目が覚めた瞬間、心臓の鼓動がやけに速いことに気づいた。汗ばんだ額を手でぬぐいながら、天井を見つめる。(また……あの夢だ)燃えさかる空、割れた石畳、誰かの叫び。そして――祭壇の前で膝をつく、白衣の女。顔はぼやけているはずなのに、そこに浮かんでいたのは、昨日、夕食を共にした彼女――梨央の面影だった。「……同じ夢を、また……」何かが少しずつ繋がり始めている。あの夢の中の世界と、今の彼女の瞳、表情、言葉。(これは偶然じゃない。俺たちは――)窓の外では、朝の光が街を照らし始めていた。普段なら面倒に感じる出勤の準備が、今日は違って見えた。(話そう。今度こそ、ちゃんと……)その胸に宿ったのは、決意だった。過去が夢であれ、記憶であれ、真実であれ――もう、同じ後悔は繰り返さない。翌朝、朝の通勤ラッシュに揉まれながらも、梨央は駅から会社へと向かう道を歩いていた。足取りは少しだけ重く、けれど心の中には昨夜の夢の残滓が静かに揺れている。(……あの夢。やっぱり、彼も見てる気がする)昨日の食事での会話が、胸の奥に引っかかっていた。会社のビルが見えてきたとき――エントランスの前で、有馬真一の姿が目に入った。彼もまた、こちらに気づいたのか、ふと顔を上げる。一瞬、目が合う。(……やっぱり、何かが違う)いつも通りのはずなのに、彼の表情が、わずかに強張って見えた。その瞳の奥に、言葉にならない何かが渦巻いているような気がした。「……おはようございます、篠原さん」「……おはようございます。有馬さんも、もう来てたんですね」微笑み合う。けれど、そこには微かなぎこちなさが漂う。「昨日……ありがとう。話せて、少し楽になった気がします」「……僕もです」短い言葉の中に、確かな共感があった。けれどその後に続くはずの言葉は、まだお互い飲み込んでいた。一緒にエレベーターに乗り、閉まるドアの中で、しばし沈黙。真一がふいに小さな声で呟く。「……実は、僕もまた夢を見ました。昨夜も」「えっ……」梨央が顔を上げると、真一は視線を外さず、まっすぐに言った。「……話してみようと思うんです。はっきりとは覚えてない部分もあるけど、でも……どうしても、あなたに伝えなきゃって、そう思ったから」梨央の胸が、大きく脈打つ。(やっぱり……私たちは、同じ夢を見ている――?)
Terakhir Diperbarui : 2025-06-09 Baca selengkapnya