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All Chapters of あおい荘にようこそ: Chapter 61 - Chapter 64

64 Chapters

061 夫婦喧嘩

  朝食後のラジオ体操が終わると、文江は早々に部屋に戻っていった。 残された栄太郎は、庭の喫煙所で頭を抱えている。「あ、あのその……直希さん、みなさん、それじゃ私、いってきます」「あ、ああ菜乃花ちゃん。何だかごめんね、朝からバタバタしちゃって」「いえ、それはいいんですけど、その……文江さん、大丈夫なんでしょうか」「大丈夫大丈夫。じいちゃんばあちゃん、夫婦歴長いからね。こういうことはよくあるんだ。心配ないよ、菜乃花ちゃんが帰ってくる頃には、またいつもの二人に戻ってるから」「そう、ですか……分かりました。じゃあみなさん、いってきます」「うん、いってらっしゃい」「菜乃花、実行委員、頑張ってね」「はい。つぐみさん、ありがとうございます」 そう言って、菜乃花が高校に向かった。「ふう……」 菜乃花の姿が見えなくなると、直希は大きくため息をついた。「何よ直希、菜乃花が行った途端に」「あ、いや……菜乃花ちゃんは今、色んなことに挑戦しようと頑張ってる。だから余計な心配をかけたくないんだよ。俺、うまいこと言えてたかな」「全く……そんなことだろうと思ったわよ。まあ、菜乃花は大丈夫なんじゃないかしら。あの子、直希の言うことに疑いを持ったりしないから」「そっか、よかった……」「にしても、ちょっと大袈裟じゃないかしら。文江おばさんだって、そんなに引きずる人じゃないでしょ」「だといいんだけど……いや、今回はつぐみの勘、外れてると思うぞ」「そうかしら」「ああ。じいちゃんばあちゃん、確かによく喧嘩するんだけど、俺が間に入ったら、結構簡単に仲直りしてくれてたんだ。それでも駄目だったのは、一回だけで」「それってまさか」
last updateLast Updated : 2025-07-14
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062 地雷だらけの戦場で

  廊下で腰砕けになった栄太郎。呆然と見つめる直希、あおい、生田。 小山の部屋から顔を出したつぐみも、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。「……」 開け放たれた扉から、文江がゆっくりと姿を現す。そして栄太郎を見下ろすと、廊下を揺るがす大声で怒鳴った。「出ていけえええええっ!」「ふ……文江さん?」 いつも穏やかで優しい、そう思っていた文江のあり得ない姿に、あおいも衝撃を受けていた。「落ち着け、落ち着けって。な、何が気に入らなかったんだ? わしが山下さんと、その……話をしてたのが気に入らなかったのか?」「この……唐変木っ!」 栄太郎から枕を奪い取り、もう一度投げつけた。「そんなことぐらいで怒るんだったら、あんたはとっくの昔に死んでるだろ!」「だ……だろうな……」「この街の女……何人泣かせたと思ってるんだ、この色情狂!」「お、おいおい、そんなこと、今ここで言わんでも」「……でもあんたは、いつも私のところに帰ってくる……なんだかんだ言っても、最後にあんたが戻ってくるのは私のところだった。だから私も、そんなあんたを受け入れてた……今更そんな色目を使ったぐらいで、どうこう思ったりしないよ!」「じゃ、じゃあ、何を怒ってるんだ、ばあさん」「私はあんたのばあさんじゃない!」「え……」「私はあんたのばあさんじゃない! 妻だろ! 毎日毎日ばあさんばあさん、私がこの何十年、どんな気持ちでその言葉を聞いてきたと思ってるんだ!」「お、お前だってわしのこと、じいさんって呼ぶじゃないか」「あんたに合わせてるんだよ! 直希が物心ついた時から、あんたは私のこ
last updateLast Updated : 2025-07-15
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063 別居

 「じいちゃん、いつまで落ち込んでるんだよ」「あ、ああ……すまんな、直希」 直希の部屋に泊まることになった栄太郎は、直希と二人、テーブルを囲んでビールを飲んでいた。「わしは……どうしたらいいんだろうな」「いやいや、俺に聞かれても困るよ。と言うか、どうするかは決まってるだろ。明日もう一度、ばあちゃんに謝って」「謝ってもなぁ……一晩ぐらいじゃ許してくれそうにない顔だったろ」「流石、夫婦歴50年ならではの意見だよな。ばあちゃんの怒りのゲージ、じいちゃんには見えてるんだ」「……あんなに怒ったばあさん、あれ以来だな」「街をまるごと巻き込んだ、伝説の大喧嘩」「はああっ……」 大きくため息をつくと、栄太郎はテーブルに顔を埋めた。「まあでも、なんだかんだで50年連れ添った二人なんだ。確かに今は熱くなってるけど、大丈夫だって」「でもな、あれだけ外面を気にするばあさんが……人前では完璧に猫をかぶってるばあさんが、このあおい荘であれだけぶち切れたんだぞ」「じいちゃんが踏んだ地雷の数だけ、ばあちゃんの仮面がはがれていったからね」「直希お前……ちょっと楽しんでるだろ」「うん、実は。ちょっとだけね」「こいつ」「ははっ。と言うか、久しぶりに元気なばあちゃんを見れて、嬉しかったかな。何だかんだでばあちゃん、俺と住むようになってから自分を抑えてたし」「……」「俺がじいちゃんばあちゃんの家に転がり込んで、二人の生活を変えてしまった。本当ならじいちゃんだって、もっと好き勝手にしたかったと思う……女遊びとかギャンブルとか」「おいおい、間違ってもばあさんの前でそんなこと、言わんでくれよ」「言わないよ
last updateLast Updated : 2025-07-16
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064 深い闇の中で

 「お前、ガキの頃よく言ってたよな。自分が親を殺したんだって」「……」「お前はガキの頃から、わしの家に来るのが好きだった。若いやつらがよく来てたから、一緒に遊んでくれるのが嬉しかったんだろう。うちに来ればいつも、新藤さんのお孫さんですか、かわいい坊ちゃんですね、そう言われて悪い気はしなかったはずだ。 息子は……直人は、本当にわしの息子なのかと思うぐらい、クソ真面目なやつだった。お前への教育も厳しかった。だからお前は、口うるさい親のいる家より、甘やかしてくれるわしの家の方が好きだった」「……」「それであの日だ。夏休みに入ってすぐのことだった。わしの家に泊まりに来る前日になって、直人の工場でトラブルが起こった。そのせいで、直人たちがしばらく身動き取れなくなった。 わしの家に泊まる気になっていたお前は、大泣きしたそうだな。父さん母さんの嘘つき、嫌だ、絶対明日、じいちゃんばあちゃんの家に行くんだって聞かなかった。まあ、小学生になったばかりのガキだったんだ、仕方ないと言えば仕方ない。 そんなお前に根負けした直人からの連絡で、次の日わしはお前を迎えに行った。お前ときたら、そりゃもう嬉しそうだった。何日か遅れて来ることになった直人たちの顔も見ずに、喜んでわしの車に乗った」「そしてその日の夜、家が火事になって……」「ああ。連絡を受けてわしが行った時には、家は火に包まれていた」「……」「お前が駄々をこねて、直人たちを置いてわしの家に来たのは事実だ。だがな、そのことと家が火事になったことは、何の関係もない。ましてあの時のお前は、学校に入ったばかりのガキだったんだ。あの時のことを悔やんでしまうのは分かる。でもな、お前がいようがいまいが、あの日家が火事になるのは、避けられない運命だったんだ」「そう……かな……」「こんな言い方は直人たちに悪いと思うが、でもわしは、お前だけでも
last updateLast Updated : 2025-07-17
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