分だったら......と想像すると、頭の中に恥ずかしい情景がよぎる。もし他人に自分の意図を誤解されて、それがああいう内容のことだったら、きっと穴があったら入りたくなるだろう。伶はうつむいて軟膏のふたを開けると、悠良の手のひらをぐいっと引き寄せた。悠良は目を伏せ、声も普段よりかなり小さくなっていた。「自分でやりますから」「遠慮するな。面倒くさい」伶は眉をしかめ、不機嫌そうに言った。整った顔に少しばかりの苛立ちが浮かんでいた。悠良はそれ以上断ることもできず、彼の性格上、物事はてきぱきと済ませたい人だ。ここで彼にぐずぐずした態度を見せたら、また口から出るのはきっと毒舌ばかりだろう。彼を怒らせるのは、別れ際にしたくない。素直に手を差し出し薬を塗らせた。気のせいかもしれないが、悠良は、今夜の伶が薬を塗る手つきが、どこか慎重に思えた。でも、あの寒河江伶がそんなことをするなんて......もしかしたら自分はさっきの出来事にショックを受けすぎて、伶すら好意的に見えてしまっているのかもしれない。けれど、二人とも黙ったままで、車内には静寂が漂っていた。その沈黙に、悠良は少し落ち着かなかった。彼女は先ほど伶に遭遇したことを思い出し、問いかけた。「こんな時間に、どうしてあんな場所に?」伶は一瞬きょとんとして、それから言った。「通りかかっただけだ。もともと友達に誘われて飲みに行く予定だったんだ。せっかくの夜の楽しみ、君に台無しにされたけどな」彼は薬をつけた綿棒で、彼女の傷口に円を描くようにやさしく動かしていた。その手つきは丁寧で、悠良は痛みどころか、むしろくすぐったさを
Read more

第197話

あまり帰省することもなく、しかもここ数年は結婚してからというもの、全ての重心は史弥と仕事に向けられており、自分の生活すらほとんどなかった。お酒を飲みたいと思っても、本当に頼れるのは葉だけだった。しかし葉の状況を思い浮かべると、悠良は思わず苦笑してしまった。葉は家庭のことで手一杯で、彼女のために付き合って飲みに出られるような暇はない。今、唯一選べる相手は伶だけだ。伶は少しばつが悪そうに眉を上げた。「悠良ちゃんがそんなに度胸あるとは思わなかったな」「ただ飲みに行くだけの話でしょ?別に火の中や刃の山に飛び込むわけじゃありません」そのとき、秘書が水を二本持って現れた。伶は水を受け取り、車のドアを開けながら指示を出した。「お前は先に戻ってていい」秘書「どちらに行かれるんですか?お送りします」「いや、必要ない。終わったら連絡する」秘書は軽く頭を下げた。「かしこまりました」秘書が去った後、伶は水を悠良に渡した。「この時間帯は、あいつの奥さんが仕事に行くから、子どもを世話しに帰らなきゃならない」悠良は心の中で少し驚いていた。伶がこんなに気の利く人間だったなんて。だが、すぐに思い直す。伶が「いい人」かどうかは、正直よくわからない。彼は以前、広斗に自分がいじめられていたのを見ても、助けず見て見ぬふりをした。でも今回は、彼は自分を助けてくれた。善か悪か、判断しづらい人。彼はその境界を揺れ動いている。悠良は好奇心から尋ねた。「じゃあ、毎日この時間になると、彼を帰らせているんですか?」「たまにね。俺に用事があるときは、仕事を優先させるさ」伶は運転席に乗り込み、悠良に向かって言った。「前に座れよ」悠良は不思議そうに聞いた。「どうして?ここでいいのに......」「空気に話しかけるのは好きじゃない。それに、運転中にわざわざ顔を横に向けたくないだろ」伶の説明を聞いて、悠良の頭に情景が浮かんできた。運転中に注意が逸れたら、命が危ない。彼女は仕方なくドアを開けて助手席に移った。だが伶はすぐにバーへ向かったわけではなく、途中でショッピングモールに立ち寄った。彼は車のドアを開け、悠良に言った。「降りろ」悠良がまだ意味を掴めていないうちに、彼はすでに足を
Read more

第198話

悠良は店員の後ろに従いながら歩いた。店員は丁寧に、そして親切に彼女へ説明を始めた。「お客様はスタイルも良くて、とても綺麗ですから、何を着ても絶対似合いますよ。こちらのワンピースはいかがでしょうか?ウエストのラインが綺麗に出ますし、お肌も白いので、映えると思います」悠良も、こんな夜遅くにわざわざ呼び出してしまったことを申し訳なく思っていた。だから、特に迷わず決めた。「いいわ、それにする」店員はホッとしたように安堵の息をついた。最初は、面倒な客かと思っていたが、意外とさっぱりしていて驚いた。悠良が試着室で着替えて出てくると、店員の目が思わず輝いた。さっきまでの眠気もすっかり吹き飛んでしまった。「お客様は本当にそのワンピースお似合いです。まるでオーダーメイドしたかのようです」ワンピースのデザインは実にシンプルで、キャミソール型のワンピースに羽のような装飾が重ねられているだけだった。悠良はスラリとした体型で、痩せすぎず太すぎず、ちょうど良いバランス。痩せこけているわけではなく、女性らしい柔らかさもあり、全体のプロポーションが非常に整っていた。特に、その白くてまっすぐな長い脚は、店員すら見惚れてしまい、涎が出そうになるほどだった。店員はすっかり目が覚めた。「このワンピース、実は着こなしが難しいんです。これまでにも多くのお客様が試着されましたが、どこかしっくりこない方ばかりで......」悠良は微笑んで答えた。「お世辞上手ね、ありがとう。じゃあ、これをお願いしますね」彼女はやはり迷わなかった。店員がレジの準備をしようとしたその時、「待て」伶が歩いてきて、腕を組んで悠良を上から下までじっくり見て、冷たく言った。「他のにしろ。できればロングスカートで、肩の出ないやつに」悠良「......」店員「......」だが店員はすぐに察して動いた。「か、かしこまりました。すぐに別のものをお持ちします」すぐにより控えめなデザインの服を持ってきた。今度は上下別のセットで、上はグレーのニット風Tシャツ、下は同系色のプリーツスカート。それでも悠良の長くて白い脚を際立たせ、特に彼女の脚の形は本当に美しかった。店員は長年服を販売してきたが、こんなに綺麗な脚を見たのは初めてだった。
Read more

第199話

「付き添いが必要か?怖いなら、俺に頼めば付き合ってやってもいいぞ」伶は長身の体をソファにもたれかけさせていた。頭上のライトが彼を照らし、顎のラインや顔立ちは影に包まれ、かえって官能的で朧げな雰囲気を漂わせていた。どこへ行っても「俺様」感が漂う男だったが、それもそのはず、彼にはその資格がある。悠良は唇をわずかに引き上げた。「結構です」伶は再びソファに身を預け、それ以上は何も言わなかった。悠良は店員に案内されてトイレへ向かった。トイレの中で再びスマホを取り出して確認すると、十分前に史弥からメッセージが届いていた。冷え切った心が、その瞬間だけ少しだけ温まったような気がした。だが、メッセージを開いた瞬間、その温もりは氷の中へと突き落とされた。【母の具合が少し悪くて、夜一人にするのは心配だと史弥が言って、病院まで付き添ったの。彼に用があるの?】読み終わった悠良は肩をすくめ、皮肉な笑みを浮かべて失笑した。男というものは、決して裏切らないのではなく、何度も裏切ってくるものだ。自分が危うく酷い目に遭いそうだったその夜、彼は玉巳の母親に付き添って病院にいた。史弥は玉巳が夜一人なのを心配したが、自分が夜一人でいることは気にもしなかった。あの時の必死な声色を、彼が聞き逃すはずがないと悠良は確信していた。手を洗ってトイレを出た。席に戻ると、そこには思わぬ光景が広がっていた。伶が、数人の女性に完全に囲まれていたのだ。悠良は驚きで目を丸くした。以前は、こういう店では女性の方が損をするのではと思っていたが、今はむしろ男性の方が危ないと感じる。その女性たちは伶の周囲を囲み、全く隙がない。しかも、どの女性も妖艶な美貌で、スタイルも完璧だった。悠良でさえ思わず見惚れてしまうほど。女たちは大胆にも伶に体をすり寄せ、中には彼の脚に手を置く者さえいた。これはもう、あからさまな誘惑そのものだった。悠良は呆然としながら唾を飲み込んだ。今どきの女って、こんなに大胆なの?もし伶がその全員を受け入れたら、骨の髄まで吸い尽くされるのでは?彼女の頭にはすでに、刺激的すぎる想像が広がっていた。そのとき、低く冷ややかな声が耳元で響いた。「そこに立ってないで、こっちに来いよ」突然名指しされて、悠良
Read more

第200話

悠良はすぐに伶の言いたいことを理解した。彼は自分に、女たちの盾になってほしいのだ。今日彼に助けられたことを思えば、それくらいの協力をしないのも気が引ける。悠良は、あの居心地の悪さをこらえて、もう一度伶の膝の上に腰を下ろした。幸いにもここは照明が薄暗く、彼女の顔が赤くなっていることに気づく者はいなかった。近くにいた数人の女性が、悠良と伶の親密な様子を見て、好奇心を抑えきれずに声をかけてきた。「ねえ、あなた、どこの子? いくら気に入ったって、順番くらい考えなさいよ」その中の一人、赤いキャミソールドレスに黒髪の巻き髪を揺らす妖艶な女性が、堂々と彼女に問いかけた。悠良は顔を上げ、心の動揺を必死に抑えながら言った。「誤解です。私、彼の彼女ですよ」「彼女?」誰かが思わず吹き出した。「それはちょっと無理があるでしょ。私たちだって彼の『彼女』よ」悠良は自分の言い方が疑われたのだと思い直し、さらに真剣な表情で言い直した。「私、さっき彼と一緒にここに来ました。だから彼女で間違いありません」伶はその自信たっぷりな口ぶりに思わず額に手を当て、くすっと笑った。この悠良ちゃん、なんて面白いんだ。赤い服の女性は鼻で笑いながら言った。「それを言うなら、さっき彼と一緒に入ってきた女の子たちも、みんな彼女ってことになるじゃない」隣の女友達も思わず吹き出す。「ほんと、この子ったら面白すぎ。見た目もピュアだけど、そんな可愛いこと言っちゃって......」「もしかして、このイケメンが気になっちゃったの?言ってくれれば、お姉さんたちが紹介してあげたのに」その場は笑いに包まれた。悠良は自分でもよく分からない衝動に駆られ、さらに強い口調で繰り返した。「本当に彼の彼女なんですから!」伶はそんな彼女に合わせるように、彼女の背中に温かな手を添えながら、低く柔らかな声で言った。「ああ、本当に彼女だよ」そのやり取りは、むしろふざけているように聞こえる始末だった。待ちきれなくなったのか、ある女性が言った。「冗談はここまでにしよう?ちょっと席を譲ってちょうだい。好みのタイプがいるなら、ここにもいろいろいるし、紹介してあげるわ」「若くて可愛い系でも、ワイルドな大人系でも、またはおじさん系......何でもそろっ
Read more
PREV
1
...
1819202122
...
81
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status