研究室の扉の向こうで、誰かが言い合いをしている気配がした。 晴翔の真似をして、理玖もドアに耳を押し当てる。 「俺はただ、事務の空咲さんに用事があって来ただけで」「向井先生の研究室は関係者以外、立ち入り禁止だ。事務員なら他にもいるだろう」「空咲さんに話があんだよ。この大学の学生なんだから、講師の部屋に入ったって問題ありませんよね」 どうやら学生と誰かが話をしているようだ。 学生の声は、苛立っているようにも焦っているようにも感じる。 「俺に用がある学生みたいですね。もう一人は、警備員さんかな」 理玖の研究室がある二階は警備員が増員されて、常に二人が巡回している。 学生が扉をノックした時点で警備員が止めたのだろう。 「まぁまぁ、國好さん。部屋に来ただけなのに、怖い顔で睨んだら可哀想っすよ。君、何年生? 学部と名前は? 空咲さんに何の用事?」 別の警備員がフランクな調子で話し掛けている。 先ほどの警備員ほど警戒を顕わにしていない感じだ。 「文学部一年の真野祥太です。相談に来ただけですよ。もう入っていいですか?」 学生が素直に答えている。 「國好さんと、真野君?」 呟いた晴翔がドアのカギに手を掛けた。 「知り合い?」 理玖の問いかけに、晴翔が頷いた。 「國好さんは時々、夜間警備で一緒になる警備員さんです。真野君はバスケ部の学生で、かくれんぼサークルにも名前がありました。俺が当たろうと思ってた学生です」 そういえば、警備の数が足りなくて男性事務が夜間警備に駆り出される話を前に晴翔から聞
Last Updated : 2025-06-27 Read more