光の粒子となって還った二つの魂は、静かに神殿の大広間へと降り立った。ナフィーラが目を開けた時、最初に目に映ったのは――自分の手を、強く握りしめるカイルの姿だった。「カイル……」その名を呼ぶだけで、胸が熱くなった。 もう二度と届かないと思っていたその存在が、こうして目の前にいる。 彼の手の温もりが、何よりの証だった。「……ナフィーラ」カイルの瞳には、もう迷いも濁りもなかった。 すべてを赦されてなお、彼の視線には深い悔いと、取り戻したいという意志が滲んでいた。「……すまない。俺は……お前を……」言葉にならない罪の想いを、彼は絞り出すように吐き出す。 ナフィーラは静かに首を振った。「あなたが私を思い出してくれた。それだけで、私は……」涙が零れる。だが、それは悲しみではなく、長い夜を越えた者にしか流せない光のしずくだった。ふたりの再会の光が、大広間に満ちていく。 そして、その光を見守っていた者たちも、また動き始めていた。神殿の奥から、静かに光が差し込む。 その中から現れたのは、まばゆい白金の髪を風に揺らす、美しき存在――女神セレイナだった。ナフィーラは祈りの衣をまとったまま、そっと立ち上がる。 だが、その瞳に映るのは崇拝でも恐れでもなく、穏やかな覚悟だった。「……セレイナ様」その声に、女神は微笑み返す。 「ナフィーラ。あなたは、大きな選択をしましたね」ナフィーラは頷く。 「私は巫女である前に、一人の魂として、あの人を……愛しました」「ええ。私はそれを、祝福しに来ました」セレイナの言葉に、ナフィーラの瞳がかすかに揺れる。「“ナフィーラ”という、一人の魂として、祝福しましょう」その一言は、彼女を巫女としてではなく、“愛することを選び、嫉妬し、赦し、祈った存在”として認めるものであった。 それは、神の媒体である巫女の役目を超えた、魂としての“昇華”の宣言だった。「……私は、嫉妬深い女になってしまいました」 ナフィーラは笑った。自嘲でも、後悔でもなく、素直な自己受容だった。「あなたが下界に降りたからこそ、芽生えた感情です。嫉妬も、怒りも、悲しみも、すべて愛の形なのです」女神の声には、悲しみと慈しみがあった。ナフィーラは、ふと天を仰ぎながら呟いた。“神界の愛は、等しき光の恵み。天の下、すべてを差別なく包む裁かず、ただ見守る光
Last Updated : 2025-06-27 Read more