「お邪魔しますです」「……ああ」 あおいが掃除機を持って、生田の部屋に入ってきた。「生田さん、あと三日ですが、その……頑張りますので、よろしくお願いしますです!」 あおいがそう言って、大袈裟に頭を下げた。生田は呆気にとられた顔をしたが、やがて苦笑した。「すまないね、変な気を使わせてしまって」「いえいえ、とんでもないです。私、まだここにきて一か月ですが、生田さんにもいっぱいお世話になりましたです。ですからあと三日、しっかりお世話させていただきますです」「本当に……不思議な人だね」「私ですか?」「ああ。こんな偏屈な年寄り相手に、いつも全力でぶつかってくる。ありがたいことだ」「そんなそんな。私、いつも姉様に怒られてましたです。もう少し周りを見て、考えて動きなさいって」「風見くんの行動には、相手に対する思いやりがある。それも、憐れんだり見下したりしない、本当の優しさだ。そしてそれは、私のような者に対しても変わらない。本当に不思議な人だ」「……恥ずかしいです」「そう……なのかね」「はいです。私、いつもこんな感じですので、失敗ばかりしてきました。いっぱい迷惑をかけてきましたです。姉様や兄様は、あんなに立派な人なのに……本当は私、一人で生きていけない子供なんです。なのに私、家が嫌で出ていって…… そんな私を、直希さんが助けてくれました。そしてこんな素晴らしい場所を、私に与えてくれました。ここは本当に楽しいところです。毎日が優しさに満ちていて、私が知らなかった幸せがたくさんありますです。だから私、みなさんにお返しがしたいんです」「そう思えるだけでも、君は人として素晴らしいと思うよ」「そんなそんなです。私、失敗しかしてないです。お掃除だって、何度も生田さんの奥様のお写真、倒してしまって」
Last Updated : 2025-06-04 Read more