店を後にし、「スナックに行って、何曲か歌ってくるわ」と陽気に述べるセイヤと別れると、古田はその足で駅に向かい、電車で地元の福徳長へと帰った。乗車時間、10数分。数駅を経て電車を降り、改札をくぐって駅を出ると、真冬の寒風がナイフのように古田の身体を切り刻んだ。古田は着ていたダウンジャケットのパーカーを被る事で寒さに抗うと、肩をすくめながら自宅へと歩を向ける。冬が始まる前、「今年は暖冬」という予測を、古田はテレビのニュースで聞いていた。が、掌を返すようにやって来た最強寒波は、借金取りのように日本国内に滞在し続け、その結果心まで凍えそうな寒さを、古田を含む国民にもたらしていた。──もう、2月も中頃だ。この寒さを乗り切れば、春がもうすぐやって来る。自らが吐く、白い息を見つめながら、古田は歩を進めていく。酔いざましと、寒さをしのぐ為に自販機で缶コーヒーを一本買うと、古田はシャッターの閉まった店舗脇にある、自宅の玄関をくぐった。「ただいま」0時前という時間の為、小声で古田は述べると、後ろ手で玄関のドアを閉める。すると、母親の奈津子はまだ起きていたのか、居間の電灯が煌々とついていた。「まだ、寝てなかったのかよ」古田は苦笑交じりに居間へ通じる引き戸を開けると、中にいる奈津子に言葉をかける。「うん、もう少しだけやろうかな、と思って」奈津子は振り返ると、手を止めた荷造りを再び始めた。「明日、俺、仕事ないから手伝う、つったじゃん。母さん一人で、そんな頑張らなくてもいいんだよ」古田は肩をすくめると、荷造りの終わった段ボールを、既に在庫を処分し終え、がらんどうとなった店舗スペースへと持っていく。「キリのいいトコロで、やめるから」「分かった」奈津子の言葉に古田は頷くと、ダウンジャケットのポケットに入れたままとなっていた缶コーヒーを開け、一口飲んだ。「……ところでさ、カツアキ」二つ目の段ボールを、古田が店舗スペースに持っていこうとした時、奈津子が独り言のようにポツリと切り出す。「んっ?」「アンタ、一人で本当に大丈夫?」奈津子は再び作業の手を止めると、立っている古田を見上げ、尋ねてきた。·「俺の事は大丈夫、って言ったじゃん」酔いが回り、気も大きくなっているのか、古田は気丈に答えると、脱いだダウンジャケットをカーテンレールへと掛けた。「
Terakhir Diperbarui : 2025-07-31 Baca selengkapnya