自分の行動が遅いのか、それとも古田の歩くスピードが早いのか。部屋の鍵を閉め、階段を駆け降り、瑞穂が銀行に向かって歩を進めていると、10メートル先にクーラーボックスを肩から掛け、歩いている古田の姿が見えた。「古田さぁん」庭球をぶつけるように、瑞穂は古田の背中に向かって言葉を投げ掛ける。その瑞穂の言葉に反応した古田は立ち止まると、ゆっくりと振り返った。「あれ、後ろにいたんですか?俺、高畑さん大分先に行ってるって思い込んで、結構早足で歩いてた」ごまかすように古田は苦笑すると、肩からずり落ちそうになっているクーラーボックスをかけ直す。「行動、早すぎですよ。古田さん」瑞穂も古田に続く形で、苦笑いを浮かばせると、トートバッグからハンドタオルを取り出し、額に浮き出た汗を拭った。「しかし、先週と違って涼しいですね」瑞穂が汗を拭う様を見ながら、古田は再び歩き始めた。「先週は、俺も電気工事の時、汗ダクダクでしたからね。これだけ涼しいと、まだ気分的に楽です」「でも、多分一瞬だけですよ。6月になったら、また暑くなってくるでしょうし。そう考えたら、フライングって感じで暑くなった先週のアレは、夏に備えるには最適だったかもですね。実際、それでエアコンが壊れてるのが分かりましたから」「確かに。そのおかげで、ウチもいい仕事をさせてもらいましたしね」古田は笑い、片目をつむる。「まっ、和田さんに大分値段を叩かれましたけどね。けど、久々に電気工事以外に電器屋らしい仕事が出来て、個人的には満足していますよ」「そう言っていただけると、ありがたいです。何か、メチャクチャ安くしてもらったみたいですから、古田さんに悪いなぁ、って思っていたトコなんです」実際、瑞穂はLINEで古田からエアコンの機種を列挙してもらった際、スマートフォンでその性能や価格を調べたのだが、相場より遥かに安い価格であった為、驚愕していた。目の前に、瑞穂がいつも乗り降りしている最寄り駅が見えてきた。高度経済成長期、日本がまだ徹夜明けの高校生のように元気で若々しい時に出来た私鉄だ。市内まで一直線で、準急なら20分もあればターミナル駅に着く。その高架下には、居酒屋、携帯電話ショップなどいくつかのテナントが立ち並び、その中には先週和田マネージャーと待ち合わせをしたドトールも見えた。古田と瑞穂
Last Updated : 2025-06-23 Read more