でも、伶の性格からすれば、犬に「獅子丸」とか、もっと男らしい名前をつけるんじゃないの?伶は手首の時計をちらりと見て言った。「市内に行くんだろ?」「ええ」「俺も会社に書類取りに戻るところだ。ついでに送ってやってもいい」その言い方は、まるで悠良が彼に頼み込んで車に乗せてもらうかのようだった。でもこの私邸の場所は辺鄙な郊外で、来る時は市内から一本で簡単だったが、ここから戻るのはなかなか面倒。空気を読むくらいなことは、彼女もできる。無理やり笑顔を作って言う。「じゃあ、お言葉に甘えて......ありがとうございます、寒河江さん」伶はローテーブルの上の車のキーを指先に引っかけ、悠良の横を通り過ぎながら、いつもの気だるそうな口調で言った。「無理に笑いたくないなら、笑わなくていい。その笑顔、かなりブサイク」悠良は少し驚いて、眉をピクリと動かした。別に笑いたくて笑ったわけじゃないけど、笑わないのも気まずくて、さっきの作り笑いになったのだ。でも伶の口の悪さには本当に呆れる。誰が他人の笑顔を見て「ブサイク」なんて言えるんだ。彼女は少しだけ、彼がなぜいまだに彼女もいないのか分かった気がした。あんな性格じゃ、よほど図太い神経の持ち主じゃないと一緒にいられない。車に乗ると、悠良のスマホが震えた。画面を見ると、史弥からのメッセージだった。【どこにいる?】何度か迷った末に、返信することにした。史弥は疑い深い性格で、もし追跡でもされたら、彼女が伶の家にいたことなんてすぐにバレてしまう。自分が入っていくところを見られていなかったとも限らない。【ちょっと出てただけ。すぐ帰る】それっきり、返信は来なかった。伶の運転はやや荒く、明らかに急いでいる様子で、車は車線を縫うように走り抜ける。悠良は思わず手すりをぎゅっと握りしめた。ちらりと横を見ると、彼は一切気にする様子もなく運転に集中していた。普通、女性が乗ってたらスピードを落とすものでは......?まあでも、伶みたいな人間に「紳士的」なんて概念があるわけもない。最初は我慢していた悠良だったが、段々と心臓が縮み上がるほどスピードが上がっていき、ついには足の指まで地面に突っ張るように踏ん張ってしまう。髪は風に煽られ、まるで海中を漂う昆布
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