悠良は息を深く吸い込み、肉を伶の口元へそっと差し出し、小さく、拗ねるような声で呼んだ。「......れ、伶......」伶は満足げに眉をゆるめ、手を伸ばして悠良の頬を軽くつまむ。「よしよし、いい子だ」悠良はもう食事どころじゃなかった。頬が真っ赤で、今にも血が滲みそうな気分だ。ただふと気づく。たしかに、さっきまでこちらを見ていた人たちが、もう視線を向けてこない。不思議に思い、顔を上げて伶に尋ねる。「なんでわかったの?私が伶って呼んだら、あの人たち見なくなるって」「俺たちが夫婦だってわかれば、たとえ狙ってても可能性ゼロだろ」そこでようやく伶の狙いに気づき、悠良は口を尖らせた。「やっぱり、老獪な男は違うわ」どう足掻いても勝てない。伶は食べ終え、長い脚を組んで背もたれに寄りかかる。どこか余裕のある姿勢だ。「さて。そろそろ、君の件について話そうか」悠良は魚をつつく手を止めた。これは「清算」ってやつだ、と悟る。この男、本当に根に持つ。カフェにいた時点でとっくに言いたかったはずなのに、敢えて黙ってたのだ。悠良ももう取り繕わず、箸を置いて素直に打ち明けた。「確かに寒河江さんには隠してた。私は葉のところに行ってない」伶は口元をわずかにつり上げ、手のひらでテーブルを軽く叩く。「正直でよろしい。だが、もっと早い時点でバレてたはずなのに、なんで今まで持ったか、理由わかるか?」悠良はきょとんとする。「知らない」伶は葉に電話した時の経緯を話して聞かせる。そこで悠良も、光紀がタイミングよく自分を探していなければ即アウトだったと知った。悠良は額を押さえ、脱力した。どう考えても自分の読みが甘かった。まさか伶があんな手で来るとは思いもしなかった。いや、そもそも運命のいたずらみたいな話だ。交渉相手が、よりによって伶になるなんて。その流れで、悠良は前から気になっていたことを口にする。「じゃあどうして谷口と繋がったの?彼ってYKとは関係なかったよね?」「うちとは関係ない。柊哉が、谷口の上司と知り合いだからだ」そこまで聞いてようやく全貌が繋がる。本当に、すべてが仕組まれたみたいな展開だ。伶は指先でテーブルを軽くトントンと叩く。「で、そろそろ教えてもらお
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