「おはよーございまーす」出社時、瑞穂はおざなりに周囲に挨拶を述べると、そのまま口をつぐみ、目の前の仕事にただ集中した。誰とも、喋りたくなかった。和田マネージャー本人はもとより、和田マネージャーに関わる人間その全ての人間と、今日は一切関わりあいたくなかった。仕事上のやり取りで、やむなく誰かと会話をしなくてはならない時は、瑞穂は受け答えのみという最低限の反応にとどめた。瑞穂は素振りと背中でもって「喋らないで下さい」というアピールを、周囲に対して発していた。そして、当の和田マネージャーに対しては、瑞穂は完全無視。様子見、とばかりに「FAX、置いておくよ」と、和田マネージャーは瑞穂に対して言葉を投げ掛けてくるのだが、瑞穂は一切返答をしなかった。すると、和田マネージャーも根負けしたようで、夕方頃になると和田マネージャーは瑞穂に接触するのをやめ、紗倉さんなど他の女子社員や部下に細々とした雑用を頼むようになった。この和田マネージャーの振る舞いは、瑞穂の神経をさらにかき立てたが、瑞穂はどこか納得もしていた。これが、和田マネージャーの魅力でもあり、最大の欠点でもあるのだ。古田も以前、瑞穂に対して忠告していたが、和田マネージャーは基本誰に対しても優しい。将来の伴侶であろうが、人生における端役であろうが、和田マネージャーは分け隔てなくその優しさを振りまいていき、そして誤解を抱かせてしまう。仕事を終え、自宅へと向かう帰りの電車の中、今度は杉浦マイからLINEが送られてきた。『瑞穂さん、お疲れさまです☆この間から、食事の約束を断ってばかりでスミマセン・・・。そろそろ落ち着いてきたので、またご飯でも一緒に食べませんか?ちょっと、報告したい事もあるんです』当然の事ながら、瑞穂は返信をしなかった。LINEを既読にすらせず、未読のまま通知を消すと、そのまま「ツムツム」の続きにいそしみ、電車を降りた後はスーパーで惣菜を二つばかし買い、真っ直ぐ自宅へと帰った。少し早めに帰宅したので、米を洗い、炊飯器でご飯を炊くと、瑞穂は買ってきた惣菜をおかずに晩御飯を食べる。食事を終え、シャワーを浴びた後、今度は古田からLINEが入ってきた。『お疲れ様です、古田です。高畑さん、明日本当に大丈夫ですか?無理でしたら、断ってもらってもいいですから』──こんな事いちいち訊い
Last Updated : 2025-07-29 Read more