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All Chapters of only/otherなキミとなら: Chapter 41 - Chapter 50

86 Chapters

第41話 学生と警備員

 研究室の扉の向こうで、誰かが言い合いをしている気配がした。 晴翔の真似をして、理玖もドアに耳を押し当てる。 「俺はただ、事務の空咲さんに用事があって来ただけで」「向井先生の研究室は関係者以外、立ち入り禁止だ。事務員なら他にもいるだろう」「空咲さんに話があんだよ。この大学の学生なんだから、講師の部屋に入ったって問題ありませんよね」  どうやら学生と誰かが話をしているようだ。 学生の声は、苛立っているようにも焦っているようにも感じる。 「俺に用がある学生みたいですね。もう一人は、警備員さんかな」  理玖の研究室がある二階は警備員が増員されて、常に二人が巡回している。 学生が扉をノックした時点で警備員が止めたのだろう。 「まぁまぁ、國好さん。部屋に来ただけなのに、怖い顔で睨んだら可哀想っすよ。君、何年生? 学部と名前は? 空咲さんに何の用事?」  別の警備員がフランクな調子で話し掛けている。 先ほどの警備員ほど警戒を顕わにしていない感じだ。 「文学部一年の真野祥太です。相談に来ただけですよ。もう入っていいですか?」  学生が素直に答えている。 「國好さんと、真野君?」  呟いた晴翔がドアのカギに手を掛けた。 「知り合い?」  理玖の問いかけに、晴翔が頷いた。 「國好さんは時々、夜間警備で一緒になる警備員さんです。真野君はバスケ部の学生で、かくれんぼサークルにも名前がありました。俺が当たろうと思ってた学生です」  そういえば、警備の数が足りなくて男性事務が夜間警備に駆り出される話を前に晴翔から聞
last updateLast Updated : 2025-06-27
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第42話 かくれんぼサークルの実態①

「洗脳……。連れていかれるって、どこに? そもそも、かくれんぼサークルは、かくれんぼをするサークルじゃないのか?」  晴翔の驚きが混じった問いかけに真野が俯いた。 「かくれんぼサークルは、かくれんぼもするけど、実際は、合コンメイン、みたいな集まりで。WOのための出会いの場みたいな、サークルなんです」  真野がぽつりぽつりと話し始めた。 「公にしないのは、第二の性を隠したがってる人が多いのも、あるけど。ヤリ目OKでセフレを探している奴とかもいるから、らしくて」  真野が言いづらそうに話す。 その辺りまでなら、理玖的には許容範囲だと思う。 WOのフェロモンが薬より性交で安定するのは、講義でも話した。生態を理解してセフレになってくれる相手がいるなら、助かるのも事実だ。 (onlyとotherだけじゃなく、normalも受け入れているのは、そういう訳か)  フェロモンを安定させるためだけの性交なら、相手はnormalでも問題ない。 あれだけonlyとotherが多く在籍しているサークルだ。真野の話は意外でもない。 「けど、かくれんぼサークルは表向きにはWOについて、何も触れていないだろ。入ってから知ったの? そもそも、かくれんぼサークルには、何をきっかけに入ったんだ?」  晴翔の顔を見上げた真野が、ぐっと口を噤んだ。 何かに怯えているような顔だ。 「この場で君に聞いた話を、僕たちは誰にも話さない。真野君の名前も漏らさない。だから、安心して話していいよ」  理玖の言葉に晴翔が頷いて、真野を見詰める。 サークルの内部事情や紹介元は、恐らく口止めされているんだろう。これだけ秘密を堅持しているサークルなら、頷ける。 真野が戸惑い
last updateLast Updated : 2025-06-28
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第43話 かくれんぼサークルの実態②

 仮に、深津祐里と白石凌がターゲットで、二人の発情を試すために頓服の抑制剤が盗まれたのだとしたら。二人をかくれんぼサークルに勧誘するための確認だったのかもしれない。 フェロモンに左右されないnormalでWOに慣れている真野祥太が近くにいて助け舟を出したのは、かくれんぼサークルからしたら迷惑な偶然だったろう。 (出会いが目的のWOお見合いサークルで、感度が良いonlyを勧誘するなら、セフレ探しが主になるのかな。有体にいえば性交メインのサークルかもしれない)  とはいえ、今の時点では真野の言葉だけを繋ぎ合わせただけの、理玖の想像に過ぎない。 だが、そう考えると納得できる。 (そうなると、第二の性が記載された学生名簿は必須になる。ある程度、踏み込んだ個人情報の閲覧権限も必要になるから、折笠先生の関与は絶対だ)  顧問である折笠が関わっているとなると、納得できてしまう内容だ。 理玖に散々、愛人になれと声を掛けてくる折笠は、既に複数名の愛人を抱えている。 折笠の性欲の強さと若い男好き、特にonly好きは理研の頃から有名だった。「白石君がonlyだから、四人でかくれんぼサークルに入ったんだね。GWのかくれんぼには参加した? いや、その前に、普段は具体的に、どんな活動しているサークルなのかな?」  晴翔が逸る気持ちを抑えて、質問を変えた。 「普段は、サークル員で集まって話したり、飲みがほとんどだよ。四月は、GWのかくれんぼの準備をしてた。何となく皆、相性のいいWOを探しに来てるって感じた。GWのかくれんぼは先輩たちがメインで準備してくれてて、一年生には鈴木先輩からチャットに連絡が来ました」  真野が自分のスマホを取り出すと、かくれんぼサークルのグループチャットを開いた。 差し出されたスマホを、理玖と晴翔は覗き込んだ。  『
last updateLast Updated : 2025-06-28
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第44話 かくれんぼサークルの実態③

「このメッセを最後に、大和とは連絡取れなくなって。返信ない時点で、祐里と凌にも行かない方がいいって話したけど、大和に会えるかもしれないからって、参加して。俺もnormal組で参加したけど、大和もいないし、祐里にも凌にも、会えなくて」  真野が自分の手を、ぎゅっと握り込んだ。 「それで結局、三人ともかくれんぼの後から連絡が取れなくなった。鈴木先輩に確認しても、全員帰したとしか、言わない。折笠先生にも相談しに行ったけど、ダメだと、思った」  真野が微妙に視線を逸らした。 戸惑いが浮かぶ真野の目には、隠し事の匂いが漂って見えた。 「……WOには、セクシャルな話題は付きものだし、ある意味で日常だから、気にせず話していいよ」  真野が驚いた顔で理玖を見詰めた。 やっぱり、そういう方面かと思った。 「onlyもotherも性交でフェロモンが落ち着くのは事実だ。その場合、相手はnormalでも問題ない。セフレはWOにとって、ある種の薬だ。normalの君には受け入れ難い事実かもしれないけど、WOの研究者にはセクシャルな話題はある程度、許容範囲だよ」  世間一般的にセックスフレンドが社会で認められているかと言えば、答えはNoだ。 日本の社会は特に、性に関して閉塞的で隠匿性が高い。 WOの生態は、日本ではまだまだ生きづらい。 「……ちょっとは、知ってます。祐里が、そうだから。昔からフェロモンが多くて発情しやすくて、俺が時々、相手すると、落ち着いてた……」  真野が赤い顔を隠しながら、小さな声で答えた。 知らないながらも実体験でonlyの幼馴染の抑制剤になってやっていたのだろう。 顔を見るに、それだけではなさそうにも思うが。 「折笠先生には、どうして相談できないって、思った
last updateLast Updated : 2025-06-29
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第45話 かくれんぼサークルの実態④

「GWのかくれんぼは……。GWだけじゃ、なくて。長期かくれんぼは全部、実際に色んな相手とヤってセフレや恋人を探すための集会なんです」  突然の告白に、理玖と晴翔は息を飲んだ。 「向井先生が、セクシャルな話題もアリって言ってくれたから、思い切って話しますけど。マジで内緒にしてください。バレたら俺、何されるか……」  真野がずっと落ち着かない様子だったのはそういう訳かと、理玖は納得した。 核心を話していいものか、迷っていたんだろう。 晴翔が真野の肩を強く掴んだ。 「大丈夫、秘密は守るよ。真野君の身に危険が及ばないように配慮もする。だから全部、教えてくれ」  言い切った晴翔を真野が羨望の眼差しで見詰めている。 理玖としても、ここまで聞いたら知り得る実態は把握したい。 「組み分けするのは、otherやonlyの同意をとって発情をコントロールするためらしくて、そのサポートに上級生が入るんです」  真野が少しづつ、話し始めた。  最初にotherが集められ、かくれんぼの本当の意味の説明と同意が取られる。そこから阻害薬と抑制剤を抜くために、同じ部屋で過ごす。 次にonlyが集められ、同じようにかくれんぼという集会の意味と参加の同意が取られる。抑制剤を抜くため、otherとは別の部屋で過ごす。 最後にnormalが呼ばれるのは、薬を抜く手間がないからだそうだ。意義の説明と同意は同じように取られる。 「インフォームド・コンセントが悪用されている例は初めて聞いたな」  理玖は呟いた。 本来、説明と同意は安全性の担保のために行う、患者の権利であり医師の義務だ。 「目隠しで移動して、集会場に着いたら外されました。薄暗くて狭い部屋に布団が
last updateLast Updated : 2025-06-29
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第46話 かくれんぼサークルの実態⑤

「乱交もよくはないけど、薬剤が使われたかもしれない状況は危険だ。オーバードーズで最悪、心停止する懸念は否めない。特にotherの興奮剤は日本では未だ禁忌の薬剤だ。どの程度で副作用が出るかも治験データがない。何より薬事法違反だね」  冷静に話す理玖に、晴翔が前のめりになった。 「乱交だけなら、酒でも飲ませて好きにヤらせとけばいいでしょ。薬まで使ってセックスさせる状況が、ヤバくないですか?」  乱交も性犯罪として逮捕される可能性があるので、ヤらせといていいわけでもないが。晴翔の焦りには同意だ。もっとヤバい事実が他にある。 「本当に興奮剤を使ったかは、わからないけど。性交を強要するための集会である事実が、いけない。思考力を低下させる環境を作り、意図的に興奮を煽って性交させる。同意を取っていても強要と呼んでいい状況だ。だからこそ、何か目的があるはずだ。恋人やセフレ探し程度じゃない。もっと深い、何か……」  晴翔が息を飲んだ。 「その乱交集会の後から、積木君と深津君、白石君とは連絡が取れないんだよね」  真野が蒼い顔のまま頷いた。 「俺とは、連絡取れないです。けど、祐里の親には、祐里からメッセあったみたいで。友達の所に泊まってるから心配しないでって。でも、それ自体がおかしいんだ。祐里は慣れない奴の所に泊まれるような性格じゃないし、俺に何も言わずに行ったりもしない」  どうやら深津祐里は内向的な性格らしい。加えて真野祥太にかなり依存した性格をしている。幼馴染というよりは恋人のように聞こえる。 「真野君はさっき、積木君のメッセは本人じゃないと思うと言っていたよね。深津君のメッセも、本人じゃないと思うの?」  理玖の問いかけに真野がきっぱりと頷いた。 「大和と凌は一人暮らしだから、
last updateLast Updated : 2025-06-30
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第47話 目的

「かくれんぼサークルなんて、よく思い付いたものだね。真実を上手に隠してる。鬼は見付けるのが大変だ」  椅子に掛けたまま、理玖は背もたれに凭れ掛かった。 天上を見上げながら、頭の中を整理する。  四月からやけに広がった理玖の噂と学生の関心の高さ。 そんな中で起こった弁当の窃盗事件。 晴翔が研究室の常駐になった途端に起きた、佐藤満流の素性調査報告書事件。 事件を経て、理玖と晴翔は晴れてspouseとなった。  それと並行して、四月には既に始まっていた、かくれんぼサークルの勧誘。 たまたま頓服の抑制剤を失くしたり忘れたりしたonlyの一年生深津祐里と白石凌が、偶然にも大学構内で発情した。 二人を救ったのはたまたま同じ学生、normalの真野祥太。  その一件をきっかけに、恐らく発情しやすい深津と白石はotherの積木大和と知り合った。 四人は示し合わせたように友好を深め、積木の勧誘でかくれんぼサークルに入った。  両方の件に共通して関係があるのは、理玖と同じWOの准教授である折笠悟だ。 (四月に入ってから、晴翔君は僕に触れるようになった。言葉も大胆になった。だから僕も、発情しやすかったんだと思っていたけど)  仮に、大学の構内にonly用の興奮剤が仕掛けてあったとしたら。 敏感なonlyでなければ反応しないような量の薬が、構内のあちこちに仕掛けてあったとしたら。反応したのは理玖や深津や白石だけではなく、もっといた可能性もある。 無味無臭の薬を認識するのは、まず無理だ。onlyなら発情という発作だと思い込む。 (皮下注射用の薬液を|噴霧《ミスト》状にしても、粘膜から微量に薬が体内に吸収される。敏感なonlyなら、反応する。科学物質という点でotherのフェロモンと同じだ)  そうや
last updateLast Updated : 2025-06-30
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第48話《5/10㈯》休日①

 土曜日の朝、理玖は晴翔に後ろから羽交い絞めにされる勢いで抱きしめられていた。  恋人になってから、金曜は二人で理玖のアパートに帰ってくるようになった。 土日を二人で過ごし、月曜日には同じ家から出勤する。 お陰で、理玖の部屋に晴翔の私物が増えた。 「俺は反対です。絶対に嫌です。俺が一緒に行くとしても、行かせたくないです」「まだ言ってるの?」  昨夜、ベッドの上でも散々言われた。 (エッチしている時なら、やめるっていうと思ったのかな)  前後不覚になる程度には善くされてしまうから、うっかり頷いたりは、するかもしれないが。 「大学の研究室で話すだけだし、問題ないよ。國好さんも一緒に来てくれるから、安心だよ」  昨日、真野に折笠と話し合いをすると宣言して、結果を後日伝えると話し、帰した。 真野が出てくるまで部屋の前に張り付いていた國好に、折笠の所に行く時の警護をお願いしてみたのだが。 『我々の実務は向井先生の警護なので、問題ありません』  あっさりと承諾してくれた。 警備の実情も、さらりとあっさり吐露してくれた。  あっさりいかなかったのは晴翔で、理玖が折笠の所に行くのを、昨日から全然、許してくれない。 「折笠先生のところには、佐藤がいるんですよ。理玖さんはrulerだから、佐藤には理玖さんのフェロモンが効いちゃうんですよ。危険しかないじゃないですか」  晴翔とspouseになった理玖に、otherである佐藤のフェロモンは効果がない。  だが、rulerである理玖のフェロモンは、otherの佐藤に効果がある。 佐藤だけが発情して一方的に襲われる危険性はある。
last updateLast Updated : 2025-07-01
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第49話 休日②

「こうしてみると、事務員さんたちが学生に連絡したのが、かなり早い段階だったと、わかるね」「毎年のことなので、GWが終わった次の日、全講義無断欠席した学生には連絡する決まりになっているんです。去年もこんな感じでした」「なるほどね。それにしても神経質だね。休み明けに来なくなる学生は多そうだけど」  いわゆる五月病、新学期が始まり期待と緊張で凝り固まった心が疲れ始めるのが、この時期だ。GWは、そんな心と体を休めるには良い休暇といえる。 とはいえ、大抵の学生はバカンスに興じるから、かえって疲れて、休み明けにダウンするパターンは多い。 「事務員からの連絡を始めたのも、ここ数年らしいです。実際にいなくなっちゃった事件があったから、大学としては対策を打っておかないといけないっていう建前みたいで」「いなくなっちゃった事件?」  理玖は晴翔を振り返った。 「四、五年くらい前に、学生が二人、GWが終わって二週間くらい無断欠席して、親が捜索願を出して警察も動くような大事になった事件があったらしくて。結局、二人とも見付かって事件性はなかったらしいんですけど」「見付かったって、どこで?」  何処で何をしていてもいいが、せめて親に連絡くらいしておけば、大事にもならなかったろうにと思う。 「それが、男子学生の一人暮らしのアパートで二人一緒にいるところを発見されたらしいんですよね。二人は大学で知り合って付き合い始めた恋人だったみたいなんですけど。男子学生がonlyで女子学生がotherのカップルで。ずっとセックスしてたって話していたみたいです」「ずっとって、二週間も?」  WOのカップルなら、互いのフェロモンに煽られて止まらなくなる状況は想定できる。とはいえ、二週間の間に他者に連絡を入れるくらいの余裕はあるはずだ。 「そうみたいです。でも、捜索願を出す前にアパートの部
last updateLast Updated : 2025-07-01
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第50話 休日③

「報告書の事件があった日、積木君は僕の講義を欠席している。晴翔君にメールして、部屋を出たのを確認してから、机に報告書を仕込むのは可能だ」  あの時なら、警備員はまだ二階に常駐していない。 誰もいない隙に入り込むのは、難しくない。 「でも、鍵……。そうだ、鍵。あの時、慌てて部屋を出たから、鍵を閉め忘れた気がする」  思い出したように、晴翔が呟いた。 「講義が終わって帰ってきた時、鍵が開いていたんだ。あの時は、急用で忘れたのかな程度にしか、思っていなかったけど。仮に鍵が締まっていても、開ける手段はあったかもしれないね」  理玖の研究室がスマートキーになったのは、報告書の事件の後だ。 弁当窃盗の事件を受けて変えた鍵は同種の差し込み型で、型番を変えただけだった。 慶愛大は大学の歴史と同じくらい建物も古い。建替え建増しはしているが、理玖の研究室がある第一研究棟は、現存する校舎の中で一番古い。 鍵のピッキング程度、多少の知識があれば可能だったろう。 「じゃぁ、弁当の窃盗は? 金曜日の午前中に理玖さんが研究室を開ける時間なんて、講義くらいでしょ? その時は、積木君は講義に出席していましたよね?」  4/18は金曜日で、午前中に講義があった。 理玖が、弁当が鞄に入っていないと気が付いたのは、昼休憩の直前だ。 「十八日は、一年生の三回目の講義だよね。僕も記憶が曖昧なんだけど、積木君に、講義で使ってるパワポを資料で欲しいって言われたのが、あの日だった気がする。遅刻した時や欠席した時に聞き逃した分を知りたい、みたいな話をされたんだ」  晴翔が思い出したような顔をした。 「紙ベースが良いか、データが良いかって相談してくれた、アレですか。確か……、四回目が間に合わなくて五回目から講義開始後の|D
last updateLast Updated : 2025-07-02
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