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All Chapters of only/otherなキミとなら: Chapter 51 - Chapter 60

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第51話 休日④

「積木君が十八日に遅刻してきたかの正確な確認は、難しいかもですけど。素直にタッチしているかもしれないから、出欠の確認はしてみます。仮に、実際に遅刻だった場合、弁当の窃盗も積木君の可能性が出てきますよね。伊藤さんに確認してもらえば、わかるかな」  理玖はピンと背筋を伸ばした。 「そうか。伊藤さんは弁当を盗んだ学生と接触しているから、学生のデータベースの写真を見てもらえば、わかるんだ」  回りくどい調べ方をしなくても、一目瞭然だ。 「理玖さんの一連の事件は積木君の可能性、高いけど。積木君はかくれんぼサークルを辞めたがっていたみたいだし、乱交集会においては被害者って感じがしますけどね」  晴翔の言う通り、真野の言葉を信じるなら、積木はサークル側の人間ではなさそうだ。 「けど、真野君や深津君、白石君をかくれんぼサークルに誘ったのも積木君だ。WOは悩みを抱えている場合が多いから、あくまで善意で、相談したり話せる場所を紹介しただけかもしれないけど」  理玖の印象としても、積木は真面目な学生だ。 真野の話からもリーダー気質で面倒見がよい性格を感じる。 (何かが、引っ掛かる。何が、引っ掛かっているんだろう)  積木を信じたいと願いながら、微かに残る自分の中の漠然とした疑問や不安の正体を、理玖は探していた。 「そういえば、白石君はバスケ部なんだよね。晴翔君は知ってるの?」  白石が発情している場面に真野が出くわしたのは部活後だったと話していた。 晴翔はバスケ部の朝練によく加わっているから、白石のことも知っていそうだ。 「知ってはいますけど。真野君ほど、話をした印象がないんですよね。敏感なonlyなら俺のフェロモンを感知して避けていたのかもしれないけど」
last updateLast Updated : 2025-07-02
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第52話 ミステリーは得意じゃない①

 晴翔が不意に、抱き締める腕を緩めた。 「もう大学が動いているかもって、理玖さん言ってましたけど、どうしてそう思うんですか?」  そういえば、その説明がまだだった。 積木の怪しさに理玖も晴翔も気持ちが持っていかれてしまった。 「大学側の動きを歪に感じるからだよ。四月から警備員を増やして警戒している割に、学生の行方不明事件にはやけに腰が重い。数年前の行方不明事件をきっかけに早期確認をしているのなら、今回の件にはもっと敏感であるべきだ」  同じような学生の失踪事件だ。四、五年前なら記憶に新しい。リアルタイムで事件を知っている学生がようやく卒業した程度の年月だ。 大学としては、同じ轍を踏みたくはないだろう。 「それって、水面下ではもう、動いている?」  晴翔の呟きに、理玖は頷いた。 「公言しないのは、目星を付けている犯人が大学側の発言や動きを深く探れる人物だから。その目を欺くために、大事な部分を公言しない。だから行方不明になっている深津君や白石君、積木君の身内から苦情もないんじゃないかな」  晴翔が気が付いた顔をした。 「確かに苦情、きてないですね。関係者には説明が既にされているってことなんでしょうか」  理玖はペンを持って頷いた。 「少なくとも、既に警察が動いている状況で、それを説明されている。更に言うなら、捜査のために騒がないで欲しいと、口止めされているんじゃないかな。大学という素人が動く程度じゃ親御さんは納得しないだろうけど、警察が動いている、捜査のためと説明されたら、黙らざるを得ないだろうからね」  持ったペンで、メモ書きに丸を付けた。 その丸を、晴翔が凝視している。 「二月
last updateLast Updated : 2025-07-03
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第53話 ミステリーは得意じゃない②

「けど、関係者に説明がされているなら、俺たちにも説明があって良さそうですよね。やっぱり理玖さんの事件とかくれんぼサークルの行方不明事件は別案件なんでしょうか」  関係があるのなら、晴翔が言う通り、説明があって然るべきなのだろうが。 説明がないのは関連性がない事件だからか、軽微な犯罪だからか、或いは。 「それは、あくまで僕たちが被害者だと断定された場合だね」「え? まさか俺たち、疑われているんですか」  晴翔の反応の速さに、理玖は感心した。 「前から思っていたけど、晴翔君は感が良いよね。理解が速いというか。思考の展開が速い人だね」「そうですか? 理玖さんにそういわれると、嬉しい」  照れている晴翔が普通に可愛い。 晴翔が可愛いと頭を撫でたくなる。 素直に撫でられていた晴翔が我に返って顔色を悪くした。 「いや、そうじゃなくて。俺たちが加害者だと思われてるって話ですか?」  蒼褪める晴翔に、理玖は首を傾げた。 「加害者とまではいかなくても、犯人の関係者程度には目されているのかもね。弁当の窃盗も報告書も自作自演的に捉えられている可能性がある」  そうなると、國好と栗花落が研究棟二階の常駐になった意味合いも変わってくる。 「俺たち、監視されてんのか……」  晴翔が頭を抱えた。 相変わらず、理解が早い。 「理玖さんの条件にあてはまる犯人て、俺は折笠先生しか思いつかないけど、他にもいるんですか?」  理玖は、また首を傾げた。 「何人か、候補はいるよ。学生なら積木君も怪しいけど、ある意味で真野君も怪しい。
last updateLast Updated : 2025-07-03
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第54話《5/12㈪》たまには自慢したい

 一先ず、晴翔が渋々ながら承諾してくれたので、折笠に話をしに行くことになった。 真野のように突然押しかけて愛人と睦み合っている場面に出くわしては事なので、事前にアポを取った。 折笠の返事は案外早くフランクで、水曜の午後なら何時でもいいと返信が来た。 「僕も水曜の午後なら何時でもいいけど……」「二時が良いです。俺的に午後なら二時が良いです」  ちらりと晴翔を見上げる。 明らかに不機嫌な顔が理玖のスマホを見下ろしていた。 「じゃぁ、明後日の二時で返事しておくよ。あ、國好さんの都合も聞かないと、かな」  立ち上がろうとした理玖の肩を掴んで晴翔が椅子に押し戻した。 「俺が確認しておきます。それより、どうして学内メールじゃないんですか。個人のメッセなんですか。何で連絡先、交換しているんですか」  掴んだ理玖の肩を晴翔が揺する。 ガックンガックンして眼鏡が飛びそうになる。 「折笠先生とは付き合いが長いし、学会とか論文とか、同じ界隈の学者は地味に連絡事項が多いんだよ。教えないと余計にしつこいっていうのも、あるけど」  理研にいた頃、個人の連絡先を聞かれて一カ月くらいスルーしていたら、毎日のように研究室に通われた。 うんざりして個人messageのアカウントを教えた。 「毎日、折笠先生が研究室に来るの、嫌でしょ?」  理玖の言葉と視線に、晴翔の動きがピタリと止まった。 「嫌です。理玖さんと同じ空気を吸わせたくない」  晴翔の目が本気だ。 折笠が理玖を口説いている事実を知ってから、晴翔の折笠嫌悪が明らかに悪化した。 (前は好きじゃな
last updateLast Updated : 2025-07-04
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第55話 いないはずなのに

 何となく甘々な心持で講堂に入った理玖と晴翔の気持ちが切り替わったのは、同時だったと思う。理玖も晴翔も同じ場所に目が釘付けになっていたから。 講堂の最前列、講師に一番近い席に、積木大和が座っていた。  呆然と固まっている理玖の肩を押して、晴翔が耳元で囁いた。 「いつも通り、講義をしましょう。講義中、俺は中にいられないけど、講義終わりに、また来ます。その時、積木君を掴まえて、話を聞きましょう」  晴翔の言葉に何とか頷く。 PCの設置を始めた晴翔に次いで、理玖は小テストと資料を紙袋から取り出した。 (どうして、積木君が……。いや、無事だったんだ。良かったじゃないか)  真野からは何も連絡がなかった。 事務側でもまだ折笠に心当たりを当たってもらっている段階の筈だ。 (だったら、深津君は。深津君も出席しているだろうか)  真野と話した後に、深津祐里の顔写真と履修科目を確認した。内分泌内科WOの講義を、深津祐里も選択していた。  今日の講義にも、多くの学生が参加している。 広い講堂は学生が集まりつつあり、既に五十人以上はいそうな雰囲気だ。 一度、顔写真を確認した程度の学生を、理玖が見付けられるはずがない。 「今のところ、深津君はいなそうです。出欠の確認は講義中に俺がしておきますから。向井先生は講義に集中してください」  学生には見えないように教壇に隠れて晴翔が理玖の手を握る。 速かった鼓動が幾分か、戻った気がした。 「ありがとう。集中、するね」  動揺すると思考が停止して、普段出来ることまで出来なくなってしまうのが、理玖の昔からの悪癖だ。 晴翔が握ってくれた手を握り
last updateLast Updated : 2025-07-04
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第56話 弱々しい奇襲①

 講堂に理玖を残して、晴翔は研究室に戻った。  スマホを確認しても、真野から連絡は来ていない。(今、メッセ入れても、真野君も講義を受けてるかな。でも念のため、聞いておこう) 積木大和から真野に連絡がなかったか、確認のメッセをしながら、第一研究棟二階の廊下を走る。「國好さん、栗花落さん!」 二階の理玖の研究室前に立っている警備員二人に声を掛けた。「第三学生棟五階の大講堂で理玖さ……、向井先生が講義中なんですが、警備に付いてもらえませんか」 息を切らして走ってきた晴翔を眺めて、國好と栗花落が顔を見合わせた。「わかりました。俺が……」 「俺が行ってきますよ。空咲さんは、この後も部屋でお仕事でしょ? 二人とも空ける訳にはいかないんで」 笑顔で手を上げると、栗花落が小走りに学生棟に向かった。「何か、ありましたか?」 國好が冷静に晴翔に問う。  その疑問は、御尤もだと思う。しかし、説明に困る。「何かあった訳では、ないんですが。何かあったら嫌だから」 國好が晴翔をじっと見詰める。「わかりました。俺はこのフロアを警備していますので、何かありそうなら、声を掛けてください」 國好が目を逸らした。「ありそうな予感、でもいいので、声を掛けてください」 晴翔は國好をぼんやり見詰めた。  夜間警備で一緒の時も、滅多に冗談を言わない、口数の少ない人だ。  國好から出た言葉が、意外だった。「ありがとう、ございます……」 小さく頭を下げて、晴翔は部屋に入った。  自分のデスクのPCを開く。  職員用のページから、学生の受講履歴を調べ始めた。今日の理玖の講義なら、始業時の学生証のタッチは既に反映されているはずだ。「内分泌内科WO 向井理玖……、深津君はタッチしてないな。……積木君も、出席してない……?」 始業時の学生証のタッチを忘れたのだろうか。  深津は姿がなかったから当然にしても、確
last updateLast Updated : 2025-07-05
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第57話 弱々しい奇襲②

「もっと、正直になっていいって、教えてもらったから。好きに振舞っていいんだって。だから、空咲さんに、思い切って伝えてみようと思って」 照れたようにはにかんで、白石が顔を上げた。  その目に、ゾクリと背筋が寒くなった。  一見、普通の表情に見えるが、その目は明らかに真面ではない。  何かに毒されている人間の目だ。正気の目ではない。「正直って、どういう……」 ジワリ、と腹の辺りが熱くなる。  シャツに小さな赤い染みが見えた。「なんだ……、何か、した……?」 白石を振り返る。その手には注射器が握られていた。(まさか、WO用の興奮剤?) 気が付いた途端に、ドクリと心臓が大きく揺れた。  脈がどんどん速くなって、汗が噴き出す。  視界がグラついて立っていられない。膝から力が抜けて、その場に崩れ落ちた。「空咲さん、興奮してきた? otherの空咲さんなら、onlyの俺を襲ってくれるよね? spouseになっても薬で興奮を煽れば、襲いたくなるでしょ?」 白石の言葉が遠くに聴こえる。  頭の中でグルグルと回る。「はっ……、はぁ、はぁ、……ぁっ」 意志とは関係なく発情して、勝手に股間が熱を持ち硬くなる。  そんな晴翔を白石が嬉しそうに眺めていた。「その薬、どこから……、誰に、渡された……?」 晴翔の問いかけには答えずに、白石が座り込む晴翔に顔を寄せた。  薄い唇が重なって、舌が晴翔の下唇を舐め上げる。  粘膜が敏感に震えて、余計に股間が熱くなった。「空咲さん、興奮してくれてる。俺のキスで感じてくれてる。ねぇ、俺を抱いて」 体を寄せて、白石の手が晴翔の股間に伸びた。  指が触れるだけで快楽の刺激が背中を抜ける。体がビクリと大きく震えた。「入学してからずっと、好きだったんだ。遠くから見ているしかできなかったけど。我慢しなくていいって、onlyとotherは繋がるべきだって。俺たちは至高の存在だから、相
last updateLast Updated : 2025-07-05
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第58話 RISE①

 パワポの画面を閉じて、理玖は学生に向き直った。 「今日も質問が多かったですね。皆が熱心で嬉しいけど、小テストの時間がとれなかったから、各自回答して次回の講義で提出してください」  学生が手を上げた。 「この小テストは、成績に関係ありますか?」  なるほど、気になる部分だろうと思った。 「成績には関係ありません。でも、皆の出来が良いと僕は嬉しいから、次の講義をもっと面白くできるかも。だから、頑張って」  クスクスと小さな笑いが起きて、何となくほっこりした。 ちょうど終礼のチャイムが鳴った。 「では、今日の講義はここまで。次回は今日の続きと、onlyとotherの生態について、最新の研究を含めて深堀していきます」  学生が席を立って講堂を出ていく。 理玖の視線は積木に向いた。友人と談笑しながら勉強道具を片付ける積木は、いつも講義に出席している時と様子が変わらなく感じた。  何となくPCや資料を片付けながら、理玖は講堂の出入り口を眺めた。 (片付けも来るって言っていたのに、晴翔君、遅いな)  今までは一人で全部片付けて研究室まで持って帰っていたわけだから、出来ないわけではないのだが。 今日は積木に声を掛けるという一大イベントがある。 (他の仕事が入ったのかな。だったら、僕だけで積木君に声を掛けてみようかな)  積木が座っていた席に目をやる。 すでに姿がない。 理玖は講堂を見渡した。 (ほんの少し、目を離しただけなのに。何処へ……) 「向井先生、手伝いましょうか?」
last updateLast Updated : 2025-07-06
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第59話 RISE②

「どうしてそこまでして、僕らをspouseにする必要があったんだ? onlyとotherがspouseになっても、本人たち以外に得する人間はいないはずだ。それともWOの人口を増やすために、僕に空咲君の子を孕ませたかった?」  基本はonlyからしか、WOの性を持つ人間は産まれない。例外的にnormal同士のカップルや、normalとotherのカップルから時々、産まれる程度だ。 WOの大多数を、妊娠が難しいonlyが産むのだから、数が少なくて当然だ。  積木の笑んだ表情が変わらないまま、理玖の腕を掴む手に力が籠った。 「先生は、何もわかっていない。この程度の話じゃ、向井先生と空咲さんの価値はわかってもらえない。だから、俺と一緒に来てもらえませんか?」  疑問形で問いながら、掴んだ腕が理玖を離さないと断言している。 掴まれた腕を引きながら、理玖はまた後ろに下がった。 「ここまでの話で十分理解できた。僕は君の理想を理解し得ない。どんな思想に囚われようと勝手だけど、他人を巻き込むのは良くない。現に僕は、とても迷惑している」「でも、嬉しかったでしょ。空咲さんとspouseになれて」  何も言い返せなくて、理玖は唇を噛んだ。 積木が理玖の肩を押す。思い切り、壁に押し付けられた。 「俺のサポートがなかったら、二人はすれ違ったまま、spouseどころか互いの気持ちにすら、気が付かなかったかもしれませんよ。俺たちは、そういうonlyやotherを一組でも減らしたいんです」  両腕を押さえつけられて、体を体で押さえつけられる。 理玖より背が高くガタイが良い積木に体重を掛けられると、身動きが取れない。 「俺、たち……?」「onlyとotherを増やすためにspouseを一組でも多く生み出す、spouse以外のonl
last updateLast Updated : 2025-07-06
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第60話 佐藤先生

「onlyとotherが互いにaffectionフェロモンを感知しあい影響しあわなければ、onlyのSMホルモンは分泌されない。時間をかけてじっくりと妊娠できる身体が出来上がるんだ。だから愛情が育まれるんだ。好き合った同士が子供を作るのは、WOだけじゃない」  理玖は積木を睨み上げた。 「君の思想には微塵も賛同できない。君の理論は根本から、間違っている!」  理玖は力いっぱい積木の体を押し返した。 初めて積木の体が動いた。その腹を、力の限りグーで殴った。 「ぅぐっ……」  思わぬ声が聞こえて、理玖は顔を上げた。 人を殴ったことなんかないから、俯いてしまったが。 理玖から少し離れた場所で、積木が倒れていた。 「え? ……え?」  教壇に頭を強打したらしい積木は気を失ったようだ。 目の前に佐藤満流が立っている。 理玖が積木を殴った瞬間、確かに佐藤が積木を蹴り飛ばした、ように見えた。 「向井先生は貞操を狙われるのが好きだねぇ。十歳近く下の子に良いようにされちゃ、ダメでしょ」  佐藤が理玖を横目に笑った。 状況がわからな過ぎて、脳が追い付かない。 何故、佐藤がここにいるのか。積木を蹴り飛ばしたのか。理玖を守ってくれたのか。  理解できな過ぎて、体が震え出した。 足がガクガクと震えて、理玖はその場にしゃがみこんだ。 「座り込んでる場合じゃないよ、向井センセ。大事な助手君を助けたいなら、早く研究室に戻りなよ」「助手君、て……。晴翔君に、何か、あった?」  積木の意識を確認しながら、佐藤がその体を乱暴に床に寝かせる。 理玖
last updateLast Updated : 2025-07-07
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