[どうしたんだ?最近ちゃんと休めた?]史弥は彼女の様子がおかしいのに気づき、手にしていた酒のグラスを置いて彼女のもとへ駆け寄った。悠良は煙の匂いに少しアレルギーがあり、ここ数日間ずっとあのホコリっぽいオフィスにいたせいで、すでに気分が優れなかった。彼女は鼻を押さえながら、咳を二度した。それを見た史弥は振り返り、タバコを吸っていた数人に向かって眉をひそめて制止した。「悠良はタバコの匂いに弱いんだ。火を消せ」「さっさと消せ、全部だ」「まったくだ、誰だよ、吸い始めたのは」「タバコすらダメとか、ほんと参るよな。史弥もすごいよな、奥さんのためにタバコまでやめたんだから」「誰がやめたって?こないだも吸ってたの見たぞ......」千隼がすかさず柴田瀬南(しばた せな)に目配せをした。だが瀬南はまったく怯まずに言い放つ。「大丈夫だろ?どうせ彼女には聞こえないんだし。彼女が来るとみんな気を遣ってばっかで、酒飲むしかないんじゃつまんねえだろ」浜口諒(はまぐち りょう)も同調して不満をこぼした。「ほんとだよ。史弥くらいだよ、あんなのを宝物みたいに扱ってるの。言葉も聞こえねぇし、話すたびに手話とか、マジで面倒くさいんだけど」千隼は堪えきれず、悠良をかばって口を挟んだ。「瀬南、お前......悠良さんの顔を立てなくても、史弥の顔くらいは立てろよ」瀬南と諒は口をへの字にして黙り込んだ。空気は一気に沈んだものとなり、悠良が場の雰囲気を壊したかのようになっていた。悠良は冷ややかな表情のまま、手にしていたミカンを置いて立ち上がった。「今日はお邪魔しました。ちょっと体調が悪いので、先に失礼します。史弥はここに残って、皆さんと楽しんでください」そう言って、悠良はそのまま個室のドアに向かって歩き出した。史弥はすぐに後を追い、彼女がドアを開けようとした瞬間、手首をつかんで手話で伝えた。[送っていくよ]悠良は個室の中を一瞥し、表情は淡々と史弥の手をそっと振りほどいた。「大丈夫。今日は塩谷の誕生日なんだから、史弥はみんなと過ごして。私はタクシーで帰るから」そう言い終わると、悠良はバッグの中から準備していたプレゼントを取り出し、千隼の前に差し出した。「お誕生日おめでとう、塩谷」千隼は綺麗に包装された箱を
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