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All Chapters of あおい荘にようこそ: Chapter 71 - Chapter 76

76 Chapters

071 闇と戦うということ

 「それから菜乃花、すごく頑張ってました。でも、いざ実行委員になったら、誰も彼女に協力しなかったんです。その癖、『今年の実行委員は使えないなぁ』って、わざと聞こえるように言ったりして……だから私、菜乃花に協力しようとしたんです。でも、彼女たちに呼び出されて、『菜乃花に協力するんだったら、あんたも覚悟しないとね』って脅されて……私、そう言われて何も出来なかったんです……自分も菜乃花みたいにされてしまう、そう思ったら怖くなって……私、菜乃花を見捨ててしまったんです……」 そう言って、美咲が肩を震わせた。「……川合さん。今、川合さんは、いじめに加わらなくても、止めようとしなければ加担したのと同じ。そう思ってるよね」 美咲にハンカチを差し出し、直希が言った。「はい……結局私は、菜乃花を見捨てたんです。自分を守る為、そんな風に理由をつけて」「最近の風潮で、よくそういう風に言うよね。でもね、それは少し違うと思うんだ。 誰だって、自分がいじめられたくないって思ってる。悪いことだと分かっていても、そのことに勇気をもって立ち向かうこと……勿論、それが出来ればいいのかもしれない。でもね、言葉で言うほど、その行為は簡単なことじゃない。君たちのことを馬鹿にする訳じゃないけど、君たちはまだ思春期の子供なんだ。その勇気が出なかったからと言って、そこまで自分を責めることはないと思う」「新藤さん……」「そうですよ美咲さん。誰だって、一人になるのは怖いと思いますです。それに美咲さんは、こうして菜乃花さんのことを心配して、ここまで来てくれましたです」「……」「その闇は、とんでもなく深くて濃い闇なんだ。その闇に一人で立ち向かえるほど、君も、それに俺たちも強くない。だからそんなに自分を責めないでほしいな。 それで、菜乃花ちゃんに対する
last updateLast Updated : 2025-07-24
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072 哀しみに涙して

  泣きじゃくるつぐみを抱き寄せ、優しく髪を撫でる。 耳元で「大丈夫、大丈夫だから」と何度も囁く。 あおいたちは心配そうに二人を見ている。視線を感じた直希は振り返ると、優しく微笑んだ。「心配しなくていいよ。つぐみのことは任せて」「……あ、は、はいです」「川合さんもごめんね、何だかバタバタしちゃって」「い、いえ……私の方こそ、こんな時にお邪魔しちゃって」「川合さん、もうすぐ夕食の時間なんだけど、よかったら食べていかない?」「あ、いえ……そろそろ帰らないと、両親が心配しますので」「そっか、分かった。それじゃああおいちゃん、西口タクシーに電話してもらえるかな」「はいです。すぐ連絡しますです」「川合さん、ここがよく使ってる個人タクシーを呼ぶから、それで帰ってもらえるかな。勿論、料金はこっちで払っておくから」「いえ、そんな……大丈夫です、電車で帰りますので」「暗くなってきてるし、雨も降ってる。菜乃花ちゃんの友達を一人で帰すなんてこと、出来ないから。悪いけど今日は、俺の言うこと聞いてほしいな」「直希さん、連絡つきましたです。すぐ来れるそうです」「ありがとう、あおいちゃん」「美咲さん、私も直希さんの言う通りだと思いますです。確かにこの街はいい人ばかりですが、それでもこんな時間、足元も悪い中、女の人が一人で帰るのはよくないと思いますです」「……分かりました。あのその……ありがとうございます、新藤さん」「こちらこそ、色々ありがとう。よければまた、遊びに来てくれるかな。今はちょっとあれだけど、菜乃花ちゃんも喜ぶと思う。勿論、俺たちもね」「はい、必ず」「あと……あおいちゃん、それからみなさん。申し訳ないですけど、夕食の方、お任せしてもいいですか? 俺、ちょっ
last updateLast Updated : 2025-07-25
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073 家族

  部屋にアラーム音が鳴り響き。 つぐみが重い瞼を開けた。「……」 アラームで目が覚めるのは久しぶりだった。よほど疲れていたのだろう、そう思った。 重い体を起こし、軽く伸びをする。 カーテンを開けると、灰色の雲が空一面に広がっていた。 天気予報では、明日にも台風が直撃する恐れがあるとのことだった。「……よし、頑張ろう」 そうつぶやくと、洗面所に向かった。  * * *「おはようつぐみ。よく眠れたか」 廊下を出たつぐみが、食堂にいる直希に声をかけられた。「おはよう直希。大丈夫、よく眠れたわ」「ほんとか?」 そう言うと直希はつぐみの元へ向かい、覗き込むように顔を近付けた。「な……直希、近い、近いってば」「動くなって」「……」 直希の顔が間近にある。つぐみの胸が高鳴った。 昨夜、直希の前で泣きじゃくったことを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。 直希の眼差しが、自分をじっと見つめている。「……駄目だな」「え……」「駄目だ。つぐみ、もう一日休め」「ちょ……ちょっと、何言ってるのよ。大丈夫だってば。昨日もあれからちゃんと眠ったし、体だって何とも」「それ、俺に通用すると思ってるのか? 何年お前の顔、見てきたと思ってるんだよ」「大丈夫って言ってるでしょ。何よ、直希まで私を邪魔者扱いする気?」「んな訳ねーだろ。このあおい荘に、お前はなくてはならない存在なんだ。それにお前が元気でないと、俺が困るんだよ」「だから大丈夫だって」「はいはい分かった分かった、自分の体は自分が一番分かってる、そう言いたいんだよな。
last updateLast Updated : 2025-07-26
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074 台風前夜のハリケーン 

  目が覚めてかなり経つが、布団から出ることが出来なかった。「……」 昨日までのことが、まるで映画のように頭の中で再生され、その度に気分が悪くなった。 クラスの女子たちの、自分を蔑むような視線。 発言するたびに、どこからともなく聞こえてくる笑い声。 踏み荒らされた菜園。 小さくため息をつくと、菜乃花は再び目を閉じた。  * * * 昨日の夜。 直希が用意してくれたこの部屋に来てから、菜乃花は脱力感に支配され、何も手につかなくなっていた。 もういい。何もしたくない。 将来の夢だって、どうでもいい。 頑張ろう、自分を変えよう、そう思ったことが間違いだったんだ。 疲れた。 このまま消えることが出来たら、どんなに楽だろう。心からそう思った。 そう思った、はずだったのに。 昨日の夜、そして今日の朝と昼。 直希とあおいが、扉を開けてご飯を置いていってくれた。 何もしたくないはずなのに起き上がり、そして料理を見ると、食欲が湧いてくるのが分かった。 無意識に手を伸ばし、口に運ぶ。 そしてトイレに行きたくなると、また起き上がる。 矛盾してる。 このまま消えたいと思っているのは本当だ。なのに自分は、生理現象にすら勝てない。 そう思うと、自分が滑稽に思えてきた。 何より昨日、つぐみに言った言葉を思い出すと、胸が締め付けられそうになった。 つぐみは何も悪くない。 自分のことを思い、守ろうとしてくれた。 栄太郎たちの喧嘩のことだって、文化祭で忙しい自分の邪魔をしない為に、最低限の情報だけにとどめてくれていた。 彼女の取った行動に、責める要素などどこにもなかった。 つぐみはただ、自分を守ろうとしてくれただけなのだ。 そんな当たり前のこと、誰に言われなくても分かっている。それなのにあの時、自分はつぐみを非難した。
last updateLast Updated : 2025-07-27
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075 ぬくもり

  風呂場に入ると、明日香は菜乃花を座らせ、頭からシャワーを浴びせた。「きゃっ」「あはははははっ、びっくりさせちゃった? ごめんごめん」「あの、その……いいです明日香さん、自分でやりますから」「いいからいいから。今日はあたしに任せて」 そう言ってシャンプーをつけ、髪を優しく洗っていく。「みぞれー、しずくー。あんたたちはほら、後で洗ってあげるから。シャワーでお股キレイキレイして、お風呂に入っておきな」「はーい」「はーい」「しっかしあれだねー、やっぱなのっちの髪、綺麗だよねー」「そんなこと……」「いやいや本当、さらっさらのふわっふわなんだもん。交換してほしいぐらいだよ」「明日香さんだって、その……綺麗な黒髪で」「ありがと。でもさ、これって無い物ねだりってやつなのかな。あたしは昔っから、この針金みたいな髪が嫌いだった。コンプレックスって言ってもいいくらい。だからね、なのっちに初めて会った時、羨ましいなって思ったんだ」「私は、その……明日香さんのような、日本人形みたいな綺麗な髪に憧れてました」「あはははっ、日本人形は言い過ぎだって……ん? でもないか、あたしってやっぱ、綺麗なんだよね」「はい……明日香さんは本当、綺麗だと思います……身長だってあるし、胸だって、その……」「ん~? 胸がなんだって~?」「ひゃっ! あ、明日香さん、胸、胸触らないで」「ふっふ~ん。隠したってお姉さん、分かってるんだぞ~。なのっちあんた、胸、大きくなったでしょ」「え……あのその……」「つぐみんとジム、行ってるんだよね」「知ってたんですか」
last updateLast Updated : 2025-07-28
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076 台風の夜

  猛烈な雨と風。 10年ぶりと言われている、この街への台風直撃。 街は昼過ぎ頃から、人の動きが完全に止まっていた。「つぐみ、これで全部だ」「お疲れ様。って直希、ずぶ濡れじゃない」 庭にある、風で飛んでいきそうなものを全て玄関に運び終えた直希。 雨合羽を着ていたが、そんなものが役に立たないほど雨風は強く、ズボンも靴もずぶ濡れになっていた。「とりあえずこれで拭いて」 そう言ってバスタオルを渡す。「それから今、あおいがお湯を入れてるところだから。準備が出来たら先に入って」「いや、まだ雨戸とか出来てないし」「いいから、それは任せて頂戴。風邪ひいちゃったらどうするのよ」「分かったよ、つぐみ。ありがとな」 体を拭き終わると、玄関のシャッターを下ろした。「……なんだか急に、静かになったわね」「だな。このシャッター、結構いいやつなんだぜ。少々の風ぐらいじゃ、びくともしないよ」「考えたらこのシャッター、降ろしたのは初めてよね」「ここを作った時、こんな物本当にいるかなって思ったけど、設置しておいてよかったよ」「子供の頃にもこんなこと、あったわよね」「ああ。あの時は何だかワクワクしてたけどな。部屋の中も暗くなって、秘密基地みたいでテンション上がったよ」「何よそれ、ふふっ」「ははっ」 つぐみの笑顔がいつも通りだと感じ、直希は安心していた。 勿論、まだ何も解決していない。だがつぐみも一日休んだことで、自分なりに色々と消化したんだろうと思った。そして今はまず、目の前にある問題から対処していこう、そう心に決めたんだと感じ、嬉しく思った。「直希さん直希さん、お風呂の用意、出来ましたです」「ありがとう、あおいちゃん。じゃあ申し訳ないけど、今日の一番風呂いただきますね」「ああ、直希くん。早く温もって来るんだ」「ナオちゃん、ちゃんと肩
last updateLast Updated : 2025-07-29
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