「あのその……ただいま、です……」 16時を回った頃に、菜乃花が戻ってきた。 この時間、入居者たちは入浴が終わり、部屋で休んでいることが多い。 スタッフたちは夕食の用意をしていて、そういう意味では、あおい荘が一番静かな時間帯でもあった。「あ……」 廊下を歩くつぐみが、菜乃花の姿に足を止めた。「お、おかえりなさい、菜乃花」「あ、はい……ただいま戻りました、つぐみさん……」 そう言って、二人共視線を逸らす。「じゃ、じゃあ私、夕食の準備に」「つぐみさん」 立ち去ろうとしたつぐみに向かい、菜乃花が声を掛けた。「その……ちょっとだけお時間、もらえませんか」「あ、その……私ほら、夕食の準備が」「行ってこいよ」 直希が現れ、つぐみにそう言った。「直希……」「菜乃花ちゃん、おかえり。学校、どうだった?」「あ、はい……かなり微妙な空気でした。先生も、私が実行委員を辞めたいって言ったら慌てちゃって。でもクラス会できちんと、みんなに謝って辞めることが出来ました」「そっか」「はい。それにみんな、私の髪を見てびっくりしちゃってて。今日は私に嫌がらせするの、忘れてたかもしれません」「ははっ。でもあんまりなことがあったら、ちゃんと言ってね」「はい、ありがとうございます」「つぐみ、菜乃花ちゃんと行ってこいよ」「でも私、夕食の」「任せろって。もうほとんど出来てるんだし、大丈夫だよ」「……」「せっかくのお誘いなんだ」「……分かったわ。
Last Updated : 2025-08-03 Read more