「史弥、あの時は『死んでも妻を捨てて元カノと一緒になる』って騒いでたのは君だろ。悠良の目を盗んでコソコソ外でやらかして、誰かに引き裂かれるのを怖がってさ。なのに今は彼女のことを疫病神みたいに避けて......二人とも頭おかしいのか。それに、別に離れる必要なんてないじゃないか?むしろ一生一緒に縛り付けとけば?外に出したらまた誰かに迷惑かけるだけだからさ」史弥は聞いていて胃の奥がねじれるように不快だったが、顔を上げると鷹のような鋭い視線と圧のある気迫を纏った伶の目がすぐそこにある。さすがに何も言い返せなかった。幼い頃からずっと伶に押さえつけられてきたのだ、今さら逆らえるとは思っていない。しかも最悪なことに、今は正雄まで伶の味方だ。悠良は伶の子を身ごもっている。自分は子どもを作れない。白川家での立場は日を追うごとに落ちていくだけ。伶を敵に回したら、最後には事業も会社も守れないかもしれない。自分だって状況を分かっていないわけじゃない。今の伶の状態を見れば、正雄がすでに40億の援助をして悠良の危機を支えている。これからは二人で思い切り動ける。もう誰にも邪魔されない。伶の実力は言うまでもない。悠良も彼ほどではないにしても業界で十分存在感がある。この二人が組めば――想像するだけで背筋が寒くなる。伶が去ったあと、史弥はただ大人しく病院で玉巳のそばに残るしかなかった。......律樹が悠良をだいたい落ち着かせた頃、警察が来て事情聴取が始まった。悠良も徐々に気持ちを取り戻し、当時の状況を丁寧に説明した。警察が監視映像を確認した結果、悠良は事故と何の関係もないと判断された。むしろ玉巳の行動から、故意の傷害、さらには殺人未遂の疑いまであると見られた。伶はほとんどアクセルを踏み抜く勢いで警察署に向かい、入口に着くとすぐ律樹が悠良とベンチに座っている姿が目に入った。彼女の顔色はまだ少し青ざめ、指先は記録書をぎゅっと握りしめている。「悠良」伶は早足で近づき、手を伸ばしてそっと額に触れ、体温が正常なのを確かめると、ようやく胸の奥の不安がほどけた。そのまま彼女の前にしゃがみ、視線を合わせ、声をやわらかく落とす。「警察の方は全部終わった?大丈夫そう?」悠良は彼を見た途端、張り詰めてい
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