All Chapters of 過去に失った愛にもう一度出会った~それが運命の始まりだった: Chapter 1 - Chapter 10

70 Chapters

彼の裏切り

「……ごめん、好きな人ができた」その瞬間、時間が止まったようだった。 耳鳴りがして、彼の声だけが、空気を切り裂くように響いた。隣に立っていたのは、私の――親友だった。 仕事の愚痴を聞いてくれた。恋の悩みを相談していた。 何でも言い合えた、たったひとりの、信じていた人。「……冗談、でしょ?」喉が詰まり、声がうまく出なかった。 視界がにじむ。足元がふらつく。 けれど彼女は、彼の腕にそっと手を添え、微笑んでいた。あの日、彼に初めて「好き」と言えた場所。 何度も一緒に笑ったあの場所で、 そのふたりは手を繋いでいた。「ねえ……私の、何がいけなかったの?」かすれた声がやっと出た。 情けなくて、みっともなくて、それでも聞かずにはいられなかった。「梨央は……強すぎるんだよ」その一言は、胸の奥に突き刺さる刃だった。 “強い女は、愛されない” “弱さを見せない女は、可愛げがない”そんな言葉に、いつの間に私は縛られていたのだろう。泣きたかった。叫びたかった。 「行かないで」「私だけを見ていて」 「私を、捨てないで」 ――本当は、そう言いたかった。けれどその時、親友――美里が口を開いた。「ごめんね、梨央。私たち……ずっと愛し合ってたの。 私、彼のこと大好きになっちゃって……」頭が真っ白になった。思わず顔を上げた。「……いつから?」「三年前、くらいからかな」 「私の方が可愛いって。彼、よくぎゅって抱きしめてくれるの」 「梨央に、いつ言おうか迷ってたけど……結局、言えなかった。ごめんね?」あまりにも軽く、悪びれもなく笑いながら話すその姿に、背筋が冷たくなった。 信じていたふたりに、思い切り裏切られた。「梨央も、知的で綺麗だし、美人だよ。 でも……やっぱり、美里の方に惹かれてしまったんだ。ごめん」その言葉で、心臓をえぐられたような気がした。 ――私は可愛くない。そう言われた気がした。「……そっか。お幸せに」口が勝手に動いた。そう言ってしまった。それだけを言って、私は背を向けた。 雨が降っていた。 誰も、傘を差し出してはくれなかった。それだけを言って、私は背を向けた。 雨が降っていた。冷たく、静かに、容赦なく降り続いていた。ふらつく足取りで数歩だけ歩いて、思わず足を止めた。 怖かったけれど……ほんの少し
last updateLast Updated : 2025-06-01
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孤独の空間で

ふらつく足取りのまま、どうやって帰ったのかも思い出せない。 何駅乗ったのか、誰とすれ違ったのかさえ記憶にない。 ただ、胸がひどく苦しくて、息をするのもやっとだった。叫びたかった。 泣きたかった。 でも、それを外でする勇気はなかった。 人目が気になったんじゃない。 ただ、あまりにも惨めすぎて、声すら出せなかった。どれくらい歩いたのか、覚えていない。 靴はずぶ濡れで、冷たさが足の裏から這い上がってきた。 電車にどう乗ったのか、何駅で降りたのかさえ思い出せない。ただ、息をするたびに胸が痛くて、 足を前に出すたび、心が裂けていくようだった。(どうして……どうしてこんなことに……)頭の中で何度も問いかけても、返ってくるのはあの声。「梨央は、強すぎるんだよ」 「三年前から、私たちずっと愛し合ってたの」 「美里の方に、惹かれてしまったんだ」家の鍵を差し込む指が震えて、うまく回せなかった。 やっとのことで扉を開けて中に入った瞬間―― 何かが、崩れ落ちた。気づいたら、玄関にへたり込んでいた。 震える肩を抱え込んで、息を殺すように泣いていた。堪えていた涙が、もう止められなかった。 嗚咽がこみ上げてきて、声が漏れた。 誰にも見られていないはずなのに、涙を隠すように顔を覆っていた。「……なんで……どうして……私じゃ、だめだったの……?」強くあろうとした自分が、惨めだった。 平気なふりをして背中を向けた自分が、哀れだった。 本当はただ、愛されたかっただけなのに。どれくらい泣いていたのだろう。気づけば、部屋の空気がひどく冷たく感じた。 濡れた頬に、室内の静けさが突き刺さるようだった。そして――意識が、静かに沈んでいった。 深く、深く、底の見えない場所へ。暗闇が広がり、耳鳴りのような静寂が訪れる。 深く、深く、どこか底の見えない場所へ落ちていく感覚。 眠ったわけじゃない。けれど、目覚めているとも言えなかった。その先に、炎の匂いが待っていた。
last updateLast Updated : 2025-06-01
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記憶の中の私

燃えていた。世界が、神殿が、空までもが、朱に染まっていた。裂けるような熱と煙の中、私は剣を握っていた。血で染まった石畳に、誰かの叫び声が響く。崩れかけた柱が悲鳴を上げていた。それでも、私は戦っていた。女であることを隠すように。感情を殺し、ただ守るべきもののために。「……何も、いらない。信じる者など、もうどこにもいないのだから」そう呟いたそのときだった。瓦礫を踏みしめる重たい足音――振り返ったその先に、彼がいた。鎧に包まれた姿。あの瞳。その一瞬で、すべての記憶が蘇った。何度も夢に見たその顔。名を呼ばれるたびに胸が疼いた声。炎の中でさえ、私の心を揺らす存在――愛した男。信じた男。すべてを預けたいと願った、たった一人の人。なのに、なぜその胸には、敵の紋章が刻まれているの?私の口からこぼれたのは、震えるような声だった。「……まさか、あなた……なの?」声が震えた。でも、その胸に刻まれた紋章を見た瞬間、血の気が引いた。敵の軍。それは、私たちの家族を殺し、仲間を焼き払った者たちの印。「……どうして?」言葉は喉で詰まり、胸を裂くような痛みに変わった。「どうして、あなたが……」愛していたのに。信じていたのに。あなたのために、女であることさえ投げ捨ててきたのに。「裏切ったの……?」彼は、何も言わなかった。ただ、苦しげに目を伏せたまま、ゆっくりと剣を抜いた。その刃は、まるで自分を斬るかのように、重たく震えていた。それを見て、私は胸の奥が締めつけられた。そんな顔、しないで。どうして、そんな目をするの。その瞳が、私を責めているようで。それでいて、今にも泣きそうなほどに哀しげで。目が合った瞬間、私は悟った。あの人は、もう戻らない。信じてきたものも、愛した日々も、すべてが遠くなってしまった。「あなたが、私たちを裏切ったなんて……信じたくなかった」そう心の中で呟いた。でも、もう何も言葉にはできなかった。(ああ、これは……終わりだ)私の中で、何かが音を立てて崩れていく。「もう誰も、信じない……」剣を構えながら、心の中で静かに呟いた。それは、言葉というより、呪いのような願いだった。愛されたかった。信じたかった。でも、信じた人に裏切られた私は、この世界の何もかもから背を向けた。その瞬間、胸の
last updateLast Updated : 2025-06-01
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胸の奥に残った痛み

「……っ……は……!」声にならない息が喉からこぼれた。 身体が跳ねるようにして起き上がる。 胸が苦しい。心臓が焼けるように痛む。夢――?それにしては、あまりにも鮮明だった。 炎の匂い、剣の重み、あの人の瞳…… そして、最後に呟いたあの言葉。「もう誰も、信じない……」私は、今の自分の声だったのか、 それともあの夢の中の“誰か”の声だったのかさえ、わからなくなっていた。手が震えていた。 顔に触れると、頬は涙で濡れていた。どうして? あれは本当に夢だったの? なぜ、あんなにも切なくて、苦しくて、哀しいの?「知らないはずの景色なのに…… あの人の顔を、私は知ってる……」部屋の静けさがやけに冷たく感じた。 でも、それ以上に冷たかったのは――胸の奥だった。夢の中で終わったはずの“痛み”が、まだ身体のどこかに残っていた。 心が、何かを思い出しかけている。 何か、とても、大切なものを――。翌朝、目覚ましの音で起きたはずなのに、身体は重たかった。 まるで、夢の中にまだ引きずられているような感覚。まるで、まだ夢の中に引きずられているような感覚だった。 けれど、身体の重さはきっと……昨日のあの出来事のせい。あの二人の姿。 言葉。 微笑み。 すべてが、頭の中で何度もループする。(……まだ心が追いついていない)胸の奥がズキズキと痛む。 ただ立っているだけなのに、呼吸が浅くなる。今日は、休みたい。 ベッドの中で目を閉じていれば、少しはマシかもしれない……そう思った。けれど、首を横に振る。 家にいたって、何も変わらない。 一人きりの部屋で、また同じことを考えて、また同じように涙を流すだけ。(……だったら、外に出よう)誰かと顔を合わせて、会話をして、いつもの空気に触れれば、少しは気が紛れるかもしれない。重たい身体を引き摺るようにして、洗面所へ向かう。 鏡の中の自分は、いつもと変わらないようで、どこか違って見えた。 目の奥に沈んだ何か――それが夢のせいか、現実のせいか、自分でももうわからなかった。「……はぁ……」長く、深いため息を吐いた。 胸の奥から押し出すように、何度も、何度も。そうして私は、淡々と仕事へ行く支度を始めた。 足元が重たく感じる。 でも、歩かなくては。歩き慣れたはずの道。 けれど、
last updateLast Updated : 2025-06-01
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出会い

エレベーターの扉が開くと、いつもと変わらぬフロアの空気が広がっていた。 それなのに、なぜか一歩踏み出すたびに、胸の奥がざわついて落ち着かない。「おはようございます」 「おはよう、梨央ちゃん。……あ、今日から新しい人来るの、知ってる?」隣を歩いていた総務の佐伯が、軽い調子で話しかけてきた。「え、知らない……誰か移動してくるの?」「うん、なんか本社から来たって。めっちゃ仕事できるらしいよ。有馬さんって人」その名前を聞いた瞬間、 梨央の呼吸が、一瞬だけ止まった。有馬――。ただの名前なのに、耳に触れた途端、胸の奥が強く震えた。(……なんで? どこかで……聞いた?)記憶にはないのに、身体が先に反応している。 背筋に冷たいものが走り、喉が急に乾く。「フルネーム、何て言ったっけ……あ、有馬真一さん?」その瞬間、心臓がふっと掴まれたように跳ねた。 寒気とも違う、じんわりとした震えが背筋を伝っていく。(……え? なんで……?)目の前の彼の横顔。あの目元。あの雰囲気。名前も知らない。初対面のはず。 なのに、どこかで確かに知っている気がした。(さっき夢で見た……あの人と……)記憶の断片が、視線の奥で繋がりかける。 あの夢に出てきた男。炎の中で剣を抜き、黙って私を見つめていた、あの人――。(……似てる。信じられないけど、似てる……)理解できない。説明もつかない。 けれど、魂の奥が、その瞳を覚えていた。廊下の先、人だかりができていた。 「今日から来る人、イケメンらしいよ」 「元本社勤務とか……エリートだよね」 そんな声がひそひそと飛び交っている。その中心に、彼はいた。黒のスーツに身を包み、涼やかな目元と端正な横顔。 淡い微笑を浮かべながら、周囲の挨拶に丁寧に応じている。ただ――。その横顔を見た瞬間、梨央の心臓が、 ずん、と痛んだ。呼吸が一瞬止まり、膝がふらつきそうになる。 脳裏に、炎に包まれた神殿が過った。 剣を抜く音、あの瞳、あの無言の悲しみ。(……この人、知ってる)そう思った自分に、梨央自身が一番驚いていた。会ったことなどない。 なのに、視線がぶつかったその瞬間、胸の奥が苦しくて、痛くて、切なくてたまらなくなった。彼もまた、一瞬だけ梨央のほうを見た。 ほんの一秒、その瞳が重なった気がした。けれど
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