「はい、こちら受付です。寒河江さん」「明日のスケジュール表を持ってきてくれ」「かしこまりました」そう言って、受付は電話を切ろうとしたが、悠良は仕方なくすぐさま受話器を奪い取った。「もしもし、寒河江さん?小林悠良です。少しだけお時間をいただけませんか?」受付は不快そうな顔をした。「ちょっと......!何してるんですか」彼女は悠良の手から電話を引き戻そうとした。すると、悠良は突然受話器に向かって叫んだ。「伶さん!」受付は心の中で嘲笑した。この女、頭おかしいんじゃない?寒河江さんと親しいフリでもすれば会ってもらえるとでも思った?伶さんとか、呼び方だけはそれっぽいけど、無駄無駄!彼女は無情にも電話を取り返し、伶に事情を説明しようとした。「寒河江さん、さっきのは無視してください。すぐに追い出しますので」「彼女を通せ」「......えっ」受付は電話を切ると、しぶしぶ口を尖らせた。「上がっていいですよ」悠良はその言葉にほっと息を吐いた。汗ばんだ手のひらをぎゅっと握りしめ、気を引き締める。伶がオアシスの経営権を譲ると約束してくれさえすれば、もう安心してこのプロジェクトから手を引ける。彼女は伶のオフィスの前に立ち、ノックしようとしたその時、ドアがわずかに開いていることに気がついた。そっと扉を押し開けると、目に飛び込んできた光景に頭が真っ白になる。伶は椅子に腰掛け、側には豊満な女性が机に半身を預けていた。赤いドレスがいやに目立ち、栗色の巻き髪が華やかさを際立たせる。女の声は艶やかで、甘く誘惑的だった。「寒河江社長、どうして私のこと見てくれないの?久しぶりに会ったのに......」だが伶は契約書に無表情でサインをしていた。彼女を一瞥すらせず、声には一切の感情がなかった。「どいて、光が遮られる」「ぷっ」悠良は思わず笑ってしまった。その音は静まり返ったオフィスに響き渡り、ふたりの視線が一斉に彼女に向けられた。悠良はようやく自分の笑い声がどれほど場違いだったかに気づく。慌てて謝る。「す、すみません......ドアが開いていたので......お邪魔してすみません、外で待ちます」腰を低くして退こうとしたそのとき、「どうしてって聞いただろ?原因
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